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【 Mメーク、17 ルール 】

「人間なんて自分より弱いヤツを求めているもんさ。由牙さんもそう思うでしょ」

 琉宇のヤツ……。なんだか小難しい話を始めたな。

 今、琉宇の運転する背高のっぽなキャンピングカーで移動している。四角を基調としたレトロな感じの車だ。ただし俺から見てレトロであってもフルムーンでは最先端の技術だろう。なにせ車自体存在していないだろうからな。

 それにしても腕輪のアイテム屋にはこんな物まで並ぶのか。

 俺は妙に感心した。

 そして車は一路ある街を目指していた。目的地は商業都市ラプーン。ラプーンはフルムーンに存在する四つある大陸の内、俺達がいる大陸の支配国アッシュの首都。カネや物流の拠点だ。……琉宇の説明によるとだが。

 そしてカネはある所に集まるという琉宇の提案でラプーンを目指す事となった。

 しかしキャンピングカーでの移動なぞ目立つぞ。こんな目立つ移動方法は反対だったんだが、琉宇が自信満々に言った。大丈夫。ノンプレーヤーに襲われても手はあるし、ボクはいつもこいつで移動しているからねと。

 その自信に押し切られてしまった。

 琉宇の言う手とは、どうせ車のない世界での話だ。オーバーテクノロジーなスピードで振り切るとかいったところだろうか。大体、察しはつくぜ。安心はできないが移動に時間をかけているわけにもいかないしな。

 しかし琉宇は生前も子供でありフルムーンに転生してからも子供だった。つまり免許などというものは持っていないだろう。フルムーンという世界で無免許などと野暮な事は言わないが、正直、まともに運転ができるものかと思った。しかし意外な事に運転は滑らかだった。ま、こいつの事だ。運転もゲームで覚えたんだろうな。

 …――それにしても弱いヤツか。

 確かに俺は勝負師だ。そして勝算が高いのは弱い相手であり弱い相手とぶつのもやぶさかじゃない。が、弱い相手とばかりぶっていると己の腕がなまる事も知っている。ゆえに強い相手に挑む事は嫌いじゃない。己を磨くという点では負けると分かっていても勝負をする事はある。

 この世には俺すらも知らない強者は確かに存在するんだ。

「琉宇。なんでそう思うんだ?」

「ふふふ。ボクは人間なんて信じないんだ。努力して強くなった人間を一刀両断に斬り捨てる人間なんて大嫌いなんだ。由牙さんには分らないかな?」

「……」

「弱い内はいいけど弱い人間が強くなったら嫌われるもんさ。話が違うってね。始めから強い由牙さんには分からないかな。モブっ子もそう思うでしょ」

 琉宇が前を見て運転したまま蓮花に話を振る。

 相変わらず蓮花の事をモブっ子と呼んでいる。他意はないのだろう。始めにそう呼んでそれが定着しただけだ。いや、今となっては逆に愛着の証明なのかもしれない。それが分かっているのか蓮花は嬉しそうに答える。

「私は先生以上の強い人を知らないよ」

「ま、そうだね。由牙さんは強い。だからボクは惚れたんだけどさ。ボクがどんなに強く成長しようと由牙さんはそれ以上に進化するだろうからね。だから嫌われない。そういう事だよ」

 甘いな。甘すぎるぜ。

 恋人達がいちゃつくクリスマスのケーキより甘い認識だぜ。俺以上に強い人物は確かに存在する。Mメークの参加者だけで考えてもな。大体、俺は多対一の戦いに持ち込まれれば為す術がないんだぜ。麻雀で考えれば一目瞭然だ。どんなに天才的な打ち手であろうと他の三人に組まれれば負けは確定する。

 そんなものは常識であり常套手段だ。

 それともあれか。軍隊で考えてみればもっと分かりやすい。一騎当千の将軍がいたとして一人で千人を斬る事ができる猛将でも一万人に攻め込まれればどうだ? しかも相手の軍に自分以外の一騎当千な猛将がいないとは言い切れないんだぜ。そんなのが混ざった一万人を相手に天才一人でどう立ち向かう? 戦いってのは数が重要なんだ。数は最強の兵器だ。

 大体、多対一が苦手なのは琉宇も一緒だろう?

 蓮花に至っては一対一でも苦しいだろうしな。ま、でも説明するのも面倒くさいしやるべき事がある。前々からやろうと思ってた事だ。そう。神のヤツから情報を聞き出すのだ。琉宇の相手ばかりしていられない。適当な事を言っていないしておくか。

「琉宇、レン。俺は強くない。俺より強いヤツはごまんといる。それに強さなんてものは時と場合によるもんなんだぜ。つまり琉宇やレンだって環境さえ整えば俺なんかより強い場合もあるんだ。しょせん強さなんて物差しは一律じゃないんだ」

「むう。由牙さん。難しい事を言って誤魔化してる。大人の悪いクセだね。都合が悪くなると難しい事を言って煙にまく。正直、答えるのが面倒くさいんでしょ」

 琉宇が茶色い瞳でイタズラっぽく笑う。車窓から爽やかな風が舞い込み彼の紅い髪を揺らす。まるで風のリズムに乗って踊っているようにも見える。風は俺の頬にも届き心地よさを感じさせてくれた。

「……」

 それにしても琉宇のヤツは相変わらず正論を吐くな。その正論はどこからくるんだ。人生経験か。いや、子供に人生経験を問う方が間違っている。やっぱり理屈っぽい性格なんだろう。実は俺よりお前の方が難しい事を考えるのが得意なんじゃないか。

 そこに蓮花が割り込んでくる。

「そうだ。そうだ。先生は誤魔化してる」

 蓮花、お前は至ってはなにも考えてないな。そのヘンテコな顔が証拠だ。相変わらず顔を見ればなにを考えてる事が分かるヤツだ。でもその考えなしを琉宇にもちょっとは見習って欲しものなんだがな。ただし蓮花のレベルでは困る。難しいバランスだな。どっちもどっちって事か。

 ま、いい。今は神のヤツを問いただす方が先決だ。

「誤魔化している。そう思うんだったらそれでいい。それより二人とも俺にはやるべき事があるんだ。ちょっと黙っててくれないか」

 俺は自分の赤いネクタイを締め直す。

 そうだ。俺達は琉宇に勝ったカネで服を買った。真っ黒のスーツ上下にインナーは白のカッターシャツ。そして赤と白のラインが入ったサスペンダーを買った。子供用のスーツで黒色とはなかなか無い代物だったが腕輪のアイテム屋には幸運な事に売られていた。そしてこのスタイルは生前の俺の戦闘スタイルでもある。

 これで気も引き締まるってもんだ。

「琉宇、レン。俺はこれから神と交信する。いまだ聞けてない情報を引き出す為にな。だからちょっと黙っててくれないか。気が散る」

 蓮花は灰色の裏ボアニットコートに白と黒のボーダーゆるTシャツを合わせた意外とお洒落な服を選んだようだ。彼女から学校でいじめられていたと聞いていたからファッションセンスは人並み以下かと思っていた。これは偏見でしかないのだが地味なヤツほどいじめやすいものはないからな。

 が、蓮花の選んだ格好は今どきの女子中学生らしい格好だった。

 なかなか見られる格好じゃないか。可愛いと思うぜ。……それにしても地味なヤツほどいじめやすい。そうか。琉宇の言った努力をして強くなったヤツってのがちょこっと理解できた。そうなのだ。いじめていた弱く地味なヤツが努力して強くなったら確かにより一層嫌われるものなのかもしれない。琉宇の言ってた通りに話が違うとな。

 ま、でもいじめられていたヤツってのは弱くても嫌われてはいるがな。

 それに強くなればそれなりに認めてくれるヤツも出てくるはずだ。うむ。分かった気になったが、やっぱり琉宇の言う事は究極的にいまいち分からない。

 しかし琉宇が闇を抱えてる事はなんとなく感づいた。

 と余計な事を考えていても始まらないな。とにかく今は神のヤツと交信し情報を引き出せるだけ引き出す。それが今後の指標になるし、もしかしたらこの馬鹿げた世界フルムーンの真実も知れるかもしれない。俺はステータスを確認した時やアイテム屋を呼んだ時のように腕輪に左手を添え考えた。

 神との交信と。

 裁縫針の先をちょこっと刺したような痛みが右腕に走る。どうやら神との交信のやり方は間違っていないようだな。成功だろう。さて神よ、どう出る?

「はいはい。呼ばれて飛び出しましたよお」

「神よ」

 頭の中にあの鬱陶しいしゃべり方をする声が響く。俺は低い声で牽制する。蓮花や琉宇には重要な情報を与え、俺にはフルムーンやMメークの説明を簡潔に済ましてくれた神へのボディーブローだった。

「始めに聞きたい」

「はいはい。天花由牙さま、なんでしょうかあ。ボクに答えられる事だったらなんだって答えますよお。遠慮しないで聞いて下さいですう」

「何故、俺が知らない情報を他の参加者達は知っているんだ。Mメークの参加者には同等の権利が与えられるんじゃないのか。これじゃ俺が不利だぜ」

「……」

 神のヤツが黙りやがった。つまり今の現状では俺が不利だと認めるわけだな。認めたのならば俺の聞く事に答えないという反応はできないはずだ。Mメークの他の参加者と差が無いようにする為にな。俺が不利でなくなるようにだ。

「Mメークにはまだ俺に知らされていないルールがあるんだろう? それは死に直結するような残酷なルールがだ。違うか。答えろよ。神」

「……鋭いですねえ。確かにありますう。これは上柳琉宇様にも波栖蓮花様にも話していない事ですう。由牙様はきっとその事実に気づき聞いてくると踏んでましたからねえ。だから敢えて伝えなかったんですよお」

 神のヤツ。琉宇と蓮花が俺の仲間になっている事を知っているのか。いや、知られていても別に構わないが俺が申告する前に知っているのは頭では理解していても正直気持ち悪いな。

 大体、神のヤツは俺が知るヤツで間違いがないはずだ。

 それが誰なのか。今は分からない。が、少なくとも俺の性格を熟知していて、あの命を張った博打で打つ予定だった奇策の存在すらも知っているヤツ。そんなヤツは限られている。

 いつか尻尾を掴んでやるぜ。

「そそ。またルールを聞かれるのは面倒くさいので大体ですけどお、詳しいルールを今から一気に説明しますねえ。天花由牙様、なにかメモをとれるものはありますかあ?」

 そう言った神はMメークの詳しいルールを説明してくれた。ただし大体というだけあってまだ隠されたルールが存在するんだと思う。が、これだけも知れたのは大きな収穫だった。以下にMメークのルールを記しておく。

Mメークルール ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

原理原則。
・どんな手段を使ってもいいので、この世界にいる人間達から十億ペロ集める。後述するが集める総額は高騰する事もある。そして人間達とはプレーヤーとノンプレーヤーを含めたフルムーンに存在する人間すべてをさす。

付随ルール。
・お金を集める為にとる手段は基本的になんでもあり。殺して奪ってもいいし盗んでもいい。もちろん真っ当に稼いでもいい。
・舞台はフルムーンの世界すべて。
・もし仮にこの世界の真理を解き明かし不当に元の世界に戻る事があれば発覚次第、魂の消滅もってしてこのゲームからのリタイアとする。
・リタイアした人間は死ぬ。
・死とは現実世界も含めその存在の一切を抹消するものなり。
・チュートリアル期間を終えたプレーヤーは一日毎に世界銀行への納金ノルマが発生する。
・一日の納金ノルマは貯めた金額に応じてその額が高騰していく。
・ノルマを達成できない場合クリアーの金額が高くなっていく。すなわち始まりは十億ペロでありノルマを達成できない場合に限りクリアー必要額が十億ペロからどんどんと高騰していく。
・一週間連続でノルマを達成できない場合リタイア。つまり死。
・他人を使ってお金を稼ぐ事も原則可能。他人とはつまりプレーヤーであり、ノンプレーヤーの事をさす。
・納金は世界のどこかにあるという世界銀行の個人口座に腕輪を使って振り込む。
・世界銀行を襲う事も可能。その場合、襲撃が成功した場合に限り全ての参加者の納金金額や貯蓄がゼロになりMメークは再スタートする。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 大体、こんなところだ。あとで蓮花と琉宇にも教えてやろう。それにしてもこんなに細かくルールが設定されていたなんてもっと早く気づくべきだった。一番最後のルールに至っては聞いていなかった自分の愚かさを呪うレベルだぜ。勝負事において一発逆転の手は常に手の内に準備しておくべきだ。

 つまり所持金ゼロから再スタートはそういった類の手なのだ。

 しかしその一発逆転の手に頼る事なく勝負を終えるのが一番ベターなんだがな。それから最後に神は言っていた。ルールに表記があるが毎日の納金ノルマがあるらしい。しかし今まではノルマがなかった。チュートリアル期間だったようなのだ。つまりフルムーンに慣れる為の準備期間だという事だ。

 しかし今日から一日一万ペロの納金ノルマが課されると言っていた。

 もちろんノルマを果たせなければそれなりのペナルティーを喰らう。それ以上に一週間連続でノルマを達成できないとゲームオーバーなのだ。もし仮に琉宇との勝負で負けて五十日間も琉宇の下で働き続けていたら命が危うかった。お試し期間も終わるだろうし安い賃金で働きつつ納金ノルマをこなすのは難しいからな。

 やっぱり俺の踏んだ通りだったぜ。

 改めてあの勝負負けていたらと考えると冷や汗が止まらないぜ。

 しかしまだまだMメークの全貌は見えていないがとりあえずで確認したい事はあらかた聞いた。あまり神を問い詰め過ぎて俺が不利になるように振る舞われたらやっかいだ。今回はここまでにしよう。神との通信を終えた。

 と安堵のため息を吐いた瞬間ッ!

「歩兵(ふひょう)。先制攻撃です。タイヤを狙いなさい。パンクさせるのですッ!」

「盗賊団だ。大丈夫。ヤツらは追いつける手段を持ってない。まくよ」

 と琉宇が言いアクセルを全開にスピードを上げた。腕輪をしていない男達の集団が俺達が乗るキャンピングカーを攻撃してきたのだ。俺と蓮花は加速の衝撃で車のシートに張り付けられた。琉宇は楽しそうだ。レースゲームをしている気分なんだろうな。ほとほと馬鹿がつくほどのゲーム脳だなと思った。

「きゃはっ。追いつけないでしょ」

 琉宇、目が怖いぞ。そんなに楽しいか。俺達は襲われているんだぞ。それにしてもあいつらはノンプレーヤーだろうか。そんな感じはする。ただし可能性の一つとしてMメーク参加者が統率しているかもしれない。油断はできないぞ。

 でもな。だからこそ俺は反対だったんだ。こんなキャンピングカーでの移動なんて目立つ方法はな。大体、車なんてこの世界にはないだろうからな。それこそ琉宇と初めて出会った時、お前が言ってた言葉をそっくりそのまま返したい気分だぜ。

『こんなに目立つ移動方法を使うなんて襲ってくれって言ってる様なもんだぜ。馬鹿だろ。馬鹿でしょ?』とな。

 そうは思ってみたが納得して乗っていた俺も同罪だなと思い直した。

17 ルール、了。

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【 Mメーク、16 ボクの真実 】

「じゃ、始めの約束通りお金を払うよ」

 琉宇が自分の口座からお金を引き出している。

 琉宇の行動を見ていると分る。お金も腕輪の力で転送されてくるらしい。あらためて腕輪の重要さがよく分かった。そして今回の勝負の賭け金は確か一万ペロだったな。よし、これで服が買える。こんなボロ切れともおさらばできるぜ。自分のボロをまじまじと見つめ長かった琉宇との戦いを振り返った。

 …――終わった。

 そう思った。もうこれ以上なにもないと思った。

「でもね……。由牙さん、本当に一万ペロぽっちでいいの?」

「ぽっちだと?」

 俺は琉宇の言葉の意味が分からず咄嗟に聞き返してしまう。大体、一万ペロとはいくら位の価値があるんだ。確か前に神のヤツがペロはフルムーンの国際通貨で日本円に換算して一ペロ、一円の価値と考えていいと言っていたな。

 一ペロ、一円。

 ちょ、ちょっと待て。マジか。

 …――一ペロ、一円の価値しかないだと!?

「あはは。これで正真正銘打ち止めだよ。由牙さん達はボクの最終最後の罠に引っかかったんだよ。そうなんだ。一万ペロって日本円で福沢諭吉さん一枚分の価値しかないんだよ。一万ペロしか賭けなかったのはゲームの世界にあまり免疫がないプレーヤーをハメる為の罠さ」

 あんな死闘を繰り広げ、そしてギリギリで勝ったというのに一万円ぽっちだと。

 確かに最近やっとゲームというものを理解つつはあったがそれでもゲームというものに疎い。日本円で一万円と言われれば金額をつり上げる交渉をしていただろう。一万ペロがかなりの金額に思えたのだ。甘いな。そんな親切はない。相手は敵なんだからな。一万ペロと言われて安易に勝負を受けてしまった俺に非がある。

 今だフルムーンという世界に慣れてない証拠だ。

 甘かった。

 大体、一日の労働の報酬が二人で二百ペロという条件に誤魔化されてしまった。もし元いた世界で俺と蓮花が一日フルで働けば軽く一万円は超えるだろうと計算していたのだ。ゆえに二百ペロがそれなりの価値があると勘違いしてしまっていた。端的に言うと二百ペロは実質二百円でしかない。二人で一日フルで働いて二百円ってどれだけブラックなんだよ。

 それを言葉巧みに誤魔化されてしまった。

 まるで一万ペロが云百万もの価値があるかのようにな。やっぱりゲームに対する理解度と戦略の点でいえば琉宇の方が一枚上手だったという事か。さすがは生前、無敵のPCという異名を持った天才ゲーマーだけはあるな。

 …――やっぱりタネ銭はお互い晒してそれから勝負する方が妥当だな。

 ふっ。負けたよ。

「うふ。でも由牙さん達は特別。一応、負けた時の保険として支払う金額を誤魔化してはみたけど、まさかこのボクがゲームの対戦で負けるとは思わなかったからね。だからこれはボクを負かした由牙さん達へのプレゼントだよ。賞賛。受け取ってよ」

 そう言うと琉宇は腕輪から手元に札束を具現化させた。

「……」

 札束はどう見積もっても百万を下らない。束ねた厚さは一センチくらいか。一万ペロだとあきらめていた俺は琉宇が渡した金額に驚いていた。

「由牙さん。受け取ってよ。Mメークでボクのいいライバルになってくれる事を期待しての金額さ。ライバルがいるとボクも強くなれるからね。それにボクにはまだまだ貯金があるからさ。心配しないでね。そして最終的に勝つのはこのボクさ」

 そう言って笑った琉宇の顔にはなんの企みもないような気がした。それでも受け取る事を躊躇する俺。勝ちの報酬が始めに設定した金額よりも大きくなるなんてシビアな世界で生きてきた俺は経験した事がなかったからだ。

「先生」

 俺がカネを受け取るのを躊躇していると蓮花があか抜けた笑顔で割り込んでくる。お前の言いたい事はその表情を見れば大体、分かる。

「利用できるものはなんでも利用するのが勝負師なんでしょ。くれるって言うものを拒むのはおかしいよ。善意を受け取ろうよ」

 そうだろうな。善意だろうな。企みを感じない。が……。

 しかしその善意が足元をすくう事だってあるんだぜ。この勝負は誤魔化されたとはいえ飽くまで一万ペロという約束で始まった勝負なんだ。それを百万ペロだと。俺は施しを受けない。そして勝負師としてのプライドが許さない。

「レン。俺にもプライドがある。この勝負は一万ペロという約束で……」

 俺の言葉をさえぎり蓮花が言葉を積み重ねる。

「プライド……、それを先生が言うの。タバコを奢ってもらったあと蓮花の顔を見てなにを思ったのさ。先生は言葉には出さなかったけど蓮花は知ってるよ」

 ……。

「……ちんけなプライドになんかに縛られるなか」

 俺はつぶやいた。

「そそ。タバコを奢ってもらった時、先生はそう考えていたんじゃないの?」

 彼女は目の前にある大金が欲しい訳じゃない。大金に負けたわけじゃない。それどころか純粋にMメークで生き残り、最終的な勝者になる事を最優先にして考えている。そうだな。この際勝負師のプライドなんて些末な問題でしかない。

 それよりももっと大枠で考えMメークで勝ち残り優勝する事を目指すべきだ。

「……琉宇。今回はお前の好意、ありがたく受け取っておくぜ」

 俺はカネを受け取ると改めて琉宇に礼を言った。

 琉宇は嬉しそうに笑いそして俺達に札束を手渡した。金額は百万ペロ。俺と蓮花の取り分は山分け。つまり一人、五十万ペロの取り分だ。

「そそ。この金額にはボクの好意も含まれているんだよ。ボクはね。実は生前女子だったのさ。そしてここに転生する時に男になったんだ。だから普通に男が好きなんだよ。由牙さん、なにが言いたいか分かる?」

 はあ? 生前は女で男が好きだと!?

「そそ。そしてボクは由牙さんに惚れてしまったのだ。その勝負勘と計算できない行動にね。モブっ子とはライバルだよ。だからさ。ねえねえ。お願いがあるんだ。百万ペロもあげたんだから一緒に行ってもいいでしょ? 由牙さん、嫌だとは断らせないよ。あはは。もうお金は受け取ったんだし返却不可だよ」

 一緒に行動する為の戦略だったのか。くっ……。

「……ライバル」

 蓮花の藍色の瞳が揺れる。琉宇がライバル宣言をして動揺したらしい。いや、でも待て。琉宇よ。お前は男だろうが。俺も男だ。男同士でそんなもんは俺の理解の域を超えているぞ。いわゆるBLってやつか。

 決してボーズ・ラブじゃないぞ。

 ……って、俺よ。なにを言ってるか自分でも分かってるのか。蓮花や琉宇、こいつらといると調子が狂いどんどんと威厳がなくなり自分が勝負師だという事実すら忘れちまうぜ。シリアスこそが俺の専売特許であり俺自身なんだ。

 その俺がBLなどと……。

「それにボクといるとなにかと便利だと思うよ」

 その可能性は考えていた。おそらく琉宇の腕輪のレベルはこのMメークという馬鹿げたゲームに参加している天才共の中でもかなりの上位に入るだろうな。なにせ家という桁が違うものを購入し所有しいるんだからな。

 それは分かるが……。

 対価として俺のケツが四六時中狙われるって事になるな。俺はロリコンじゃないしショタコンでもない。男である以上、ショタコンよりまだロリコンの方がマシだ。大体、恋人や伴侶は作る予定はない。ましてやそれにもなり得ない琉宇などは……。

「あはは。由牙さんの意外なところみっけ。意外と男女関係で動揺するような人だったんだね。酸いも甘いも噛み分けた大人だと思ってたんだけどさ」

 くっ。形無しだとでも言いたいのか?

「男女関係の面だけで言えばボクの方が大人だよ。ま、でもそんな欠点があるってもの人間くさくて可愛いけどね。確か悪魔の罠師って呼ばれた勝負師だったよね。これからよろしくね。由牙さん」

 よろしくしない。絶対によろしくしない。俺は男だ。

「うふ。琉宇くん。私もよろしくね」

 蓮花がにこやかに右手をさしだし握手を求める。無邪気。そういう表現がピッタリな笑顔。全てを解き明かし真実を見抜くような優しい表情だった。

「うるさい。モブっ子。君はボクの恋敵だよ。恋敵には気を許さない。モブはモブらしく名無しで風景の一部にでもなっててよ。分かった?」

 と言った琉宇の顔もの言葉とは裏腹に満面の笑みだった。ただし蓮花が差し出した右手は力強くはたかれ、琉宇の天の邪鬼な性格がよく表れていた。

「あはは。私は先生のなんでもないよ。琉宇くんが先生を好きなんだったら全力で応援するからね。本当にこれからよろしくだよ」

 と笑った蓮花は琉宇の気持ちをあり余すところなく十全に理解していた。

16 ボクの真実、了。

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将来、月に移住したいと思う今日この頃。現実的には一歩、一歩、着実に。基本を大事に。

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