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では、▼以下より、私の世界をお楽しみ下さい。
     

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【 微妙 】

 …――苦節30年。遂に紅白へと出場できる機会が巡ってきた。

 親には真っ先に紅白へ出られると電話した。親は苦労して歌の修業をしていた事を知っていたから、まるで自分の事として喜んでくれた。もちろん紅白に出場した時のギャラで美味しいものを腹一杯食べてもらう。ただし親達は息子の紅白出場を聞いて微妙な顔をしている様な感じを受けた。ま、あれだろう。自分の息子が自分の知らないステージに上がる為、不安を感じているんだろう。

 自分達の知らない人間になってしまうとでも思っているんだろうか。

 次に連絡したのは友達。子供の頃からの大親友。ヤツとは学校もずっと一緒だった。学生の頃から紅白に出場したいと常々言っていたから彼もまた自分の事の様に喜んでくれた。しかし親の時と一緒で出場の話を聞いた瞬間、微妙な顔をした。でもそれも直ぐに笑顔に変わって祝福してくれた。彼の微妙な顔には違和感を感じたが、それでも喜んでくれた事が嬉しかった。今度、紅白出場を祝って飲みに行こうぜとも約束した。

 俺はみんなが喜んでくれた事で有頂天で付き合っている彼女にも電話した。

「よう。俺、やっと憧れの紅白に出場するんだ。凄えだろ?」

「やったじゃん。ようやく思いが叶ったのね」

 彼女もまた喜んでくれた。

 例に漏れずまるで自分の事の様に……。実は俺、紅白に出場する事が決まったら彼女と結婚しようと決めていたんだ。それは前々から公言していた。だから彼女にはいつも言われたもんだ。紅白出場なんて夢叶うわけないじゃん。紅白に出場できる様なアーティストは、ほんの一握りの中の更に一握りだけよ。私と結婚したくないから、そんな夢が叶うまで待ってくれって言ってるんでしょとね。でも俺はそのどうしようもなく叶わない夢を叶え、遂に紅白へと出場できるんだ。

 紅白が終わったら結婚してくれと言うつもりだった。

「おめでとう。で、もちろん白組で出場よね?」

「違うよ」

「え、じゃ、赤組。オカマ枠?」

 いやはや、オカマ枠とはオカマさんに何とも失礼なヤツだな。

「違うよ」

「じゃ、もしかして応援で出場するの?」

「応援って何だよ。れっきとした出場だよ。間違いなくな。聞いて驚くな。実は……」

 俺は鼻頭をこすり得意満面に言う。

「白組でも赤組でもないよ。もちろん応援でもない。実はな。木の役で出場するんだ。学芸会でよくあるだろう。木の張りぼてから顔を出す、あの木の役だよ。凄くねえ? 木の役なんて滅多にできない役だぜ。我ながら凄いと思うぞ」

 彼女も、俺の告白を聞いてまた微妙な顔をした。

「……凄くありません。死ねッ!」

 と電話を切ってしまった。

「あなたとの結婚考え直させてもらうわ。本当にごめんね」

微妙、了。

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【 配達先 】

 …――余計なお世話だがエロ同人誌はないと思う。

 俺は様々な家に色々な荷物を運ぶ宅配人。今日はそんな様々な家の中でもとびっきりあり得ない家の話をしよう。先にも書いたが昨日、重い荷物がきたと思ったら本だった。しかもエロ同人誌。

 国宝である五重の塔を抜け、奧にある家に配達した。

 今回紹介する家は金持ちだ。それだけでもあり得ないのに通販で、やたらと高級な物を取りまくる。この前は松坂牛の霜降りを30kg配達したし、その前は正月でもないのに金粉入りの日本酒を1ダース頼みやがった。

 何か裏で良からぬ事をして稼いでいるんじゃないかと勘ぐっちまうぜ。

 それ以上にないのが、やっぱりエロ同人誌。しかもロリコンの陵辱もの。人間性を疑っちまうぜ。あの家の主だけには読んで欲しくなかった。だってあの家の主たるものは尊敬されるべき人間だし、泣く人間は沢山いるんだぜ。

 …――そんな配達先はお寺。

 受取人はカネ儲けが好きでロリコン野郎の生臭和尚。

 やっぱり余計なお世話だが、エロ同人誌はないと思う。そう思うだろ?

配達先、了。

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【 Mメーク、12 それぞれの思惑 】

 ……上柳琉宇視点。

 ボクの顔にツタがかかる。ツタを払いのける。晴れている日ならば木漏れ日が幻想的な雰囲気を醸し出していたんだろうね。でも生憎の曇天。今にも小雨が降りだしそうなそんな天気。嵐の前の静けさとはよく言ったもんだ。これからボクと由牙さん、そして、おまけのモブっ子と雌雄を決する。

 そんな嵐がくる。

 ボクはロココと会った後、試練のイベントが開始され、指定された魔物の皮を三種類探しにきている。本当の事を言うと、もう指定された三種類は手に入れているんだ。でも今は、このイベントのもう一つの攻略法を進めている。

 ゲームってのはね。

 …――攻略法があるからゲームなんだよ。

 結局ゲームはゲームに過ぎないんだ。逆に攻略法のないゲームは存在しない。だからボクに攻略できないゲームは存在しない。攻略法が存在する以上、ボクはボクでいられるんだ。そしてMメークというゲームですら攻略法は存在すると思っている。

 これはボクの持論だ。

 ふふふ。でも由牙さんとのゲーム、無敵のPCと呼ばれたボクには目をつむっててもクリアできるよ。でもね。切り札は多い方がいい。だから、もう一つの攻略法を盤石にして由牙さんとのゲームに挑むよ。この攻略法さえあれば、たとえ相手が誰であろうと負けはしない。ちょっと時間はかかちゃうけどね。

 キャハッ。由牙さん。そしてモブっ子。君らはボクの手のひらの上で踊ってるに過ぎないんだよ。それを嫌ってほど分からせてあげる。もう少し待っててね。と、時間だ。とりあえず一旦、帰ってロココからダガーを手に入れておくか。

 ロココのイベントもボクがもらうよ。

 ……波栖蓮花視点。

 私は来た道を引き返した。そこに在る、来る時に倒した魔物の死骸を探して。ラッキーな事に皮が簡単に手に入る魔物ばかりだった。通常、皮を手に入れる場合レザークラフト工具などが必要になる。多分、アイテム屋に売ってたと思うけど……。

 お金がありましぇん。

 それに私には動物の皮を剥ぐなんて残酷な事できないよ。

 でも目の前にある魔物達の死骸は巨大な昆虫のような魔物ばかりなのだ。カブトムシのお化けとか巨大テントウムシとかね。つまり皮というか殻なのだ。昔、小学校の自由研究で男子と一緒に昆虫を調べた事がある。その時、調べていてなんとなく覚えているんだけど殻は確か外骨格とか呼ばれるもんだね。とにかく外骨格が皮なのだ。だから剥がすというより、取るっていった方がいいかもね。

 本当に幸運だった。

 もし動物系の魔物だったら血が飛び散ってるだろうし、大体、皮を剥げない。それ以上にゴースト系だったら皮なんてないし、人間系だったらグロどころの話じゃないよ。グロ反対ッ! 私に皮を剥ぐ勇気はない。だから絶対に無理だし。

 …――やっぱり先生じゃないけど流れはこっちにあるんだ。

 よし。ロココさんに言われた通りに魔物の皮は三種類揃った。後はこれを持って帰ってダガーを受け取るだけだ。幸いな事にここまで魔物は襲ってこなかった。でも魔物っていっても涅槃の森に出現する魔物は食料になる動物、鹿とかイノシシより弱いヤツばっかりだ。私が素手でも倒せるような弱いヤツばかり。でも今だ遭遇していない強い魔物もいるかもしれない。

 油断はしないように慎重に慎重にね。

 私は昆虫型モンスターの死骸から手に入れた皮というか殻を手にロココさんの待つ森の奥にある掘っ立て小屋へと戻る為に歩を進めた。先生。先生に言われた通りに魔物の皮、三種類手に入れたよ。

 あはは。でもこんなに簡単に上手くいくなんてなんだかスキップしたい気分。

 ……天花由牙視点に戻る。

 …――目の前でロココの手がわなわなと震えている。

 よし。これで準備万端だ。悪いな。ロココ。まさかお前がここまで熱くなる人間だとは思わなかったぜ。それにしても運営側の神の説明ではノンプレーヤーはプログラム人格で同じ言葉を繰り返すだけのモブだと思っていた。

 しかしロココと出会って考えが改まった。

 今もそうだが、とにかくこいつらノンプレーヤーは人間くさいというかプレーヤーにも勝とも劣らない人間そのものだ。本当にプログラムされた人格なのかと疑っちまうほどだ。ま、でもそのおかげで罠を張れたんだがな。

 きっと琉宇も正規のルート以外のルートを見つけてくるだろう。

 でなければこんな勝負を挑んでくるわけがない。しかも自分はゲーマーだと明かしている。俺がなんの天才か知らないままなのにな。それともあれか。ヤツはこの勝負もコンピューターゲームの一つだと捉えているのか。

 勝負とコンピューターゲームは違う。

 コンピューターゲームは決められた枠の中でどう動くかで勝敗が決まる。しかし勝負はルール無用なのだ。例えば野球で考えれば分かりやすいだろうか。野球というスポーツだけで考えればコンピューターゲームのそれだ。

 しかし野球は一試合の一回から九回までのスポーツだけじゃ終わらない。

 真面目に練習に励む選手もいるだろうし、怠ける選手もいる。その練習如何で試合の勝敗は変わってくる。そして相手チームの弱点などの情報集めに奔走する選手もいるだろう。もちろん裏で手を回す選手もいる。いや、選手だけじゃない。フロントや監督、ファンも忘れてはならない。

 彼らもまた自分が所属もしくは応援するチームを勝たせる為に様々な手を打ってくる。

 つまり野球全体で考えると勝負の勝敗は悲喜こもごもな人間模様が絡んでくるのだ。前にも言っただろう。勝負とは生き物であり状況は逐一変わるのだ。その流れを読み切って初めて勝負に勝てるんだぜ。琉宇よ。勝負をコンピューターゲームの類だと考えていたら痛い目を見るぜ。

 いや、痛い目を見せてやる。

 そしてお前がそれに気づいた時にはお前の負けは不動になっているんだよ。どんな手を打とうとも決して逆転できないような、そんな状況になっている。それこそが俺の罠だ。悪魔の罠師の異名を持つ俺のな。自分の甘さを、そして弱さを呪うがいいさ。その真っ正直な正論しか吐けない己の弱さを痛感しろ。

 …――正論が正しいのは子供の内だけなんだぜ。

 ま、でも確かにコンピューターゲームでもゲームだけの勝敗だけで考えず、そのゲームを取り巻く環境まで考慮に入れて考えれば、さっきの野球の話にも当てはまるがな。琉宇はそんな事まで考えていないだろうな。いくら天才といっても勝負師ではなくゲーマーなんだからな。

 その勝負の勝敗で命のやり取りまでの真剣さはないだろう。

「由牙さん。こんなところにいたの。でも一歩遅かったね。ボクはロココに指定された魔物の皮を三種類揃えて持ってきたよ。イベントクリアはボクがもらったよ」

 琉宇が魔物の皮を手に戻ってくる。くっ。琉宇の方が早かったか。流れはこっちにあったんじゃなかったのか。蓮花が間に合わなかった。このままでは琉宇のヤツがダガーを手に入れてしまうぞ。

「先生。魔物の皮というか殻を三種類持ってきたよ」

 ……来たか。なんとか間に合ったな。

 って、スキップだと。嬉しいのは分かるがアホか。蓮花、状況を分かっているのか。なんで走って戻ってこなかった。琉宇のヤツも帰ってきてるんだぞ。走って帰ってきていれば俺達の方が早かったのにな。

 ま、過ぎた事を言っても仕方がない。

 とにかく早くこい。

 琉宇のヤツはまだ皮を渡してはいない。チャンスはあるんだ。なんとしても琉宇より早く魔物の皮をロココに渡すんだ。流れはこっちにあるはずなんだ。きっと琉宇のヤツより早く渡す事ができる。

「残念だったね。ここからだったら僕の方が……ってッ!」

 よし。また奇跡が起こった。琉宇のヤツが慌てたのか石につまずきこけそうになっている。やっぱり流れは俺達の方にある。蓮花、今の内だ。早く来い。

「なんてね」

 なっ。こけそうになる演技か。くっ。性格の悪い琉宇らしい。

「先生。蓮花、こけた。痛いよお」

 蓮花がスキップなんてしていたから石につまずきこけている。膝小僧を擦りむいたのか血が滲んでいる。って、お前がこけてどうする。お前に魔物の皮の回収を頼んだ俺が馬鹿だったよ。もう無理だな。このイベントは琉宇のものだ。

「あれえ。由牙さんて冷静沈着が売りの天才じゃないの。なんの天才かは分かんないけどさ。なに慌ててるのさ。もしかしてフルムーンに転生してからなにかあったのかな。由牙さんの価値観を変えるような何かがさ」

 くっ。また蓮花と馴れ合った弊害が出たか。

 確かに今までの俺だったら蓮花がアホな行動をしようと琉宇がこけそうになろうと冷静沈着に状況を見守っていたはずだ。それが勝負師として生きる俺だった。しかし蓮花と出会って甘くなったのと同時に精神的に脆くなってしまったのかもな。特に蓮花が絡むとそうなる確率が高い。

 これは不味いな。

 今回の琉宇と勝負はこんな俺でもなんとか勝てるだろう。いや、勝つ。その為の算段も手の中にある。が、Mメークという長丁場の戦いではこのままでは不味い。もう一度修業し直すしかないかもしれないな。

 しかし琉宇は相変わらず正確無比で的確な言葉を吐くなと思った。

12 それぞれの思惑、了。

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【 不適合 】

 …――不適合な彼女は本当によく働いてくれる。

 いや、不適合と言ってもこの診療所にとっては微々たる問題でしかなく逆に言えば彼女無しではウチは開院する事すら難しいだろう。それだけ彼女は朝から晩までろくに休みも取らず一心不乱に働いてくれている。

 彼女は看護士。

 もちろんウチは小さな開業医で彼女と私の二人しかいない。彼女は医者である私のサポートをスムーズにこなしてくれている。彼女が来る前は私一人でこの医院を回していた。もちろん田舎の開業医であるから患者と言っても一日に五人くればいい方だった。なので差ほどの苦は感じなかった。

 しかし彼女が来てからは一変した。

 彼女は仕事もできるが抜群の容姿を持っていた。おまけに若いと来たら村中の男共が放っておかず大挙してウチに押し寄せてきた。転んで擦りむいただの、針で指を刺しただの、挙げ句の果てにはひげ剃りのカミソリ負けで病院に来る始末。さすがにその時は尻に太っとい注射を打って叩き帰してやった。

 もちろん彼女は性格も良く男共を連れ帰そうと来る女達とも仲良くなった。

 こうなると後に残ったのは老人と子供だけ。しかし老人と子供までもが彼女と話していると楽しいとウチに入り浸る始末。とどのつまり村中の人間がウチをたむろする場所と認識してしまったようだ。今ではとても彼女抜きではウチは回らなくなった。それ位、彼女はみんなに人気があったし、働き者だった。本当にいい人が来てくれたもんだと心の底から思う。

 …――看護士の免許は持ってないけどね。

 ま、医師免許がない私がやってる病院だから問題ないけど……。

不適合、了。

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【 あの店 】

 …――彼女の手料理はプロ級だった。

 駅前に、この春オープンした行列のできる創作料理の店が提供する料理にも負けない。いや、僕自身、行列のできる店には行った事はないし、料理を食べた事もないんだけどハッキリと断言できる。彼女の手料理は並んでも食べたい。料理自体も手が込んでいて材料や調理法など全て自分自身で考え出しているみたいだし。

 まさにオリジナル料理だった。

 彼女が材料を手に僕の部屋にきた時、まさかそんな究極とも言える料理が出てくるとは思わなかった。どうせカレーだとか、肉じゃがだとか、その程度の料理だろうと気軽に構えていた。もちろんカレーや肉じゃがを馬鹿にしている訳じゃない。むしろ美味しくて好きだ。しかし彼女の気合いの入り方に異常を感じ怖かった。

 だって持ってきた袋から薔薇の花を取り出してきたんだから。

 これから何が始まり、どんな料理を食べさせられるのか一抹の不安を覚えた。そして次に戦慄を覚えたのは彼女が厨房に立った時。彼女自身が持ってきたバックの中から業物の包丁を取り出し、おもむろに研ぎ始めたのだ。

 まるでこれから死地へと向かう兵士が銃の手入れをしている様に見えたよ。

 出ているオーラも半端なかった。彼女から発せられるオーラは真っ赤に燃え盛る炎で、その中に浮かび上がる猛虎が見えてしまった。見間違いかと思い目をこすって何度も確認し直した。でも口から激しく白い煙を吐く猛虎は決して消えなかった。

 僕は思ったよ。

 彼女は命を削って料理に挑んでいるとね。

 やっぱり怖かった。痺れたよ。そしてそんな戦々恐々とした時間がある程度流れて彼女が手料理を完成させた。ここでベタなオチとしては見た目はいいが、味が死ぬほど不味いって事なんだけど、そんな事はなかった。

 彼女の手料理は滅茶苦茶美味かった。

 いや、のろけ話なんかじゃないし、実際に美味すぎて気絶するかと思った位だよ。こんなに見た目が綺麗で美味しい料理は食べた事がない。いや、これから先の人生でも、きっとこの手料理に勝てる料理は食べられないだろう。そう思う。

「美味しい?」

 彼女が首を傾げ、上目遣いで言う。

「信じられないほど美味しいよ。これだったら駅前で行列を作ってる創作料理の店にも負けない味だね。本当に凄いよ。独学でここまで磨き上げたの?」

 料理を頬張りつつ答える。

「うん。独学よ。料理が好きなの。でも駅前にある創作料理の店には勝てないわよ」

「いや、勝てるって。絶対に勝てるよ。僕が保証する」

「ありがとう。でもやっぱり無理よ。あの店には勝てないわ。だって……」

 彼女は言い淀んだ。

 実際に彼女が作ってくれた手料理は究極のメニューと言っても過言ではない位に美味かった。僕自身、彼女の手料理を食べて、あまりの美味さに芸術品を愛でている感覚に陥った。それ程の一品だったのだ。

「あの店の料理を食べた事はないけど、あの店の料理には絶対に負けないよ」

 お世辞でも何でもなかった。正直な感想だった。

「勝てないわ。だって、あの店のオーナーシェフは私だもの……」

 …――彼女の手料理はプロ級だった。

 だってプロだもん。

あの店、了。

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【 我は神なり 】

 …――その男は自分は神であり、超能力があると自信満々に語った。

「我は神なり」

 確かに彼はスプーンを曲げて見せたり、なにもない空中から火のついたタバコやこんがりと焼けたバーターの塗ってあるパンを取り出したりした。もちろん遠く離れた受信側のアシスタントにテレパシーを送ったり、裏に伏せられたカードの模様をズバリと言い当てたりもした。

 それだけやっても誰も彼の超能力の秘密を暴けなかった。

 いや、秘密を暴くとは彼の能力がインチキであり手品の類だと証明する事ではない。トリックを暴けなかったというよりも真に超能力があるとも証明できなかったのだ。結局、彼自身の超能力は人間が持つ能力とは説明できずにいたし、逆にトリックも見あたらなかったという事だ。つまり真相は闇の中。果たして彼は本当に超能力者なのだろうか。

 そんな彼だったが、彼は超能力で儲けていた。

 自宅は総工事費が200億円を超えるような豪邸だったし、世界各国に別荘を所有し、自家用車も、まるで服を着替えるように毎日違う車に乗っていた。もちろん運転手も雇っていて執事もいた。プライベートの空港には自家用ジェットもあったし、旧世界大戦で活躍した戦闘機や偵察機、果ては最新鋭ステルス爆撃機すらも所有するような金持ちであった。もちろん単に超能力があるというだけはこれだけは稼げ出せない。

 彼は彼自身の超能力を崇める教団の教祖だったのだ。

「我は神なり」

 これがそんな彼の口癖だった。

 確かに過去の大予言者であるイエズやマポメットなどもそうだが、大予言者と呼ばれる人物達は数々の奇跡を起こしてきた。彼らもやはり超人的とも言えるような超能力者であった事は疑う余地がない。ゆえに超能力者と自称する彼が教祖となったのはごく自然な流れなのかもしれない。

 そして彼の周りでは今日も乱れ飛ぶ。

「我は神なり」

 数え切れないほどの一万円札(ゲンナマ)と女達が狂喜乱舞する。

「我は神なり」

 そして凡夫である我々は思う。

 彼が奇跡を起こせようが起こせなかろうが、どちらにしろ教祖である彼は超能力者なのである。仮に奇跡を起こすだけの能力がなかったとしても、これだけのカネと女達を思うがままなのだ。それこそ超能力なのだ。凡人には望んでも手に入らない羨ましい限りのカネを生む人智を超えた能力、つまり超能力だと……。そう思う。

 彼は言う。

「超能力? なにそれ。聞いた時ないし?」

 とカネと女に溺れつつ。

我は神なり、了。

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【 浮気 】

 …――浮気をしてるのは分ってるわ。裏切ったわね。絶対に許さないわ。

 昨晩、妻に言われた言葉。私の浮気が発覚して喧嘩になった。そして一人公園でブランコに揺られている。そんな私の目に飛び込んできた微笑ましい光景。我が子が友達の男の子とオママゴトをしている。荒んだ私の心が和む。可愛いなあ。きっと幸せな家庭を再現しているんだろうなと耳を傾ける。

「今、帰ったよ」

「お帰りなさい。遅かったわね」

「ああ。今日は残業でね。帰りに飯も食ってきたし……」

「ふふふ。騙されると思う? あなた浮気してるでしょ。女と会ってたのね」

 妻役の我が子が全てはお見通しよと怒って言う。

「ば、馬鹿。そんな訳ないだろう。今日は残業だったんだよ」

 焦った様に答える男の子。

「浮気をしてるのは分ってるわ。裏切ったわね。絶対に許さないわ」

 …――さ、昨晩の再現か。

 一気に脱力して力なく肩を落す。あはは。子供はちゃんと見ているもんだな。うん。我が子の為にも喧嘩なんかしてないで、さっさと帰って「ごめん」と素直に謝り仲直りしようかと思った。

浮気、了。

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【 近代化 】

「本当にあの川に橋を架けるんですか。死にますよ」

 私は驚いて言う。

 我が社に橋を架けてくれと依頼がきた。死にますよとは呪いの類ではない。あの川を渡ればそれは死ぬという事に他ならないのだ。だから非科学的な呪いの類ではなく、当然の流れなのだ。

 しかし私は思う。

 今の今まで通行人達は情緒のある船であの川を渡っていた。しかし今回、橋を架けてくれと依頼がきたあの川はこれでいいんだと思う。周囲の景観や風情などを考慮すれば橋などない方がいい。これ位の不便さは敢えて残した方が、あの川の為にはいい。

「えっ。高速道路を建てて電車を走らせるだって……」

 近代化の波はまた一つ日本の情緒、いや、世界的な風情を破壊するのか。いや、私だって利用する人の事を考えれば高速道路があったり、電車が通っていれば便利だとは思う。思うが、世の中、便利という言葉だけでは割り切れないものがあるのも、また真理だ。しかも依頼主は橋を架けたあとに有料化して通行料を徴収する腹づもりでいるんだろう。まったく迷惑な話だ。どこまでカネの亡者なんだ。

 私は考える。

 私自身もこれまで日本全国津々浦々の川に橋を架けてきた。しかし今回の依頼には承伏しかねるほどの憤りを感じていた。くどいようだが、あの川に橋は似合わないのだ。あの川は船で渡るからこそ、それなりの意味があるんだ。一度渡ったら二度と帰ってこれない川なのだから……。

 君もそう思うだろう。

 …――三途の川に橋を架けるのは止めた方がいいとね。

 それこそそんな罰当たりな計画に加担すれば今度は自分があの川を渡らせられてしまう。そして、あの世に行って二度とは帰ってこれないだろう。三途の川を渡るという事はつまりそういう事なのだ。

「やっぱり橋を架けるのは止めましょう。まだ死にたくはありませんよ」

 と答えた。

「じゃ、川の下を通るトンネルでもいいよ」と返ってきた。

 いや、一緒だって。馬鹿。

近代化、了。

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【 男の浪漫 】

 …――賭け金は退職金のほぼ全額である一千万円。

 俺は老いた。しかし老いてもギャンブルは人生の楽しみだ。しかしいつも負けている競馬。今回だけは気合いが入っている。長年勤めた会社を辞め退職金が入ったのだ。退職金全額賭けて全てを取り戻す。

 今週は桜の女王決定戦である桜花賞。

 このレースに勝てば俺の老後は絶対的に安定する。もちろん桜花賞の当日は朝から10人いる愛人の内の一人と酒を酌み交わし賭けたお馬さんをTVで応援するつもりだ。俺の老後の為に真面目に頼むぜ。

 そんな俺だが健康にはうるさい。

 肺がんと胃がん、そして大腸がん検診は必ず受けるし、タバコだって吸わない。もちろん夜は早く寝て早朝に起きる。起きたらラジオ体操だって日課だし、そのあと町内をジョギングする気の入れようだ。

 健康診断の結果は常に健康体そのもので問題がある箇所は見つからない。

 遺伝性の病気も気にしていて家系図を引っ張りだし、過去に病気をした者はいないか細やかに調べた。その結果、我が一族は皆、超健康体の集まりだという事が分った。もう一度言う。俺は老いた。しかし、ここまでやったのだ。

 持病はないときっぱりと断言出来る。

 これから先も重大な病気を発症しないと言い切れるだろう。だからこそ今週の桜花賞で勝てば老後は安泰なのだ。もし勝ったら物価の安いフィリピンにでも移住して悠々自適な生活でも楽しもうかと思っている。

 その為の桜花賞だ。

「よう。今週の桜花賞、いくら賭けるのか決めたのかい?」

 競馬友達が話しかけてくる。

「ああ。今回は一世一代の大勝負だ。退職金の全額一千万をどんと賭けるぜ」

「い、一千万だって!?」

 競馬友達が大口を開けて呆れかえる。

「ああ。勝てば愛人10人全員連れてフィリピンにでも移住するぜ」

「……フィリピンはいいけどよ。先週も五十万負けたばかりだろうが。一千万も賭けて大丈夫かい。いつも大金を賭けて負けてるし、せめて百万位にしておきなよ」

「うるせいよ。今回は絶対に勝つ」

 競馬友達は呆れ果て、そして俺にこう言った。

「……あんたのギャンブル狂いはもはや病気だ。持病のレベルだな。体が健康なだけあってその悪質な持病が大問題だぜよ。一度、病院に行ったらどうだい?」

「うるせいッ! ……そう言えば来週は皐月賞だったな。もし桜花賞で負けたら今度はおっ母のへそくりをくすねて全額賭けてやるか。うししっ」

「本当にどうにもならない病気だわ。この人……」

男の浪漫、了。

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【 中国製 】

 平和でのどかな昼下がり、お腹が空いたので、ある飲食店に入る。

 店構えを見てフッと思う。メイド・イン・チャイナの事を。中国製品はヤバイ。食品から始まり、洋服や電化製品などとにかく危険だと噂されている。実際にはどうなのかは知らないけど、それでもこれだけ騒がれるという事はなにか問題があるんだろう。いくらお馬鹿な僕でも分る。店に入ってテーブルについたあと手に取った調味料の原産国表示を見る。

 …――メイド・イン・チャイナ。

 これはないわ。いくら他の製品に比べて安いからってヤバイと噂の中国産の調味料を置いている店の神経を疑う。利益を追うが為に経費を安くあげようという計算なんだろうか。僕は黙ったまま、他にも中国製品がないか店をくまなく調べてみる。

 すると、あるわあるわ、中国製品の数々。

 テレビに始まり、お酒などの飲料に野菜などの生鮮食品、果ては椅子などの家具一式まで。それら全てが中国製品であり、主人は生粋の中国製品マニアなのかと疑ってしまうほどこれでもかと中国製品が店に溢れかえっていた。

 僕は店長に聞く。

「……なあ。店長。この店にはなんで中国製品が溢れかえっているんだい。そんなにも中国製品が好きなのかい。中国製品はヤバイって知らないの」

「……」

 店長は、なに答えずムスッとした仏頂面で調理を続けている。

 調理が忙しいのだろうか。いや、さっきの言葉で中国製品ラブな店長の気分を害し無視をされているんだろう。それでも今から出される料理にも中国製品が使われていたら嫌だ。だからもう一度、強めに聞きただしてみた。

「店長。いくら安いからって中国製品はヤバイわ。もしかしたら今作ってる料理にも中国製品が混じってないよね。混じってたら食わないし、カネを払わないよ」

「お客さん……」

 店長が顔を向こうに向けたまま、調理を続け口を開く。

「ここは中国ですよ。しかも中華料理屋です。中国製以外を探すのは難しいですね」

 そうだ。忘れてた。もう一つ中国製品があった。

 それは僕と店長。

 *****

 ※注、もちろん彼らの会話は全て中国語アル。

 中国製、了。

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【 Mメーク、11 それぞれの仕事 】

「あ、あの……」

 蓮花が申し訳なさそうにロココに語りかける。今まで曇っていたロココの表情が緩む。どうやら蓮花にだけは心を許したようだな。琉宇との勝負の流れは徐々にこちら側にきているようだ。ここは蓮花に任せよう。

「その試練ってなんですか。魔獣は普通には倒せないんでしょうか」

「うむ。普通にも倒せる。しかし少なくともレベルが十以上は必要じゃろうな。お主らの前にここを訪れた少年ですら決して魔獣には敵わんよ」

 なんだと。魔獣はそんなに強かったのか。琉宇のレベルでも倒せると踏んでいたのにとんだ勘違いだ。読み違えたぜ。

 それにしてもこの俺が読み違えるなんて琉宇も大した役者だぜ。やられた。

 しかし、たった今、ここに来るまでに上がったレベルは俺が二、蓮花が一だ。つまり俺がレベル三で蓮花がレベル二って事だ。魔獣を倒すには十以上のレベルが必要なんだよな。俺達のレベルじゃ、まったく歯が立たないぞ。

 いや、俺達のレベル上昇率から考えて琉宇のレベルがどれだけ上がったとしても三つくらいだろう。最大限に見積もって三上がったとしてもレベル六だぞ。ヤツでも魔獣には敵わない。琉宇のヤツはなにを考えているんだ。

 決して倒せやしない魔獣を先に倒した方が勝ちなどという勝負を吹っかけて。

 いや、思い込みは捨てた方がいいな。琉宇には勝つ算段があってこの勝負を挑んだはずだ。つまりロココの試練とやらが魔獣退治の鍵を握っていると考えていいようだ。で、その試練とはなんだ?

「ロココ……」

 俺がゆっくりと口を開きかける。にわかにロココの表情が曇る。蓮花が人差し指をほんのりとピンク色をした自分の唇の前に立てて俺を制する。任せたんだったら最後までやらせてと。俺はそんな彼女の心情を察して再び黙る。

「ロココさん。試練なんですが、それはどういったものなんでしょうか?」

 またにこやかな表情に戻るロココ。なんだ、その豹変ぶりは。女のそれと一緒だぜ。俺に対する態度と蓮花に対する態度では百八十度違うぞ。それだけ彼女が持つ不思議な魅力はロココを魅了しているって証拠だがな。

「なに、お嬢ちゃん。難しい事じゃないよ。この森にいる魔物の皮を三種類、ワイのところに持ってくるだけじゃよ。全てが違う種である必要はあるがな」

 ここに来るまでに魔物を七匹くらいは倒した。曖昧な記憶でしかないが、多分に三種類以上は倒したはずだ。今、来た道を引き返し、皮を剥ぎにいけば試練はそれでクリアじゃないか。試練とさえも呼べないような条件だな。

 琉宇も同じ試練を受けたのか?

「ロココさん。私達の前にここを訪れた少年も同じ試練を受けたんですか?」

 蓮花、ナイスだ。

 俺の聞きたい質問をよく察したな。もし仮に琉宇が俺達と同じ試練を受けたのであればゆっくりしてられないぞ。もうすでに試練をクリアした可能性がある。それはヤツが魔獣を倒す為の条件を満たしたという事だ。先手をとられ続けるなんて俺らしくもないな。

 …――先手を取られたのだとしたら流れはあっちにある事になる。不味いな。

「うむ。じゃがな。彼にはもう一つ条件を加えさせてもらったわい。お主らよりレベルが高かったからのう。ワイが指定する魔物の皮を三種類、持ってこいとな」

 首の皮一枚で勝利への道筋が繋がった。ロココが指定する魔物であれば今だ条件を満たしていない可能性がある。飽くまで可能性の一つでしかないがランダムに選ばれた三種類の魔物を見つけるのは骨が折れるんじゃないだろうか。しかしヤツがここに来るまでに倒した魔物の中にその三種類が存在していれば流れは完全にヤツのものだ。

 …――果たして今、流れはどっちにあるんだ?

「そうですか。でも少年はいまだに戻って来てないんでしょうか。ロココさんが出題した試練をクリアしていないんでしょうか?」

「うむ。まだ帰ってきておらんよ。出発して一時間ほど経つがのう」

 一時間経つがまだ帰ってきていない。うむ。これは倒してきた魔物の中に指定の魔物がいなかったと考えて間違いがなさそうだな。指定された魔物がいたならば皮を剥ぎに戻るだけだ。そんなに時間はかからない。つまり指定された魔物は倒していなかった。

 …――流れはこっちにあるようだ。

「そうですか。最後にもう一つだけ聞いてもいいですか?」

「うむ。ええよ」

「ロココさんの出す試練をクリアしたとして私達になにが起こるんでしょうか。それは、この涅槃の森に住む魔獣を倒す事とどう関係しているんでしょうか」

 うむ。メリットを確認するのは基本中の基本だ。メリットを知らなければ試練とやらを受けるか受けないのか判断がつかないしな。蓮花、お前、抜けているようでなかなかな勝負脳を持っているじゃないか。

 感情がストレートに表情に表れてしまう致命的な癖を除けばな。

「ワイはな。魔獣を倒す為に涅槃の森の守人となった。そして長年をかけて魔獣の弱点を突き止めたんじゃよ。しかしワイは歳をとりすぎた。弱点を探るのに時間をかけすぎて魔獣には勝てなくなってしまったんじゃよ。だから倒してくれるヤツを探しておったのじゃ。そこにお主らが現われたというわけじゃ」

「……それで試練をもうけていたんですね。試練をクリアし魔獣を倒すだけの覚悟があるかどうかを試していたんですね」

「うむ。そうじゃ。そして魔獣の弱点とはこれなんじゃよ」

 ロココが懐から一本の短剣を取り出す。それは十字架をモチーフにした細かい細工が施された立派なダガーだった。なかなか高そうなダガーだ。ロココは歳に似合わず自信満々に鼻頭をこすり言葉を続ける。

「この短剣はな。魔獣に突き刺せば一発で倒せるという武器じゃ」

 ……一発で倒せるだと。どういう事だ。

「お主ら毒針という武器を知っておるか。敵に刺せば一定の確率で即死させる事のできる武器じゃな。あれの魔獣にしか効かないヴァージョンじゃ。しかしこちらの短剣は毒針と違い一定の確率じゃないぞい。確実に死に至らしめる」

 なるほど。そんな便利な武器があったのか。いかにもゲームらしい。現実ではあり得ないような展開だな。読めなかった。確かにそれならばいくらレベルが低かろうとこちらが殺される事さえ注意して魔獣に突き立てれば勝てる。そんなカラクリがあったのか。琉宇がこの勝負を提案してきた意味も分かった。

 ヤツは知っていたんだ。

 いや、知っていたというより読んでいたか。こんなイベントがあるとな。さすがは天才ゲーマーらしいゲーム脳だぜ。とにかくロココの持つ短剣は魔獣退治にはもってこいの武器だ。しかもちょうど武器がなにもなくてなにか欲しかったところだ。

 まさに渡りに船ってやつだ。

「短剣は一本しかないからのう。お主らの前に試練を受けている少年とお主らの早いもん勝ちじゃ。試練を受けるんだったら早くした方がよいぞ。先を越されるぞい」

「そうですね。分かりました」

 蓮花が頭を下げる。

「と、ワイに答えられるのはこんなところじゃ。で、お主らは試練を受けるのか」

 答えるまでもない。すぐに来た道を引き返し魔物の皮、三種類、きっちりと耳を揃えて渡してやるぜ。琉宇よ。どうやら流れは俺達の方にあるようだな。

「受けます。すぐに帰ってきます。待っていて下さい」

 蓮花が覚悟に満ちた目で答える。蓮花、お前でもなかなかいい目をするな。少しだけ感心したぞ。そしてロココは微笑み短剣を懐へと大事そうに仕舞った。その時、一つの手を思いついた。だめ押しの切り札を思いついたのだ。そして蓮花に耳打ちした。

「レン。お前一人で魔物の皮をとってこれるか?」

「えっ。先生は来てくれないの?」

 蓮花が途端に不安そうな顔になる。

 おい。さっきの目はどうした。お前の覚悟はそんなもんか。甘えるな。ただ気持ちは分からないでもない。元来た道を引き返すだけでもいまだにザコモンスターどもがうじゃうじゃいて襲ってくるだろうからな。それでも一人で行ってくれ。俺にはやるべき仕事ができたんだ。

 力強く蓮花を見つめる。

「お前だったらできるはずだ。魔物を倒せとは言わない。逃げ回ってでも今まで倒してきた魔物の皮を三種類集めてきて欲しい。これはお前にしかできない仕事だ。そして俺も俺にしかできない仕事をする。分かったか。頼めるな。レン」

 蓮花の肩を力強く握り、体を少しだけ揺する。今、流れは俺達の方にきているんだ。このまま流れを維持したまま雌雄を決したい。頼む。蓮花。

「う、うん。分かった。先生。逃げ回るだけだったら蓮花にもできると思う……」

 蓮花の目に再び決意の炎が灯る。琉宇との勝負、絶対に勝とうよと彼女なりに覚悟を示し、そして勝利へと力強く踏み出したのだ。いい子だ。必ず琉宇には勝つから安心しろ。お前はお前の力を信じ頼んだ仕事を無事に遂行してくれと祈った。

 そうして俺と蓮花は一旦、別行動をとる事となった。

11 それぞれの仕事、了。

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【 ブラザー 】

 …――俺達兄弟は好んで花を食べる。

 もちろんエロい意味での花ではない。ケシの花を食うのだ。ケシとは阿片の原料となる植物だ。言うまでもないが阿片とは麻薬を指す。花を食う事で火を扱う事ができるようになるのだ。魔法とも言えるようなその力は俺達兄弟の自慢だ。いやいや、魔法だって幻覚でしょう? って。違う。間違いなく火を扱う事ができるようになるのだ。

 …――そんな俺達はキノコも食う。

 キノコとは、もちろんマジック・マッシュルームと呼ばれる幻覚成分を含むあれだ。そしてキノコを食うと体が大きくなる。それはもう二倍強の大きさへと身長が急成長するのだ。なにを。それこそ幻覚だろう? って。チッ、疑い深いヤツだな。俺達兄弟をいかれた麻薬患者だと馬鹿にしているな。そうだろうが。いいよ。だったら俺達兄弟の職業を教えてやるよ。そうしたら信じられるだろうからな。

 俺達は亀などの駆除業者。

 増えすぎで生態系を壊す困ったヤツらを駆除するのが俺達の仕事だ。もちろん亀だけではなく土管に潜む害のある花を駆除したり、キノコを食う俺達が何の因果か害のあるキノコだけを駆除したりもする。マジック・マッシュルームも害があると言えばあるかもしれないが、昔はシャーマンが神託を得る為に食ってたんだぜ。とにかく俺達兄弟はそんな人様の役に立つ職業に就いているのだ。

 うん?

 何者かだって?

 まだ分らないのか。これだけ言ったら分りそうなもんだがな。ま、今まで話した事のおさらいと要約をしてやろう。そしたらきっと分る。まず俺達兄弟は花を食ってキノコを食ったりする。そして巨大化して火を扱う人間。そんな亀などの駆除業者。ついでにどこかの国の姫を助けたりもする。うん。ここまで言ってもまだ俺達兄弟が誰だか分らないってヤツはまずいないだろう。そう。俺達兄弟はあの有名な……。

 マリオ。

 そして弟がルイージだ

ブラザー、了。

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【 絶滅したサービス 】

 …――人間の体も機械化されるような近未来。

 自動車は相変わらず存在していた。そして私は普通に車を運転している。私の愛車は黒のアストンマーチン。高級外車に乗るなんて金持ちなのかと疑われよう。もちろん金持ちではない。どこにでもいるような普通の会社員。ただ車好きが高じて高級外車を所有するまでに至った。

 だから大事に乗っている。

 私は度がつくほどにマイカーを愛していた。洗車は休日に自分の手で優しく洗っていたし、車庫もガレージを作り、雨風をしのげるようにした。もちろん毎日、ボディーを二回から拭きして埃から愛車を守った。車を愛していた。

 しかしその日は物珍しさからだろう過ちをおかしてしまった。

「……手洗い洗車?」

 ふと目にしたスタンドの派手で品のない看板には『手洗い洗車』と書いてあった。

 人間の体も機械化されているような現代。手洗い洗車などは絶滅したサービスでしかない。それが目の前に流れる車窓から見える風景の中で『手洗い洗車』というにわかには信じがたいサービスの宣伝文句を見つけたのだ。

「昨日、洗車したばっかりだが、ものは試しだし、いっちょやってみるか」

 ハンドルをスタンドへときる。

 これが間違いだった。昨日丹念に洗車したばかりだったし止めておけば良かった。しかしもう一度仕上げとしての洗車をするのも悪くはないなと思ってしまったのだ。しかも機械化した現代、絶滅したものだとばかり思っていた手洗い洗車というサービスがどんなものか興味が湧いてしまったのだ。あまつさえ缶コーヒーを片手に見学できるなどと気軽に考えてしまったのだ。『手洗い洗車』は車好きの私にはとても魅力的なものに見えてしまったのが敗因だった。

 今はそう思う。

 車がガソリンスタンドへと入る。同時に「いらっしゃいませ」と店員が帽子をとって慌てて駆け寄ってくる。愛想は良さそうだ。あの店員が手洗い洗車をやってくれるのだろうか。好印象だ。彼ならば私の愛車を任せてもいいだろう。

 愛車のアストンマーチンの鍵を店員へと手渡す。

「ハイオク満タンと手洗い洗車を頼む」

「はい。承りました」

 私は缶コーヒーを買う為に店内にある自販機へと足を運ぶ。

 しかしそこで耳に届いたのは……。

 愛車の方から聞こえてくる鉄と鉄が軋み絡み合うキーの高い機械音だった。

 ビックリして手洗いじゃなかったのかと慌てて愛車を確認する。そこには愛想のいい店員がいて洗車専用の形態にトランスフォームして洗車をする姿があった。人間の体も機械化されている近未来、確かにこれも一つの手洗いなのかと思った。

「い、いや。聞いてないから。それ間違いなく詐欺だろうッ!」

「ピロピロ。安心しテ下さい。手洗いデすヨ」

 と機械音で答えられた。

絶滅したサービス、了。

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【 Mメーク、10 蓮花の力 】

 森の奥は思った通りにザコモンスター達が蠢いていた。武器を持っていない俺達は素手で応戦した。パンチやチョップなどで魔物達を攻撃していく。五匹くらい倒したところだろうか拳がジンジンと痺れてきて痛んできた。まだまだ魔物の応酬は止まりそうにない。服も欲しいが早く武器も欲しいところだ。

「きりがねえな。レン、逃げるぞ」

 蓮花は始め驚き戸惑っていたが、今では魔物を倒す事にどことなく楽しみを覚えているようだった。嬉々揚々と魔物を攻撃している。そんな時にかけられた逃げるぞという言葉。なんとも不満そうな顔をして俺を見つめ返す。

「なんで? 先生」

「いくら喧嘩慣れをしてる俺でも五匹くらいが限界だ。もう拳が痛いぜ。せめて武器があればもっと戦えるんだがな。素手じゃここらが極点だ」

 蓮花がなにかをつぶやく。

 そこの言葉は聞いた事もないような単語の羅列で彼女は一人言を言ったのかと思った。が、謎の言葉での詠唱が終わると彼女の手のひらに淡い光が灯る。その光は朱色のようでいて青いみがかった不思議な光だった。

「先生。蓮花ね。レベルが一つあがったよ。そうしたら回復魔法を覚えたの。今、先生の拳を回復魔法で温めてあげる。だからもう少し頑張ろうッ!」

 ……もう少し頑張ろうか。この森に入る前までの蓮花の態度からは考えられないような発言だな。自分のレベルが上がるのが、そんなに楽しいか。豹変ぶりが半端ない。

 やれやれ、女はこれだからな。

 藍色のその可愛い瞳がいやに残酷にさえ思えるぜ。子供がゆえの無邪気な残酷さだな。魔物だって生きているんだぜ。命の灯火を消してまわっているって分かってるのか。……その顔は分からないって顔だな。やれやれだぜ。

 だがな。回復には薬草があるだろうが。

 マジックポイントは温存しておけ。この後、魔獣との戦いがあるんだからな。そう思っていると俺の拳を蓮花から放たれた光が優しく包む。

 今まで限界だと思っていた拳の痛みが爽快に引いていく。

 愛らし顔をくしゃくしゃにして微笑む蓮花。『どう。すごいでしょ』と言わぬがばかりに。そうか。そんなに他人の役に立つ事が嬉しいか。ま、でも、こんなヤクザな俺でも、その温かい笑顔は裏切れないけどな。

 …――仕方がない。もう少し頑張るか。

「レン。分かったよ。もう少しだけ頑張るぜ。だがな、これ以上、回復魔法は使うな。マジックポイントは温存しておけ。魔獣との戦いがある事を忘れるな」

「う、うん」

 蓮花は俺の言葉を聞いて戸惑う。回復魔法を使って俺の拳を温めた事が迷惑だと捉えたのだろうか。そうじゃない。先の事も考えてマジックポイントを温存する為に回復魔法は控えろと言っただけだ。

 決して迷惑なんかじゃない。

 むしろ感謝したい。が、面倒くさいからそんな事は言わないがな。……いや、もしかしたら、そんな態度が長年コンビを組んでいた相棒の信頼を失う事への要因となった可能性がある。仕方がないか。面倒くさいがな。

「回復魔法が迷惑なんじゃない。むしろ助かった。が、先の事を考えろって事だ」

「う、うん。分かったよ」

 途端、彼女の表情が花が咲いたよう明るくなる。役に立ったという言葉が勇気づけたようだ。ふふふっ。現金なヤツだな。それにしても、こんな事を言う気になるなんて俺も本当に甘くなってしまったかもしれないな。

 悪魔の罠師と異名をとったギャンブラーだとは到底思えないぜ。

 今までの俺だったら表情でその感情までを読み取れと突き放したはずだ。俺の相棒だったらそれくらいできるだろうとな。まったくやれやれだぜ。

 ……そんな感じで俺達は幾度のかの戦闘を経て森の奥へと奥へと向かった。

「おや、冒険者かい」

 森の奥にはその幻想的な雰囲気にそぐう様な一軒の掘っ立て小屋が建っていた。折れた木の枝は、この家まで続いていた。琉宇はこの掘っ立て小屋にたち寄ったようだ。それは確かだ。そして小屋の前には一人の人間がいた。

 Mメークの参加者か?

 それとも、もしかして琉宇の協力者か?

「ワイの名前はロココ。この森の守人をしておる」

 どうやら参加者ではないようだ。Mメークの参加者であればこんな森に留まるなんて事はしない。少しでも多く稼げる地を求めてフルムーンを自由に冒険するはずだ。それを森の守人なんて、そんな一銭にもならないものをやっているのはノンプレーヤーだけだろう。ヤツの右腕を確認してみる。腕輪はなかった。腕輪はないし、守人という発言……、ノンプレーヤーで間違いがないな。

 しかしフルムーンでノンプレーヤーと遭遇するのは初めてだ。

 フルムーンには独自の言語がありノンプレーヤーはそれを駆使して話すんだと思っていた。しかし意外な事に俺達の言語、つまり日本語を話している。言葉が通じるのだ。慮外だった。しかしありがたかった。確かにこのフルムーンという世界を創った運営側の神が日本語を話していたのだ。

 それは結局、当たり前の事なのかもしれないがな。

「そうか。ロココ。一つ聞きたい」

 俺はぶっきらぼうに言いたい事だけ言う。これこそが俺の真骨頂だと自分自身で妙に感心した。ノンプレーヤーに興味はない。それよりも今は琉宇がここに立ち寄ってなにをしたのかそれを知りたいだけだ。

 さあ、ロココとやら教えろ。琉宇はなにをしたんだ?

「なんじゃ?」

 ロココと名乗った森の守人はいぶかしむ。見たところ普通のオッさんだ。ある程度の年齢に達しているんだろう。頭が少し禿げあがっている。そんなロココは俺の態度が気に入らなかったのか態度が硬化していた。

 うむ。運営側の神が創ったというフルムーンの住人にしては妙な人間くささを感じるな。こいつらは結局プログラミングされた人格にすぎないんじゃないのか? なんでこんなに人間くさいんだ。俺にとってノンプレーヤーの人間くささも意想外だった。

 ロココは怒っている。

 それでも俺の態度は変わらなかった。

 俺はこういう人間であり、こういう生き方しかしてこなかったのだ。いくら蓮花と出会って甘くなってしまったとはいってもそう簡単に性根が治るはずがない。むしろそれが悪い事だとは思ってないしな。そんなものが治るわけがない。

「琉宇という十四歳くらいの少年がここに来たはずだ。お前となにを話した?」

「ふむ。なんじゃ、その偉そうな態度は。お主は人にものを尋ねる態度を知らんようだな。そっちのお嬢ちゃんだったら分かるんじゃろうか」

 ロココは完全に怒っていた。いつも通りの反応だな。ま、いい。俺は基本、他人に心を許す事はない。仲間でなければ敵だと判断してしまう癖があるのだ。それは俺の深いところ性根の部分まで染みこんでいた。蓮花と出会った時が例外だっただけの話なのだ。俺の信条は孤独こそ人間を強くするだった。

 面倒くせえな。そう思った。

「どうだい。お嬢ちゃん。お嬢ちゃんだったらまともに話せると思うがのう」

 森の中で他人と出会っておどおどしていた蓮花に話が振られる。

 蓮花はまた俺の背中に隠れる。蓮花、お前は幼い子供か。いや、俺から見れば、今の彼女の外見から知れる年齢でも充分に子供だが、それでも、それ以上のお子様な対応だぜ。ふっ。他人を敵だと思う俺。そしてお子様な蓮花。もしかしたら欠点ばかりの俺達は結構お似合いのコンビなのかもな。

 …――しかし、情にほだされ甘くなってしまったのは大問題だがな。

「おやおや」

 蓮花の態度を見たロココの態度がなんとなくだが軟化する。彼女は俺の背中に隠れただけでなにも言葉を発していないが、それでも小動物のように愛らしい彼女に少しだけ心を許したんだろう。ロココが微笑む。

「先生。琉宇がここになにしに来たのかを聞きたいの?」

 蓮花が勇気を出して俺に聞く。

 俺は無言で頷く。それさえ聞ければこんな森で守人をしているノンプレーヤーのオッさんに用はない。琉宇は何の為にここに立ち寄り、そしてなにをして、ここから去ったのか。それを知りたい。それだけだ。

「あ、あの……」

「なんじゃ。お嬢ちゃん。お嬢ちゃんにじゃったら答えようかのう」

 このオッさんロリコンか。蓮花なんて胸のない寸胴に心を許すなんて、そう思えてくるぜ。大体、キスをしたらぶっ倒れかねないお子様なんだぜ。なにが悲しくてそんなに微笑ましそうな表情を見せれるんだ。

 ま、そうは言っても他人から見れば、蓮花と一緒にいる俺もさして変わらないがな。

「あ、あの……、ロココさん。ここに琉宇くんという少年が来たと思うんです。彼はこの森の主、魔獣を倒しにきたんです。ここでなにをしたんですか?」

「ああ。あの少年か」

 鼻の下を伸ばすな。ロリコンが。

「魔獣を倒す為にワイの試練を受けさせてやったわい」

 試練だと。魔獣を倒す為にはワンステップ必要だったのか。なんとなくは承知していたが、こんなところでそのワンステップに出会うとはな。よし。ラッキーを拾ったぜ。流れはこっちにきているようだ。決して勝てそうにない戦いじゃなくなってきたぜ。なんとか勝てる戦いになってきた。勝負の形ができた。

「その試練、俺達にも受けさせろ」

 蓮花を押しのけてロココに詰め寄る。あまり感情を表に出しては勝負師の名が泣くが、それでも勝負が形になった事は嬉しかった。ここでも蓮花とコンビを組んだ事の弊害が出てしまったようだ。冷徹、冷酷が売りで淡々としてきた俺が嬉しさなどというつまらない感情で動いてしまったのだ。

 …――やはり甘くなっている様だ。

「やっぱり、お主は偉そうじゃのう。話し方から勉強して出直せ」

 またロココの表情が曇る。まるで俺には取り合わないと言わぬがごとく。くっ。お前はプログラミングされた人格にすぎないんだろう。面倒くさいぜ。俺はそんな事を思いながらも次なる手を打つ為に算段に入った。

「先生。ここは蓮花に任せて」

 と彼女が言った。成り行きで蓮花とコンビを組んだ。それは悪い事だと思っていない。が、彼女に感化され甘くなってしまったのは控えた方がいいな。しかし今はそれ以上のメリットを感じている。

 彼女は不思議と他人に安心を与える様だ。

 他人に警戒心を植え付けるだけの俺とはまったく正反対だ。やはり出会った時感じたように彼女には他人を癒す様な不思議な力がある。それは一体なんなのか今はまだハッキリと分からないが……。

 彼女固有のスキルに見合うような、なんとも温かいそれが確かに存在すると思った。

10 蓮花の力、了。

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【 騙された人は負けです 】

「今日中に君を騙してあげるから覚悟しておいてよ」

 恋人が言う。

 今日はエープリルフール。ウソをついてもいい日だ。いや、むしろウソをつかなくてはならない日だ。もちろん僕らも例外じゃなく恋人がウソをつく宣言をしてきやがった。始めにウソをつくと宣言されて騙されるヤツがいるもんか。

 少なくとも僕はそんなに間抜けじゃない。

「実はね。ずっと黙ってたけど私は十二歳なのです。あはっ」

 彼女がジャブってきた。

「そんなわけないだろう。ババアが。どうみても中学生には見えん。というか働いてんじゃん。日本の法律では十五歳以下は働けないの。オッケー?」

 軽く見破り答える。

 このレベルで騙されるようじゃたかがしれている。頼むよ。もっと高尚なウソをついてくれよ。次のウソはなににしようか悩んでいる彼女を見つめる。彼女の目はキラキラと輝いていて今日という日を楽しんでいるようだ。

 と唐突に……。

「なにか隠してる事あるでしょ?」

「ハア?」

 いきなりなんだ。尋問か?

「怒らないから言っちゃいなよ。絶対に怒らないからさ」

 分った。そういう事か。

 これは彼女なりの高尚なウソ。簡単にいうとこういう事だ。今、僕がなにかを彼女に告白したら怒り出すつもりなんだ。つまり怒らないからというウソに引っかけようとしているわけだ。甘いな。僕は騙されないぞ。

「なんにも隠してないよ」

 サラッと答える。

「むう。なんで騙されないかな。もしかして、私ってウソをつくのが下手?」

 彼女が頬を膨らます。

 いや、きっと下手とか上手いとかじゃないよ。ウソをつくと宣言されてウソに騙されるヤツはいないって事。ウソってのは予想外の瞬間に想定外の言葉が投げかけられるから騙されるんだよ。つまりウソをつくと宣言された今日中には騙されないよ。だってウソがくるって分ってるんだもん。

 …――このあとも彼女なりの様々なウソを見破り、今日が終わろうとしていた。

「ハア。結局、君を騙せなかったか。もう今日も終わるね」

 彼女が肩を落し言う。

「うん。あと五分で終わるね」

 僕は時計を確認して落ち込んでいる彼女を見つめる。

 今日一日、色んなウソを考えてあの手この手で騙そうとした彼女の表情は暗かった。彼女の考え出したウソに全然騙される気配がないからもうウソをつくのにうんざりしているようだ。もうウソをつく気力はない。そう思った。

「……ハア。今日も終わりか。残念」

 ため息を吐く彼女。

「三、二、一。よし。エイプリルフール終了ッ! 騙されなかったよ」

 僕はガッツ・ポーズをして彼女に宣言する。

「はい。騙されたッ!」

「へっ?」

「はいはい。エイプリルフールはあと一時間あります。時計を一時間進めておいたのだ。今までついたウソは全部時計を進めたのを悟られない為の適当なバレるようなウソだったのだ。全然気づかなかったね。あははは。騙された」

 一時間進めていただと!?

 ウソってのは予想外の瞬間に想定外の言葉が投げかけられるから騙されるんだ。確かにまったく予想外のタイミングだったし、想定外のウソだった。偉そうに解説してしまった僕自身が心底恥ずかしくなった。

 彼女の方がウソというものを熟知しているなと思った。

「ていうのもウソです。本当は時計を一時間半進めてあるのだ。あははっ」

「マジかッ! マジでかッ!!」

「マジ」

 ク、クソがッ!

騙された人は負けです、了。

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四草めぐる

Author:四草めぐる
将来、月に移住したいと思う今日この頃。現実的には一歩、一歩、着実に。基本を大事に。

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