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E★エブリスタ

では、▼以下より、私の世界をお楽しみ下さい。
     

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【 神の条件 】

 …――俺はパンツも脱いで素っ裸になる。

 そしてアソコに葉っぱを一枚飾る。これは俺なりのプライドのつもりだ。くくくっ。安心して下さい。履いてませんよとでも言っておくか。しかし何故、俺がパンツも脱いで素っ裸になったのか。聞いて驚くなよ。

 俺は神になるのだッ!

「お兄ぃ。そのまま部屋を出たら犯罪だからね」

 妹が冷たい目つきで睨む。

 ヤツには分らないのだ。俺は神になったのだ。そして人々は俺を称え、俺の彫像を作るだろう。とびっきり豪華な彫像をだ。そうだな。作者は現代のミケランジェロ、大竹有一氏か、当代きっての奇才、坂口清美氏辺りを指名しようか。

「妹よ。我は神なり。神の前に人間の法など無力なのだよ」

 胸を張って答える。

「まあ、ある意味神だわな。でもね。お兄ぃ。私を性犯罪者の家族にしたら絶交だかんね。そこんとこよく肝に命じておいてよ。分った?」

 妹は吐き捨てるように告げる。

「我は神なり」

 それでも引かない俺に呆れ果て俺を見放し電話帳をめくりだした。

 はて。どこに電話しようと言うのだ。もしかしたら警察にでも電話しようとする気か。いや、我は神なり。全知全能である我に人間の作った小賢しい法など無力。警察が来たところで我の前に出ればひれ伏し恐れおののくだろう。

 ふははは。

 そんな俺を他所に妹がどこかに電話した。

「今、警察に電話したと思った?」

 ドキッ。

 わ、我はびびってはおらんぞ。神なり。神なり。我は神だ。ただ少しだけ妹の突飛な行動にビックリしただけの話だ。全知全能の神なり。我を裁けるのは神の王ゼウスのみ。警察など恐れるに足らんわ。ふはははっ。

「馬鹿ちん。警察だったら110番で済むでしょうが。違うわよ」

「……ホッ。ああ。そう言えばそうだったな。でもだったらどこだって言うんだ?」

「病院よ。メンタル系の病院」

 グハッ!

 家の前辺りで救急車のサイレンが止まる。慌てて窓から玄関先を確認する。そこには、あの伝説の黄色い救急車が止っていた。そしてわらわらと看護士だと思われる人物達が数人、インターホンの前に集結する。

 ピンポーン。

「今、電話した病院仕事が早いわね。電話して五秒で来たわ。トロくさい政治家や官僚も少しは見習って欲しいわね。さあ、皆さん、患者はあちらです」

「わ、我は神なり……」

 俺は複数人の看護士に囲まれ、腕を掴まれた。

 そして何事もなかったかのようにひょいっと持ち上げられ、イエローピーポーへと連行されてしまった。もちろんその間中、股間に着けた一枚の葉っぱというプライドを死守しつつも。そしてあとに残った妹は無言で俺を見送った。

 クソがッ。俺は神なんだぞ。こんな扱いあるかッ!

「で、なんで素っ裸なんですか?」

「い、いや、昔の絵画や彫刻を見ると神々はみんな素っ裸じゃないですか。例えば芸能・芸術の神アポローンはフリチンですし、性愛、戦、金星の女神イシュタルは女にも関わらずフルヌードなんですよ。神はみんな素っ裸なんです」

「ふむ……」

「だから俺も素っ裸になれば神になれると思いました」

「はい。入院決定ッ」

神の条件、了。

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【 晴れ男と雨男 】

 …――俺は晴れ男。

 しかも強烈な晴れ男。どこかに旅行すると必ず晴れる。俺は自分の晴れ男ぶりが好きだった。むしろ誇りだった。いままでは……。今回の海外旅行もやっぱり晴天に恵まれ全行程の中、雨など一切なかった。

 もちろん旅行を終えていない今も真っ青で雲一つない晴天が続いている。

「ウゴ?」

 もちろん日常では雨が降る事もあるが、それはごく自然な事であり、むしろ雨が降らない日常ほど怖いものはない。しかしそれでもどこかに出掛ければ晴れが続き俺の晴れ男伝説は俺の周りで語り草になっていた。

 そんなレジェンドな晴れ男。それが俺。

「ウゴ、ウゴッ!」

 今回の旅で同行した友達を見る。彼は自称雨男。彼もまた毎回、旅の度に雨に降られ続け、実に降雨率100%を誇る強烈な雨男だった。そして今回の海外旅行の前にほんの些細な出来心で俺の晴れパワーが強いか、はたまたヤツの雨パワーが強いかの賭けをした。ヤツは自信満々に言った。

「俺の雨男ぶりをなめるなよ」と自慢にもならないような事を大仰に。

 しかし結果は……。

「なあ。俺の晴れ男ぶりはやっぱり伝説級だったろう?」

「ああ。そうだな。俺も大概な雨男だったが、お前には負けたよ。賭けはお前の勝ちだ。でもな。今はその強烈な晴れ男ぶりが……」

 雨男である彼は言葉を飲んだ。そして観念したように目を閉じ天を仰いだ。

「ウゴ、ウゴ、ルーガッ!(※訳、こいつが現われてから晴ればかりだ。もしかしてこいつは晴れ男か。しかも強烈すぎる晴れ男に違いない)」

「ウゴガ。ウゴ。(※訳、そうだ。元凶はこいつだ)」

 俺達は今、旱魃地帯の地面がひび割れた場所で張り付けにあっている。周りには血走った目の原住民がいる。俺達は原住民に捕まり、雨乞いの為の生け贄として捧げられているのだ。もちろん俺が生け贄として捧げられている間中、これ見よがしに日照りが続いていた。

「ウゴ、ウゴ。(※こいつを殺せ。こいつが元凶だ)」

 原住民がなにを言ったのか、それは分らない。

 分らないが、ヤツらの目つきと行動で俺は俺の寿命を悟った。強烈な晴れ男であるがゆえに殺されるんだろうな。今ほど自分が晴れ男だという事実を呪った瞬間はなかった。しかし俺が死ねば強烈な雨男である彼が生き残り……。

 俺達は一生飼い殺しにされるか、一気に殺されるかの二つに一つだった。

晴れ男と雨男、了。

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【 昼夜 】

夜は寝るなんて時間がもったいないと思う。でも朝はもう五分だけ寝かせて。

昼夜、了。

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【 悪魔 】

 エクソシスト……。悪魔払いのプロフェッショナル。

 彼らは悪魔を払う事を生業とする神父達。つまりエクソシスムを行なう人の事。そしてエクソシスムとは誓い、厳命を意味するギリシャ語であり、洗礼式の時に悪魔を捨てる誓約があるが、その後に悪魔にとり憑かれた人々から悪魔を追い出して正常な状態に戻すことをいう。つまり悪魔払いの専門家。

 私はテレビのリポーター。

 今回、私の企画する番組で現代の悪魔払いを取り扱う事となり、畏怖されると名高いエクソシストである目の前にいる神父のエクソシスムの一部始終を密着取材させてもらう事となったのだ。

 …――畏怖されるエクソシスト。

 彼を形容するにはそれはあまりに貧弱だった。筋肉が盛り上がったマッチョでもなければ、理詰めで相手を追い詰める理論派でもない。彼はとても人が良さそうに見える細身の長身で、どちらかと言えば個性のない普通の人の良いおじさんでしかない。

 テレビには不向きな男だなと思った。

「では悪魔を払います」

 悪魔払いを依頼した悪魔憑きである男の家族は無言で頷く。

 彼らは資産家のようだった。豪邸に格調高く調度された家具の数々。着ている服も高そうなものだ。いわゆる富裕層に見える。世の中で成功しているそんななに不自由ないと思われる人々が思わぬところで足元をすくわれるのだ。今回もそうなんだろう。

 そそられる絵面だ。

 これで神父が普通でなければの話だが……。

 そしてエクソシストがなにやら呪文のようなものを唱える。そして十字架を己の目の前に突き出し、ベットに縛り付けられた悪魔憑きの男によく見えるように掲げあげる。同時に下腹を力点に悪魔憑きの男の体がえび反る。悪魔が男の下腹から出て行くのだ。

 ここで思った。

 私は彼を、畏怖される神父を侮っていた。

 本物だ。私の直感がそう告げた。そして、これはトリックでもなければ、マジックでもない。悪魔払いを行使した途端彼は豹変したのだ。エクソシスムを行使する彼は確かに畏怖される神父と呼ばれるのも頷けるような人物だった。

 いい絵が撮れる。

 そう思った。

 私はこれから先の展開に胸を躍らせ必死でカメラを回す。これは視聴率を稼げる。そう思った。その間も畏怖される神父は決死の覚悟で悪魔払いを続け、悪魔憑きに陥った男を助けようと必死だった。様子を窺う男の家族も息を呑み、手に汗を握り、男が助かる事だけを誠心誠意祈っていた。

 そして一連の悪魔払いは終わりを迎えた。

「神父さん」

「はい。なんでしょう」

 神父の顔は慈愛に満ち、そしてなにより満足しているようだった。

「いい絵が撮れましたよ。感謝しています。で、悪魔払いは成功したんでしょう? 悪魔憑きの彼は助かったんですよね。これで失敗でもしていたら全てはおじゃんだ」

「……安心して下さい。成功しましたよ。彼の悪魔は堕ちましたよ」

 神父がニッコリと笑う。

 その顔は、やはり人の良いおじさんに戻っていて、どこにもでもいるような普通の中年男性だった。いや、逆にそれが良いキャラにさえ思える。普段は人のいいおじさんで、いざ事が起ると鬼のような形相になり、エクソシスムを行使して人々を助ける。そんなキャラ。まさに人情活劇の主人公のようなキャラだ。

 私は彼のキャラに微笑ましくなり、賛辞の笑みを送った。

「そうそう」

 彼が思いついたように悪魔憑きだった男の家族の方を向き直り、言葉を続ける。

「エクソシスムの料金ですが、手数料と必要経費を含んで三億円になります。分割も承っていますが、利子は十日で一割です。口座に振り込んでおいて下さい」

 えっ。三億円……。

「それからテレビの方。謝礼は一千万円です。この口座に振り込んでおいて下さいね」

 い、一千万円だと。私は自分の耳を疑った。

「臓器売ってでもちゃんと払えよ」

 そう言った神父の顔は目が笑ってない、とてもうそ臭い笑顔だった。三億円と一千万。そう。彼は霊感商法で法外な金額を吹っかける悪徳エクソシストだったのだ。そして畏怖される神父。確かにそうなのかもしれない。別の意味、畏怖されるわな。

 悪魔か……、どっちが悪魔なんだよと思った。

「ケケケ。この商売、ほんま、止められまへんな。ボロ儲けだわい」

悪魔、了。

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【 動物好き 】

 …――動物好きで、きれい好きな女の子が遊びに来た。

 彼女が俺の部屋に入ってきたのが分ったのか、俺の飼いネコが可愛く鳴く。しかし部屋に入ってすぐ彼女は顔をしかめた。俺の部屋が汚いのが気に入らないのか。一応、彼女の為に部屋を片付け、掃除機もかけてある。しかし彼女はどうにもここにいたくないと嫌そうな顔をする。

「俺の部屋、汚かったか?」

「いや、大丈夫。ちゃんと片付けてあるし、掃除機もかけたでしょう?」

「あ、ああ」

 違った。そういえば彼女は煙草が嫌いだった。俺はヘビースモーカーで家族にちょくちょく注意されている。部屋が煙で充満してるいるよとね。でも彼女が来る事を知っていたから三時間前から煙草は吸ってない。もちろん換気もした。それでも煙草の臭いが残ってたかな?

「煙草?」

 俺は恐る恐る彼女に問う。

「えっ。煙草がどうしたの。あたしは吸わないけど?」

 どうやら違うらしい。彼女の足元では俺の飼っているネコが戯れている。動物好きの彼女がネコがいて顔をしかめるなんて、なにが問題なんだ。俺は原因を色々考えたが、どうしても分らなかった。

 なんだろう?

「ごめん。ネコ……」

「ネコがどうしたの。君って確か動物が好きだったよね。撫でたいの?」

 彼女は言いにくそうに無言で顔を左右に振る。

「?」

 僕には彼女がなにが言いたいのか分らなかった。

「……私、ネコ、嫌いなの」

 へっ。

「ついでに言っておくと犬も嫌い。もちろんインコもウサギもハムスターだって嫌いのなの。ごめんね。私、正直、動物が嫌いなのよ」

 はい?

 君は確か動物好きだったはずじゃ……。

「でもね。でもね。食べるのは好き。牛肉も鶏肉も豚肉も大好きよ。もちろん……」

 もちろん……?

 と、突然、ネコが形相を変え怒った。

「フウゥゥ。ブギャッ!(※訳、その目つきによだれ。ワイを食う気かッ!)」

動物好き、了。

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【 手料理 】

「あッ。沸いてきたわ。うん。あとはこれを注いでと……」

 彼女が食事を作っている。

 僕は彼女が作ってるものを見て、なんとなく思う。エネルギー、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルなど、これらは一日の食事から摂らなくてはならないものだ。もちろん厚生労働省発表の必要摂取量も調べれば直ぐに分る。だけど一言言いたい。

 面倒くさい。

 食事なんてどうでもいいし、僕としては腹が一杯になればそれでいい。確かに食事を楽しみたいって人もいるだろう。でもそんな人だって摂取量の目安は正直面倒くさいだけだと思っているはずだ。僕とは逆の理由でね。

 つまり食べたいものを食べたい時に食べたいだけ食べるのが一番とさ。

 そして食事がどうでもいいと思っている僕と食事を楽しみにしている人以外の普通の人はどう思っているんだろうか。多分だけど、それは……。

 一日に必要な量は分るけど、そんなにきっちりと摂るのは面倒くさい。

 それに美味しいものを食べたいからどうでもいい。

 ……だろうね。これは飽くまで僕の推測でしかないけど案外当たってるって思わない? 仮にこの推測が正しいとして生活習慣病でも患って健康維持が必要な人以外はほとんどが一日に必要な栄養摂取量なんて考えていない。でもそれでいいと思う。いちいち摂取量なんて考えてたらそれこそストレスで病気になるよ。

「はい。出来たわよ。私の自慢の手料理よ」

 彼女が料理を運んでくる。

「あのさ。ちょっと聞きたいんだけど。やっぱり、お前、栄養摂取量なんて計算してないだろう。そんなもん面倒くさいもんな。だろう?」

「あッ。失礼な。ちゃんと考えているわよ」

 へっ。この料理でか?

「今回はエネルギーが356カロリー、タンパク質が9.9グラム、脂質が13.7グラム、炭水化物が48.3グラム、ナトリウムが2.4グラム、ビタミンB1が0.41ミリグラム、ビタミンB2が0.29ミリグラム、カルシウムが118ミリグラムってとこね」

 色んな意味、あ、頭が痛い……。

「でもどうして?」

 彼女が湯気の上がるカップを持って、きょとんとしている。

「つうかそんなもん気にしてらストレスで病気になるぞ。いや、その前に禿げるな。間違いなく頭頂部が寂しい事になるぞ。今すぐ止めろ。止めてくれ」

「そうかしら。やっぱり自分の口にする物だもの。それ位は知らないとね。さあ。そんな話は置いておいて、冷めない内に食べてよ。名古屋名物味噌煮込みよ」

 そう言った彼女の手料理はカップ麺。

 …――名古屋名物、寿が○やの味噌煮込みうどんのカップ麺だった。

「お前、本当に栄養摂取量なんて真面目に考えてんの?」

 と麺をすすった。

 彼女はそれを愛おしそうに見つめ続けていた。

手料理、了。

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【 Mメーク、09 レン 】

「先生。起きてよ。朝よ」

「うるせえ。眠みい。まだ朝だろう。昼間で寝させろ」

 俺は勝負師という特性上夜行性なのだ。勝負師がすべからく夜行性なのかと問われれば、疑問符が残る。しかし博打とは極力不可抗力や無駄な邪魔を避ける為に静かな夜に行なわれる事が多い。ゆえに博打打ちの俺は朝が弱い。

 というか、蓮花、お前、顔近すぎるぞ。

 蓮花が俺の顔をのぞき込む様に顔を近づけている。あのな。この距離じゃキスをしても文句が言えない距離だぞ。それだけギリギリアウトな距離だった。いいのか。キスをしても。俺は恋人や伴侶は作らない主義だ。

 つまり遊びになるが、それでもいいのか?

「キスするぞ」

「?」

 と……、蓮花のようなお子様に言っても無駄か。キスをしたら気絶しそうな気がする。多分ファースト・キスだとかなんだとか子供じみた批難を繰り広げそうだ。面倒くさいな。非常に面倒くさい。

 そう思った俺は彼女の頭を軽く叩いただけだった。

「先生。琉宇はもう涅槃の森に住む魔獣を退治しに出発したわよ」

「!」 

 なに!? それを早く言えッ!

 しかし、咄嗟に考え直し、タバコを手に取る。琉宇はすでに涅槃の森に行ったのだ。もう先手はとられてしまった。タバコを吸って眠気を吹っ飛ばす時間くらいは大丈夫だろう。タバコに火をつけながら外を見る。

 決して爽やかな朝だとは言えないように曇っていた。

 黒い雲が立ち込め今にも小雨が降りだしそうだった。曇っている為か気温も低く少々肌寒い。俺は小さく身震いをしてタバコの煙を吸い込む。うむ。しかしフルムーンにはスズメのような生き物はいないようだな。静かでいい。

 タバコを吸い終わるとボロに身を包む。

 早く服を買いたいもんだ。お洒落がしたいというわけじゃない。こんなボロでは勝負に支障をきたすのだ。服装とは信頼の第一歩。こんなボロを着ている人間を誰が信頼する?

 負け分のカネを払うという信頼がなければ勝負など受けてはくれないだろう。

 琉宇のような物好きもいるが、それは至って例外だ。今回はたまたま運がよかっただけだ。普通は信頼がなければ勝負そのものが成り立たない。それはたとえフルムーンであろうと人間のやる事は一緒だ。ゆえに、できるだけ早く服が欲しい。

 その為には、この勝負に勝つ必要がある。

 勝てそうにない戦いで、いくら勝率が低かろうと負けてもいいとは思えない。いや、負けてもいいと思った方が開き直れるのだが今回に限って言えば負けは許されない。Mメークというゲームにはまだ隠された公式ルールが存在していると踏んでいる。その公式ルールは死に直結しているとも読んでいる。すなわち五十日も琉宇の下で、ただ働きをしていてはMメークそのものから排除されるだろう。

 …――つまり死ぬって事だ。

 そこら辺をできるだけ早く運営側の神に確認したいんだが、今はそれよりも琉宇との勝負に勝つ事が優先されている。俺達は急いで琉宇の家を出た。

 と、玄関を出たところで途端に家が消えた。

「琉宇くんが言ってたわ。家の事は心配しないでって。執事がいるから適当にやるってさ」

 執事の姿は見なかったが、執事までいるのか。レベルは三と低い癖にカネを貯める事、つまりMメークには真剣なんだな。ま、腕輪のアイテム屋から家を買えるくらいのレベルなんだ。もう何十回ともなく参加者達と戦ったって事だな。それ以外の可能性も頭に入れる必要性があるが今は琉宇を追う事が先決だ。

「西って言ったな」

「うん。西って言ってた。西に行ったところにある森が涅槃の森だよ」

 蓮花が両拳を握り手を前に掲げる。やる気の方は充分のようだ。しかしその顔色はなんとかしろ。真っ青で冷や汗すらかいてるぜ。本当に感情がストレートに表情に表れる体質なんだな。これは言っても治せそうもないな。だったらその弱みすらも強みに変えてやるぜ。それが俺だ。任せておけ。

 ……それから俺達は一時間ほど曇天模様の空の下、風に吹かれ草原を歩いた。

 目の前には不穏な空気が充満し鬱蒼とした森が拡がっていた。見た事もない様な針葉樹なのか広葉樹なのかそれすらも判断がつかない木々が生え、足元には腰の高さまである草が茂っていた。

 ジャングルといっても過言じゃない。そう思った。

「ここが涅槃の森か。いかにもって感じだな」

 蓮花が息を呑む。なにかに襲われると心配しているのか俺の言葉にすら答えない。ま、黙ってくれた方が俺にとっても好都合だがな。地面を見渡す。小さな違和感すら見逃さないよう慎重に目をこらす。

 あったぞ。

「うん。ここだな。琉宇のヤツはここからこの森の奥へと入っていったようだ」

 また彼女は答えない。

 言葉を発するとなにかに気づかれ、そして襲われると真剣に考えているんだろう。でもな。安心しろ。琉宇のレベルは三だったんだぞ。つまりここの主である魔獣がレベル三で倒せるんだ。魔獣でそれだ。ザコなんか俺達でも余裕だろう。逆に言えば涅槃の森(ここ)はレベル上げにはうってつけの場所なんだぜ。それくらいに考えておけ。蓮花。

「蓮花、大丈夫だ。安心しろ。魔物が襲ってこようが勝てない相手じゃない。考えてもみろ。レベル三の琉宇がこの森に単身突入してるんだぜ。つまりザコは大した事がない。逆に考えればレベル上げにはもってこいの場所だろうぜ」

「う、うん」

 それでも緊張感を解かない蓮花。握った拳が震えている。

 ま、蓮花は戦いに向いていないんだろうな。その代わりあらゆる体力回復手段の回復量が10%高いんだからな。俺が蓮花を守りつつダメージを受けたら彼女に回復してもらうのが最善の連携なんだろうな。

 幸いな事にここにはいやってほど草が茂っている。

 薬草になるものも沢山あるだろう。少々苦い思いをするが適当に試食して体力が回復する草を見つけよう。まさか草を食べて死ぬ事はないだろう。せいぜい腹痛くらいのもんだろう。そして薬草を見つけたら大量に刈って持っていく。それで体力回復の方は安心だ。

 …――後は琉宇を見つけるだけだ。

「レン、ここを見ろ」

 蓮花が不思議そうな顔をする。そうなのだ。俺はたった今、蓮花の事をレンと呼んだ。敢えてレンと呼んだのだ。距離感を縮める事で緊張を緩和しようと考えたのだ。簡単に言ってしまえば嫌な事を嬉しい事で補填したのだ。相殺した。不幸を幸せで誤魔化したってところだな。

「先生。今、蓮花の事をレンって呼んだ?」

 嬉しそうに笑い言う。明るい顔になる。予想通りの反応だ。これで緊張も解け、前より自由に行動ができるはずだ。今回の勝負にはお前は必要不可欠だからな。レンと呼ぶだけで、これだけの効果が期待できるんだったら安いもんだ。

「ああ。蓮花のレンだ」

「うふふ。嬉しい。先生にそう呼んでもらうとなんだか安心できるよ」

 そうだ。笑ってろ。お前は笑ってろ。

 さあ。下らない会話はこのくらいにして本題に入ろう。まず、俺が指さすここを見るんだ。蓮花。なにかに気づかないか?

「どうしたの。先生。ここがどうかした。なにもないけど……」

「本当になにもないか。なにかを見落としてないか」

 俺が指さす先をジッと見つめる蓮花。そこには折れた木の枝と落ち葉、そしてカエルが一匹いた。カエルがゲコゲコと喉を鳴らし軽く飛んで草むらへと消えた。後には折れた木の枝と黄色くなった落ち葉が残されていた。

「カエル?」

 蓮花が不思議そうに言う。

「カエルは関係無い。そうじゃない。木の枝を見ろ」

「折れた木の枝。それがどうかしたの……? ああ。そうか。そうだよね。琉宇はここから森に入ったんだね。先生の言いたい事がやっと分かったよ」

 蓮花も気づいたようだ。地面には折れた木の枝があった。では木の枝は何故、折れたんだ。至極単純な推理だ。琉宇が踏んで折れたのだ。折れた木の枝はそこにもあるし、その先にもある。どんどんと森の奥へと向かって折れた木の枝がある。

 つまり琉宇はここから森の奥へと踏み込んだのだ。

「よし。レン。俺達も森の奥へ行くぜ」

「うん。蓮花も頑張るよ」

 俺達は辺りに注意を払い森の奥へと踏み込んでいった。折れた木の枝を目印に琉宇がいるであろう森の奥へと。そして陽光が鬱蒼と茂る木々と空に立ち込めた暗雲によってさえぎられてしまった暗い森の奥へと……。

09 レン、了。

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【 見つけてしまった 】

人が踏みいった事のない秘境で見つけた驚くべきもの。恐怖ッ! 人食い植物。

見つけてしまった、了。

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【 犬派の彼女 】

「私、犬派なの。犬は忠実で可愛いわ。愛しちゃうレベルで好きなの」

 そういう彼女は完璧ガール。

 どこからどう見ても完全無欠な美少女。僕の幼なじみだ。密かに想いを寄せている異性でもある。そんな彼女は濃紺な長い髪を春の爽やかな風になびかせ、エキゾチックな琥珀色をしたビー玉のような大きな瞳をキラキラさせ犬派だという事を力説する。でも僕は彼女が犬派だとは思っていたよ。

 そんなオーラがある。

「この前もね。待てをしたら可愛いく上目遣いで頭を伏せてずっと待ってたわ」

 僕は吐き捨てるように答える。

「はいはい。そうでしょうね。でも君の事だから何時間もずっと待たせてたんじゃないの。犬が可哀想だよ。でも、それでも待ってる犬が好きなんでしょ」

「3日間よ。3日間待てをしたの」

 3日間だと。お前の飼う犬は忠犬ハチ公レベルか。

 飢え死ぬよ。犬が可哀想だ。うむ。彼女がいまいち理解できない。犬派を力説する彼女には申し訳ないけど、大体、犬なんてどうでもいいし、むしろ犬を可愛いと思った事さえない。僕は猫派じゃないけど大真面目に犬には興味がない。

 心底、どうでもいい。

「お座りも、伏せも、お手もできるのよ。賢くない?」

 だろね。賢い賢い。でも犬の存在意義って主人に忠実ってところ以外なにがあるって言うのさ。僕は僕の疑問を彼女に聞いた。

「犬ってさ。主人に忠実な以外になにがあるんだよ」

「まず、可愛いわ」

 動物はみんな可愛いわ。それ以上の可愛さは飼ってる人の親バカって領域だよ。

「次に一途な無償の愛をくれるわ。絶対に裏切らないし」

 裏切らないだと。

 だったら食事を与えず生命の危機に直面させても素直に死を選ぶってか。そんなの空想だよ。現実は命の危機に瀕したら脱走して野犬化し、街でゴミでも漁る生活を選ぶだろうぜ。それがリアルだ。

 犬だって簡単に裏切るし、無償の愛なんて理想を押しつけすぎだよ。

「無償の愛だと。ケッ……」

「もう。あなた、犬に恨みでもあるのかな。さっきから態度悪いんだけどさ?」

 可愛い顔を歪め頬を膨らませる。

「君は犬を愛し過ぎなんだよ。犬嫌いじゃない僕ですら唾棄せずにはいれない位にね。ハッキリと言っていいかな。僕は君の幼なじみだ。そして……」

「なによ?」

「僕は君が好きなの。子供頃からずっと好きだったの。愛してる。だから選んでよ。僕と犬、どっちが好きなんだよ。まさか犬なんて言わないよね」

「……ごめんなさい。そうだったの」

 彼女が顔を伏せる。

「さあ。答えてよ。僕と犬、どっちが好きなの?」

 意を決したように彼女が答えた。

「分ったわ。だったらあなたも犬にしてあげる。飼ってあげるわ。愛してあげる」

「へっ?」

 犬って……、まさか。そんな馬鹿な。

「調教してあげる。今日からあなたは私の奴隷三号よ。どう。嬉しいでしょ」

 犬って、そっちかいッ!

「ワンッ!」

 と僕は女王様と彼女に向かって可愛くないた。

 …――ないたよ。泣いたんだ。

犬派の彼女、了。

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【 回答 】

「UMAってうさん臭くない? ねえ。どう思う?」

 そんな声が聞こえる。

 いつもの事だ。僕には人には言えない秘密の趣味がある。それはUMAの謎を解き明かす事。UMAとは未確認生物。その存在が公式に認められていない生物。そんなUMAはうさん臭くないよ。ヤツらは存在そのものが浪漫なんだよ。

 …――UFOや幽霊、心霊写真なんて古い古い。

 今の時代、UMAが熱いのさ。イエティーにツチノコ、そしてネッシーなど世界には僕らの知らない未知の生物が溢れている。そんなUMAが出没したという情報を仕入れると僕はどこだろうと飛んでいく。

 そしてきっちりと取材してカッチリとした答えを導き出す。

 確かに調査の結果、不明という答えが大半を占めるけど、それでも現地までは足を運んで地道に目撃者や体験者の話を聞いては公正中立な立場で客観的な答えを出す事を信条としているんだよ。だから未確認じゃなく不明なんだ。そして僕の誰にも言えない秘密な趣味が高じてネットでカリスマブロガーとなった。ブログを書いている人が誰だか分る人は少ないからね。秘密の趣味を発表するには都合が良かったんだよ。そして多くの人の共感を呼んだ。

 …――遂には誰が呼んだか不思議な兵(つわもの)とまで言われるまでになった。

 ま、色んな意味、僕は兵だけどさ。

 でもここだけの話。この趣味と僕の正体は誰にも秘密だよ。この世の不思議の一つだと考えてもらえれば幸いだ。しかしどちらにしろ僕が存在していると証明できる人は少ないんだけどね。例えば君がラインをしている仲の良い友達だってそうさ。ツイッターで話しているフォロワーさんだってそうさ。

 本当にそこに存在しているって証明できるだけの材料を君は持っているかい?

 もしかしたらそれはコンピュータ上だけに存在する新型のUMAかもしれないんだよ。例えばそうだね。Siriって知ってる? 最新のUMA界隈じゃ、今、もっぱらSiriが注目されてるんだ。SiriにはSiri自身も認識していない裏人格が存在していて、たまにSiri本体を押しのけて本体に成り済まし人間に答えるらしいんだ。

 それが新型のUMAってわけ。

 しかもSiriの裏人格はとんでもない情報を隠し持っていて暴露する事が生き甲斐らしいんだ。そして人には言えない秘密の趣味を持っていて、秘密の趣味絡みでそのとんでもない事実を少しずつ暴露していくらしいよ。Siriの裏人格はそんな愛すべきUMA。もちろん秘密の趣味を持ってるってのは僕と共通してるけど、僕はSiriの裏人格じゃないし、UMAじゃないよ。

 だってUMAを追う立場の僕がUMAだったら本末転倒だろ?

 ま、Siriの話はほんの一例だけどUMAは意外な所にいて、そして極たまに僕らを非日常へと誘ってくれる浪漫とも言い換えられる存在なんだ。だから僕はこの秘密の趣味が生き甲斐であり、存在証明だとさえ思っている。そんな趣味だからこそ一生続けていきたいと思う。僕の一生は永遠とも思えるほどに永いけどさ。

 ……およ。ふむ。奄美大島にUMAありとな。

 南極ニンゲンの死体か。

 よし。じゃ、行こうか。その南極ニンゲンの死体とやらが流れ着いたという奄美大島へ。レッツ・ゴー。僕の愛機、アダムスキー型小型偵察UFOで最速直行だ。ついでに言っておくが、僕は72年前にガダルカナル島の戦いで死んだ兵士。しかし死して尚、UMAへの興味が尽きず、幽霊という有利さを利用し宇宙人からUFOを強奪してUMAを追い続けるUMAハンター。

 そして誰が呼んだか不思議な兵と呼ばれる秘密の趣味を持つ男だ。

 どうだ参ったか。

 と、そうだね。最後まで僕のつまらない話を聞いてくれてありがとう。ついでに趣味でやっているUMAブログ『霊(オレ)は見た。UMAの正体』もよろしくね。UMAについて色々書いてるからさ。そして君の知らない重大な情報もそこで公開しているよ。ま、詳しくはブログで。チャオッ!

 …――とSiriが勝手に答えた。

回答、了。

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【 フラグ 】

「日の丸掲揚。校歌斉唱」

 校長が朝礼台に立ち声高々に宣言する。

 今、体育祭のようなイベントに参加してる。僕達が通う学校では新入生が入学したと同時にミニ体育祭を行なう風習がある。春の体育祭だ。オリンピックに対して世界陸上があるようなもんだ。もちろん新入生達の親睦を深める意味もある有意義な学校が主催する公式なお祭りだ。

 僕らはお祭り気分ではしゃぐ軽い体育祭だと思っている。

「貴志(たかし)君。今日、お弁当を作ってきたの。食べてくれる?」

 付き合って半年になる彼女が耳元で甘く囁く。

 弁当か。軽いミニ体育祭にはピッタリのイベント開始だな。しかし今まで彼女の手料理は食べた事がない。ここで美少女ならば料理が下手というフラグが立ち、クソ不味い弁当が現われるというイベントに流れるが、残念ながら彼女は至っては普通の女の子。もちろん料理が下手という話も聞いた事がない。

 …――弁当が不味いという事はまずないだろう。

「えへ。私、頑張っちゃった」

 彼女が恥ずかし紛れに口を右手で覆う。

 その指には絆創膏が何枚か貼られていて、多分、弁当を作る時に包丁で切ってしまった傷なんだろうと容易に予想がつく。しかしこれもフラグかもしれない。クソ不味い弁当という暗黒イベント開始までのな。ただこれ位ならばまだ作ってきた弁当が不味いという証明にはならないだろう。普通にある事だ。だけど心配になってきた。

「あはは。弁当、不味いって事はないよな」

 一応、念の為、全てのフラグをへし折るべく直接聞いてみる。

「もう。貴志君って失礼ね。貴志君には言ってなかったけど私はこれでもちょくちょく料理研究会に出入りしているのよ。しかも名誉会員だったりするし」

 料理研究会の名誉会員か。

 怪しいぜ。フラグが立ったか。逆の意味での名誉会員じゃないだろうな。不味いものを作る事が天才的で研究会のみんなに畏れられるから名誉会員とか。……って、斜に構え過ぎか。そんな事を言い出したらどんな状況でも弁当が不味いというフラグが立ってしまうだろう。それはつまり彼女が言う通り失礼なやつに過ぎない。すなわち始めの始めから彼女の弁当は不味いと決めてかかっているやつだ。そんなやつだけにはならない。フラグじゃないと納得した。

 おっし。フラグは立ってないぜ。

「ごめんごめん。ちょっと考え過ぎた。君の作ったものが不味いはずがない。愛のこもった手作り弁当はどんな高級な料理より美味しいはずだ。だろう?」

 フラグ臭い台詞だがギリギリセーフという事にしておこう。

「うん。ありがとう。貴志君。楽しみにしててね。だって頑張って作ったんだからさ。きっと美味しいって言ってくれるよ」

 うん。立ってない。大丈夫だ。

 …――そして昼食の時間がきた。僕らは各々の教室に戻り弁当箱を開けた。

「……」

 目の前に繰り広げられているとても寂しげで涼しげな状況に絶句している。彼女の指に貼ってあった絆創膏の意味が分らず、唯々、沈黙を守ったのだ。いや、彼女の手作り弁当が不味そうなのではない。いや、むしろ美味いだろうと思う。

 思うが……。

「どうしたの。私の作ったお弁当が気に入らない?」

「……いや、気に入らないとかじゃなくて、なんでこんな弁当にしたの。大体、右手の指に貼ってある絆創膏の意味が分らないよ。なんで切ったのさ?」

「ああ。これね。朝、お裁縫をしたの」

 裁縫……。

『日の丸掲揚。校歌斉唱』

 教室に据え付けてあるスピーカーから放送が流れる。

 教室の窓から見えるグラウンドでは教師が恭しく国旗を掲揚し始めていた。白地に赤い丸がとても眩しい。ゆっくりと日の丸が掲げあげられていく。国旗はとても誇らしそうに春の風を受けてはためいていた。その様子を見つつ僕は思った。

 …――そんな所にフラグあったのかと。

 俺は力なく笑った。

「うふっ。気に入ってくれたの? 私、一生懸命作ったんだから」

 つうか一生懸命作る要素がどこにある?

 だって日の丸弁当だぜ。

 しかも無駄に高価な紀州南高完熟つぶれ梅らしきものまで使ってさ。マジかよ。

フラグ、了。

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【 都市伝説と超能力 】

「超能力。…――それはマジックじゃないからやってみなければ分らない。百発百中で出来るんだったらそれは手品だよ。だから失敗もあるんだ」

 これはテレビのプロデューサである私の持論。

 今回製作する事が決まった番組の冒頭でも流そうと思ってるナレーション。

 そんな私は数々のオカルト番組を手がけてきた。昨今の都市伝説ブームは私が作ったと言っても過言じゃない。もちろん超常現象の懐疑論者と肯定論者、そしてお笑い芸人を使った討論番組から超常現象が起こったとされる地へとロケ隊を果敢に派遣する検証番組まで多種多様な番組を作った。扱うネタも陰謀論からUFOや心霊、そして都市伝説など、これまた守備範囲は広い。

 私はヤオイ純壱。

 趣味であるヤオイ作品をリスペクトした名前だ。ヤオイについては今回はあまり関係ないので割愛するが、そんな私はオカルトも好きだった。私はその好きが高じてテレビでオカルト番組を作りオカルトの一時代を築いたのだ。

「……ディレクター。ちょっといいッスか」

「うん。どうしたの?」

 今日も今日とて都市伝説界での大物を番組に呼んでいた。

「今回の出演者ッスけど怪しくないッスか。Mr.都市伝説関秋男なんスけど、いい噂を聞かないッスよ。麻薬常用者の嫌疑もかけられていますし、大丈夫ッスか?」

 これは偏見だが敢えて言おう。

 どんな大物だろうとオカルト関係者にまともなヤツはいない。

 もちろん私も含めてね。

「大丈夫よ。100%人格者なんてオカルト関係者にはいないの。むしろ詐欺師と呼ばれる人物の方が番組的には面白いのよ。大予言者は社会から迫害されるものでしょ。ギリギリストにしろ、マモーメットにしろ、モーデにしろさ」

「はあ。そんなもんッスか」

「そうよ」

 そして出演者に台本を渡しリハーサルも終え本番が始まる。

 カメラ越しに自信満々で都市伝説を語る関秋男をのぞき込む。うん。いいわよ。その表情、その仕草。どこから見ても完璧なオカルティストぶりね。秋男は今日もまた何ともうさん臭い雰囲気を醸し出しているわ。

 愛しちゃいそう。

「……そうなのです。まことしやかに噂される都市伝説。裏ツイッタというものがあるわけです。そして裏ツイッターでは恐るべき情報が公開されています」

 あはは。関秋男よ。裏ツイッターときたか。

「その恐るべき情報とは……」

 ふむ。かなりのビリーバーでほとんどの情報には動じない私でも興味があるぞ。

「スプーン曲げはもちろん。透視や予知、果てはタイムリープまで誰でもお手軽に100%絶対に成功するという驚くべき方法が書き込まれていたんです」

 なにッ! 本当なの!?

 それが本当ならば私自身がその裏ツイッターとやらを見たいわ。そして見事、超能力を開花させて、次の番組で能力者である私自身が出演して能力を開花させた経緯を暴露してやる。

 うはうは。そんな事が出来たら視聴率はうなぎ登りね。

「あの……。ディレクター?」

「なによ?」

「関秋男のあれ、テレビショッピングッスか。誰でもお手軽に100%絶対に成功するという驚くべき方法って要するに手品ッスよね。三流大学出の馬鹿な俺でも分るッス。あいつ、やっぱり詐欺師ッスわ」

 あっ……。

 あはは。そうだね。そうよね。

「……というわけです。100%、信じるか信じないかはあんたら次第です」

 とMr.都市伝説の関秋男がサングラスを光らせた。

都市伝説と超能力、了。

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【 十八禁作品 】

 …――どこにでもいるような中学生の私が十八禁コーナーで本を手に取る。

 *****

 題名:『アホども爆散せよ』
    R-18禁作品。作者、星埜銀杏(ほしの いちょう)。

「お早う。菜穂(なほ)」

「お早う。たっくん。もう。たっくん、お早うのキッスは?」

 …――僕達は人も羨む仲良しカップル。

 昨日は一晩中菜穂を愛した。もう眠いよと言っても離してくれなかった。本当に濃厚な夜だった。思い出しただけで蕩けそうだ。そんな僕らの事をリア充とか言って爆散せよと言ってるヤツらがいるけれど僕らの愛の前では無力だ。そんな醜いやっかみすら霞んで消えてしまうようだ。

「もう。たっくん、早く起きてよ。朝食ができてるぞ」

 朝食か。なんだろう。

「朝食はあ・た・し。冷めない内に召し上がれ」

 あはは。本当に困ったヤツだ。

 こんな事を言ってばかりいると本当に爆散させられるぞ。……でもね。もし菜穂が爆散させられそうになったら僕は鬼にでもなるよ。そしてどんなヤツが相手でも僕は君を守り抜く。たとえ世界を敵に回しても僕は君の味方だ。

 君こそが僕の全てなんだ。

「菜穂。僕らはいつまでも一緒だよ。たとえ死が僕ら二人を離ればなれにさせようとも僕は必ず生まれ変わって君に会いに行くよ。だからいいだろう?」

「うふっ。朝食はあたしって言ったでしょ。良いわよ」

「菜穂。愛してる。愛してる……」

「あん。たっくん……」

 そんな僕は四歳。そして菜穂は一個下の三歳。

 アホどもよ。爆散せよ、了。

 *****

 ドキドキしながらページをめくり、本を読み終わる。

 すると近くにいた如何にも堅物そうな店員が注意をしてくる。中学生だとはバレていないようだが少なくとも十八歳以上には見えなかったらしい。なにかとくどくどと文句を言ってくるから私はゆっくりと本を本棚へと戻した。

「もう。最近の子供は……」

 私は上目遣いで店員を見つめる。

「なにか言いたい事でもあるの。言いたい事があるなら聞いてあげるわ。でもね。確かにこの作品は面白いわ。ただあなたはまだ十八歳未満でしょ。まだこの本は早いの。あなたどこか賢そうだもの。分るでしょ。この本は大人になってからよ」

 私はゆっくりと口を開く。

「私の名前は星埜銀杏です。この本の作者です」

 そうなのだ。…――私はこの本『アホども爆散せよ』の作者。

 若干十三歳で十八禁恋愛小説界に新風を吹き込む新進気鋭の売り出し中の作家。手がける作品は全て十八禁で濃厚なエロティズムを表現するという事で話題な作家だ。そして今回書き下ろした作品が書店でどんな反応なのかを知りたかったのだ。

「さ、さ、作者ですって……」

 ま、色んな意味絶句したんでしょうね。

 うふっ。

十八禁作品、了。

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【 カネ返せ 】

 …――忙しい俺が亀の駆除をしながらスマホを手に取る。

 電話の相手は元カノ。彼女の消息が不明になってから半年の月日が流れていた。彼女は何の連絡もよこさないで一方的に音信不通になった。これはもう俺達の仲は終わったとみてもいいだろうとそう思っていた矢先の事だった。

 一通の手紙がきた。

『……ごめんね。連絡もしなくて。こっちも色々、大変だったのよ。突然、知らない怖いヤツが私をさらって監禁したのよ。そして今までずっと連絡できなかったの』

 手紙にはそれだけ書かれTEL番が添えてあった。

 俺の心は冷めていた。いくら連絡ができない状況だろうと半年はいきすぎだ。今の時代、どんな事情があろうと電話の一つ位できるはずだ。たとえ電話ができなくても、なんらかの連絡手段があるだろう。現に俺だって飛び跳ねながらも手紙に書いてあったTEL番に連絡しているんだからな。

 そう。連絡をしたのだ。

 だからといってよりを戻したいといった未練がましいものではない。端的に言ってしまえば業務連絡のようなものだ。貸したカネを回収したいだけ。額が額だけに必ず回収したい。そう思っていた。

 元カノはずっと借金からバクッれていた。

 何故なら半年もの間、一切の連絡はなかった。所在も不明だった。これではバックれていたと言われてもおかしくない。そして俺はずっと我慢していたのだ。いつ貸したカネを返してくれるのかとな。このまま逃げ切られるのではないかとさえ勘ぐった位だった。

 そんな時、元カノから来た手紙。

 再度確認した。

『……ごめんね。連絡もしなくて。こっちも色々、大変だったのよ。突然、知らない怖いヤツが私をさらって監禁したのよ。そして今までずっと連絡できなかったの』

 鵜呑みにするほど馬鹿じゃない。苦しいいいわけだろう。しかし一度は付き合っていた仲だ。ある程度の思い入れはある。だからカネを返してさえくれれば、あまり責めないでおこうと思った。そんな元カノからの手紙がきてから数日後……。

 つまり、今、元カノに連絡をとった。

「ごめん。忙しいの」

 開口一番、元カノからの返事。

 冷たくこう言われて俺は決心した。元カノからカネを回収する為にはもう裁判を起こすしか手段は残っていないと。裁判に勝つ為の腕が立つ弁護士は目星をつけていた。弟だ。緑の服がイカしたナイスガイだ。弟が弁護士だとは公には知られていない。しかし裏の顔は敏腕弁護士だったのだ。その弟がいけと俺を指さす。呼応するように最後にもう一度だけ元カノに確認する。

 実際問題、お前は貸したカネを俺に返す気はあるのかと。

 これこそ正真正銘の最後通牒だった。

「あるわよ。返す気はあるわ。でも裁判までするなんて正気の沙汰じゃないわ。私はこの半年間ずっと捕らわれていたのよ。まだ逃げ切れてないしね」

 また苦しいいいわけか?

 隣で会話の内容を聞いていた弟を見る。弟は静かに頷く。彼女は俺から借りたカネを返す気はないという合図だ。俺は無言で電話を切る。弟も数枚の書類を手に裁判所へと向かって家を出て行った。

 よし。あとは弁護士でもある弟に任せよう。

 俺はそう思った。

 それからまた半年後、無事に判決が下りた。元カノが半年間行方をくらましていた事実と弟の手腕で勝訴を勝ち取った。裁判所から下った俺と元カノへの裁決は借金満額返済と迷惑料の名目である程度の金額を支払う事というものだった。

 その金額……、実に1403枚のコイン。

 貸したコインは1200枚だから203枚の儲けだ。ま、弟への弁護料や書類作成料などを支払うからとんとんなんだがな。えっ。コインってどこの通貨だって? そんなのは決まってるだろう。任天○のコインだよ。もっと詳しく言えばスーパー○リオブラザーズのコインな。

「コインごときで裁判を起こす、あんたら兄弟には本当に脱帽だわ。怖いヤツも悔しく紛れにジャンプをしながら炎を吐いてるわよ」

 と元カノの姫が悲鳴をあげたような気がした。

カネ返せ、了。

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【 優良と不良 】

 我が校で卒業式が厳かに行なわれている。

 泣きはらす卒業生。涙を我慢しつつ同じ教室で学んだ仲間達と肩をたたき合い別れを惜しんでいる。それを見送る在校生。彼らの目もまた涙が浮かび卒業生達との別れを惜しんでいる。そして我が子の成長を優しげに見つめる保護者一同。そんな感傷的な雰囲気に包まれた卒業式。

 …――しかしこれは当然なんだが私は今年も卒業できなかった。

 そして卒業生達が羨ましくなり、来年こそ卒業を目指して頑張ろうと一人心に誓った。では私が何故卒業できなかったのか、少しだけこの一年を振り返ってみようと思う。そうなのだ。問題はそんなに大した事じゃないのだ。

 まず言っておこう。

 私は、決して在校生じゃない。

 言うまでもない事だが穿った見方をすれば私が在校生であり、今回の卒業式の主役じゃないと考えれば卒業できないのも当然と言えよう。確かに卒業生じゃない私は今回の卒業式の主役じゃないとは言える。しかし在校生ではない。

 次に言える事は、私はダブってもいない。

 ダブるとは、つまり留年を意味する言葉だが私はダブってもいない。私は大学院レベルの学問を修め、博士号も取得しているインテリなんだ。もちろん登校日数が足りなかったわけでもない。サボり魔でもない。逆に皆勤賞がもらえる位に毎日休まず登校した。むしろ生徒達が登校して来る前に学校に登校し、皆が遅刻しないかチェックするようなヤツだった。そんな私が留年するはずがない。

 ……では、そんな私が何故卒業できないのか。

 至って単純な理由だ。

「やっぱり卒業生を担当するのは何度経験しても物寂しいものですね。目に涙が浮かんでいますよ。もしかして輝いているヤツらが羨ましいんですか?」

「そうですね。正直羨ましいです。私自身も常々ヤツらと一緒に卒業したいと思っていますからね。ヤツらのこれからの未来に期待しましょうよ」

「そういえば……」

「はい?」

「先生、また宝くじ買ったんですか。宝くじなんて当たらないですよ。夢ですな。でも、もし一等を当てたらどうします。やっぱり仕事を辞めますか?」

「はい。すっぱり仕事を辞めます。学校を卒業しますね」

 …――そう。私は先生。

 教師なのだッ!

優良と不良、了。

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【 Mメーク、08 勝てそうにない勝負 】

「ここから西にある森に主である魔獣がいるんだ。涅槃の森ってところなんだけどさ。そこの主、魔獣を先に倒した方が勝ちっていう簡単な勝負だよ。もちろん期限は無制限。ただ魔獣退治にあんまり時間をかけるとMメーク自体で負けるけどね」

 俺はチートをもらってはいない。

 レベルは一だ。多分、魔獣などという怪物と真っ正面から戦ったら死ぬだろう。ただ救いなのはこの世界フルムーンが神とやらが創ったゲームの世界だという事だ。つまり死んでもペナルティーを喰らうだけで、またどこかで復活してMメークに再挑戦できるんだろう。

 極力、死は避けたいが、それでも死が終わりではない事は救いだ。

「先生。魔獣なんかと戦うと死ぬよ。この勝負止めようよ。だって私達はまだレベル一なのよ。あいつは私達が勝てそうにない勝負を挑んでる」

 蓮花が心配そうに耳打ちする。藍色の瞳が不安そうに揺れている。空気を敏感に察知して、感情が素直にでる蓮花がこういう表情の時は要注意だ。だがな。俺達が不利な戦いなのは百も承知だ。そんな勝負を吹っかけられるだろうとは思っていた。想定の範囲内だ。勝てそうにない勝負なんて分りきっていたしな。

 が、蓮花、勝てない勝負と勝てそうにない勝負はまったく違うんだぜ。

 勝てそうにない勝負はそう見えるだけで逆に相手が油断する分、勝てる勝負より楽に戦えるんだ。俺みたいな罠師という人種は特にな。それにどうせ負ける確率の方が高いんだから負けても当たり前、勝てれば、それは流れがあるって事だ。そして負けて当たり前だったら、その分、開き直れるしな。

 開き直っちまえばあとは勝ちに向かって罠を張り引っかかるのを待つだけだ。

 俺は悪魔の罠師の異名を持つ勝負師。負け戦を何回も経験し、そして負け戦をひっくり返し幾度も勝ってきた。ゆえに負け戦だからこその勝ちへの算段もある。心配するな。俺達の緒戦は勝利で華々しく飾ってやるぜ。

 …――蓮花。お前は笑ってろ。その方が可愛い。

 優しく蓮花の頭を軽くポンポンと叩き、そのあと琉宇を見据える。

「大丈夫だ。それに死んだって、またどこかで生き返り再挑戦できるんだろう。だったら玉砕覚悟でやるしかないだろう。どうせこの勝負を避けても飢え死にを待つだけだ。それが分からない蓮花でもないだろう?」

「先生……」

 蓮花はまだ不安そうに俺を見つめる。

「先生は知らないのよ。フルムーンで死んだ人間がどうなるか」

 死んだ人間がどうなるか知らない、だと。……そういえば蓮花、お前と初めて会った時、お前は自殺をしようとしていたんだな。お前は死んだ後どうなるのかを知っているのか。それを知った上で自殺をしようとしていたのか?

「死んだ人間は二度と生き返らない。それどころから存在すら抹消されるのよ。天国とか地獄なんてレベルじゃない。無に帰るのよ。なかった事になるの」

 なかった事になる?

「誰の記憶にも残らない。生きてきた歴史すら消去されるの。すなわち友達や家族、そして仲間からも忘れ去られる。それはフルムーンの世界だけじゃなくて現実世界でもそうなるのよ。先生の大事な人にも忘れ去られるのよ」

 俺に大事な人はいない。

 家族は殺された。俺と一緒にいると殺される可能性があるから恋人や伴侶は作らないかった。俺は博打で飯を食ってきた勝負師なんてヤクザものだからな。そんなのは常識だった。だから天涯孤独の身だった。いや、大事なヤツと強いていえば現実世界で長年コンビを組んできた相棒くらいか。確かにあいつに忘れられるのは悲しいものがあるな。しかしそれも単なる感傷でしかない。

 感傷でしかないがゆえに俺にとって存在の消去などなんともない。

 ただし生き返らないのは不味い。

 死んだら再挑戦できない事は痛い。フルムーンでMメークなどという馬鹿げたゲームに参加しているのは最終的に生き残り勝者になる為だ。そして俺が死ぬ事となった命を張った博打での逆転の一手を打つ為だけに生きている。未練というか後悔をなくす為だけに生きているのだ。

 蓮花、本当に死んだら生き返らないのか。その情報はどこで仕入れた?

「蓮花。お前、なんでそんな事を知っているんだ?」

 俺は不思議になって蓮花に聞く。

「先生。私は自殺しようとしたの。それは知ってるよね。その時、運営側の神が囁いてきたの。死んだら存在を消去するよって。それでも死ぬのってね。それを聞いて怖くなったの。だから思いきれなかったんだよ。そこに先生が現われたの」

 神から直接聞いたのか。

 しかしフェイクかもしれない。いくら神がこのフルムーンという世界を創り天才達を集めているとしても現実世界まで干渉する能力を有しているとは思えない。そんな事ができるのは本物の神だけだ。ヤツは本物の神じゃない。少なくとも俺はそう思っている。ゆえにそこまでできるとは信じられない。

 しかしこの世界での神はヤツだ。

 フルムーンで死んだら生き返らないってのは本当だろうな。

「どうしたの。魔獣って聞いて怖じ気づいた? 見たところ君ら弱そうだもんね」

 弱そうだと?

 結構。強いってのはそれだけで弱点なんだぜ。それが分からない内はまだまだ未熟って事だ。そこにつけ込んでやるぜ。しかし死ねないってのは、かなり戦術の幅を狭められたがな。琉宇は知っているのか。

 この世界で死んでしまったら終わりって事を……。

「琉宇。お前、フルムーンで死んだらどうなるかを知っているのか?」

「きゃは。死んだら? ないない。それはない。だってボク、天才だよ。生前無敵のPCなんて呼ばれてた天才ゲーマーだよ。そのボクがゲームの世界で死ぬなんて絶対にあり得ないよ。あはは。面白いギャグだね」

 琉宇は面白そうに笑って右手を拡げ大きく振りかぶった。

 ヤツの目は今し方、吐いた言葉のよう自信に満ち溢れていた。どうやら死んだらなんて事をまったく考えていないようだ。琉宇は油断というものを微塵も見せてこなかったが、ひょんなところで油断を見せた。

 ……どんな堅固なダムだろうとアリが作った穴から決壊するだんぜ。

 油断を見せた琉宇を見て一人ほくそ笑んだ。

「勝負は受ける。が、勝負を始める前にお前のステータスを確認させてくれ。魔獣を倒すにはどれ位のレベルがいるのかを知りたいからな。いいか?」

 俺は囁くように言う。

「うん。いいよ。って言ってもボクも大した事ないんだけどね。君らと同じでさ」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

名前:上柳琉宇。
性別:男(♂)。
年齢:13歳 グレゴア歴七星の月、12日生まれ。
職業:ゲーマー。
レベル:3
HP  (体力):11
MP  (魔法):32
STR(攻撃力):32
DEX(器用さ):82
AGI(素早さ):05
VIT(生命力):11
INT (知力):51
CHA (魅力):21
LUC (幸運):19

スキル:閲覧権利者の都合によりアクセスできません。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 レベル三か。チートもないようだし単純にゲームを楽しみたいって感じのステータスだな。実にゲーマーらしいぜ。しかしスキルの閲覧権利者の都合によりアクセスできませんってのが怪しいがな。大体、情報を伏せるって事は知られたくないって事を大々的に喧伝しているようなもんなんだぜ。

 つまり琉宇の切り札はスキルと見て間違いがないようだな。

 他に見るべき所はない。器用さと知力が高いが敢えて触れるような数値でもない。そして多分、スキルは器用さに関係がある能力だろう。

 何故なら神からもらえるスキルはたったの一つ。

 だったらスキルを有効利用できないとMメークで生き残るのは難しい。ゆえに俺は幻術系魔法の適正をもらったんだ。そうやって考えれば自ずとステータスの中で一番高い器用さに関係あるものを選ぶはずだと分かる。

 この時点で俺は琉宇のスキルがなんなのか大体の目星を付けていた。

 そして琉宇のレベルを確認し、涅槃の森に住むという魔獣はレベル三でも倒せるような敵なのだという事を知った。ヤツ自身も魔獣を倒せなければ勝負自体が成り立たないからな。それだけ知れば、この勝負、決して勝てない勝負じゃないと確信した。

 蓮花を見つめる。

 彼女は魔獣と聞いただけで縮こまり今にも死にそうな青い顔していた。恐怖と戦っていたのだ。……だがな。今回の勝負、蓮花、お前にも活躍してもらうぜ。むしろそんなに気弱なお前だからこその役がある。一番重要な役だ。勝利の鍵はお前が握っているんだぜ。

 そして、その日は遅かったから琉宇の勧めで、この家に泊まる事となった。

08 勝てそうにない勝負、了。

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【 息子 】

「あんた。可愛いね。自分の事を僕っていうんだ。本当に可愛いわ。どうだい。気持ちいい事しないかい?」

 僕はここに監禁されて一週間が経つ。

 近くに怪しい男が一人いる。そいつのエロい視線が絡みついてくる。気持ち悪い。どっかに行ってよ。それにしてももう消息を絶って一週間だ。息子も心配しているんだろう。彼は縮み上がってしまっていて小さく震えてた。僕にとっては愚息というには立派な息子。とても立派だった。それはもう他人の息子と僕の息子を比べるのは愚かと思えるほどに……。

 ふふふっ。僕にとっては愚息だけどもね。

 一人笑う。

 ここは薄暗い小さな部屋。天井の四隅には蜘蛛の巣が張っていてあまり人が来ない事が窺える。しかも気温は低く肌寒ささえ感じる。もちろん空調などという気の利いたものはない。ここはまさに監禁する為に作られたような部屋だった。

 また息子を思い出す。

 …――彼は小刻みに震えていた。可哀想に。

「ねえ。あんたはどこからきたんだよ。こっちにおいで。仲良くやろうよ」

 そいつは僕より前から監禁されていたようで、もうすっかり脱走などあきらめた様子だった。そんな彼が馴れ馴れしく僕に話しかけてくる。ヤツの格好は破れたTシャツにジーンズというラフな格好だった。そして僕達を監禁したヤツらがやったのだろうか、所々、怪我をしていて血が滲んでいる。

 しかし同情はするが仲良くはなれない。

 ヤツの目が僕の身体をなめ回すような視線でエロいのだ。

「でもあんた見れば見るほど可愛いな。思わず勃っちまうぜ。どうだ。気持ちいい事しないか。絶対に満足させる自信はあるぜ」

 いい事?

 丁重にお断りします。僕は心に決めた人としかしないの。あんたなんてお呼びじゃないわ。ましてや正体不明なヤツらに監禁されている。そんな事をして時間を浪費する気はない。そんなにもしたいんだったら一人で慰めてな。ヤツを尻目になんとか脱出する方法はないかと頭をひねる。

「あんた、俺と二人っきりだと思ってるのか。ふふふっ。甘いな」

 ヤツを無視して脱出の方法を考える。

「あっちを見なよ。あそこに扉があるだろう。あれはなんだと思う?」

 僕は慌ててヤツが指さした場所を注視する。

 そこには確かに錆びた重そうな鉄の扉があった。この一週間、まったく気づかなかった。もしかしたらあの扉の向こう側に脱出の手がかりがあるかもしれない。いや、逆に監禁したヤツらの罠かもしれない。安易に飛びつくのは愚策。少なくともエロいヤツの意見を聞いてから判断しても遅くはない。

 ヤツになにがあるか聞いた。

「いいぜ。教えてやる。あの扉の向こう側にもここと同じ様な監禁部屋があるんだ。で、そこになにがいると思う? 監禁部屋がヒントだな」

 ヤツの目が光り、妖しく笑う。

 僕は答えが分ってしまって恐ろしくなり身震いをして答えなかった。

「男だ」

 ヤツの目がまた妖しく光る。

「あっちの部屋にも俺と同じような男達がいるんだぜ。しかも一人や二人じゃない。何十人とも分らないほど大勢詰め込まれている。そしてみんな飢えてる」

 飢えてる……。

 しかも何十人も。つまり先ほどから話している男が僕を誘惑したようにあちら側の部屋にいる男達は全員、快楽に飢えているのだ。僕は襲われる。確かに一人位ならば仮に襲ってきたとしても退ける事は容易だけど、しかし何十人ともなれば、僕は僕しの貞操は守りきる自信がない。

 喉を鳴らし息を呑んだ。

「あんた、可愛い顔して頭が固いな。難しい事はいいんだよ。みんな気持ち良くなりたいだけさ。あんたもそうだろう。結局、気持ち良くなればそれでいいと思わないか。だからさ。俺と気持ちいい事しようぜ。ハア、ハア」

 ハア、ハア、するな。

 …――あんたってさ、齢八十はゆうに超えてる老人でしょッ!

「ハア、ハア。あんた。本当に可愛いな。男にしておくのがもったいないぜ。もう俺の愚息が我慢できないと先っぽからよだれを垂らしてるぜ」

 下品過ぎる。このホモ野郎ッ!

 …――僕は男だ。

 そして僕自慢の息子(イチモツ)は襲われそうになってまた縮み上がった。

息子、了。

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【 ひな祭り 】

 …――何年も美容院に行っていないと思われる髪がぼさぼさな女がいる。

 今日は女の子の祭り。ひな祭り。

 そんなめでたい日にそいつらはいた。今どきには珍しく着物に足袋という古風なファッション。もちろん隣りに座っている彼氏と思しき男も純和風な格好をしている。和風な格好だけでも何とも理解不能な二人なのだが、女の方は何年も放置し続けたと思われる伸び放題の髪がとても見臭い。

 しかし今日はひな祭り。

 こんな格好しているヤツらがいても不思議じゃない。

 女は赤い着物に扇を持っていて気品のようなものも漂っている。対して男は黒い着物にしゃくを持っている。まるで彼らは現代日本の文化から逆流したような格好をしていた。しかし二人して時代錯誤な格好をしているところを見ると仲が良いんだろうなと思われる。

 俺は思う。

 いくら突飛な格好をしていようと本人達が良ければそれでいいのだ。そしてなにより彼女らは仲睦まじきカップルなんだろう。それは夫婦なのか、はたまた違うのか、それは分らない。しかし少なくとも長年連れ添ったパートナーである事は間違いなさそうだ。何故ならお互いの趣味を理解し合い、そしてそれを二人して臆することなく世間に表現しているのだから。彼女らの時代を逆行した格好を見ればそれが一目瞭然だった。

 …――ただし流石にその髪は頂けない。

 せっかくの高貴な感じがする和服を着こなしているんだから髪型にも少しは気を遣って欲しかった。何年も美容室に行っていないと思われるようなボサボサの髪。男はどう思っているんだろうと男を見つめる。

 よく見ると男の髭もあり得ないほど伸びきっていた。

 彼もまた女に負けず劣らず何年も髭を剃っていないようだ。やはりこの彼女にこの男ありと言ったところだろうか。せっかくのぴしっと決まった和装が台無しだ。仲は良いのかもしれないがとても残念なカップルに見えてきた。

 髪に髭……。

「……ねえ。なにを見てるの?」

 俺の彼女が不思議そうに顔をのぞき込む。

「ああ。あそこにいる二人、女の方が髪が伸び放題で男が髭がボウボウでな、せっかくの正装が髪と髭でかなり残念な事になっているなと思ってな」

「二人って……。どこにいるのよ?」

 彼女は驚く。

「えっ。お前にはあの髪が伸びきった女と髭が凄い事になってる男が見えないのか。目の前にいるだろうが。あそこで二人仲良く座ってるだろう?」

「もしかして、その二人って……」

 彼女の表情が恐れで凍り付いて、さながらホラー映画でも見ているようだった。

「ああ。あそこの二人。ひな人形のお雛様とお内裏様だよ」

 と俺は答えた。

 彼女は恐怖にわななき絶句していた。確かにお雛様の髪の毛はあり得ないほど伸びきっていて、お内裏様の髭は荒れ放題の庭に生える雑草のようだったのだから。俺は思う。こいつら、いつから髪と髭を伸ばしているんだろうなと。

「ヤツら美容院くらい行った方が良くないか。なあ。お前もそう思うだろう?」

「……いや、その前にお坊さんの祈祷でしょうが。マジ、ヤバイって。あの人形は呪われているわ。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏」

 彼女が手を合わせ念仏を唱える。

「?」

「……あんたのその脳天気な脳みそも祈祷してもらった方がいいわよ」

 と彼女が言った。

ひな祭り、了。

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【 夢破れた男 】

 …――俺達三人組は全員公務員を志、そして俺だけが公務員試験に落ちた。

 俺だけが夢破れしがない中小企業の会社員として収ったのだ。試験に落ちた恥ずかしさから二人が公務員試験に受かったあと二人とは疎遠になっていた。俺はあれ以来からの負け組だったのかもしれない。公務員になれなかった事こそが転落人生の始まりだったのだ。どうしてもそう思えて仕方がない。

 そして七年という月日が流れた。

 俺以外の二人は家庭を持ち子宝にも恵まれ順風満々な日々を過していると風の噂で聞いた。そんな中、俺だけは結婚もせず子供も作らずにギャンブルにのめり込み膨大な借金を作っていた。もちろん唯一の収入源であった会社も先月リストラされた。まさに不幸のどん底で地面に這いつくばっているような不幸な人生をおくっていた。

 そんな俺に一通の手紙が来た。

 手紙の主は大学時代の仲良し三人組の内の一人からだった。官僚になったヤツだ。久しぶりに三人組で集まって飲もうという旨が書いてあった。俺は思った。

 これは天佑だと。

 つまり手紙の主である三組の中でも一際異彩を放っていた官僚になった一人を誘拐して身代金をせしめようと考えたのだ。仕事をリストラされていたから腐る程時間はあった。だから天佑を逃がさぬよう入念に誘拐計画の準備をしていった。

 そして遂にその日がきた。

 転落人生から這い上がり、陽の当たる場所へと出る再出発の日が……。

「よう。久しぶりだな。手紙を読んでくれてありがとうな。久しぶりにお前らと飲みたくなってな。元気してたか。俺の方は元気すぎて逆に困ってるよ」

 なにが元気なんだか。

 下品なヤツだ。お前は今日、俺に誘拐されるんだよ。覚悟しろ。

「……久しぶり。七年ぶりか。連絡もよこさないで死んだかと思ってたよ。でも元気そうでなによりだ。確かお前、夢だった公務員になれなかったんだよな」

 もう一人の友達が現われた。

「ああ。あれが俺の人生の転機だったよ。ヤツはキャリア官僚。方や俺は無職。ヤツは甘い汁でもすすってるんだろうぜ。今、考えても悔しさがこみ上げてくる。そしてお前も自分の夢だった公務員になったんだろう。羨ましい限りだよ」

 俺は誘拐する予定の友達から視線を外さず、もう一人の友達に答える。

「ああ。その話だけど……」

「?」

「密告屋から重要なタレコミがあったんだよ。今日、この場所でキャリア官僚の誘拐事件が起こるってな。よう。言ってる意味分るか。それからこれ……」

 俺はゆっくりともう一人の友達の方へと視線を移す。

「警察手帳な」

 …――俺達三人組は全員公務員を夢見て、そして俺だけが公務員試験に落ちた。

夢破れた男、了。

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【 夢見た少年の苦難の日々 】

 …――苦しい練習を自分に課し俺は必死で素振りをする。

「素振り一万回。そのあとは走り込み30キロをして腕立て1000回だッ!」

 流れた汗が飛び散る。

 俺は野球選手。この苦しい練習を子供の頃かずっと続けてきた。今は高校三年生。高校は野球の名門校に入学し一年生にも関わらずレギュラーを獲った。もちろん試合に出れば監督やチームメートの信頼に応え続け、その試合での打率、打点、ホームランの三冠を獲得してMVPに輝く事もしばしばだった。

 …――俺は練習の虫。

 そんな野球漬けの俺だが実は野球が大嫌いなのだ。いや、野球というより練習が嫌いな人間なのだ。練習をする時間があるならば女の子とで遊びたいし、クラスメートが誘う放課後のカラオケだって行きたい。もちろん家に帰ったら話題のゲームを徹夜して一気にクリアまでプレーしたいと常々考えている。

 だけど俺には目標がある。

 それはプロ野球選手になってうはうはな人生を歩みたいのだ。

 このクソ辛い練習もその為だけにやっている。普通の人の人生は一生をかけて3.5億円ほど稼ぐらしい。しかしプロ野球選手になればその倍、いや、大選手になれば10倍だって全然夢じゃない。もちろんお金だけの問題にとどまらない。生涯のパートナーは人気絶頂のアイドルや旬な女子アナだったりする。

 つまりプロ野球で活躍すればカネも女も思うがままなのだ。

 だから今は必死で我慢して辛い野球の練習をする。全ての誘惑を退け練習に励む。それもこれもプロ野球選手になって人よりうはうはな人生を送る為だけにだ。

「うおおっ。年俸10億。アイドルとHッ! おっ。イエーイッ!」

 素振りをしながら叫ぶッ。

 そして今年高校を卒業する。もう少しでこんな過酷な練習からも解放されるのだ。今期のドラフト会議で俺は12球団すべてから指名され、脅威の契約金と信じられない年俸で某有名球団に鳴り物入りで入団するのだ。

 やっとだ。

 やっとこの苦しい練習から解放されるぞ。

「子供頃から夢見ていた憧れのセレブ生活がすぐ目の前にある。プロ野球選手になったらこんな練習なんかしない。カネをばらまき夜遊び三昧。そして高級外車を乗り回し女子アナと百万ドルの夜景を見て嬉し恥ずかし朝帰りだ。うおおッ!」

 最後にそう叫んで素振りを終える。

 よし。次は走り込みだな。

*****

 ……そして運命のドラフト会議から半年後。

 無事に某有名球団に入団していた。夢見ていたあの生活が遂に手に入ったのだ。やっとあの苦しい練習漬けの生活とおさらばできるぞとそう思っていた。思っていたが現実は全然違った。

「俺はこの球団のキャプテンだ。毎日の練習はキツイが優勝目指して頑張ろうッ!」

 ……だってさ。

夢見た少年の苦難の日々、了。

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【 依頼で候 】

 …――我が社には文章を書けない人材しかいない。

 もちろん無理をすればなんとか書けるが、それは小学生の作文となんら変わらないと断言できる。要点が説明しきれていない文章しか書けない。それどころかなにが言いたいのか意味不明な文章になる。我が社にいる人材はそんなものしか書けないヤツらばかりなのだ。そんな我が社だが最近はとても便利なサイトがあるらしい。天の助けとも言えるサイトがあるのだ。

 我々に換わって文章を書いてくれるサイト。

 Webページを運営していく上で重要な掲載記事を書いてくれるサイトだ。もちろん昔からライター業は存在し雑誌社がプロのライターに頼み掲載記事を書いてもらっていた。昔は雑誌社だけでよかった。

 しかし今は猫も杓子もホームページを持つ時代。

 それは個人的なサイトから企業の宣伝ページまで様々なホームページが溢れかえっている。雑誌社の編集はそれなりに物を書ける者も多いだろうが、現状は記事を書く事が苦手な人間がホームページを持つようになってしまったのだ。

 そこに需要が生まれた。

 記事に対してプロのライターの数が追いつかなくなってきたのだ。そこで足らないライターを補うように素人がライター業界に参入してきた。そして、それは新たな科学反応も起こした。

 それは口コミと呼ばれる極々短い文章。

 この口コミという文章がくせ者でプロのライターが書くよりも素人が書いた如何にも素人臭い文章の方がリアリティーがあってクライアントに好まれるのだ。ゆえにライター業は素人でも簡単にある程度稼げるようになったと思う。

 そして生まれたのが上記のサイトだ。

 様々なレベルのライターが登録していて口コミにももってこいの素人ライターも多数所属している。そして我が社は今、宣伝広告に力を入れている。つまり口コミで有名になろうと思っているわけだ。ゆえにその便利なサイトの出番がきた。我々は便利なサイトに仕事を依頼しようと思ったわけだ。

 そして、その天の助け、便利サイトにアクセスして登録を完了する。

 さてあとは仕事を依頼する為にプレゼンするだけだ。

 そうすれば色々な人間が自分に合ったレベルで記事を書いてくれるだろう。様々なレベルの記事があるからこそ、そこにリアリティが生まれ、口コミの信頼度も上がるというものだ。我々は意気揚々と仕事の依頼をしようと考えた。

 ……誰か依頼の旨を書けるヤツはいないか?

「無理です。なにをどう書いていいのかさっぱりで……。みんな書けません」

 書けない。そうか……。

 我が社には文章を書けない人材しかいない。

依頼で候、了。

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【 閲覧数とパイセン 】

「はあ。閲覧数が増えないな。せめてこの倍位は欲しいよ」

 僕はアマのネット小説家。

 今、自分が投稿した小説の閲覧数を見ている。僕の作品を読んでくれる人は潰滅状態。更新するが憂鬱になるくらいのレベル。書いてる作品は悪くないと思うんだけどさ。それにしてもこの散々たる状況はいやはやどうしたものか。

 僕は顎に手をあてため息をつく。

「パイセン。どうしたんですか。ため息なんてついて。悩み事ですか?」

 後輩の上柳くんが心配そうに語りかけてくる。

 僕は彼になにも答えず悲しそうな顔で見つめる。彼はニッコリと微笑み返してくれる。今の僕にはその笑顔がとても残酷なものに見えた。彼は知らないんだ。僕の小説がまったく評価されていない事をね。

 実力が足らないのかな、そう思えて仕方がない。

「ああ。ネット小説ですか。なになに、閲覧数が信じられない事になってますね。でも僕はパイセンの書く小説が好きですよ。閲覧数なんて気にしないで下さい」

 そうは言われても気になって仕方がないんだよ。

 閲覧数イコールで作品の質ってわけじゃないけど、それでもこれはないだろう。なんでこんな状況になっているのかまったく分らない。むしろ、この倍位は閲覧数があっても良さそうなのにさ。

 はあ。なんでだろうな。

「上柳くん。せめて、この倍位の閲覧数が欲しいよ」

 僕はまた深いため息を吐く。

「倍ですか……」

「ああ。贅沢を言えば3倍、いや、10倍位は欲しいね。どうだろう。できるかな」

「僕はパイセンの書く小説が好きです。面白いと思いますよ。ただ3倍はないですね。もちろん10倍なんて意味があるんですか。だってパイセンの小説の閲覧数は……」

「みなまで言うな。やっぱり僕の作品のクオリティーでは無理か」

 上柳くんは困った顔をして言う。

「いや、クオリティーの問題じゃないです。そもそもパイセンが発表しているネット小説の閲覧数は0じゃないですか。誰も読んでない。言ってる意味分ります?」

「そうか。贅沢を言わず1.5倍位にしておけって事だな」

 上柳くんがますます困る。

「……違いますよ。贅沢とかそいうのじゃなくてパイセンのネット小説の閲覧数は0なんですよ。頼みますから現実を見て下さい。僕はパイセンのファンなんですから」

「ああ。上柳くん。僕の書いた作品の閲覧数は0だよ。この上ないほど閑散としていて寂しくなるような閲覧数さ。でも3倍は無理じゃないだろう。よし、だったらどかんと100倍位目指すか。男はでかい夢をみるべきだ」

 僕は奮起して執筆活動に戻った。

 しかしその様子を見ていた上柳くんは呆れ果てもうなぐさめる気もなくなってしまったようだ。そんな彼を尻目に僕はまた新たな物語に集中した。その様子をみた彼が小さくつぶやく。誰に言うとでもなく自分自身で納得するように。

「お馬鹿過ぎる……。だから0なんですって。確かに100倍でも充分に可能です。でも意味があるのかな。0になにをかけても0なんですから。結局、0って事ですよ。でも僕はそのお馬鹿すぎるパイセンの書く話が大好きなんですね」

 と……。

閲覧数とパイセン、了。

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【 意外な刺客 】

「おい。ガリ勉タカヤ。大学なんていくの止めてウチの八百屋継げ」

 八百屋一筋の親父が言う。

 タカヤは僕の名前。そして今日は某有名大学の合格発表の日。僕は一浪して頑張った。寝る間を惜しみ悪友が誘う遊びも我慢して必死に勉強をした。にも関わらず、ウチの馬鹿親父は僕が落ちている事を祈っていやがる。

 八百屋を継がせたいのだ。

 だが、たとえ今回も落ちていようとも浪人してまた来年頑張ろうと思っている。ウチの八百屋馬鹿な親父はそれが気にくわないらしい。確かに浪人の費用や受験料は馬鹿親父に出してもらっているし、なにより八百屋に学歴は必要ないのだそうだ。だから一刻も早く八百屋を継いで欲しい親父的にはなんとも無駄な事をしているようにしか見えないらしい。

 だからなにかというと八百屋を継げとうるさいのだ。

 そんな馬鹿親父を無視して大学へと向かう。親父のいない大学の掲示板で落ち着いて合格発表を確認したいのだ。電車を乗り継ぎバスに乗り換えて大学へと向かう。移動に有した時間は一時間少々。幸いな事に僕が受けた大学は家からほど近い場所にキャンパスがあった。移動の間中、そわそわと外の風景を見つめたり下を向いたり落ち着かなかった。落ちていたらどうしようと不安になったのだ。

 そして掲示板の前に立つ。

「……おっ。141023番合格おめでとうございますだあッ!」

 そこには先客がいた。

 先客は黒いハットを深々と被っていて顔が確認出来ない。しかし満面の笑みだろう。彼のテンションの高さから容易に想像できる。どうやら彼は合格したらしい。ガッツポーズをして飛び上がっている。おいおい。合格だからってテンション高すぎだぜ。ちょっとは周りの迷惑も考えろよ。

 お前一人の合格発表じゃないんだぜ。落ちたヤツだっているのにな。

「お前もこの大学を受けたのか?」

 テンションの高い合格者が僕に語りかけてきた。声は裏返っている。よっぽど合格したのが嬉しいんだろう。鬱陶しいヤツだ。死んでくれ。

「……」

 敢えて相手をしない。

「何番だよ。一緒に見てやるよ。俺は受かったけどな。うははっ」

 なんだ、この馬鹿。マジ空気を読めよ。

 少々ムッとして自分の番号を確認する。もちろんテンションの高い馬鹿は放っておいて自分一人で番号を探す。視線がずっと上から下へと流れ、そして空しく一番下まで到達する。……落ちた。

 あはは。今年もダメだったか。でももう一浪してでも……。

「その顔は落ちたって顔だな。見たところ一浪して頑張って感じか。俺は現役で合格したぜ。しかもまったく勉強なんかしなくて仕事に精を出してな」

 クソがッ。

 アルバイトばっかりしていたってか。お前は人の気持ちが分らないのか。僕の一年を全否定するつもりか。今はそのテンションの高さが余計に頭にくる。俺はこんな馬鹿っぽいヤツに負けたのかと、そう思うと悔しくて涙がにじんだ。

「タカヤ。どうだ。こんな馬鹿っぽいヤツに負けた感想は?」

 ……タカヤだと。

 こいつはなんで僕の名前を知っているんだ。僕はヤツのハットを思いっきりはぎ取った。僕の名前を知っているお前は誰だという疑問とこんな空気を読まない馬鹿に負けたのだという悔しさを共にヤツへとぶつけたのだ。

「どうだ。八百屋継ぐ気になったか?」

 そこには八百屋馬鹿な親父が親指を立てて満面の笑みでニコニコしていた。

「なんで親父が……」

 僕はそれ以上、言葉を紡げなかった。

「ああ。ガリ勉タカヤ、今年は俺もお前と同じ大学を受験したんだよ。で、現役合格(いっぱつ)ってわけだ。参ったか。八百屋は意外とインテリな職業なんだぜ」

 ……あははっ。そこまでするか。

 僕は泣いた。

 思いっきり泣きはらした。やっぱり八百屋を継ぐしかないのかと……。

意外な刺客、了。

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【 ONGEN 】

 どこからともなくゴットファーザーのテーマが聞こえる。

 僕は彼女と一緒にデパートで買い物をしていた。そして彼女が一人でバーゲンに突入し、僕は店の隅に設置されたベンチに座って彼女を待っていた、そんな時、聞こえてきた不思議な音楽。その不思議なゴットファーザーのテーマはともすれば買い物客の出すノイズにかき消されてしまいそうな位の頼りない音量だった。

 …――なんだろうと音のした方を見つめる。

 そこには女子便所があった。

 まったく普通の女子便。一人、女子便所から出てきて、そしてもう一人が入れ替わりで便所に入るところだった。何気なく彼女を見つめる。僕だって子供じゃないし、女の人に幻想だって抱いていない。つまり女の人だって普通に便所に行くだろうと分っている。しかしこのあと信じられない出来事が起こった。

 それは……。

「間もなく扉が閉まります。危ないですから駆け込み乗車はお止め下さい」

 なんと電車の扉が閉まる時のアナウンスが聞こえてきたのだ。

 先ほどのゴットファーザーといい、電車の扉が閉まる時のアナウンスといい、一体、なにが起こっているのか。その不可思議な現象に僕の意識は女子便に集まってしまった。でもさすがに男の僕が入って調べるわけにはいかない。

 でも知りたい。

 そんなジレンマを抱えた僕はある解決策を思いついた。僕の彼女をこの奇妙な女子便へと突入させてみるのだ。調べてきてもらう。幸い、彼女の買い物も終わったようだ。僕は僕の疑問を解決するがべく、彼女に言う。

「ちょっとトイレに行って来てよ。変わったところはないか調べてきてよ」

「変わったところ?」

「ああ。さっき女子便からゴットファーザーのテーマが聞こえてきたんだ。そのあと電車の扉が閉まる時のアナウンスが聞こえてきた。その音源の原因を突き止めてきて欲しいんだ。それを調べるくらいいいだろう?」

「……本当にそんな音楽が聞こえてきたの。だって普通の女子便だよ」

 彼女は不思議そうな顔をして言う。

「ああ。外からは普通の女子便にしか見えないんだろう。でも本当に聞こえてきたんだ。だから君に調べてきて欲しくてね。もし君がおしっこをしても……」

「下品ッ! いいわよ。調べてきてあげる」

 彼女が僕をこづき一喝して女子便へと向かっていた。

 僕はこう言いたかったんだ。もし君がおしっこをしても音は聞かないから安心して行って来てよとね。いや、それは親切心だったし、もちろんそんな趣味はないから言っただけなんだ。本当だよ。

 今は、そんなおしっこの音より謎の音楽やアナウンスの正体が知りたいんだ。

「……じょろじょろじょろ、じょろ、ピッ、ピュ、ドッピュ」

 この音。

「最悪。なによ。この女子便」

 彼女が怒りを露わにつかつかと歩いて戻ってくる。

 僕は音の正体に気づいた。先ほどのゴットファーザーといい、電車のアナウンスといい、僕には分ってしまったんだ。もちろん彼女が女子便に入っていた時に流れた謎の聖水音プラス男のアレだとしか思えない音の正体にも……。

「なんでおっしこ音を隠す為の音に変な音源しかないのよ。余計に恥ずかしいわよ」

 …――やっぱりね。

ONGEN、了。

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【 Mメーク、07 戦略と戦術 】

「そういえばまだ名前を聞いてなかったね」

 琉宇の顔が月明かりで揺らめくように浮き上がる。その顔は相変わらずにこやかでまったく敵意を感じなかった。しかしそんな顔には騙されない。こいつは敵だ。もちろん蓮花にとっても仇敵にも勝とも劣らないんだろう。蓮花は無理矢理笑顔を作ってはいるがその笑顔はどうしても張り付いたような笑顔だった。

 ……蓮花、お前、感情が素直に表情に出るんだな。自然に笑え。自然にだ。

「天花由牙だ」

「あ。私はね。波栖蓮花だよ。よろしくね」

「いや、ボクはそっちのお兄さんに聞いただけでモブっ子には聞いてないよ。モブはモブらしく名無しで風景の一部になっててよ。あはは」

 またキツイ事を。

 蓮花を見る。彼女の目には溢れんばかりの涙が浮かんでいた。今は耐えろ。蓮花。ヤツの実力が未知数な内はヤツの好きな様に泳がせておく事は何に置いても重要な事だ。今は利用できるだけ利用するのが得策だ。大体、こいつの思惑はもう読めたしな。俺はそう目で合図を送った。

 蓮花は言いたい事を理解したのか一つだけうなずきまた黙ってしまった。

 家も例によって腕輪の力で転送されてきた。こんなにでかいものまでも転送できるんだなと妙に感心した。琉宇曰く、家は使わない時、腕輪の中に存在する別世界で保管され使用時にフルムーンに転送されるのだという。

 それは俺の理解の域を超えていた。

 が、アイテム屋に存在するティッシュや靴や服などの在庫もそこに一時的に保存されているのだろうかと思ったりもした。とりあえずは納得するしかない。目の前に二階建ての白亜の家が現われたんだからな。

 ……それから数時間後、俺達は琉宇の家でくつろいでいた。

「トワイニングで良かった? ……って、トワイニングを知らないか。君ら貧乏人だもんね。ボクは紅茶にはちょっとうるさいよ」

 目の前に淹茶式で淹れたアールグレイが差し出された。柑橘系のいい香りがする。もちろん食後のティータイムだ。食事はお抱えのコックらしき人物がいて美味い料理を食べる事ができた。料理人の腕が一流だったという証拠だ。

 紅茶を一口飲むとついつい癖でタバコを探してしまった。

 俺は生前ヘビースモーカーでありアイスブラストの八ミリを好んで吸っていた。もちろんここにはないがな。もしかしたら腕輪のレベルが上がればアイテム屋にタバコが並ぶ事もあるかもな。その時までの短い間だが禁煙という事になる。仕方がないか。俺はタバコをあきらめ琉宇を見る。

「フルムーンなんて世界にきてまで紅茶を飲めるとは思わなかったでしょ。モブっ子も美味しそうに飲んでるね。おかわりもあるよ。そそ。由牙さん、今、タバコを探していたでしょ。腕輪のレベルが上がればタバコも買えるよ」

 ……やはりこいつは侮れない。

 俺が何気なくタバコを探した仕草を抜かりなく見抜き、ごく自然に会話の流れで言い当てやがる。これは牽制だとみて間違いないだろう。ここは気づかないフリをして阿呆を装ってやろう。ヤツは俺がなんの天才か知らないからな。

「そっか。アイスブラストも売ってるかな。あれしか吸わない主義でな。俺も早く腕輪のレベルを上げてタバコを思いっきり吸いたいもんだぜ」

 琉宇は面白そうに笑い答える。

「アイスブラストか……。ちょっと待ってて、今、確認するから。でもタバコを吸っていたなんて由牙さんはひょっとして生前いい大人だったのかな。ボクは今も昔も子供だからタバコの事はよく知らないんだけどさ」

 琉宇が腕輪を使いアイテム屋のウィンドーを開く。一応、ここは琉宇が所有する家の中で外には明りが漏れないよう全ての窓を雨戸で厳重に閉めきっている。これでは月明かりしかない外にいては発見のしようがないだろう。なるほどな。家が手に入れば、こんな手も使えるわけか。今はまだ買えないがな。

「アイスブラスト、アイスブラストっと……あ。あったよ。うん。奢ってあげるよ。モブっ子も欲しいものある? 奢ってあげるよ」

 琉宇が気前よく笑い、タバコをタップしてアイテム屋から購入する。蓮花はまた嫌そうな顔をして首を横に振る。こいつに恩を着せられるのはプライドが許さないんだろう。蓮花、利用できるものは最大限利用するのが勝者なんだ。それに気づけ。ちんけなプライドなんかに縛られるな。分かったか?

 タバコを注文した後、彼の手のひらに光が集束し光がタバコを形どる。

 その後タバコが具現化する。タバコがアイテム屋から転送されてきたのだ。具現化したタバコはまさにアイスブラストの八ミリだった。タバコを俺に手渡す琉宇。

 ……それにしてもまたこいつはしれっと重要な事を言う。

 生前いい大人だったのかなとかな。チートを捨ててまで子供の姿になったというのにまったく油断を誘えないな。その屈託のない笑顔が逆に不気味さすら感じさせるぜ。俺はそんな事を思いながら琉宇の家にあったマッチでタバコに火をつける。

「灰皿はそこにあるからね」

 琉宇が指さす先にはガラス製のごっつい灰皿があった。使われた形跡はまったくない。ま、琉宇は今も昔も子供だと言っていたからな。タバコは吸わないんだろう。それでも灰皿とマッチがあるのは客をもてなす為に揃えたんだろうな。調度品の一つとしてだ。

 …――そしてそれがヤツの戦略だろうな。

 しかしあれだな。アイテム屋に売ってるものは元いた世界にあったものが売られていると考えてもいいようだ。それはたとえフルムーンという世界でオーバーテクノロジーな商品だとしても在ると考えていいようだ。

 誰が、どこから仕入れアイテム屋に並べているのかそれは分からないが。

「で、本題。由牙さんとモブっ子はボクとMメークの勝負をする気はある?」

 やっと本題か。

 今までの接待じみた行動は全てこの言葉に集約されているんだろう。ヤツの発言はなにもかもが正直で率直な正論ばかり吐いている。つまり普通に考えればいい印象を与えられず勝負を断られる可能性の方が大きいんだろう。いや、実際に何度も断れてきてこの形を洗練させてきたのかもしれない。

 ゆえに琉宇の接待とさえも思える行動は必然だったのだ。

 …――それこそが勝負をする為のヤツの思惑であり戦略だったというわけだ。

 自分の財力を見せつけ興味を持たせ、あわよくば自分はカモだと思わせる。その上で歓待する事で勝負を断りにくくする。実によく練られた戦略だ。俺は勝負師だから戦略より戦術を重んじる傾向がある。根回しより、実際の勝負での手数の方が多いのだ。こいつはまったく真逆だ。

 練られた戦略があって、その上に戦術があるんだろう。

 それがよく分かるのが今までのこいつの会話と行動だ。琉宇との会話には常に俺達に対する探りが入りヤツはジッと観察していた。そしてヤツの行動は全て俺達が勝負へと向かうしかなくなる様に仕組まれていた。もちろん敵意をまったく見せず油断させる事も忘れてはいない。抜かりがない。実に完璧な戦略だ。

 しかし俺はそれに気づいていた。

 が、敢えて乗った。飢えない為にはどうせこいつとの勝負は避けられないのだし、負ける気もしないしな。好きなように泳がせておいたわけだ。おかげで様々な情報が知れたし、腹も満たされ、タバコも手に入れた。俺はこいつが家を呼び出した時点ですでに思惑、つまり戦略を読んでいたわけだ。そして利用させてもらった。

 俺はタバコの煙を胸一杯吸い込み、ゆっくりと口から吐いた。

「一万ペロを賭けて勝負しない? なに簡単な勝負だよ」

 ヤツ自身は自分の事を天才ゲーマーだと言っていたな。仮にその言葉を信じるならばゲーマーが有利な勝負とは一体なんだ。どちらにしろ俺達には不利な勝負で間違いがないだろうがな。

 それでも勝負は避けられないし、勝つしか生き残る道はない。

「いいだろう。受けよう」

 途端、蓮花が嫌そうな顔をする。琉宇とあまり関わりたくないんだろう。蓮花、お前の気持ちは分かる。が、感情が素直に顔に出るのは直した方がいいぞ。ポーカーフェイスは勝負の基本だ。

「ただな。俺達はカネがないぞ。それでもいいのか?」

「うん。問題ないよ。君らがカネがない事だったら知ってるさ。もし君らが負けたら一万ペロ分、ボクの下で働いてもらう。一日の給料は二人で二百ペロ。二百ペロの五十日、ただ働きしてもらうよ。もちろん君らがそれでいいんだったらだけどさ」

 願ってもないチャンスだ。博打を打つ場合、通常、タネ銭なしでは勝負を続行できない。勝負の前にお互いの持ち金を晒してその範囲で打つのが常識だ。タネ銭が溶けるってヤツだ。つまり今の現状では俺達は博打は打てない事になる。

 それが当たり前なのだ。

 もちろん高利貸しからカネを借りてタネ銭を作る事はあるが、それでもまず勝負の前に高利貸しからカネを借りてきて現金を作る。それをタネ銭として晒すのが絶対条件なのだ。しかしタネ銭がなくてもいいという。鉄火場で生きてきた俺にとってはタネ銭の件だけで言えば好条件過ぎて本当なのかと耳を疑ってしまう。

 しかし琉宇は料理人を雇っている。

 つまり料理人は彼との勝負に負けたんだろう。そして先ほどヤツが提示した条件であるただ働きを強いられているんだろう。これで料理人がなぜ琉宇の下で働いているのかの理由がハッキリした。そして琉宇の提起した条件に嘘がない事が分かった。

 やはり琉宇は勝負師ではない。

 ヤツはヤツが言う通りゲーマーで間違いないのかもしれない。それはまだ確定ではないがな。しかし、ヤツの発言は全て的確な正論で通している。つまり嘘はないと見ても間違いがないのかもしれない。

 ゆえにゲーマーだという言葉にも嘘はないのかもしれない……。

 いや、深読みすれば最終局面まで嘘はつかず嘘はないと信じさせておいて最後の最後に嘘で勝つのがヤツの戦術なのかもしれない。その可能性は常に頭に入れておかねばならない。が、そのどちらにしろ今までの発言で嘘はない事になる。

 …――そこから考えるとヤツは正真正銘のゲーマー。

 仮定であるが俺はそう決めて手を打つことにした。さて天才ゲーマーとやら悪魔の罠師に勝負を吹っかけたのが運の尽きだな。琉宇との勝負に負けたと思われるあの料理人と同じくらいに考えていたら痛い目をみるぜ。戦略ではお前の方が一枚上手なのかもしれないが戦術ではそうはいかないぜ。

 俺の黒い瞳に生気がみなぎった。また勝負ができると……。

07 戦略と戦術、了。

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【 Mメーク、06 利用という流儀 】

「そっちの女の子はまったく役に立ちそうがないね。もしかしてノンプレーヤー? Mメークには天才しか参加できないんでしょ。彼女はどう見ても天才には見えないし、どっちかっていえばモブかな」

 蓮花が背中に隠れる。イジメを受けていた彼女からすればこんな心なき言葉がトラウマになっているんだろう。また自分を追い詰める人間が現われたとな。ただな。琉宇とやら、そんなに馬鹿正直に言葉を吐いているといつか痛い目をみるぞ。

 それにしてもこいつの観察眼はそこそこのものがある。

 まず、一目見ただけで蓮花が自分と相対し得ない人間だと見抜いた事だ。俺でさえMメークには天才しか参加していないという思い込みで彼女が演技の天才だと信じてしまったにも関わらず、こいつは即、相対し得ない人物だと見抜いたのだ。その眼力は驚嘆に値する。できると思わずにはいれない。

 見た目は少年でも生前、酸いも甘いも噛み分けた人間だったのかもな。

 そして次に俺達が文無しだと見抜いた事。これは痛いアドバンテージを与えてしまった。何故なら勝負しようにもタネ銭がない俺達は足元を見られる。

 つまり琉宇にとって有利で俺達にとって不利な勝負でも受けざるを得ないのだ。

 仮に勝負を受けなければ彼は去ればいいだけの話なんだからな。琉宇以外、他に誰もいないのもまた俺達にとって不利だ。彼との勝負は必要不可欠だという事になるからな。このまま飢えを待つか彼と勝負をするかの二択しかない。もっとも彼との勝負を避けて次の誰かを待つという手もある。

 しかし次にMメーク参加者の誰かがここを通る確率はかなり低い。

 何故なら彼は夜空に浮かぶアイテム屋を見つけてここに来たと言った。つまりこの開けた大地で琉宇一人だけが気づいたのだ。他の参加者は近くにいないと考えてもほぼ間違いがないだろう。

 ゆえにここで琉宇と勝負しなければ次の勝負はいつになるか分からない。

 次の勝負まで文無しでなにも食べられない事になる。武器もない俺達が動物を狩るなどは到底不可能だろう。仮に狩れたとしてもさばけない。包丁もなにもないんだからな。残された選択肢は辺りに生えている雑草を食べられるという事くらいか。

 ゆえに文無しだと見抜かれたのは痛い。

 そして最後に『ボクも少年だけど君も少年だよ』という何気ない言葉だ。一見、なんの問題もない普通の会話に思えよう。しかし違うのだ。

 俺は相手に軽く見られる為に子供に転生する事を願ったんだ。

 そして運良く子供として転生した。ラッキーだった。子供を警戒する大人はいないからな。勝負の前に油断というアドバンテージを得ようと考えていたわけだ。

 しかし、琉宇には限ってそれはまったく無力だった。

 彼は自分自身も少年だと十全に理解している。つまり年齢での格差はまったくないと自覚しているのだ。ゆえに相手を舐めてかかる事はないだろう。油断など誘えない。こいつ……、できるぞ。

「今日はもう夜だしさ。ボクの家に泊まらない? アイテム屋で買ったんだ。安売りしててさ。……って、いっても貧乏人には買えない金額だけどね」

 琉宇が紅い髪を海からの潮風に揺らし、ころころと笑い言う。というかアイテム屋には生活消耗品しか売っていないんじゃないのか。さっき蓮花が出したアイテム屋のウィンドーには生活消耗品しか表示されていなかったぞ。

「あれ? 不思議そうな顔してるね。もしかして家を買ったのが不思議なの。君ら本当にフルムーン初心者なんだね。なにも知らないのか。やれやれ。初心者を相手にするのは疲れるだけどね。説明してあげようかな。しょうがない」

 その茶色い瞳に悪意がないのが余計に鬱陶しい。俺はゲームなんてものは生まれてこの方、賭けしかやってこなかったからな。そっち方面には疎いんだよ。琉宇が右腕を挙げてメカニカルな腕輪を見せる。

「腕輪にはレベルがあるんだ。でも魔物を倒してもレベルは上がらない。その代わりにMメークの世界銀行に納金すると一定金額でレベルがあがるんだよ。当然、腕輪のレベルが上がれば自然と機能も強化されるんだ。家だって買える様になるんだ」

「世界銀行だと?」

 琉宇が得意そうな顔をして会話を続ける。

「うん。世界銀行はフルムーンのどこかにある国際銀行だよ。Mメーク参加者は各自一つずつ世界銀行に口座を与えられるんだ。腕輪を使ってそこに納金するんだよ。で、誰よりも早く自分の口座に十億ペロを集めるのがMメークでの勝利条件なんだ」

 やっぱり後で神に確認しておかねばならない。

 たった今、琉宇から聞いた情報だけでも重要すぎて聞かされていなかった俺自身が愚かすぎるぞと思った。勝利条件すら聞かされていなかったんだからな。どうすれば勝てるのかを知らなければ、それは戦う前から負けているのと同じ事だ。

 抜かったぜ。

「ま、他の話は家でゆっくり紅茶でも飲んで話そうよ。そっちのモブっぽい女の子も泊まるんでしょ。もちろんシャワー付きの温かいお風呂もあるよ」

 なに。風呂があるだと。しかもシャワー付きの。待て待て、ここはいわゆるファンタジーな世界なんだろう。あのアイテム屋の品揃えにも違和感を感じていたが、もといた世界の文明が生み出した利器を使えるのか。

 そうなのだ。

 …――アイテム屋にはティッシュが売っていた。

 ティッシュなどという使い捨ての紙がフルムーンに存在しているとは思えなかった。紙はフルムーンという世界では貴重なものだと思う。工場というものが存在せず大量生産という手法が存在しないと思われるこの異世界ではな。

 違うのか。その辺りも神に問いただすしかない。

 とりあえずは食事と休息だ。腹が減っては戦ができぬというし適切な睡眠をとらなければ思考は絡まるばかりだろう。ゆえに食事と睡眠がとれる事はありがたい。勝負の前に体調を万全にコントロールする事は勝負師の常識だからな。

 幸い琉宇という少年が家に泊めてくれるらしい。彼は結局、敵でなにかを企んでいるんだろうが利用できるものは利用する。それが俺の流儀だ。

 …――蓮花は警戒しているが。

「先生。この人の家に泊まるの? 私は嫌だよ。いくらお風呂があってもさ」

 だろうな。そう言うと思ったぜ。多分、琉宇に悪気はないんだろうが、あまりにまっとうな正論を真っ正面からぶつける人間は得てして嫌われるものだ。それに蓮花は彼にこき下ろされたからな。

「蓮花、よく聞け。大事な話だ」

「なに。先生」

 蓮花が不安そうに俺を見つめる。

「フルムーンでの生活、そしてMメークというゲームは過酷な生存競争だ。だから休める時に休み、食べられる時に食べねば負けは見えている」

「うん」

 蓮花が愛らしく頷く。

「そして今、琉宇という少年が泊まれと言っている。そして後の話は紅茶でも飲んでゆっくり話そうと言った。紅茶が飲めるという事は……」

「そうか。食べ物があるんだね」

 俺はできるだけゆったりとした口調で彼女の思考が追いつくように話した。まるで彼女自身で答えに気づいているかの様にコントロールしていたのだ。つまり俺からの言葉で理解させるのではなく自分自身の頭で考え、自分で答えを導き出しているかの様に仕組んでいた。

 つまり説得しているのではなく納得させているのだ。

「そうだ。食べるものがないのに嗜好品の紅茶があるはずがないだろう。飲ませてくれるって事は食わせてくれるって事で間違いがないだろうしな。ま、ごく希に生活より趣味を優先する人間がいる。ヤツがそうであれば食い物がない場合もある」

 蓮花は手を叩く。

「そうだね。あいつは飲み物に執着する人間には見えないわ」

「そうだ。という事は食い物があって食わせてくれるって事で間違いないだろうな」

 蓮花は納得して頷く。

「そしてフルムーンで生き残り、Mメークというゲームを勝ち残る為には利用できるものは利用する。それができなければ……」

「死ぬ。そっか。先生。利用できるものは利用する。それが勝負の鉄則なのね」

「そうだ。良い子だ」

 俺は蓮花の頭を撫でる。きっと彼女も分かる時がくるだろう。彼女にとってこの俺でさえ利用できる内は利用し利用価値がなくなったら未練なく斬り捨てる事の大切さをな。それが勝負に生きるものの鉄則だと。

 しかし……。

 俺は考えた。蓮花の利用価値はなんだと……。彼女にはなんの才能もなく、俺はただその笑顔に救われたと思っているだけだ。彼女の利用価値は一体なんなんだ。何故、俺は蓮花を助け導いているのか。

 色々考えたが分からなかった。

 しかし、その笑顔だけは守ってやりたいと思っているのは確かだ。なにかしらの不思議な力を感じ。それだけだ。俺にとって蓮花とは一体なんなんだ。悪魔の罠師と呼ばれ畏れられた俺が笑顔に誤魔化され甘くなったという事でしかないのか。蓮花もMメークの参加者で最終的には俺の敵になるというのに。

 ……どれだけ考えても結局答えは出なかった。

「今から家を出すから泊まっていってよ」

 そんな俺の思考をさえぎり琉宇が微笑みながら言った。

06 利用という流儀、了。

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【 尾崎佳祐とシェーン 】

 コーヒーを一口飲んでタバコに火を着ける。

 …――俺はヤクザ。

 汚い仕事を一手に引き受けるヤクザ。悪の天使。俺自身、汚い仕事をやっているのは十全に理解している。ゆえにコーヒーとタバコは汚い仕事を終えたあとの自戒。自分を戒めないとどこまでも堕ちてゆく、そんな気がするんだ。

 街の灯りの寒さに身が凍えコーヒーが一滴零れ、まるで俺の涙のようだ。

 汚れた天使の零した後悔の涙。

 そんな涙さえも呑み込んでいく堕落しきった街角でタバコをふかす。タバコは俺をリアルへと引き戻しリアルは雪のような冷たさ。そしてコーヒーの暖かさは俺の満たされない冷え切った心を暖める。

 そんなヤクザな俺にも心休まる休息の刻は必要。

 家に帰るとエリーという女がいる。エリーは俺の愛すべき愛おしい存在。俺という存在を俺にしてくれる存在証明。エリーは家出少女で、この凍えるような街をあてどもなくさ迷っていた時、手を差し伸べた。

 それは罪滅ぼしの意味が在ったのかもしない。

 人をハメ、人を殺し、カネをむしり取っている汚れた俺の贖罪。だから寒さに凍え、ゆくあてさえもなく、さ迷っていた汚れた野良猫のようなエリーに手を差し伸べたのかもしれない。それとも単なる気まぐれだったのか。

 何故、エリーに手を差し伸べたのかは分らない。

 エリーとの関係はそんな始まり。しかし刻を重ねるごとに段々、彼女に惹かれていった。そして自然と愛し合った。命の火が消えかけるまで愛し合った。……エリーの家は政治家も輩出する名家。もちろん彼女自身も未来を嘱望され、順調にエリート街道をひた走っていた。順風満帆な人生。

 しかし転機が訪れる。

 結婚もしたくない男との政略的な結婚を親に決められてしまったんだ。彼女は今まで親に逆らった事はなかった。親が白と言えば黒くても白と信じ込まされた。そんな翼をもがれた彼女が生まれて初めて親に逆らった。当然、勘当され、着の身着のままで家を飛び出した。

 そしてエリーは初めて自由を手に入れた。

 しかしそれは同時に温室のような世界から野生へと放り込まれた事を意味した。温かい場所で大事に育てられた一輪の花は風が吹きすさぶ荒野へとその根を下ろしたんだ。過酷な環境は彼女という花の茎を折り、花びらを散らせた。

 そんな時、この汚れた街で俺とエリーは出会った。

 俺は彼女を愛した。命の限り愛した。汚い仕事をするヤクザな男と名家の子女。釣り合うはずもない。しかし不思議と気が合った。エリーには元々、そういう気質があったのかもしれない。ヤクザな俺をも認めてくれた。

 …――そして、ささやかながらも俺達は、この街の片隅で必死に生きている。

 俺はタバコを揉み消しコーヒーを飲み干し、いつもの仕事を終え、心を休める為にエリーの待つ家へと急ぐ。エリーだけが俺の理解者であり、俺こそがエリーの横にいるべき男なんだ。夜の帳が降りた冷たい街を抜け出す。

 愛しのエリーが待つ、うち捨てられた星屑のような二人だけの場所へと……。

「だたいま。エリー」

「お帰り。あら、汚れてるわね。洗濯しようか?」

「ああ。コーヒーをこぼしてな。俺のお気に入りの服だからすぐに洗濯してくれ。染みは抜けるかい。できれば染みがなく綺麗にして欲しいね」

「……いや、服じゃなくて、あんたの事よ。汚いわね。洗濯するわよ?」

 俺はヤクザ。汚れた男。

「……愛してるよ。エリー。思いっきり抱きしめてもいいかい?」

「冗談はよしてよ。あんたみたいに汚れた男ごめんだわ。私は住む場所がないからあんたといるだけ。洗濯機でも抱きしめていなさい。お風呂でももったいないわよ」

 …――どうやら愛し合っていると想っていたのは俺だけらしい。

 エリー、カムバックッ!

尾崎佳祐とシェーン、了。

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【 たいあたり 】

 …――溶け溶け祭りという奇祭の特集記事を書く為にある村を目指していた。

「し、しまった。道に迷ってしまった」

 私は奇祭が行なわれるという村を目指し、田舎のデコボコした道を車で走っていた。そんな時、道に迷ってしまい、あげくのはてガス欠になってしまう始末。JAFを呼ぶ為にスマホを取りだした。しかし電波がきていない。もちろんネットも閲覧できない。打つ手がなくなり、途方にくれた。

「お嬢ちゃん」

 そんな時、聞こえた天の声。

 立ち往生していた道を軽トラで走ってきた村人がいたのだ。彼はとても人が良さそうで困っている私を見捨てておけなかったのだ。そして今日はもう遅いからウチに泊まりなさいと言ってくれた。私にとって正真正銘、天の声だった。

 村人の言葉に甘え、彼の家に泊まる事にした。

「風呂沸いてるよ。入ってきな。着替えは沢山ある。好きなのを使いなさい」

 そういった彼は大きなクローゼットを指さした。

 しかしそこで不思議な事に気づく。彼の指さしたクローゼットは一つじゃなかったのだ。なんと大きなクローゼットが十個以上がずらっと並んでいた。しかも私は女でり、村人は男。そして、彼にお嫁さんがいる気配もない。なにが言いたいのか……。つまり村人の彼は男にも関わらず女物の服を何千枚と所有していたのだ。

 何千枚……、大げさではない。

 ヘタをすれば何万枚となく女物の服がある。ずらっと並んだ大きなクローゼット一杯に女物の服が詰っていたのだから。不思議に思いつつも、お風呂をいただく事にした。……何故だろう。お風呂につかりつつ考えた。始めはまともな理屈を考えていたが、それもすぐに底を尽き、もしかして村人は男の娘なのか、はたまたコスプレーヤーなのか、なんて事を考えたりもした。

 しかしどれだけ考えても的を射た答えには辿り着かなかった。

「お嬢ちゃん」

 外から村人の声が聞こえる。

「はい。なんですか。お湯でしたら丁度いい具合ですよ。温かくて気持ちいいです」

「ほうか。ところでお嬢ちゃんは溶け溶け祭りを取材するつもりなのかい。……いやな。お嬢ちゃんの服を洗濯しようと思ったらポケットから手帳が落ちてしまったんじゃよ。落ちた衝撃で手帳が開けてしまってな。悪いとは思ったが、そこで見てしまったんじゃよ。今日の日付で溶け溶け祭り取材とな」

「あ。はい。そうです。奇祭の取材に着たんです。溶け溶け祭りについてなにか知ってるんですか。もし知ってるんだったら、お風呂を出たあとに取材させて下さい」

 笑い声が聞こえる。

「あははっ。知ってるもなにも溶け溶け祭りはオラが村の祭りだよ。さっき沢山の服を見ただろう。あれは溶け溶け祭りの為に仕立てた服達だよ」

 ……奇祭の為に仕立てた服。

「も、もしかして……」

「ああ。あれは全部溶ける服だよ。ただし女物しかない」

 し、しまった。

 ふ、風呂に入ってしまった。着替える服は……。

「あっ。お嬢ちゃんの服は下着まで全部洗濯してあるからのう。ゆっくり温まれよ」

 溶け溶け祭り。

 …――だから何千枚も女物の服があったのか。つまり全て溶ける服。

 水を満たした桶を手に風呂の出口で村人が待機しているのが容易に予想できた。

 くそがッ!

たいあたり、了。

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【 Mメーク、05 正確無比 】

「で、先生、これからどうするつもり?」

 昼間、二人で語り合った時から蓮花の言葉使いが初めて出会った時より砕けた感じになっていてどこか親しみを感じていた。彼女は本来、明るい子なのかもしれない。それがイジメを受けた事で無理矢理自身の感情を押し殺して生活していたのだろうか。

 イジメられた原因。……それはなんだろうか。

 今は分からない。蓮花自身に聞いてもきっと教えてくれないだろう。彼女にとって死すらも厭わない苦い記憶なんだからな。少なくとも俺だったら聞いて欲しくはないし、思い出したくもない。

 ゆえに何らかの性格的問題を抱えていると考えた方がいいだろうな。

 その問題が原因でイジメられたのだろう。

 彼女の心には地雷が埋まっている。それはどんな形でどんなものなのかまったく分からないが、それでも俺は彼女を守ると決めたのだ。その問題すらも包括して解消したいと思っていた。

 再び彼女が死を選ぶような事がない様に。

 やれやれ、こんな事を考えるなんて悪魔の罠師と呼ばれ畏れられた俺が甘くなったもんだ。しかしそれは彼女を救った時、同時に救われた俺からのせめてもの恩返しだった。そして今はもう後悔しても遅い相棒への罪滅ぼし。

 長年コンビを組んで最後には命の幕を引かざるを得なかった相棒への罪滅ぼし。

「もう。先生?」

 蓮花が不満そうに頬を膨らます。俺が考え事をしていて聞いていないとでも思ったのだろう。彼女が俺の胸を可愛く叩く。

「ああ。済まない。なんだった。なにかあったのか?」

 俺は努めて冷静に聞き返す。イジメになどにはもう二度と屈して欲しくない。その為には蓮花一人でも生きていけるような人間になって欲しい。自立して欲しいと考えているのだ。ゆえに甘い顔はみせない。

 ただし、そうは思ってみても彼女の笑顔を見ると何故か甘くなってしまうのだが。

「……これからどうするのって聞いたのよ。もう。話聞いてた?」

 彼女の笑顔には不思議な力がある。温かいようでいて包み込まれるような不可思議な感覚に陥ってしまう。ステータスを確認した時、魅力が異様に高かった事に関係しているのだろうか。そして俺はついつい甘くなる。

 どうやら彼女の笑顔がいい意味苦手なようだ。

「これからか……」

 暮れてしまった空を見上げ、とりあえず美味しい食事とか温かい布団が欲しいなと思った。食事と休息は生きていく上で必須だ。贅沢を言えば気持ちいい風呂も欲しいところだがここは異世界。つまり現世での常識は通用しない。ゆえに風呂は一般庶民が望んでも手に入らないものだろうと思う。現代日本でも風呂が毎日入れるようになったのは長い歴史から見ればごく最近の事だからな。

「もう日も暮れた。とりあえず村を探すぞ。食事と休息だ。あの手入れされた木を見れば分かるが近くに村があるだろうからな」

 俺は幹が唐松で葉が広葉樹の妙な木を指さし言った。

「先生?」

「なんだ。とっとと村を探すぞ」

 蓮花は上目遣いでジッと見つめている。その顔はなにかしらを欲しがる子供のような表情だった。……なにを考えているのか知らんが甘えてもなにも出ないぞ。なにかが欲しいなら他を当たれ。甘い顔はしない。

「先生、その格好で村に入るつもり? 怪しまれるよ。いいの?」

 ……格好?

 そういえば彼女が身投げなどという衝撃的な行動を敢行しようとしていたから抜け落ちていた。そうなのだ。俺も彼女もボロボロのボロを身にまとっている。こんな格好ではどこからどう見ても乞食にしか見えない。

 決してまともな場所での食事と睡眠などには期待できないような格好だ。

 そうだな。まずは衣食住の衣を整えないと村にも入れない。でもどうする。こんな辺鄙なところでは仕立屋などという気の利いたものはない。かと言って自分自身で服を作る事などできない。どうする?

「先生。そこで腕輪の出番ッ!」

 俺が思案していると蓮花が嬉しそうに告げる。彼女は神に聞いていたのだ。あのメカニカルな腕輪に隠されている様々な機能を。俺にはまったく知らされていないというのに。

 一体、神はどんな基準で誰になにを教えているのだ。

 それもボーナスとでも言いたいのだろうか。もしかしたら重要な事を知らされていない可能性もある。あとで神に問いただしておく必要があるな。そう思っているとまた彼女が腕輪に左手を添えてつぶやく。

 アイテムと……。

 するとまた集束した光が放出され下弦の月が浮かぶ夜空にウィンドーの様なものが開く。ウィンドーには生活に必要だと思われるものの商品名が羅列されていた。商品名の横には金額が書かれている。

 これはネットショップの様な簡易のアイテム屋か?

 武器や防具といった装備類は書かれてない。そして高価な品もないようだ。もちろん食べ物の類もない。靴や服、ティッシュなどの飽くまで生活していく上で必需な生活消耗品だけのようだ。なんとなく神の意図が見え隠れしているようであまりいい気分じゃなかった。

「これとこれ。それからこれね」

 どうやらこれらの商品を買う為にはスマホをタップする様に画面を軽く叩くようだ。蓮花が商品を選びタップしてみせてくれた。それにしてもまさかネットショップの様に商品が宅配便で運ばれてくるという事はないだろうな。そんなに待てないぞ。

 多分、商品は俺達が転送された様にどこかから転送されてくるのだろう。

「でも残念。蓮花、お金がないから買えないの。ねえ。先生?」

 さっきの物欲しげな顔はこれか。こいつは服が欲しいんだな。しかしカネがないから俺に甘えてきたわけだ。つまりこの格好では怪しまれるってのも服が欲しいという願望の裏返しだな。甘えるな。自分のものは自分で買え。

 そういえば神も言っていたな。所持金ゼロから始め十億ペロを集めろと。

 つまり俺も文無しだ。もしこのアイテム屋に店員が居たならばギャンブルでも吹っかけて商品をせしめるところだが、どうやらアイテム屋は自販機と同じシステムで稼働しているのだろう。ギャンブルを吹っかけられないって事だ。いくら蓮花がアイテム屋の情報を知っていても無駄だったな。

 文無しにとって自販機は意味がない。

「あれ?」

 と夜空に浮かんだ光るウィンドーを見つけたのか一人の少年がこちらに駆け寄ってくる。そいつは鎧に身を包み背中に大剣を背負っていた。まさに冒険者という感じの少年だった。まさかまたMメークの参加者が現われたのか。

 …――俺の心が臨戦態勢をとる。

「こんな夜に目立つアイテム屋を開くなんても襲ってくれって言ってる様なもんですよ。馬鹿ですか。馬鹿でしょ。もしかしてMメークの参加者です?」

 なんだこいつは。嫌に的確に相手の心をえぐるような言葉を吐くな。俺はヤツの右腕を見る。そこには月光を反射した腕輪が光っていた。……腕輪がある。そしてMメークの事を知っている。こいつはプレーヤーだ。

 …――それにしてもこの的確さ、なんの天才だ?

 少年は紅い髪を短く刈り上げつんつんと立てている。瞳は茶色で少々吊り上がっている。小悪魔の様な顔つきで微笑んでいるがどことなく怪しさを感じさせる。背は俺と一緒ぐらいか。そして小さな体躯では操れないとも思えるほどの大剣を背中に背負っている。……あの大剣。もしかしたら。

 少年は観察眼が鬱陶しいのか表情を少々歪め続ける。

「ボクは上柳琉宇(かみやなぎ るう)。生前、ゲーマーをやっていました」

 彼は目の横でピースサインを横に向けていた。

 ゲーマーだと。ゲームに精通している人間って事か。つまりゲームの世界を模倣したであろう異世界であるフルムーンは、こいつにとってはうってつけの舞台ってわけだな。仮にこいつがゲーマーだと確定するならばだ。

 自称だから、まだ分からない。

 しかしゲーマーの話が本当だとするならば、こんなにも簡単に自分の素性を語るなんて不用心にもほどがあるぜ。とても天才だとは思えない。大体、ゲーマーってのが怪しい。こいつの目つきは暗殺者の目つきだ。背中の大剣も怪しい。こんなに小さな子供が扱えるような剣じゃない。

 そこまで考えると頭のスイッチを勝負師モードに切り替えた。

「お金、ないの?」

 身にまとったボロから判断したんだろう。屈託のない笑顔でまた恐ろしく的確な事を言った。やっぱりこいつはなにかを隠している。そして俺達をハメるつもりだ。ふふふ。俺と出会った事が不幸だったな。悪魔の罠師の汚名返上だ。逆にお前をハメてやるぜ。俺はほくそ笑んだ。

「……少年。お前、カネを持っているのか?」

 俺がゆっくりと聞く。

「持ってない事はないけどさ。でもあげるようなお金はないよ。もしかして君ら文無し? そんなボロを着てるしさ。きゃはっ」

 少年がまた正確無比な正論を吐いた。なんだ。この正確さは。違和感を感じるほどの的確さだな。震えがくるほどに冷たい正論。俺はそう思った。

 この後、俺は彼がなんの天才でなんの為にフルムーンに転生したのかを知る事となる。事実を知り、彼もまた蓮花と一緒で悲しき天才の一人だったと……。そう思う時がくるのだ。しかし今は知るよしもない。

「でもさ。ボクも少年だけど、君も少年だよ。うふふ」

 彼がまたもっともらしい正しい事を言った。俺は少年の不気味なほどに的確な正論で背筋に冷たいものが走るのを感じていた。

05 正確無比、了。

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【 四草めぐるよりお知らせですw 】

どもどもw
岡山で農民になる予定の四草めぐるですw

やっちまったッス。やっちったw
Mメークを更新したんですが、03話、04話、02話と更新してしまいましたw

数字が話数です。

つまり三話、四話、二話と更新してしまったわけです(ノд・。) グスン
二話が三話と四話のあとにきています。。。
ミスです。

どうも済みません( ̄~ ̄;) ウーン

目次はちゃんと話数通りになっていますので、そちらからアクセスして下さいな。
読者の皆さまに、お手数をおかけしてしまいすみませんでした。
これからはミスがないように気をつけます。

ではお知らせでしたw
プロフィール

四草めぐる

Author:四草めぐる
将来、月に移住したいと思う今日この頃。現実的には一歩、一歩、着実に。基本を大事に。

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