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では、▼以下より、私の世界をお楽しみ下さい。
     

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【 メルレポート、~ レポート四十、斑月 】

「マンサ。お前、お得意のコピーか」

アフが冷静にたずねる。

「コピーか。前まではそうだったがな。が、今は違う。アレンジだ」

アレンジ?
俺様はマンサが何を言っているのか分からなかった。
思わずノートパソコンを見つめる。

壁紙のイラスト、カエルの口から何やら光らしきものが飛びだし球を作っている。

何だ。あれは?

「フフフッ。なめるなよ。コピーとアレンジの差は雲泥だぞ。アフ」

とマンサが言うが早いか、アフがアクションを起こす。
愛刀、風雪を抜いたのだ。
素早く。

身の丈ほどもある風雪の刃がマンサを襲う。

あれは抜刀術……。
まるで完璧に創られた絵画のように風光明媚な太刀筋がマンサの首を狙う。
そう。アフの愛刀、雪風はまるで絵を描く筆のようにも見えた。
アフが全力で裏切り者マンサを斬りにいった。

「甘いな。お前はいつも甘い」

マンサが言う。
カエルの口から飛びだした光の球は、太刀を形どっていた。
そうして、その光の太刀が素早く動く。

「これが完成型、三の型、抜刀術、五月雨だッ!」

光の太刀が、また絵を描く。
アフの風雪が描いたそれよりも風雅にそして雅にまるで侘び寂を表現するように。
その筆跡は、それ自体が絵であるかのような錯覚すら覚えた。

そう。
アフの風雪は筆に見えた。
が、マンサの創り出した光の球の太刀筋はそれ自体が絵に見えるのだ。
それがコピーではなくアレンジのアレンジたる由縁だろう。

うむむむっ。アレンジか、恐るべし。

「くっ……」

アフの五月雨が何とかマンサの五月雨を防ぐ。

「クハハハッ。今の五月雨は七十%の力しか出してないぞ。防ぐのやっとだな?」

七十%だと?
アフの五月雨は全力でいってあれだったのだ。
それがマンサの方は七十%の力で、あれだけの威力だったのだ。

勝敗はやる前から見えている。

マンサには勝てない。
それは誰が見ても明らかな結果だと思う。
もちろん修業をして数段階レベルアップした俺様でも難しいだろうな。

「……このパソコンには現在九千幾多の技が入力されている。あきらめろ。アフ」

やっと分かった。
マンサはパソコンに技のデーターを入力し、それを再現できるのだ。
しかもコピーではなくアレンジ、すなわち強化してだ。
そんな技が九千幾多入力されてある。

そんなヤツに勝てるのか?

「フッ。マンサ、君って本当に間抜けね。宣言してあげようか」

メルが口をはさむ。
目にかかる黄色い前髪をゆっくりとかき上げつつ。
って、メル、お前、今のアフとマンサのやり取りを見てなかったのかよ。

マンサのどこら辺が間抜けなんだ?

勝てんぞ。
逆立ちしたってヤツにはな。
いつもながら、その強気な態度には疑問符だらけだ。

「ほう。俺のどこが間抜けなんだ。単なるハッタリだろう。違うか?」

俺様もそう思う。

「そう思う? いいわ。宣言してあげる。魔王の雨の斑月で君を倒してあげるわ」

待てよ。
雨の斑月はもう入力されてるぜ。
ディドーとの修業で新技を身につけたんだ。

新技は披露してない分、まだ入力されていないと思うしな。

雨の斑月は、すでにアレンジ済みだと思うぜ。
もちろん雪の斑月でもな。
それを……。

雨の斑月で雌雄を決するより、少なくともその新技でいくべきだろうが。

「フッ。笑止。雪の斑月でも放つつもりか。どちらにしろすでにアレンジ済みだ」

だろうな。
雨の斑月で倒すって、そりゃ、地球と相撲をとってうっちゃれって事だぞ。
天地がひっくり返っても無理って話だな。

「マンサ。怖いの?」

メルの目が邪悪モードになる。
彼女の癖毛も自信満々に胸を張って、ピーンと天を突く。
何かあるな。

こうなった時のメルは滅茶苦茶、頼もしい。

頼もしいが、今回はメルではなく、俺様自身が六賢者のマンサと戦うのだ。
しかもマンサのパソコンがアレンジ済みの雨の斑月でだ。
どう見積もっても勝てない。
それは分かる。

分かるが、メルのあの態度には期待したくなる。

「よし。基礎戦闘能力も上がって雨の斑月も強化されているし、いっちょやるか」

俺様は決意した。
メルのあの不遜ともとれるが頼もしい態度に賭けてみようと。
雨の斑月を放ってどう勝つのかと思いつつも。

「間抜けはアフだけじゃなかったな。魔王とその従者、お前らも甘いわ」

「果たして間抜けはどちらかな」

今まで沈黙を守っていたディドーが口をはさむ。
魔王は自分との過酷な三年間を無事に生き抜いた猛者なんだと言わぬがばかりに。
計算では計れぬぞと。

「努力は人を強くするものじゃぞ。それを証明してやろう」

ディドーがきっぱりとマンサに告げる。

「ディドー様。それは買いかぶりでしょう。魔王にそんな器はございません」

しかしマンサも負けてはいない。
自分は六賢者の一人であり、しかも三年間準備を怠らなかったと。
今日この日の為に。

その答えがアレンジなのだと再び宣言するかのように。

「妾からも提案しようぞ。完全勝利の為にな」

「提案ですと?」

「そうじゃ。アフ。メル。双方とも決して魔王とマンサの戦いに手を出すな」

アフとメルが静かにうなずく。

「もちろん妾も決して手をださん。タイマンじゃ」

「……タイマンですと。気でも触れましたかな? ディドー様」

マンサの体が一瞬、たじろぐ。
それはそうだろう。

何せ、アフとメルの二人が介入する可能性すら否定してしまったのだから。

そして、何よりディドー自身すらも。

「正気じゃ。完全勝利の為と言うておろうが」

ディドーがほくそ笑む。
メルとディドーは目こそ合わせていないが、呼吸がピッタリとあっていた。
この戦いは、一流の策士二人が手を合わせ弄した策なのだ。
期待しない方がおかしいってもんだぜ。

さて、何が起こるか。

俺様は冷気をまとった死斑剣を構え直し、雨の斑月の体勢に入った。

「じゃ、始めよっか。イッツ・ショータイム」

メルが楽しそうに言った。
体を後ろに反り両手を拡げ顎を突き出し、まるでサーカスの実況のように。
サーカスの目玉、白いライオン役はもちろん俺様だろう。

白いライオンである俺様がくぐるであろう火の輪がマンサだった。

~ レポート四十、斑月、了。

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【 だろうね 】

ゲームの世界でリッチな男。現実は課金、課金で借金生活。ほくそ笑む運営。

だろうね、了。

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【 メルレポート、~ レポート三十九、マンサとアフ 】

……三年の月日が流れた。

「お前、メルか? 懐かしいな。三年ぶりか。俺様だよ。俺様」

俺様が言う。
目の前には少し大人びたメルがいる。
大人びたとはいえ、相変わらず愛くるしくまだまだ美少女の域だった。

「君、誰? 何で私の名前をしってるの。ストーカー?」

よりにもよってストーカーかよ。
三年ぶりなのに。
とほほ。

「……もしかして」

そうだぜ。俺様は魔王だ。三年ぶりだな。

「新手のオレオレ詐欺は電話じゃなくて、いきなり目の前に現われるのね」

だから……、メル、そんな下らないボケはいらない。
俺様が修業から帰ってきたのだ。
どうだ?

格好いいだろう?

俺様はディドーにしごかれ、何段階もレベルアップしたと思う。
もちろん見た目も変わって少し背が伸びた。
恰好も変えてみた。

髪をモヒカンにして、ひび割れメイクでパンクっぽいファッションで決めてみた。

もちろん唇を黒く塗って、パンクテイストを強めている。
たが、革ジャンだけは変えていない。
これは譲れない。

俺様は、確固たるポリシーを持って、茶色い革ジャンを着ているのだ。

ま、その話はまた今度でよかろう。
それより、やっぱり魔王とはいつでもこうありたいものだ。
あくどくな。

「もしかして……、魔王なの?」

おう。俺様だ。

「やっと修業が終わったのね。長かったわ。待ちくたびれたわよ。このアホ」

メルのヤツ、殊勝にも青い瞳に涙を浮かべている。

ういヤツじゃ。
アホと言ったのは許そう。
憎まれ口を叩いてはいるが、うるうる涙目なんだからな。

「か……、かふ」

かふ?

「くしゅん。花粉……、季節じゃないのに花粉が飛んでるわ。目がかゆい」

って、花粉だって。だっふんだって。

「長かったわね。三年。本当に強くなったの。魔王?」

「ああ。三年間みっちりとディドーにしごかれて嫌でもレベルアップしたわ」

最悪だった。
ディドーとマンツーマンだったこの三年間は。
考えるだけでも、身の毛がよだつような事をこなし続けた三年だった。

思い出したくもない。

思い出したくはないが、そうだな。少しだけ書こう。

時には氷山の尖った頂上で座禅を組まされ、寒さとバランスで死にかけた。
また時には熱さの究極、マグマの中でクロールをさせられた。
もちろん消し炭になる所だったぜ。
気合いで何とかな……。

他にも挙げれば枚挙に困らない程の過酷な修業をこなした。

悪の化身、魔王であり、努力や根性などというものは無縁な生き方をしてきたが。
俺様より強いディドーに強制されては逃げ出す事はできなかった。
信じられないような事を強要された三年間だった。

寒気がするぜ。

そうして修業の最終段階は、ディドーとの模擬戦だった。
模擬戦に一年という長い時間をかけた。
修業の中で一番、長い。
結果。

俺様の百五十二勝、五十三敗。

勝率、七割四分一厘。

イチローの通算打率が三割弱だと考えると凄いと分かるだろう。
もちろんディドーの本職は幻術であり体術ではない事を引いても有り余る勝率だ。
七割超えという勝率はそういうものだ。

当然、模擬戦を始めた当初は連敗につぐ連敗だった。
が、二十敗を超え始めた辺りから。
逆転した。

あの過酷な修業が、遂に芽を出し花開いた瞬間だったのだ。

その時は嬉しかったな。

おかげで、ディドーを超えるだけの力を手に入れた。
ま、今考えると努力や根性も悪いもんじゃないかなとか思ったりする。
が、のど元過ぎればってヤツだろう。

基本的には努力や根性は大嫌いであり、無縁な生活を送りたい。

強くそう思うぞ。

「メルよ」

ディドーが、ゆっくりと囁く。

「言われなくても分かってるわよ。こっちはこっちで、ちゃんとやっておいたわ」

何の話だ?

「うむ。汝程の魔人であれば抜かりはなかろう。何せ妾に勝ったのだからな」

だから何の話だってんだよ?

「さて、魔王よ。これから妾が魔神器を直す」

やっとか。
修業だとか舌戦だとか色々、あったが、やっと魔神器が直るのか。
本当に長かったぜ。やれやれだ。

「その前にやってもらいたい仕事がある。修業の成果を試すのには丁度よかろう」

まだかよ。
まだ何かあるってのか。
いつになったら魔神器を直す気なんだ?

「魔王。私がお膳立てしておいたから余裕の仕事よ。やってくれるよね?」

メルもか。
うむむ。何をやらせようって気なんだ。この二人は。
俺様は面倒くさがりやなんだぜ?

「マンサ。出てこい」

ディドーが視線を動かさず、厳しい口調で言う。

「ふふふ。やっぱりバレていましたか。さすがはディドー様と言った所ですね」

マンサだ。
異様に丁寧な口調だが、あの失礼男マンサだ。
玉座の後ろにある白い柱の影からノートパソコンを片手にマンサが現われた。

今、この瞬間も何か入力している。

「後ろに立たれるのを嫌う汝じゃが、後ろに立つのは良いんじゃな」

「くくく。そう言ってられるのも今の内ですよ」

その丁寧さが怪しい。

「さて魔王よ。お前がどれ程の力を手に入れたのかは知らん」

ディドーをまるで相手にしないとマンサが言う。
マンサも六賢者の一人だろう。
いいのか?

ディドーは六賢者の長なんだろうが?

「知らんが、しょせん俺の計算上の進化に過ぎんだろう。お前には死んでもらう」

死んでもらうだと。
何だよ。ディドーと修業をしたのに、その後に死んでもらうかよ。
お前ら六賢者の総意って、一体、なんだよ。

修業の後、殺すって意味分からん。

それとも……。もしかしてマンサは裏切ってるのか?

「そうはいかないよ」

マンサの背後から聞き覚えのある声が聞こえる。

「フッ。アフか。俺の後ろに立つな。有無を言わさず殺すぞ」

アフだ。相変わらず黒く艶のある長髪をかき上げた。
赤いシャツを着て、上には黒いベスト。
そしてサスペンダー。

腰には柄に手の込んだ装飾を施した、身の丈ほどもある長い刀を差していた。

三年前と何も変わらない格好しているが、それがまた格好良かった。
絵になる男とはアフの事を言うんだろう。
ムカツクがな。

「アフ。残念ながら、お前程度では俺には勝てん」

マンサの丸めがねが光る。
アフの態度。そしてマンサの言葉から推測するに、やっぱりマンサは……。
マンサのヤツは六賢者を裏切っているんだな?

だろう? メル。

メルが黙ってうなずく。
アフの目が並々ならぬ決意を秘めていて、マンサを斬ると告げていた。
そんなアフが裏切り者の言葉にしっかりと答える。

「そうか。ならば魔王だったら勝てるっていうのか? お前の計算上ではな」

「ふふふ。甘いわ。誰も俺には勝てぬわ。まだ分からんか?」

マンサが、不敵に笑う。

「分からんな」

アフがぶっきらぼうに答える。

「俺は、この三年間、万全の準備を進めてきたのだ。今日、この時の為にな」

「……ま、勝てないか、勝てるか、それを試してみようじゃないの」

アフが構える。
刀の柄に手をかけ、ジリッと抜刀の恰好をとったのだ。
そういえばアフは自分には十の型があると言っていた事あったな。その一つか。

「三の型、抜刀術、五月雨」

「ふははは。アフよ。三の型、五月雨などとすでに入力済みの技を使うか」

入力済み?
どういう意味なんだ?
マンサが大仰にエンターキーをカチンと押す。
パソコンの壁紙であるカエルのイラストがアニメーションで口を大きく開く。

「三の型、抜刀術、五月雨……」

とパソコンが言った。

~ レポート三十九、マンサとアフ、了。

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【 妙な所で真面目 】

警察の指導により、十八歳未満入場禁止の闇カジノ。

妙な所で真面目、了。

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【 笑顔、笑顔 】

ムキムキボディーのボディービルダー。箸より重いものを持った事なし。

笑顔、笑顔、了。

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【 メルレポート、~ レポート三十八、三年間 】

「汝には、これから冥府で修業をしてもらう事となる」

俺様が生まれついての原初の魔王候補に浮かれている所にディドーが水を差す。
何と冥府での修業を提案してきたのだ。
そう。

俺様はあまりの弱さに嫌気がさし、冥府で修業する事を目論んでいた。

修業など魔王である俺様には似合わない。
が、背に腹は代えられない。
強くなるのだ。

こう手っ取り早く、必殺技でも教えてもらって強くなるのだッ!

「ああ。修業か。俺様もそうしようと思ってた所だ」

俺様はおどけて敬礼するような素振りを見せ、気軽に修業を受ける旨を伝えた。
メルも渡りに船だと俺様の真似をするように敬礼してみせる。
俺様達は修業を軽く考えていた。

「頑張ってね。魔王」

「おう」

メルが可愛く言う。
任せておけ。俺様は強くなる。
そして、メル、お前を強くなった俺様で、惚れさせてみせるぜ。

「では、これから三年間、冥府に滞在してもらう」

三年……だと?

「三年間で汝の基礎戦闘能力をじっくりと底上げしてもらう事となるぞ」

基礎……だと?

ディドーよ。ちょっと待て。基礎だと?
修業といえばだな、すなわち必殺技の伝授とかそういったもんじゃないのか。
基礎って……。

そんな地味な事を三年間もやれってか。耳が腐るわ。

「ディドー。修業って必殺技の伝授とか、そんなもんじゃないのか?」

慌てて聞き直す。
俺様の耳が腐った訳じゃないよな。
修業なんてものは、とっとと終わらせ、ぱっぱと必殺技の一つでも伝授してくれ。

それが一番、魔王らしい俺様の修業なんじゃないのか?

「寝ぼけた事を申すな。基礎を底上げするのが強くなるには一番、早いのじゃ」

それは勇者の修業。
俺様は魔王であり、簡単、お手軽がモットーの魔人なのだ。
三年間もかけて基礎の底上げなんて間違っても魔王である俺様には似合わないぜ。

「ただの修業ではないぞ。一歩間違えば死すらいとわない修業だ」

べんっ!
寝ぼけてるのはどっちだ。
三年間という時間を基礎訓練に時間を割き、更に死すらいとわないだと。
もっとこう簡単に短時間で強くなる方法はないのか?

そんなハイリスク、ローリターンな修業は俺様のシナリオにはない。

だから必殺技を……。必殺技をプリーズ。

「強くなるのに近道はない。心せよ」

あほかっ。
メル。お前からもディドーに言ってやってくれ。
俺様は魔王であり、そして原初の魔王候補の天才なんだとな。

天才には天才の修業方法があるとな。

「そうきたか。やっぱりね」

メル……。

「ま、確かに強くなるにはそれなりの努力が必要よね。それしかないか」

だから違うって。そうじゃない。
俺様には俺様らしい修業の方法があり、とっと強くなるんだよ。
本当に頼むよ。

努力なんて言葉、俺様には似合わないだからよ。

「じゃ、魔王。ディドーの言う事をよく聞いて頑張ってね」

ちゃう。
ちゃうって。だから努力したくないの。
俺様の隠された実力を引き出す的な一瞬で終わる修業を希望しますッ。

「三年もあるんだから、私も適当に冥府で修業してるわ」

ごめん。それ無理。

「メル。修業は止めだ。とっと魔界に帰るぞ」

メルは帰ろうとする俺様の革ジャンの襟首を鷲掴み制する。

「魔王?」

何だよ。メル。無理なものは無理だ。

「修業して強くなるって決心したんじゃないの。強くなるには近道はないわ」

いや。
前に変なおじさんに死斑剣を鍛えてもらって、俺様は強くなったぞ。
あんな感じのお手軽な修業じゃなきゃ嫌だ。

「いや、あのだな」

「だから、強くなるには近道はないの。ディドーの言う通りよ」

メルが笑いながら俺様に告げる。……目が笑ってない。

メルさん。
その笑顔、とっても怖いんですけど。
いやでもね。努力なんて言葉、勇者に任せてありますんで。失礼します。

「だからディドーの言う事をきちんと聞いて頑張りなさい」

嫌だ。
絶対に嫌だぜ。
何が悲しゅうて三年間も基礎訓練なんかしなくちゃならないんだ。
俺様は俺様流で強くなってみせる。

天才には天才のやり方ってもんがあるんだよ。

「ではいくぞ。魔王よ。時間は限られておる。これから直ぐに修業じゃ」

だから嫌だと言っておろうが。

「魔王。我が侭言わないの。ディドーについていきなさい」

ノーッ!

「まずは心頭滅却の法を覚えるぞ」

何だよ。その死ぬほど熱そうな基礎訓練は……。

「燃えさかる炎の中、裸足で立って、それでも平静を保つ基礎訓練じゃ」

あほか。
普通にヤケドして終わりだって。
いや、燃えさかってるから燃え尽きて消し炭になって終わりか。

何て事をさせるつもりだ。

ディドー、お前、俺様を殺すつもりだろう。

やっぱり、そんなハイリスク、ローリターンな修業に付き合いきれるか。
メル。やっぱり修業は止めだ。こんな所、さっさと帰るぞ。
修業はまた今度だ。うん。帰る。

「心頭滅却の法の次は湖で水牢の行を行うぞ」

水牢の行?

「湖に潜り、一日、過してもらう」

だから殺す気かって。
俺様はエラ呼吸じゃねっての。魚じゃあるまいし。
一日も水の中にいたらふやけるし、それどころか間違いなく窒息して死ぬって。

「まだまだあるぞ。汝にやってもらう修業はな。楽しみしておれ」

こんな地獄な修業が三年間も続くのか。
考えただけでげんなりだ。
やりたくねえ。

俺様は原初の魔王候補の天才じゃなかったのか。

こんなアホみたいな修業、天才である俺様には似つかわしくないぜ。

「魔王。頑張ってね」

メル。
お前、他人事で面白がってるだろ。
今はその愛らしい顔がヤバイ位に残酷に見えて恨めしいぜ。

そうして俺様は嫌々、ディドーとの基礎戦闘訓練の修業へと身をついやしていた。

*****

「許された時間は三年間。それまでに……」

玉座の間の奥にあるマンサの研究ラボで、マンサがゆっくりとつぶやく。
真っ暗な研究ラボで、モニターを凝視する彼は企んでいた。
魔王の修業の終わる三年間を目安に。

「ふふふっ」

マンサが不気味に笑う。

「冥府の六賢者が一枚岩だと思ったら大間違いだ」

マンサの目は三年後を見通していた。
それまでに準備を済ませ、そして、彼なりの野望を完遂しようとしていた。
果たして、それは……。

「クククッ。思った通りね。何かを企んでいるような気はしたけど」

そこにあざとく物陰から様子をうかがうメルの姿があった。
彼女の瞳はマンサ以上にあくどかった。
例によって癖毛は……。

また背筋を正し、ピーンと天を突き立っていた。

~ レポート三十八、三年間、了。

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【 メルレポート、~ レポート三十七、理由と立場 】

「あははは。ちくしょう。何で汝らは妾の秘密を知っておるのじゃ」

あの。
ディドーさん、怒るのか笑うのかどっちかにして下さい。
さっき馬鹿笑いしたメル以上に笑っている。

せっかくの美人が台無しだ。

可愛い女センサーが、残念だと叫んでいるぜ?

でもメルよ。
お前、よくディドーが笑い上戸だって知ってたな。
まさかやみくもにオヤジギャグの動画を見せた訳じゃないだろうな。

適当だったら凄い確率だぞ。

「メル。お前、よく知ってたな。ディドーの秘密」

「うふふふっ。アフよ」

アフ?

「アフはネズミが嫌いでしょ。で、それをネタに拷問したのよ」

拷問か。五右衛門じゃないぞ。石川。

「ふははは。なるほどな。アフのヤツが裏切ったのか。うぷぷぷっ。あははは」

まだ笑ってやがる。
あのオヤジギャグ、そんなに面白かったか?
あんまりディドーのヤツが笑ってやがるからこっちは醒めたっての。

滑稽すぎるぞ。ディドーよ。

「あははは。しかし何故、作者が妾だと分かったのだ?」

そそ。
メルよ。あの本に書いてあった弱点が何故、ウソだと分かったんだ?
ウソだと分かったからアフを拷問したんだろ?

「そんなのは簡単な事よ」

簡単な事?

「あの本は魔神器が創られる前からあった本だったのよ」

そうなのか。何で、そんな事が言えるんだ?

「原初の魔王の生い立ちが書いてあったのよ。つまり魔神器が創られる前の事よ」

生い立ちが書いてあった。
つまり原初の魔王がまだ、ただの魔王だった頃の事が書いてあったのか。
そうかッ!

「魔王。その顔は分かったようね」

メルの表情がまたあくどく変貌し、目が光る。

そうだ。
原初の魔王が魔王だった頃といえば、創世が成される前の世界の話だという事だ。
創世が成される前の世界の事を知っていて書けるのは……。

つまり魔神器を創ったヤツら。

「なるほど。分かったぞ。だったら冥府の六賢者以外いないよな」

「そうよ。でも作者がディドーかどうかは分からなかった」

メルが言う。

「おほほほ。うほ。笑いが止まらぬ。ヒィー。ヒィー。ちくしょう。ちくしょう」

だから、もう笑うの止めなさい。
興ざめだからさ。
うむ。

「だからアフに聞いたのよ。ネズミをちらつかせてね。誰が書いたのかを」

俺様は羨望の眼差しでメルを見つめる。
彼女の頭のテンコツにある癖毛は、真っ直ぐ天を突き刺していた。
自信満々に。

どうやらこの舌戦、メルの勝利で間違いないな。

今度こそ正真正銘の完全勝利だろう。

「で、ディドー?」

「な、なんじゃ。笑いが止まらぬわ。何てものを見せてくれたのじゃ。あははは」

「そろそろ笑うの止めてくれないかな。で、魔神器を直してね。命令よ」

いや。
今のディドーに笑うのを止めさせるのは至難の業だろう。
火がついたように笑っているんだからな。

この笑いが止められるは、俺様の言う寒いギャグくらいだろうな。

「アルミ缶の上にある蜜柑……」

「ヒィー。うふふふ。分かった。分かったから。もう止めてくれ。おほほほ」

だ、ダメだと!?
ディドーの脳みそは、どんだけ笑いに弱いんだ?
俺様の寒いギャグでも止まらんとは。

とほほだな。

もう冥府の六賢者の長としての威厳はどこにも見あたらないぞ。

……それから待つ事、三時間少々。

「……おほっ。おほっ。笑い疲れたわ。本当に何てものを見せてくれたのじゃ」

ディドーが、やっとこさ笑うのを止めてくれた。

「また反抗したら、もっと凄いのを見せるからね。覚悟しておきなさい」

メルのヤツ。
相変わらず手加減てものを知らないな。
ま、でも、それ位の方がメルらしくて、俺様は好きだがな。

「分かった。分かったから、もう勘弁してくれりゃ」

ディドーが言う。
力強く、もう金輪際、メルのスマッポは見ないと宣言するかのように。
またあの包み込むような母なる声で。

「ま、いいわ。で、魔神器、直してくれるの?」

「ふう。はあ。よかろう。直そうぞ。だが、その前に話しておきたい事がある」

今更、何だ。また面倒くさい事を言い出したら、スマッポの刑だぞ?

「我ら六賢者の立場じゃ」

立場だと?

「我ら六賢者が魔神器を創ったのは知っておろう?」

「知ってるわ。それがどうしたの?」

「我ら六賢者は実の所、魔神器を破壊してくれる輩を探しておったのじゃ」

えっ。
魔神器を破壊してくれるヤツを探していただと……。
どういう事だ。俺様達が魔神器を破壊して怒っていたんじゃないのか?

「今の原初の魔王には辟易しておる」

辟易しているとな?

「原初の魔王が今のままでは我らにとって都合が悪いのじゃ」

何か理由があるっぽいな。
ま、深くは聞かないが、都合が悪いんだろう。
で?

「ゆえに我ら六賢者は次の原初の魔王を迎えようと行動しておるのじゃ」

そうなのか。
何が問題なのかは分からないが、六賢者達は次の原初の魔王を探していたのか。
そして、その時、都合良く俺様が魔神器の一つを破壊したと。

「我らは待っておった。魔神器を壊してくれるような輩を。それが汝らなんじゃ」

そうなの?

「汝らは魔神器を破壊したな」

ああ。
破壊したのは俺様だ。
あの時は、どうしようもなくて、半ばやけっぱちだがな。

「ゆえに汝らを冥府に呼び次の原初の魔王になるだけの器があるか測ったのじゃ」

でも、何で破壊するんだ?
破壊してしまえば魔神は消えるが、原初の魔王の封印は解けないんだろう?
だから俺様達は魔神器を直してもらう為にここに来たんだぞ。

それを破壊するだなんて、どういう了見だ?

「魔神器は決して破壊できぬのじゃ」

はあ?
何それ。俺様が破壊したのは魔神器じゃなかったのか?
でも、めっちゃ強い魔神がいたぞ?
あれは魔神器だろうが。

「そうじゃ。原初の魔王になれる輩だけしか破壊は叶わぬ代物なんじゃ」

そう。
そうなのか。って、マジかよ?
もしかして俺様ってば、原初の魔王候補だったのか。

「嬉しそうな顔じゃな」

「いや、普通に嬉しいだろう。生まれついての原初の魔王候補だったんだからな」

顔のにやけが止まらない。
こんなにラッキーな事があっていいのだろうか。
俺様は、この世界の支配者、原初の魔王候補だったのだから。

「魔王。そうやって調子に乗らない」

メルが冷たい目で言った。
いや、でも普通に嬉しいだろうが。だってこの世の支配者、原初の魔王だぜ?
今、ここで、すぐにでも叫んで飛び上がりたい気分だぜ。

「にやけるのは後じゃ。本題はここから。心せよ。魔王とその従者よ」

とディドーが言った。
しかし俺様はまったく耳を貸さず、ずっと顔がにやにやしていた。
だって、この世で一番偉い原初の魔王様だからな。

同じ事を三回も言っちまったぜ。
よか。よか。よかたい。
やっほい。

「舞い上がっておるの。本当の地獄はこれからじゃというのに。やれやれじゃわ」

ディドーがため息まじりに言った。

~ レポート三十七、理由と立場、了。

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【 メルレポート、~ レポート三十六、しおれる 】

「汝の考えている事、そして、とるであろう行動は熟知しておる」

ディドーが厳かに落ち着き払い俺様達に告げる。
彼女にはメルの強気な理由や、その後、とるであろう行動が筒抜けだったのだ。
さすがに六賢者の長だけはある。

一筋縄ではいかない。

それでも引く事を知らないようにメルが強気に続ける。
その青い瞳をらんらんと輝かせて。
本当になんなんだ。
その自信。

相手は六賢者の長、ディドーだぞ。大丈夫か?

「知ってた所で、どうとなる訳じゃないし。君が怯えるだけの話よ」

……むう。
俺様にはメルの強気の理由がまったく分からない。
が、アフにネズミを見せてヤンキー化させた事が何かのヒントになるんだろうか。

「本当にそう思うか。甘いのはどっちじゃ」

ディドーも引く気配を見せない。

「君はそうやって高飛車に構えてなさいよ。後で吠え面をかくのは君の方よ」

こっちも引かない。
さて、一体、何をするつもりなんだろうか。
というか、俺様はこんな喧嘩を見る為に嫌々、冥府まで来た訳じゃないぞ。

うむ。二人は似たもの同士で、それが原因で仲が悪いのかもな。

ディドーが玉座から立ち上がる。
もう付き合いきれないと、退座しようと考えたのだ。
メルの目が光る。

「フフフッ。魔神器を直すのは命令って言ったでしょ。逃げさせたりしないわ」

「もう汝らには付き合いきれん。妾は自分の部屋に帰るぞ」

「だから逃げさせないわ。これは命令よ」

メルがスマッポを掲げあげる。

……それ?
メルが強気で、やりたかった事って、スマッポを見せる事?
何がやりたいんだわさ。さっぱり分からん。

「これは君の苦手なファンシーなイラストよ。おほほほ。ディドー、跪きなさい」

確かに。
確かにスマッポにはファンシーで可愛らしいイラストが表示されている。
そうか。アフはあんなに不細工なネズミにも弱かった。

そして、目の前のディドーはファンシーなイラストが苦手ってか。

なるほどな。
メルはディドーの苦手なものをも知っていたんだ。
多分、情報源はあの図書館で見つけた原初の魔王について書かれている本だろう。

メルは、そこから六賢者各々の苦手なものを読み取っていた訳だ。

さて。
ディドーにファンシーなイラストはどれほど効くのか。
さすがにイラスト程度では、アフに対してのネズミほどの効果は期待できないが。

「ぐおおおっ。可愛いイラストだと?」

およ。
ディドーさん、かなり苦しんでいるんですけど。
豊満な胸をかきむしり、あの冷静な顔が苦悶で歪んでるんですけど?

イラスト程度で?

あははは。アフもそうだったが、六賢者って意外に弱い?
もちろん精神的にって事だけどね。
勝ったな。

これはメルの完全勝利で、ほぼ間違いないだろう。

「フフフッ。あははは」

メルさん。
それはいくらなんでも馬鹿笑いしすぎ。
そんな目を手で覆って、上空を見上げるほどに面白い事ですか?

って、面白いか。

だってあの美人で聡明なディドーが苦しんでいるんだから。

なにせ、一時期は俺様の視線がディドーにいって、嫉妬を覚えた相手だからな。
その相手に完全勝利できれば、確かに痛快なのかもしれないな。
でも可愛い顔が台無しだぜ。
その馬鹿笑い。

「……クククッ。汝も甘いのう」

えっ?

「妾の弱点がそんなものだと思うたのか。間抜けじゃのう」

ディドー?

ディドーは下を向いたまま笑う。
途端、俺様とメルは心臓を何かに貫かれたように固まる。
笑い声は続く。

「汝らは大方、原初の魔王について書いてある本でも読んだのであろう?」

そうだ。
情報源はあの図書館で見つけた原初の魔王について書いてある本。
でも、それがどうしたというんだ。

お前ら六賢者各々の弱点も書いてあったというのに。

効かないのか?

「その本はな。妾が書いたんじゃ」

えっ?

俺様とメルが更に固まる。
事もあろうか、原初の魔王について書かれた本をディドーが書いたと言ったのだ。
衝撃的な事実で、まるで手のひらで踊っているような感覚を覚えた。

そう。

ディドーという策士の手のひらの上で。

「クククッ。作者不詳にする為に妾の弱点も書いておいたんじゃよ」

そうか。
まさか自分の弱点を書く作者はいないからな。
それでディドーの弱点も書いてあってメルはまんまと騙されてしまったのか。

「もちろんウソの弱点じゃ」

メルを見る。
メルの頭のテンコツにある癖毛がへなへなとしおれていた。
今、メルの頭の中には手がないという事か。

ちくしょう。やられたぜ。

「汝も愚かじゃのう。妾達は魔神器を創った集団、冥府の六賢者じゃぞ?」

でも……。
その冥府の六賢者の一人、アフはあれだけどな。
そそ。まだヤンキー化してて、一人で喧嘩上等とかわめき散らしてるけどな。

「アフよ」

「何じゃこりゃ。わりゃ、喧嘩上等か。やってやんぞ。コラ?」

ディドーの目が鋭くなる。

「汝も六賢者の一人であろうが。間抜けな姿を見せるな」

「うっ……」

って、ディドーさん?
あなたが書いた本にアフの弱点を記したのはあなたではないですかい?
ま、でも自分のだけしかウソにはできないけどな。

じゃないとウソがバレるからな。

とにかく、そんな用意周到なディドーにしてやられた訳だ。

どうする?
頼りの本がディドーの書いたものだとなると、もう俺様達に手はないぞ。
メルの頭のテンコツにある癖毛もしおれているし……。

もう、ギブアップしかないか?

メルの癖毛が、むくむくと盛り上がり、天を突くように立ち上がる。
まるでフェニックスのように死から力強くよみがえり。
やってやるぞと。

「何てね。この私の心がそんな事で折れるとでも思った? それこそ甘いわッ!」

メルが笑う。
その顔はめっちゃ邪で邪悪な表情(かお)だった。
って、もう打つ手がないんじゃなかったのか。メルはまだ死んでないのか?

「本命はこっちよ。タップッ!」

メルはそう言うと、スマッポに表示されていた画像をタップした。

「いきますッ! いいズラ買ったの言い辛かったの?」

お、オヤジギャグ……。

「二発目、いきますッ! お食事券の汚職事件」

ぐほっ。

「三発目、いきますッ! 戦車の洗車」

く、くだらねえ。

「うぷぷぷっ。そのファンシーさから移行されるギャグの連発。クククッ……」

およ。
ディドーが笑いをこらえられないと大ウケしているぞ。
さっきまで立っていたのに、今は片膝をついて、必死に笑いをこらえてる。

なんだ。ディドーは笑い上戸か?

「あははは。いいズラ買ったの言い辛かったのだと。あり得んぞ」

遂に寝っ転がって、腹を抱え大笑いを始めるディドー。
笑いすぎて呼吸が苦しそうだ。
美人が台無しだ。

「ヒィー、ヒィー。戦車の洗車だと。何だそれは。あり得ん。あり得んぞッ!」

ま、今回はメルに軍配が上がったのかもな。

何故って?
可愛い顔して邪悪な表情を浮かべたそのアンバランスさに一票なのだ。
俺様の可愛い女センサーはそう叫んでいるのだ。

そう。漢(おとこ)の魂の叫びだ。

魂斗羅。

「魔王。君、またふざけてるでしょ。真面目にやりなさい」

とメルが俺様を睨んだ。

~ レポート三十六、しおれる、了。

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【 メルレポート、~ レポート三十五、熾烈な舌戦 】

「さて、では、そろそろ本題に入るとしようかのう」

ディドーは今だ頭巾を脱いだままで、紫紺の髪をあらわにしている。
また魅惑的な緑色の瞳で力強く俺様達を射貫く。
やっぱり美人だ。

ただし六賢者なのだ。
人を小馬鹿にする事にはかけては長けていると思われる。
絶対に油断をする訳にはいかねえぞ。

それに美人さだったらディドーに軍配が上がるが、可愛さだったらメルの勝ちだ。

可愛さを全力支援するッ。

「そうね。そろそろ迎えの使者を遣わせた理由を教えて欲しいわ」

メルの青い目が光る。
頭のテンコツにある癖毛が背筋を伸ばすようにピーンと真っ直ぐに立っている。
癖毛が立っている時、メルの頭の中には策がある。

大丈夫だ。

メルに任せておこう。

上品な細工が施された玉座にゆったりと座っているディドー。
その対面に並ぶように俺様とメルが立っている。
アフはその後ろにいる。

「この度、汝らは魔神器を見事に破壊したな」

ゆっくりと口を開くディドー。

「そうよ。でも君は、そんな事で私達を冥府に呼んだ訳じゃないでしょ?」

おい。おい。
メルよ。何でタメ口なんだ。いいのか?
ディドーのヤツは曲がりなりにも冥府の六賢者の長なんだぞ。

って、魔王にもタメ口か。

そうだったな。
メルのヤツはこの魔王様にタメ口どころか鉄拳制裁までやるようなヤツだった。
その横柄な態度は今に始まった事じゃないか。

対して、上品に笑うディドー。

「ま、急くな。ゆっくりと順を追って話そうぞ。よかろう?」

「ちっ。甘かったか。乗ってこないわね」

メルが小さな声で言う。
およ? その横柄な態度は、いつものメルじゃなかったのか。
俺様はまたメルの頭のテンコツにある癖毛を見る。

ピーンと背筋を張って立っている。

大丈夫だ。

「汝らは魔神器を壊し、その後、どうしようと思った? ただの苦し紛れか?」

ディドーが言葉をゆっくりと繋ぐ。
その態度はメルのタメ口より横柄で、まるで俺様達を相手にしていなかった。
さすが人を小馬鹿にする事が得意な六賢者の長だけはある。
メルが恭しく答える。

「魔神器を創った人がいる事を知っていました」

メルのヤツ。
どうやら路線を変えたようだな。
今度はうって変わって、控えめな言葉と態度をとっている。
この何気ない会話のやり取りでも策略の火花が散っているといった所だろうか。

まさに策士同士の会話だな。

「うむ。創ったヤツらが直せると、そう踏んだのか?」

「そうです。そう思いました」

「では聞くが。壊した魔神器をそいつらが簡単に直してくれると思ったのか?」

ディドーの口調がやや厳しくなり、俺様は腰が引ける。

メルの口の端が上がる。
そして、彼女は謳うような声で、ディドーにしっかりと答える。
まるで、要所はしめるよと言わぬがばかりに。

「そうは思っていませんでした」

「では何故、壊した? もしかしたら未来永劫、直せないかもしれないのだぞ」

矢継ぎ早にディドーが厳しい口調で畳み掛ける。

「それはないと思っていました。何故なら……、ね。アフ」

後ろに控えるアフに目配せをする。
突然、話を振られたアフは彼女が何を言いたいのか分からず戸惑った。
俺様にもまったく分からない。何故、今、アフなんだ?

「ネ・ズ・ミよ」

とメルがスマッポのストラップの一個、取り出す。

「ネ、ネズミだと? テメェ、何、考えてやがんだ。喧嘩上等だぞ。コラ?」

忘れてた。
アフはネズミを見るとヤンキー化するんだった。
また白テープだとか、ハクいとか訳の分からん事を言い出すんじゃないだろうな。

「フフフッ。ディドー、君、この意味分かる? 分かるわよね」

メルが思わせぶりにほくそ笑む。
そして、またいつもの鉄拳を飛ばすような横柄な彼女が出てきた。
何が起こってる?

「シカトこいてんじゃねえぞ。ばっくれる気か。とっくにこっちは上等じゃ」

アフ、うるさい。退場。

「……妾を脅迫するつもりか。メルとやら」

初めて名前を呼んだ。
メルは横柄になったのに、それでもディドーが名前を呼んだぞ。
それは俺様達をまるで相手にしていなかったディドーが俺様達を認めたって事だ。

そんくらいは馬鹿な俺様でも分かるぜ。

でも何が起こったんだ?

「脅迫? チチチッ。甘いわ。脅迫じゃなくて命令よ」

おい。おい。
メルよ。何でそんなに強気なんだ。
俺様達は魔神器の魔神に敵わないから魔神器を壊したんだぜ。

そんな俺様達が冥府の六賢者に敵うつもりなのか?

「……やれやれ。とんだ小虫が冥府に迷い込んだもんじゃのう。命令だと?」

ディドーが大げさに額を手で覆い言う。
ま、当然な反応だわな。ハッキリ言おう。俺様達は驚くべきほど弱い。
自慢じゃないがな。

「そこ。変な事を自慢しない」

メルが睨む。
うむ。俺様達は信じられないほど弱いぞ。自慢じゃないがな。
メルの頭のテンコツにある癖毛を確認する。

大丈夫だ。

天を突くように立っている。

でも何であんなにも強気なんだよ?
ディドーが言った脅迫とは一体、何の事を言っているんだ?
分からない。

「いつまで、その余裕な態度が続くかしらね。私は知ってるのよ。甘く見ないで」

知ってる? 何をだよ?

「妾は六賢者の長。そんなものには屈せぬわ」

ディドーも引かないな。さすがにどっちも策士だけはあるな。
ま、俺様達は驚異の弱さだがな。
自慢じゃねえぞ。
コラ?

「本気(まじ)じゃ。ぶっ込むぞ。忘れんなや。コラ?」

だからアフ、お前、うるさい。

*****

……と、策士同士の火花が散っている時。
玉座の間の奥にあるマンサの研究ラボで、マンサが歓喜の声をあげた。
そう。

マンサがあの暗い部屋で計算ミスの原因を探していたのだ。

そして原因が解明できたのだ。
それは魔王の本名が、カトゥー・チャンペだったという事に由来していた。
何故ならカトゥー・チャンペという名を持つ人物は……。
ディドーは実の所、その事実を知っていた。

本名を知っていたのだ。

彼女が六賢者の長であるが故に。

「そういう事だったのか。なるほどな。だからディドー様は……。あははは」

とマンサが笑った。
まるで裏切られたと言わぬがばかりに。
そして、今度はこっちの番だと、宣戦布告するかのように。

不穏な空気が辺りを支配した。

~ レポート三十五、熾烈な舌戦、了。

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【 ギネス認定おめでとうございます 】

累計発行部数五億冊。あの漫画を超えギネスに認定。ただし全部、自分で買った。

ギネス認定おめでとうございます、了。

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【 メルレポート、~ レポート三十四、メルの洞察力 】

「一番最後の幻術の意味を説明する前に言っておく事があるわ」

メルが白魚のような手で俺を指さし言う。
これこそが一番大事なのだと。
何だよ?

「ディドーの計算は私達と初対面した時からすでに始まっていたのよ」

計算は出会った時から始まっていたって?

「ディドーは美人だったでしょ。今もそうだけど」

ディドーを見る。
彼女はあの白い頭巾を脱いで綺麗に肩の辺りで切り揃えた紫紺の髪をかき上げる。
紫紺の髪と対照的な緑色の瞳で俺様をジッと見つめて。
やっぱり、見紛う事なき美人だ。

また鼻の下を伸ばした。

「フフフッ」

ディドーが無言で微笑んだ。
そして彼女から甘く誘うようないい香りがただよってくる。
いい女だ。

まるで名画を見ているような錯覚すら覚えてしまう。

「馬鹿ね。それもディドーの計算の内なのよ」

メルがムッとして吐き捨てる。
ぬう。計算だと?

「まだ分かってないようね。いいわ。丁寧に説明してあげるわ」

俺様は一旦、ディドーから視線を外しメルを見る。
メルが何を言いたいのか考えたのだ。
説明よろしくと。

「魔王。君の意識をディドーに持っていく為よ。どういう意味か分かる?」

意識を持っていくだと……、それに何の意味があると言うのだ?

「嫉妬させる為よ。そして、その後への布石」

嫉妬……。

「嫉妬させ、冷静な判断が下せないようにするのが一つ」

メルよ。
俺様に嫉妬してくれたのか。
今まで単なるブサメンの一人だとしか見てくれてないと思ってたぜ。

それが嫉妬って。

つまり、メルは俺様に気があるって事でいいのか?

やっほい。
女日照りで乾いていた俺様の体に潤いがよみがえってくるぞ。
しかも、メルという極上の潤いがな。

「メル。熱き抱擁をしてやるぞ。うはははっ」

俺様はルパン顔負けの飛び込みで、メルへと向かった。
もちろん服を脱ぎ捨て、パンツいっちょで。
不二子ちゃ~ん。

「はい。そこ発情しない」

鉄拳がヒットした。

「……たくっ。十六連コンボじゃないだけ感謝しなさいよ。本当に馬鹿ね」

頭には大きなコブができて、そこから煙が立ち上った。
相変わらず冗談の通じないヤツだな。
痛たたたっ。

「黙って聞きなさい。大事な所なんだからさ」

俺様にとってメルが嫉妬したという事実の方が比べるまでもなく大事なんだがな。

「黙って聞く気ある?」

その拳に浮かぶ怒りマーク……、はい。ごめんなさい。

「その顔は分かったようね。次はないわ。十六連コンボでボコボコにするわよ」

メルは可愛い分、怒ったら怖い。
そして、その華奢な白魚のような手で鉄拳制裁される。
が嫉妬した時、お得意の鉄拳は飛んでこず、まるで変態を見るように睨んでいた。

真面目に怒った時は鉄拳制裁されないのだ。

その時が一番、まずい訳だ。

何となくディドーに見とれていた時のメルの気持ちが分かった気がした。
あの時、彼女は見とれる俺様に呆れ果てていたのだ。
そうか。そういう事か。

つまりあの時、メルの心の中は怒りを通り越し呆れ果ててた訳だ。

呆れ果てていたから冷静な判断が下せなかった訳だな。
なるほどよく考えられた策だ。
納得したぞ。

「ぬう。大体、分かったぞ。でも後に続く布石ってどこら辺が布石だったんだ?」

「まだ分からないの。魔王。君、脳みそ入ってる?」

お前は六賢者か。
人を小馬鹿にする所はそっくりだ。
もしかして、六賢者の影の黒幕はメル、お前ではあるまいな?

「いいわ。説明してあげる」

ちょっとムカツクが、ま、聞いてやろう。

「一番始めに私が醜くなったわよね。あれは私の策を封じる為だと言ったわよね」

そうだな。
ディドーの一番始めの幻術でメルが醜く肥え太ったな。
それとメルの嫉妬とどう繋がるんだ?

「目の前に美人がいて、自分が醜くなったらその自分はどんな気持ちだと思う?」

そうか。
嫉妬するほどの美人が目の前にいて、自分が醜くなったら。
例えるならレースで一位の車に追いついた時、トラブルが起こるようなもんだな。

その後、悠々自適に走り去っていく一位を為す術なく見送るようなもんだ。

そうなったらトラブルを恨み、めっちゃ焦るわな。

例えが下手だがな。
とにかく、やっと追いつきそうになったのにトラブルのせいで悔しい思いをする。
そういう事か。何となくだがメルの言いたい事が理解できたぞ。

「そして最後の紅蓮の焔に繋がるのよ」

なるほどな。
よく考えられた計算だな。
ディドーよ。さすが冥府の六賢者といった所か。

「メルとやら、よくぞそこまで妾の策を見破ったな。褒めてつかわそう」

黙っていたディドーが口をはさむ。

「フフフッ。そうですよ。メルさん。なかなかの洞察力ですね」

アフが続く。
メルは六賢者二人の言葉を受けて、ほくそ笑む。
まだ褒めるのは早いわ。ディドーの策のカラクリは解ききっていないんだからと。

「そして、最後の幻術は君の覚悟を見る為の陽動だったのよ」

陽動だと?

「陽動よ。その後に続く幻術があったの」

そうなのか。
でも覚悟を見るって、何の覚悟を見る陽動だったんだ?

「私達が本気で原初の魔王の完全復活をさせる覚悟があるかどうか測ったのよ」

……。

「この先、どんな事が起ころうと完全復活させる気があるかどうかよ」

そういえば格好つけて言ってしまったな。
めっちゃ恥ずかしい事を。
あれか?

『だから俺様はどんな事になろうと絶対にあきらめねえ。魔王の名にかけて』と。

でも、あれはメルを助けるって意味だったんだがな。
それでも、あきらめないって意味では同じ事なのかもしれないがな。
メルが言葉を続ける。

「魔王が覚悟を示したから紅蓮の焔に続く幻術は発動する必要がなくなったのよ」

そうか。
やっと何となくだが、ディドーの計算の全貌は見えてきたぞ。
それを見破ったメルもさすがといった所か。

「で、陽動が陽動で終わったの」

「そうか……」

もし仮にあそこで勇者顔負けに格好つけていなかったら本当に殺されていたのか。
だから紅蓮の焔は覚悟を見る為の陽動で、その後があった訳だ。
今考えると綱渡りだったんだなと痛感する。
メルが微笑む。

「だから格好良かったぞって言ったのよ。今、前言撤回するけどね」

撤回するなッ。
確かにまたディドーに見とれていたけどさ。
それでも、俺様はがらにもなくめっちゃくちゃ頑張ったんだし。本当に頼むよ。

「俺様、頑張ったんだし前言撤回するなよ。泣いちゃうよ」

「ウフフフッ。考えとく」

とまた笑った。

~ レポート三十四、メルの洞察力、了。

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【 ゲゲゲッ 】

トイレに行って、手を洗わない歯医者。

ゲゲゲッ、了。

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【 メルレポート、~ レポート三十三、策士ディドー 】

「メルさん」

アフが優しげに話しかける。
メルはいつものメルに戻り、その愛らしい口で答える。
さっきまでの醜いメルを見た後だと、当社比十割り増しくらいで可愛くみえるぞ。

ギャップだな。うん。

いや、メリハリというヤツか。分からんが。

「ディドー様の計算に見事にハマりましたね。ご愁傷様です」

計算だと?

「どうやらそのようね」

おいおい。
メル。何を平然と答えているんだ。
さっきの幻術にはアフの言うその計算とやらが隠れていたのか?

「フフフッ。その様子ですと冷静になった今では分かりますか。さすがです」

「それ位は分かるわ。でもまんまとやられたわ」

何だよ。二人して。
ディドーはただ単に俺様達を幻術にハメただけじゃないのか?
そこには俺様が気づかない計算があったのか?

「フフフッ。ディドー様の幻術は最強です。ディドー様が使う限り」

策を弄する策士ディドーが使う幻術。
だからこそ幻術の効果が余す事なく、その力を存分に発揮できるって事か。
確かに最強かもな。

だが、そんな事はどうでもいい。お前らの態度が気にくわねえ。

「魔王さん?」

俺様は一人、仲間はずれされた事でふて腐れていた。

「もしかして気づいていないんですか?」

笑いをこらえるようにアフが言う。
やっぱり六賢者というヤツらは全員、人を小馬鹿にするのが上手いな。
アフしかり。

「魔王。気づいていないようだから説明してあげるわ」

メルが頭のテンコツにある癖毛を揺らし言う。

ま、メルは可愛いぞ。うん。
だが、それは分かるが、それ以上でもなければ、それ以下でもないわ。
ハン。この俺様に説明だと? 説明などいらぬわ。

話しかけるな。

「あらら。魔王さん、本格的に怒り始めたようですね。どうします。メルさん?」

うるさい。うるさい。
計算の話などアフとメルの二人でやっていてくれ。
今は久しぶりに勇者顔負けに熱くなってしまった自分を反省するべき時なのだ。

そうだ。

そうなのだッ!

俺様は魔王でありながら勇者顔負けで熱く燃えてしまったのだ。
悪の化身であり、怠惰の象徴である俺様が。
これは由々しき問題だ。

ピンチに陥った時はカネで解決するか、身代わりを置いて逃げるのが俺様なのだ。
いや、それとも人質をとって、無抵抗な相手をボコるかだな。
迷うが、とにかく魔王は極悪なのだ。

卑怯、卑劣は誉め言葉。

それが魔王だ。
できるだけ姑息に、できるだけ悪辣に生きるのが魔王という生き物なのだッ!
そんな俺様が何を考えたのか熱血してしまったのだ。

覚悟というアフの言葉に反応して。

不覚。
アフを恨めしそうに見つめ、自分自身がしてしまった事を反省した。
もう二度と熱血はしないと心に固く誓いつつ。

ま、どうせ格好つけた所で俺様はブサメンに過ぎないしな。

「でも格好良かったぞ」

うん? 何、何と言ったんだ。メル。

「さっきの魔王は私をかばってくれて絶対にあきらめないって。格好良かったぞ」

語尾のぞは反則だ。
可愛い子が言うと途端に可愛さ指数がパネェ。
思わず、俺様のガラスのハートがときめきだして、一気に期待感が膨らむぜ。

もうブサメンは卒業できたのか?

そうだ。うおおお。今までブサメンでしかなった俺様が。俺様が。
メルに格好良かったぞと言われてしまったぞ。
天にも昇る思いだ。

ほっぺたをつねってみる。

もしかしたらまたディドーの幻術かもしれないと疑ったのだ。
幻術がほっぺをつねる事で解けるのかは知らない。
知らないが、できる事をした。

おほほほっ。

「フハハハッ。安心せい。妾の幻術の発動条件は喝という言葉が必要なのじゃ」

黙っていたディドーが口をはさむ。

そうなのか。
確かにさっきディドーは事ある毎に喝と言っていたような気がする。
という事は……これは幻術ではなく、現実なのか。

うおおお。
やっぱり俺様はブサメンを卒業できたのだ。
これが喜ばずにいられるか。

「ま、これで晴れてブサメンは卒業ね。おめでとう。魔王」

メルが言う。
俺様は満面の笑みでメルを見つめる。
そうなのだ。これからは俺様の時代なのだ。そう。イケメンになった俺様の。

「じゃ、君はこれからチン子チチ丸ね。よろしく」

国木田独歩ッ!
イケメンじゃなくて、そっちかッ。
つうか、そのネタ、いやに引っ張るね。作者のお気に入りか?

「そうですよ。計算の話です。その話をしなくていいんですか? メルさん」

「そうね。文字数もなくなってきたし、話そうか」

文字数って……。

「魔王。聞いて。大事な事よ」

何だよ。ブサメンを卒業できても結局、チン子チチ丸でしかないんだろ?
でも何を話したいんだ。ま、聞いてやらんでもない。
格好いいぞと言われたしな。
うん。

「ディドーはまずいの一番に私を醜くしたわ。幻術をかけてね」

何でだ?
分からんぞ。意味などないだろう。
たまたまメルが目に入って可愛かったから嫉妬したとか?

「それは私の頭脳をシャットダウンする為よ」

頭脳をシャットダウン?

「つまり私を混乱させ、策を考える事ができないようにしたのよ」

そうか。
茶坊主と戦った時もそうだし、ブタピックの時も結局、メルの知恵で勝ったんだ。
その知恵を授けられないようにした訳だ。メルを醜くする事で。
メルは自分でも容姿には自信があるんだろう。

下手に自信がある分、それが損なわれると大いに混乱してしまう訳だ。

そして俺様達の策を封じた。
メルを混乱させる事で、知恵袋を奪った訳だ。
なるほど。

「そして次にディドー自身が変化(へんげ)したのよ。おどおどろしい赤鬼にね」

そうだったな。
メルが醜くなった後、ディドー自身が赤鬼に変化したんだった。
でも、何の為にだ。何で次にディドー自身なんだ?

「ディドーは美人だったでしょ」

「おう。そうだな」

「美人が赤鬼になる。つまり語尾のぞ効果よ。さっき私が使った効果ね」

何だよ。
その語尾のぞ効果って。
確かに語尾のぞは可愛い子が使うと可愛さ指数がパネェが。
それにしても、そんな語尾のぞ効果なんて言葉はこの世のどこにもないと思うぞ。

「簡単に言うとギャップよ。ギャップ」

ギャップだと?

「女の子が男の子みたいにぞって言うとドキッとするでしょ。それがギャップよ」

だから語尾のぞ効果か。でもこれはメルの造語だな。
そういえば、醜いメルを見た後に可愛いメルを見たら当社比十割増しだったな。
あれも、それか? 多分……。

「ディドーの幻術に当てはめると、美人が赤鬼になるって事は……」

そうか。
分かったぞ。美人だった分、怖さもパネェって訳か。
それで俺様を追い詰めた訳だな。

俺様を精神的に追い詰める為、次は自分自身の変化が必要だった訳だ。

「その顔は分かったようね。じゃ、次にいくわよ。いい?」

「おう。いいぜ」

最後は紅蓮の焔とやらで燃やされたんだったな。

「最後の幻術を説明しようと思ったんだけど……残念。文字数が足りないわ」

だから文字数って。
百歩譲って、その文字数が足りなかったとしよう。
足りなかったとしても、作者、四草めぐる氏が勝手に決めた文字数だろうが。

そんなものオーバーしても良くないか?

「魔王が一人で、意味のない事を熟々と考えるからよ。分かってる」

おいおい。
俺様のせいですか?
お前、作者から賄賂でももらってないか?

「お主も悪よのう。メル屋」

と、どこからともなく謎の声が聞こえたような気がした。

~ レポート三十三、策士ディドー、了。

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【 メルレポート、~ レポート三十二、覚悟 】

「フッ。笑止。外見に騙されるようなヤツは信用に足りぬわ」

ディドーが失笑し、俺様を見下すように言う。
どうも六賢者ってヤツは、みんな、他人を小馬鹿にするのが得意らしいな。
俺様がカチンとくる。

いや、確かに美人だと浮かれていたのは、この俺様だ。

が、それでも……。
俺様は誇り高き魔王であり、そして、いまだに支配者だと自認している魔王様だ。
いくら六賢者の長であるディドーの言葉だろうと聞き捨てならない。
我が愛刀、死斑剣で成敗してくれるわ。

「フッ。妾に逆らうつもりか? 魔王よ。愚かなり。あははは」

ヤツは美人だ。
しかし美人な高慢ちきほど手に負えないヤツはいない。
一度、その鼻っ柱を叩き折ってやらないと、ヤツ自身の為にもならないな。

冷気をまとった死斑剣を握った。

渾身の力を込めて。
もちろん秘の太刀、雪の斑月を叩き込む。
雪の斑月こそが今持ち得る俺様の最大の奥義なんだからな。

ヤツには礼を尽くし奥義で応える。

「フッ。では、まずは汝の大切なものを頂くとしようか。喝ッ!」

な、なんだ。
喝ッ! のかけ声で、一瞬、目の前が揺らめいたような気がしたが……。
まるで陽炎のように一瞬、景色が歪んだが、何だ?
ディドーのヤツ、何をやったんだ。

メル、大丈夫か?

「魔王。私、どうしちゃったの。何で、こんな事に……」

メルッ!

「私、どうしちゃったの。何で……」

メルの可愛い顔が、ぱんぱんに醜く肥え太っている。
頭のテンコツのあの愛らしい癖毛もその存在が分からない程、髪が爆発している。
青い目も白く濁っている。

何だ、この可愛らしさの欠片もないメルは。

「いや。魔王。見ないで。私、本当にどうしちゃったの」

ディドーの仕業か?
俺様は間髪入れず、ディドーを睨む。
厭らしい笑顔を浮かべ、何事も忘れるように恍惚としているディドー。

「フフフッ。魔王とやら妾の正体を見せてやろうか?」

おもむろに言う。
正体だと。その前にメルを元に戻せッ!
いくらお前が女だろうと、メルにこんな事をするなんて、ぶん殴るぞッ!

俺様はいつになくマジだぜ?

「ま、そんなに急くな。妾の正体を見てからでも遅くはなかろう」

うるせえ。
俺様はボコボコの半殺しでもいい。
だがな。メルにだけは手を出すんじゃねえぞ。コラ?

「クククッ。妾が美人に見えたのであろう。ではこんなのはどうだ? 喝ッ!」

また一瞬、視界がグラグラと揺らぐ。
頭がずきんと痛くなり、思わず額に手を当て、うずくまる。
今度は何だ?

「あははは。これが妾の正体だ。どうだ? 魔王よ。畏れ入ったか?」

ぐほっ。
目の前にいるのは筋骨隆々の赤鬼。
口からは牙がのぞき、その口元からはよだれが垂れている。

「ぐははは。喰ってやろうか。死ね。魔王よ」

殺られる。

さすがは六賢者の長。
あの美人の正体が、こんなに危険な生き物だったとは。
俺様の奥義、秘の太刀、雪の斑月じゃ到底太刀打ちできないようなヤツだ。

このままでは、や、殺られる。

本能が叫ぶ。
醜くなったメルを抱えると、この場から逃げようとした。
しかし、足が上手く動かずもつれ、その場に倒れてメルを投げ出してしまう。

完全に打つ手がなくなった。

慌てて、キョロキョロと辺りを見渡す。
そうなのだ。情けない事に俺様はアフに助けを求めていたのだ。
六賢者であるアフに。

事もあろうかディドーの仲間であるアフに。

「ちくしょう。俺様は絶対に死ねないんだよ。死にたくねえ」

目から絶望の涙を流しつつ。
視線が泳ぎ、なかなかアフがいる位置を掴めない。
それでも俺様は必死にアフを探し、そして、助けを求めようとしていた。

「あれれ。魔王さん。貴男の覚悟はそんなものなんですか?」

アフが茶化すように言う。

覚悟……。

ディドーに会ってから衝撃的な出来事ばかりで、俺様の頭は完全に混乱していた。
が、その回らない頭で、必死に考える。
そうだ。

俺様は冥府に来て、更に一段階強くなる為の修業をするつもりだったんだ。

アフは招待こそすれど、歓迎はしている訳ではないと言っていた。
そして、そんなに簡単にいきますかとも言っていた。
それは、これの事だったのか。

覚悟……。

「魔王。もういいわ。君じゃ、こいつらには敵わない。何とか逃げよう」

メルは醜くなってしまった。
あれだけ可愛かったメルが見るも無惨な姿になってしまったのだ。
今、逃げ出して、それでどんな解決方法がある?

メルよ。

お前はこの先、ずっとそんな醜い姿で生きていくつもりなのか。

俺様は嫌だ。
いや、醜くなったメルが嫌なんじゃない。
そうじゃなくて、メル自身が納得できない生き方になるのが嫌なんだ。
俺様は自信を喪失したまま生きるメルを見たくないんだ。

だったら俺様はどうする?

簡単な事だぜ。
あの赤鬼ディドーに一撃を入れて認めてもらう。
そして、呪いを解いてもらう。

いや、呪いと決まったわけじゃないが、その類の術を解いてもらうしかねえ。
たとえ俺様がぼろぼろの半殺しにされようとな。
そうだぜ。

今こそ、俺様の覚悟を見せる時なんだ。

「覚悟か。そんなものディドー様の前には無力。あきらめよ。魔王とその従者よ」

俺様が燃え上がる。
汗腺という汗腺から炎を立ち上らせ、立ち上がる。
目には覚悟という火を灯し、何があっても倒れないという決意の下に。

また炎を吐くように言葉を紡ぎ出す。

「ディドー。俺様は絶対にあきらめねえ。決して敵わなくてもな」

熱血。
そういわれても仕方がない。
俺様という魔人は、熱血なんてものがこの世でもっとも嫌いなんだがな。
しかし、今は、そんな甘い事を言ってられない。

メルは参謀であり、従者なんだ。そして俺様を信じているんだ。

信じてくれるヤツを裏切る訳にはいかねえ。

つぅ。
また魔王らしからぬ事を言ったな。
しかし、この時、俺様は俺様でも信じられないような気持ちになっていたんだ。
俺様は、勇者の気持ちが少しだけ理解できたような気がした。

「まだあきらめぬか?」

「だから俺様はどんな事になろうと絶対にあきらめねえ。魔王の名にかけて」

「良かろう。では燃えているついでに、本当に燃えてくれ。喝ッ!」

また目がかすみ、一瞬、目の前の景色が歪んだ。
ディドーの正体不明の技だ。
今度は何だ?

くっ。
手のひらから黒い炎が立ち上り、俺様を焼き尽くそうと燃え始めたぞ。
燃え始めた手はすでに真っ黒に焼き焦げ、骨が見えていた。
くおっ。今度は炎か。

「紅蓮の焔は聞いた事があろう。地獄の業火じゃ。焼き尽くすまで決して消えぬ」

負けねえ。
メルは俺様を信じてくれている。
それが分かるように、さっきから黙って俺様を見つめている。

全てを託しているんだ。

「燃え尽きようと俺様は負けねえぜ。いや、むしろ今、この瞬間、燃え尽きる」

もちろん燃え尽きるとは焼き焦げるわけじゃねえ。
俺様の覚悟を見せつけるのだ。
この命を燃やし。

俺様は骨が見えている手で、何とか死斑剣を握り、ディドーを討とうとした。

「……紅蓮の焔もものともせぬか」

「うるせえッ!」

「フフフッ。どうやらただの馬鹿者ではないようじゃのう」

ディドーが言う。
またあのお話を読んでくれる母のような声色で。
俺様は決して警戒を解かなかったが、自然と死斑剣を握る手が降りた。

「良かろう。汝のその覚悟汲み取った」

何? 今、何と言った?

「喝ッ!」

目の前がグルグルと回った。
そして時が巻き戻されるように、メルが元の可愛らしいメルへと戻っていった。
もちろんディドーさえも赤鬼からあの美人へと戻っていた。

何だ?

何があったんだ?

「フフフッ。妾は幻術使いじゃ。つまり今までの出来事は全て夢、幻よ」

とディドーが、全てを悟ったかのように荘厳に言った。
アフは決して微笑みを絶やさなかった。
メルは泣き笑っていた。

「夢、幻」

俺様は呆気にとられ、そう言って言葉を失った。

~ レポート三十二、覚悟、了。

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【 メルレポート、~ レポート三十一、嫉妬 】

マンサと別れた後、アフの案内で六賢者の長がいるという宮殿に向かった。

六賢者の長は女だと聞かされている。
ま、女と言ってもな。冥府の六賢者というムサメン達の長なのだ。
ぶちゃいくだろう。

正直。

……期待はせん。

それにしてもマンサという男、不躾なヤツだったな。
いきなり現われて、言いたい事を言って、さっさと退場しやがった。
結局、名乗らなかったしな。

「アフ」

「何でしょうか。魔王さん。もしかしてマンサの事ですか?」

アフのヤツ、察しがいいな。

「ああ。そうだ。あいつはいつもあんな感じなのか。俺様は魔王だぞ。失礼だぞ」

アフが微笑む。
怪しさを感じるような表情で。
マンサもマンサだが、アフも信用できるようなヤツじゃねえな。

「フフフッ。あのマンサの態度、不快ですか?」

「不快なんてもんじゃねえよ。あれは怒りを覚えるレベルの失礼さだったぞ」

「クククッ。そうですか」

というかアフ、お前の態度にも怒りを覚えていいか。
俺様は気が長い方じゃないからな。
でも怒るだけ。

それ以上は逆に俺様が殺されて終わるような気がして仕方がない。

少なくも目の前にいるアフにも勝てない。
そして六賢者のヤツらは軒並みアフレベルの強さを持っているんだろうと思う。
勝てる訳ないね。

あの馬鹿魔人、ブタピックとは比べものにもならないだろうな。

「クククッ。笑えますね」

アフよ。お前は一体、何を笑っているんだ。
もしかして、俺様の弱さか。
そうだろう。

結局の所、マンサもそうだったが、アフも俺様を馬鹿にしているんだろう?

「あははは。何て面白いんだ。これが笑わずにいれますか?」

くそっ。
殺してやりたいが俺様は弱い。
今、アフのヤツを怒らせちまったら、その瞬間に塵に変えられちまうぜ。

「……チン子チチ丸。何て素晴らしいセンスなんだ」

そっちかいッ!

「まるで言葉のアートだ。メルさん、貴女が考えたんですか? 素晴らしい」

おい。メル。
何とかしろ。この馬鹿者を。お前、お得意の鉄拳で制裁しろッ。
おろ? おい。おいったら。メル。

何を考えているのか、メルはうつむいて笑っていた。

何を考えているんだ。
というかお前は俺様の参謀なんだぞ。俺様の言葉を無視するとは何事か。
そこに直れ。俺様の愛刀、死斑剣で叩き斬ってくれるぞ。

「皮ムキ皮ゾウ」

「ぐはっ。メルさん。それはチン子チチ丸を超える超絶アートの炸裂ですか?」

くはっ。テメエら、ぶっ殺すぞ。

……って、アフもメルすらも怖くて絶対に言えないけどな。てへぺろ。

とか馬鹿な事をやっている間に例の宮殿に着いたぞ。
何とも偉そうな感じがする宮殿だな。
白亜の壁がうぜえ。

中には豪勢なシャンデリアとかあるんだろうな。

で、壁には有名な魔人が描いた絵とかがどどんっと飾ってあってだな。
調度された家具が調えてあるんだろう。
もちろん豪華なヤツ。

うむ。この宮殿、俺様全盛期の頃の魔王城に負けず劣らずとみた。

生意気だ。
冥府の六賢者としても魔界に住む魔人の一人にすぎんのだ。
俺様は魔王で、魔界の支配者であるぞ。
元だがな。悲しいが。

「……魔王。何、一人で、ぶつぶつ言ってるの?」

メルさん。目が怖い。

「何でもございません。はい」

悲しいな。
泣いてもいいか。マジで。
そんな俺様を引きずるようにメルとアフが宮殿へと足を踏み入れる。
ま、宮殿の中は俺様が予想した通りだった。

な、生意気なッ!

「だから何よ。魔王。君、一人でやってて楽しい?」

「はい。楽しくありません。済んません」

しくしく。
と、俺様が泣いていると宮殿の壁を揺らすようなかん高い声が響いた。
遂に六賢者様の長、ご登場か……。

「お初にお目にかかる」

でけえ声だな。
ただ、そのでかさすら不快さを感じさせない声色だった。
メルの声色が謳うならば、目の前のヤツの声はお話を読んで聞かせてくれる母か。

「お前が六賢者の長か。魔王である俺様に何用だ?」

六賢者の長であるディドーが目の前にいる。
ディドーは六賢者の中で唯一の女であり、頭脳はメルをも凌ぐと聞かされていた。
アフは微笑んでいる。

頭に白い頭巾を被っていて、左右にカラフルな鳥の羽をあしらってある。

目鼻立ちはハッキリとしていて美人の部類に入るだろう。
メルは可愛いが、ディドーは美しい。
どっちがいいか悩む。

ハッキリ言って美人だ。コラ?

「魔王。何、鼻の下伸ばして悩んでいるのよ。だから君はダメなのよ」

ダメって……俺様がブサメンって事か?

でもメルでも嫉妬するんだな。
しかし、その気持ち分からんでもないぞ。ディドーは美しいからな。
でへへへ。

「キモイ。魔王、君、キモイ。一回、死んどけ」

「フフフッ。そうですね。魔王さん。私の愛刀、雪風の錆びになりますか?」

メルとアフが俺様を責める。しかし、俺様はどこ吹く風。るんるん。

おほっ。
俺様はキモイぞ。キモイ上等。
どうせメルにとって、俺様はブサメンでしかないんだからよ。
それに、それだけ見とれる程の美しいものを目の前にしているのだあ。だあッ!

「やっぱり皮ムキ皮ゾウでしょうか」

「そうね。でもチン子チチ丸の方がお似合いね。最悪」

そういったメルは怒っていた。
しかし、彼女お得意の鉄拳は飛んでこず、まるで変態を見るように睨んでいた。
そう。

男って本当に馬鹿と。

そんな彼女の気持ちにまったく気づかず、俺様はディドーに見とれていた。
ディドーの頭が切れるとか、そんなものはどうでもいい。
極上の美術品にも負けないぜと。
ディドーを見つめた。

透視ッ!

……と、妄想パワー全開でディドーの全裸を想像したのだ。

ぶほっ。
鼻から大量の血が噴き出した。
透視といっても、結局は俺様の妄想にすぎないんだが、それは極上のネタだった。

ト、トイレ……。

「あの。俺様、トイレに行きたいんですけど。シッコ。シッコ」

「そんなに鼻血を垂らして説得力がないんですけど」

メルが厭らしそうそうに吐き捨てた。

「シッコ。シッコ」

「だから皮ムキ皮ゾウなのよ。君は。死にな」

「そうですね。やっぱり私の風雪の錆びにでもしましょうか? メルさん」

と風雪をゆっくりと抜き、不気味な笑みを浮かべつつアフが言った。
メルは終始、無言でうなずいた。
やっちまいなと。
おほっ。

シッコにいかせろ。シッコだ。シッコ。トイレに行くぞッ!

と俺様は思った。
そこで俺様の記憶は途切れた。
……何があったのか? それは読者諸氏のご想像にお任せする。以上ッ!

くはっ。

~ レポート三十一、嫉妬、了。

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【 メルレポート、~ レポート三十、ネーム 】

……ここは冥府。
剣山のような山々に囲まれ、大地は焼け焦げ、海は真っ赤に煮え立っている。
魔界の神域であり、地獄とも言い換えられる場所だ。

辺りには黒い霧が渦巻き、今までいた魔界が可愛く見える場所だった。

そしてあの赤い月は、ここにはなかった。
あの血の色をした月すらも恐怖しているんだろうか。
この冥府という場所に。

「名前は?」

目の前にノートパソコンを手にした魔人がいる。
ヤツ自身は名前を名乗っていないが、アフがヤツの名前を教えてくれていた。
ヤツは六賢者の一人、マンサ。

丸めがねをしたインテリちっくな魔人。

見た目から神経質で、何かと計算を企てる魔人だろうと予想ができる。
ノートパソコンってのが、余計にそう思わせるぞ。
メルと気が合いそうだ。

しかし俺様とは水と油な存在だろうな。

「俺様に名前を聞くか。名前を聞く前に名乗るのが礼儀じゃないのか?」

至極当然な事を言った。
冥府など来たくはなかったが、来てしまったものは仕方がない。
六賢者達は何らかの理由があり俺様達を招待したのだ。

つまり、その理由如何ではまさか殺されるような事はないだろうと居直ったのだ。

肝が据わっていた。
いや、肝が据わっているというよりは、高を括っていたのだ。
そう簡単には殺されないだろうと。

そんな俺様を見下しマンサは馬鹿にして笑った。

「何か勘違いしてないか?」

まるで、自分の方が上で名乗る必要などないと言わぬがばかりに。
やっぱり、こいつは俺様の嫌いな人種だ。
俺様はふてくされる。

「名前を教えろ。じゃないと殺すぞ」

殺すときたか。
こいつ、冷静さが売りで計算を企てるようなヤツなのに直情型のようだな。
簡単に殺すとか言うヤツは大概、そんなヤツが多い。

たとえば俺様のようなヤツ。

その辺では、気が合いそうな気もした。
計算好きで権謀術数を張り巡らせても自分でダメにするようなヤツだな。
メルとは大違いだ。

「メル?」

俺様は意見を求めた。
メルは青い瞳をクリクリさせ、俺様を見つめた。
相変わらず可愛い顔で、他人をハメる策略とのギャップがまたいいと思った。

「何よ。魔王。何か用?」

何か用はねえだろ。
お前は俺様の参謀で、必要な時にその知恵が必要なんだ。
それを何か用とか一言で斬り捨てるな。

「なあ。メル。あいつの事、どう思う。俺様は名乗った方がいいのか?」

「あいつの事はどうでもいいわ。でも名乗りなさい」

およ。
どうでもいいのに名乗る必要があるのか。
確かに六賢者はとんでもない強さを秘めているんだろうとは思う。

しかし招待されたのだ。
そう簡単には殺されはしないだろう。
殺すにしても、ヤツらが何らかの目的を達成した後だろう。

今はまだ殺しませんよとアフも言ってたしな。

それでも名乗る必要があるのか。
相手は自分自身が名乗らず、しかも勘違いしてないかとか言い放ったヤツだぞ。
いくら冥府の六賢者でも、そんなヤツに名乗る必要があるのか?

「魔王」

メルが真剣な顔で言う。

「何だよ。改まって。やっぱり名乗った方がいいのか?」

メルの考えている事が分からず、混濁した。

「あのね。私も興味があるの。君の名前にね。今までずっと魔王で通してきたし」

あはっ。
確かに今までずっと魔王で通してきたし、それでいいと思っていた。
しかし、そうか。メルにも名乗った事がないもんな。
メルのヤツも気になったわけだ。
という事は……。

名乗らない。

俺様は生まれついてのあまのじゃくなのだ。
聞きたいと願うヤツがいるんだったら名乗らないのが俺様だろう。
うん。名乗らない。

「俺様の名前は教えないぜ」

俺様が言う。
自信満々に胸を張って、みんなを失望させるように。
がははは。これが俺様なのだッ!

「……チン子マン」

チン子マン?
何だ、そのセンスの欠片も感じさせない名前は。メルよ。
しかも、何なんだ、その邪悪な顔は。

愛らしさと邪さが一緒に同居する何とも言えない不思議な表情は何なんだ?

「チン子マンでいい?」

だからそのチン子マンって、一体、何の話をしてるんだよ。

「それともチチ丸の方がいいかな?」

チチ丸……。
チン子マンよりは進化したような気がするけど、あんまり変わらないな。
ていうか、メルよ。何の話をしてるんだ。
今は名前の話をしてるんだぞ。

ていうか、もしかしなくてもチン子マンやチチ丸は俺様の名前か?

「気に入らない?」

うおッ。
上目遣いで人差し指を口に差し込んだその顔。
何だ。何てけしからん反則技だ。

「チン子マンでよろしくお願いします」

おいっ。
メルの可愛い顔にやられるな。
チン子マンなんて名前でいいのか。本当にいいのか。

「うん。じゃ、君の名前はこれからチン子チチ丸でいこうね。決定ッ!」

悪化した。
これ以上、悪化しそうにない名前が更に悪化したぞ。
ちくしょう。そんな名前、嫌だ。分かったよ。教えるよ。教える。
教えればいいんだろうが。

俺様の名前。

「俺様の名前はカトゥー・チャンペだ」

ま、加藤ちゃんペだ。
愛刀が死斑剣だったら、やっぱり、これしかないだろうなと自分でも思う。
決して作者に言わされている訳じゃないぞ。本当に。

「カトゥー・チャンペだと? 本当にカトゥー・チャンペなのか?」

うるさい。
何回も連呼するな。
作者のボキャブラリーのなさがバレる。

「……そうか。それだったらあの計算結果も頷ける。もし本当だとするならばな」

マンサのヤツは結局、自分では名乗らず、どこかに行ってしまった。
ぶつぶつと一人言を呟き、ノートパソコンを凝視して。
何だったんだ。あいつ。

「あははは。加藤ちゃんぺ!」

とメルが伸ばした人差し指と中指を鼻に当てた。
ちくしょう。可愛すぎる。
は、反則だ。

と俺様は一人、鼻の下を伸ばし思った。

~ レポート三十、ネーム、了。

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【 メルレポート、~ レポート二十九、計算ミス 】

「ま、無理だろうな」

暗い部屋で一人、ノートパソコンのキーボードを叩く、男。
モニターの光が男の顔を照らし出す。
ここはラボ。

…――カタカタとキーボードを叩く音が響く。

デフォルメされた可愛らしいカエルの壁紙が微笑ましいノートパソコンがある。
六賢者の一人、マンサ・ムーサがデータを入力していたのだ。
マンサは丸めがねのインテリ。

直情型なのだが、己では冷静で計算を得意とする魔人だと自負している男。

だからこそノートパソコンを弄っていたのだ。
彼自身が収集した情報を整理し、次の手を打つ為の計算をしていたのだ。
丸めがねの端が光る。

データーの入力が終わったのだ。

「さて、原初の魔王の力を解放できる確率は何%ある?」

エンターを押す。

壁紙であるカエルがウインクをする。
途端、パソコンのハードディスクがかりかりとせわしなく仕事を始める。
入力したデーターをもとにパソコンが計算を始めたのだ。

「マンサ」

「……俺の後ろに立つな」

マンサが素早くパソコンに何かを入力する。
パソコンが並行処理で、今し方、入力された命令を実行する。
炎の実体化を。

「焼き尽くせ。紅蓮の焔(ほむら)」

途端、壁紙のカエルの口が開かれ、そこから実体化した炎がとびだす。

そう。
パソコンには見た事がある技をデーターとしてインストールしているのだ。
そして、入力する事によってパソコンは忠実に再現するのだ。
ある程度の制約はあるが、忠実に。

「危ねえ」

後ろに立った男が言う。
男は右手を突き出し、彼にめがけ飛んできた紅蓮の焔をかき消していた。
しゅうっと水をかけられ消えてしまった炎の音がする。

決して消える事がないと言われる紅蓮の焔が男の右手によってかき消されたのだ。

紅蓮の焔を消されたマンサが不敵に笑う。
全ては数値(データー)化でき、そして忠実に再現する事ができるのだと。
もちろん男の右手もだ。

「くくくっ。覚えたぞ。その技もな。よし、すぐにインストールだ」

焔を消した男も笑う。
ノートパソコンがオーバーフローを起こすだろうなと。
マンサのパソコンは、どんな技だろうとほぼ完璧にコピーし再現する事が可能だ。

が希に技の高度さ、そして特殊さによって再現できない場合がある。

それが先ほど言った制約なのだ。

例えば生まれついての身体的特徴によって発動される技などがそれにあたる。
つまり今の場合でいえば男の右手があってこその技なのだ。
ゆえにインストールできないのだ。

それでもマンサのノートパソコンは脅威だった。

何せ、ほぼどんな技だろうとストックし、好きな時に発動できるのだから。

マンサは思っていた。
世の理(あらゆる技)をパソコンにストックし尽くし、全てを解き明かしたいと。
その為に日々、データー収集を欠かさず行っていたのだ。
その集大成が彼のノートパソコンであった。

「何だ。誰かと思ったらモンモンか」

マンサが言う。

「マンサ。お前、人が後ろに立ったら攻撃する癖、治した方がいいぞ」

やっと気づかれたと男が言う。
男の名はモンティースマ。通称、モンモン。アフやマンサと一緒で六賢者の一人。
マンサはモンモンを一瞥すると、またノートパソコンに視線を移す。

「で、何をしてたんだ。また技のコピーか?」

モンモンが言う。
気が抜けた飄々とした顔で。
冷静さを気取った直情型のマンサとは正反対だった。

「今、魔王とその従者が原初の魔王の力を解放できる確率を計算していたんだよ」

マンサはパソコンのモニターを凝視し、視線を移さず答える。
まるでモンモンには興味がないと。
モンモンも慣れたもの。

マンサの態度もどこ吹く風、彼と一緒になってモニターをのぞき込む。

「どれ。どれ位の確率があるんだ。面白そうだな」

カエルの壁紙が動く。
パソコンが魔王が魔神を倒し原初の魔王の力を解放できる確率を弾き出したのだ。
カエルが小さな体を一生懸命動かし、プラカードを背中から取り出す。
そこには原初の魔王を完全復活させられる確率があった。

原初の魔王の力を取り戻せる確率……。

……七%。

「あははは。七%だと? ほぼ無理って事じゃないか。笑えるぜ」

まずモンモンが口を開いた。
そこにマンサが続くと思われたが、マンサは黙っていた。
自分の計算が魔王達にとって、酷な結果を弾き出してしまったとでも思ったのか。

押し黙っていた。

マンサは黙ったまま入力したデーターを確認する。
入力ミスがあり、今、パソコンが弾き出した答えに間違いないかと確認したのだ。
それだけ驚くべき数値だったのだ。
マンサにとって。

数カ所、データー入力にミスがあった事を確認する。

ミスを見つけた事で安堵した。
ミスを見つける事で自分の計算が間違っていない事を確認できたのだから。
手早く修正する。

そして、また一通り確認し終わると再びエンターを押す、マンサ。

また忙しくハードディスクのランプが点滅を繰り返す。
七%などという信じられない計算結果にもう一度、計算し直す事を決めたのだ。
計算が終わるパソコン。

カエルの壁紙が背中からプラカードを取り出す。

……四%。

原初の魔王の力を取り戻せる確率が計算をし直したら下がってしまった。
絶句するマンサ。自分の計算が信じられなくなっていた。
モンモンを見る。

「四%だとよ。ま、ゼロよりマシだわな」

モンモンの言う事はもっともだ。
取り戻せる確率がゼロよりは、幾分かマシだろう。
しかし、それでも四%とは逆にゼロの方がいさぎがいいと思ってしまう。

「マンサ。ヤツらに期待しすぎだぜ。そんなもんだろうがよ」

「……違う。そうじゃないんだ」

マンサが、ゆっくりと口を開き答えた。

「違う?」

「ああ。俺の計算じゃ、確率ゼロだと思ってたんだ。それが四%も……」

そう。
マンサが自分の計算を信じられなくなっていた原因は、それ。
彼の計算ではゼロが当たり前だったのだ。

それが一体、どこで計算間違いを起こしたのか、四%も確率があったのだ。

一%でも信じられない。
それが四%も残されていたのだ。
マンサは再び、データーに入力ミスがないかを確認し始めた。

しかし、どこにも入力ミスは見つからなかった。

~ レポート二十九、計算ミス、了。

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【 メルレポート、~ レポート二十八、刻々と 】

一路、冥府へと向かう俺様とメル、そして、アフ。

アフの思惑は?
招待はするが、歓迎するかどうかは別の話だと言わぬがばかりの態度のアフ。
やっぱり六賢者達は魔神器を壊した事で怒っているのだろうか。

俺様は上目遣いで表情をうかがう。

にこやかに微笑んでいる。
しかし、どことなく気持ちここに在らずで、何となくだが怪しさを感じさせる。
これが勇者のヤツだったらうそ臭いほどの爽やかさだろうな。

もちろん、アフの笑顔にも爽やかさはある。

あるが、それ以上に怪しさの方が勝っていると思わずにはいられない。
アフのお洒落な恰好もまたその怪しさを助長する。
ヤンキーに憑依されたアフ。

もしかしてアフは二重人格じゃないのか?

爽やかさの裏にある怪しさを持つ二重人格な魔人じゃないのかと勘ぐってしまう。
いや、これは正確な読みだと思うぞ。
アフは怪しい。

待てよ。アフが怪しいというより六賢者そのものが怪しい。

そうとしか思えない。

だとしたら、このまま素直に冥府に向かうのは得策じゃないんじゃないか。
六賢者達に軽々と料理されて、それこそ死だろう。
メルはどう考えているんだ?

メルを見つめる。

彼女に表情はなく、無表情で何を考えているのか分からなかった。
頭のテンコツにある癖毛もしおれている。
口の端だけが上がっていた。

その厭らしい口元、メル、お前、何か良からぬ事を企んでいる時の顔だぞ。

「魔王。下手の考え休みに似たりよ。君に思考は似合わないわ」

くっ。
分かってるよ。
それでも考えてしまうのが魔人ってもんじゃないですか?

「六賢者が何を考えているのか、それは分からないけど行くしかないのよ」

何でだよ?
六賢者に殺されてもいいっていうのか?
俺様は死ぬのだけは絶対に嫌だからな。そこんとこ四露死苦。

「私達は魔神器を壊したのよ」

だから何だよ。
それで六賢者達が怒っているんじゃないかって……。
怒ってたらマジやばいぞ。殺される。

「原初の魔王の力を解放させるには魔神器を直さないといけないのよ」

ああ。そうか。
確かに壊しちまったもんな。
それを直さないと俺様達の最終目標は達成できない訳だ。

「難しく考えないで。いざとなったら……」

何だよ。
いざとなったら何だよ。
気になって、今夜は悶々として眠れなくなるじゃないか。

快眠こそが我が命の俺様の睡眠が、睡眠が……。

メルがほくそ笑んだ。
アフに悟られないようにひっそりと。
俺様は、そんなメルを見て、何かやばい事が起こるんじゃないかと心配になった。

「安心して。魔王。私達は何があっても生き残る。それだけは保証するわ」

にやけるように更にメルの口の端が上がる。
悪魔だ。悪魔がここにいるぞ。
って俺様、魔王。

「では、ここより転送ポイントを使いますので準備のほどを」

転送ポイントか。
魔界では常識で当たり前の移動方法。
しかも転送ポイントを使えば、どこに移動したのか悟られないという利点もある。

転送ポイントは普通、泉のようなものでそこに飛び込むという方法を使う。

飛び込んだ先に転送先があり、水に潜るように移動する。

転送ポイントを使うとは……。
これはますます持って、冥府の六賢者達の慎重さが浮き彫りになったぞ。
やっぱり、六賢者達の怒りに触れ、殺されてしまうのか。

「フフフッ。転送ポイントの先は冥府ですよ」

アフがゆっくりと言う。
その口ぶりは、やっぱりどこかに何か含みがあり、怪しさ全開だった。
俺様は一人、不安になり、祈るように空を見上げた。

空には相も変わらず真っ赤な月があった。

ああ。
もうこれでこの月を見るのも最後かもしれないなとがらにもなく感傷に耽った。
そんな俺様の気分をぶち壊すようにメルが言った。

「行くわよ。魔王」

と。

「はい。では行きましょうか。皆さん」

続いてアフが、すかしたよう俺様達に転送移動を進める。

「嗚呼。行くしかねえのか。俺様はまだ死にたくねえんだがな。仕方がねえ」

死ぬと決まった訳ではない。
決まった訳ではないが、不安しか感じない俺様はヘタレなのか?
いや、多分、違うと思うぞ。アフの力は今だ片鱗も見せていないがつわものなんだ。

そんなヤツらが、後、五人もいる場所に行くんだぞ。

しかも歓迎されていないっぽいしな。

下手をすれば、俺様の存在そのものを消されてしまうリスクを負う事になるんだ。
魔神器を直すとか直さないとか、そんなものは微々たる問題でしかない。
存在を消されてしまえば生き死になんて話じゃないぞ。

なかった事にされる。

死んだ後の事は分からないが、きっと輪廻転生するんじゃないかと思っている。
存在を消されれば、その輪廻の輪から外されるじゃないのか?
つまり輪廻転生の可能性さえもなくなる。

本当に大丈夫か?

「ほら。魔王。何を考えているのよ。さっさと行くわよ」

だからメルよ。
お前は何でそんなに大胆なんだ。
そんな心臓に毛が生えたような強気さ加減がめっさ羨ましいよ。

「フッ。今はまだ殺しませんよ。安心して下さい」

あっ!
今はまだって言った!
アフ、お前は今はまだって言ったんだぞ。
じゃ、後で殺すのかよ。やっぱり輪廻転生の輪から外す気だなッ!

やっぱり止めた。冥府に行くの止めた。止めたぞ!

「だから君に思考は似合わないわ。何も考えずに転送ポイントに飛び込みなさい」

いやだあ!
冥府に行くのを止めたんだ。
止めろ。抑えるな。俺様はここに残るんだ。
メルとアフの二人に羽交い締めにされ、無理矢理、投げ込まれそうになった。

止めろッ!

俺様は行かないぞ。

精一杯の抵抗と手足をじたばたさせた。
しかし、それでも二人は俺様を担ぎあげ、転送ポイントへと投げ込んだ。
うわあああ。

冥府なんて行きたくねえよ。

今はまだって言ったんだ。アフの野郎がよッ!

冥府で修業してスーパー魔王になるぞと思っていた俺様はどこにもいなかった。
情けねえなと思うヤツは思えばいいのさ。
死にたくねえ。

死にたくねえんだよ。

しかし、それでも無情にも刻々と時間は流れていくものだ。
その時間の流れと共に結果もついてくる。
それが真理。

俺様の思いとは裏腹に冥府へと転送され、六賢者の前へと行く事となった。

今はまだ弱いままの俺様。
しかし冥府という魔界の神域は、そんな弱いままの俺様を待っていた。
あなたはまだまだ強くなる可能性を秘めているのと。
優しい声で。

その声が聞こえるのは、まだまだ先の話だが、それでも刻々と時は流れていた。

確実にその時へと向かって。

「魔王。六賢者達をぶっ飛ばすわよ。いい事?」

とメルがまた大胆な事を言ってのけた。

~ レポート二十八、刻々と、了。

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【 メルレポート、~ レポート二十七、田舎のヤンキー 】

「冥府とは魔界の神域。そこに入る覚悟はありますか?」

アフが言う。
丁寧なのだが、どこかすかしたような感じで。
よっぽど自分に自信があり、全てが思い通りにいくと考えているんだろう。

俺様の一番、苦手なタイプだ。

と。
また覚悟か。
もうずっと覚悟を強要されて疲れたよ。マジで。

「聞かれるまでもないわ。魔神器を直してもらわないとなんないし、それに……」

それに?

「魔王。君がこのままじゃこの先、辛いわ」

メル。
どういう事だ。
このまんまの俺様はでは辛いとは?

「君にはもう一段階強くなってもらわないと、また逃げ回るハメになるわ」

弱いか。

勇者達との戦い。
そして、茶坊主な魔神との戦い。
俺様は死の恐怖と戦い、そして、情けなくも為す術なく立ち尽くした。

そんな弱い俺様はでは、この先、辛いか。

確かにな。
魔神器が直れば、あの茶坊主な魔神も再び復活するだろう。
その時、また壊さなくちゃならないってのもな。

それに俺様が原初の魔王になる前に勇者達とも決着をつけなくてならないしな。

寝込みを襲い、後ろから寝首をかく作戦でも今より強くなくてはな。
あんなに無様な俺様はもう二度とこりごりだぜ。
元魔界の支配者、魔王なのだ。
俺様は。

強くなるか。

俺様は努力が嫌いだ。
だから修業なんてしたくないし、手っ取り早く強くなりたいと思ってしまう。
が、面倒くさい修業をする事なんかよりも、もっと死ぬのは嫌だ。
何より、俺様自身が強くなりたいと願っている。
だったら修業しか道は残されていない。

やるしかねえか。

「フフフッ。何も私達は貴女方を歓迎している訳ではないんですよ?」

アフ。お前、何が言いたい?

「冥府で修業をするつもりですか? そう簡単にいきますかね」

確かにな。
アフの口ぶりは、めちゃ含みがある。
という事は、その魔界の神域、冥府とやらで修業するのは難しいって事か?
招待はするが歓迎している訳じゃないって、そういう事か?

「ま、どちらにしろ冥府には来てもらいますよ」

アフが言う。
艶のある長髪をかき上げつつ。
やっぱり言葉に含みがあり、こいつは苦手だと認識させられてしまう。

「アフ。さっきから私達をなめているようだけど、いいの?」

「何がです? いいも悪いもないですよ」

メルの目が妖しく光る。

「これ、何だ?」

メルがいたずらっ子のような表情になり、アフを見つめている。
何だ、それは。ただの玩具のようだが。
それがどうかしたか?

「ぐおっ。よもやそれは……」

苦しみだすアフ。
おい。おい。何だ。そんなもの。ただの玩具だろうが。
玩具だって事は、俺様にだって分かるぜ。

「そうよ。これは君の嫌いなものよ。あんまり私達をなめないで」

「ネ、ネズミだと?」

そうだ。
今、メルが持っているものはネズミのぬいぐるみ。
出来はそう大していいものではなく、どちらかと言えば可愛いネズミのぬいぐみ。
手のひらサイズのネズミだ。

「テメェ。ぶっ殺すぞ。喧嘩上等ッ!」

おわっ。
何だ。アフの口調が突然、田舎のヤンキー調になったぞ。
ただのネズミのぬいぐるみでここまで……。

「それを捨てろ。ああ? シカト、こいてんじゃねえぞ。白テープだ。コラ?」

白テープって。
意味、分かるヤツいるのかよ。
そういえば、このお話の作者、その昔、ヤンキーモドキだったらしいな。
いや、心の底からどうでもいい情報だと思うがな。

「おう。素手喧嘩(すてごろ)でいくぜ。タイマン張れや。コラ?」

いや、その巻き舌。
まんま田舎のヤンキーなんですけど。
さっきまでの丁寧で、お洒落な雰囲気を醸し出していたアフはどこにいった?

「おう。やんのか? コラ?」

だから……。
もう、アフの暴走には閉口するしかない。
ヤンキーだけに暴走族ってか?

「この位で許してあげるわ。あんまりなめないでね」

メルは、そういうとネズミのぬいぐるみをポケットへとしまう。
それと同時に長髪をかき上げ、大きくため息を吐き、落ち着きを取り戻すアフ。
アフに憑依した田舎のヤンキーが消えた。
お、面白いっ。

田舎のヤンキーって何だよ?

思わず笑っちゃう俺様が変なんじゃないよな?
だって田舎のヤンキーだぜ?
あははは。

「ハア、ハア。お見苦しい所を。私とした事が……少々、取り乱したようですね」

でもネズミが嫌いなんて、ドラえもんか、お前は。

それにしてもメルのヤツ。
何で都合良くネズミのぬいぐるみなんて持っていたんだ?
どこから、そのぬいぐるみを出したんだ?
そういえば……。

前にメルレポートのアニメを魔界のスマホ、スマッポで見ていた事があったな。

確か、ブタピックと勇者が戦っていた時。
その時、スマッポにくくりつけてあったストラップの中にネズミがあった。
そうだ。それか。

今、出したネズミのぬいぐるみは。

「どうやら、そちらの貴女は侮れない魔人のようですね」

「ようやく理解したようね。そうよ。あんまり私をなめると痛い目を見るわよ」

ちょっと待てよ。
アフは魔神器を創った冥府の六賢者とかいう集団の一人なんだろう?
そんなにでかい態度をとってもいいのか?

「メル。仮にもアフは冥府の六賢者なんだろう。そんな態度でいいのか?」

「魔王。うるさい。あいつが冥府の六賢者でも関係ないわ」

さすがは天上天下唯我独尊なメルらしい。
さすがのアフも形無しだ。
ま、いいか。

「コホン。失敬。では冥府へと向かいましょうか。私の後についてきて下さい」

端正な口元に自分自身の拳を持ってきて、咳払いをする。
この丁寧さが田舎のヤンキーと対照的だ。
だからこそ面白い。

本当に冥府の六賢者なのかよと思ってしまうのは、俺様だけじゃないはず。

ま、そんな話は、この際あちらが側に置いておこう。
いよいよだ。これから冥府に向かう。
そこで強くなる。

修業なんて、極悪非道な魔王である俺様には似合わないが、仕方がない。

冥府で強くなってみせる。
そして、勇者達を超え、できれば魔神器の魔神たちも超える。
よし。

やってやる。

これぞ、すなわち友情、努力、勝利の法則なんだぜ。

そんな青臭い事をと言ったのは誰だ?
大嫌いだと言ったのは?
あ、俺様か。

ま、どんまい。どんまい。これでいいのだとバカボンのパパも言ってるぞ。

「魔王。一人で何をぶつぶつ言ってるのよ。暗いわよ」

うっさい。うっさい。
今、少年漫画の主人公モードなのだ。
とんでもない修業をして、新たな必殺技を身につけ、超強くなってやる。

穏やかな心を持ち、怒りで覚醒するスーパー魔王にだ。

やってやるぞ。

と一人で盛り上がり、やったるでえと誓った。
メルには暗いと言われたがな。
ぎゃふん。

~ レポート二十七、田舎のヤンキー、了。

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【 メルレポート、~ レポート二十六、風雪 】

「お見事です」

死の恐怖に打ち勝ち、何とかして腕を動かし、魔神器に死斑剣を突き立てていた。
魔神器とはつまりランプのようなものなのだが、単なる金属ではない。
希少な貴金属でできていた。

…――つまり銀。

いや、銀とは断定できないが、死斑剣を刺した感覚は銀のそれだった。
とにかく鉄より柔らかい貴金属らしきものでできていた。
だから破壊は楽だった。

間に合ったぞ。

俺様はやったんだ。やったぞッ!

「くっ。一手差だったぞ。オラは消えるのか?」

魔神が悔しそうに言う。

メルも満面の笑みで、今し方、俺様が成し遂げた偉業を称えていた。
俺様自身もよくあの恐怖に打ち勝てたと自画自賛した。
しかし、本当に良かったのか?

魔神器を壊した事で、原初の魔王の力を解放するという当初の目標はどうなった。

「ちくしょう。オラは消えるのか。原初の魔王様に合わせる顔がないぞ」

茶坊主な魔神は足から徐々に消え始めていた。
これで死からは解放された。
が……。

見た感じ原初の魔王の力が解放されたという様子はまったくない。

メルよ。
当初の目標は達成されてないぞ。
いや、それどころか魔神が消滅したって事は、力の解放は無理なんじゃないのか?

「お見事。ようやく終わったようですね」

拍手が聞こえる。

誰だ?
やっとこさ死を乗りこえたのに、これから先の事を考え絶望しかけていた所に。
こんな時に邪魔をするようなヤツはろくなヤツじゃない。
拍手がした方を見つめる。

「失敬。私は冥府の六賢者の一人、アフマド・マンスールと申します」

長髪の男がいる。

「冥府の六賢者って。君が?」

メルが驚きを隠せないよう頭のテンコツにある癖毛を可愛らしく揺らしつつ言う。
何だよ。冥府の六賢者って。厨二を遙に超えてきたな。
作者のヤツ、大丈夫か?

「はい。冥府の六賢者の一人です。私の事はアフとでもお呼び下さい」

アフか。
敵じゃねえようだな。でも冥府の六賢者って?
メルのヤツは驚いていたけど、こいつからは何も感じないぞ。

まだ魔神の方がやばかったぜ。

「その昔、魔神器を創った集団がいたの。その集団、それが冥府の六賢者なのよ」

魔神器を創っただと!

「はい。貴女の仰る通りです。我々が魔神器を創りました」

ちょっと待て。
魔神器を創ったって事はこの世の始まりから存在しているのか。コイツは。
ともてそんな風には見えないぞ。こいつ若いし。

そう。
冥府の六賢者と名乗ったアフは、俺様と同い年位の青年だった。
黒く艶のある長髪をかき上げ、目元は端正だった。
赤いシャツを着て、黒いベスト。

ベストの下に赤と白のラインが入ったサスペンダーか。

いかにもお洒落な感じがする。
まるで、バーのマスターといった感じか。
いや、執事か。

腰には柄に手の込んだ装飾を施した、身の丈ほどもある長い刀を差していた。

唐突に刀を音もなく抜く。

「さて、貴男と貴女、どちらが刀の錆びになりたいです?」

待て。ちょっと待て。アフ。
お前、今まで殺気のさの字も感じなかったぞ。
敵じゃないような顔をして、そそっと俺様達に近づき殺す為に現われたのか!?

ひ、卑怯だぞ。

「アフ。悪ふざけは止めてくれないかしら。冥府の六賢者なんでしょ」

「ふふふ。悪ふざけですか。本当にそう思いますか?」

刃に不気味なアフの顔が反射している。
裏側の刃にはメルの顔。
俺様は固まった。

「我が愛刀、風雪は貴女達の血を吸いたいと言っているようですが?」

だから、ちょっと待てって。アフ。
俺様達は茶坊主な魔神の恐怖からやっと抜けだしたのに。
その後、ふいっと現われた冥府の六賢者とやらに殺されたら立つ瀬がないぜ。

「一の型、灘(なだ)」

ふおんっと風を切るような音が聞こえ、半月を描く太刀筋がメルを襲う。
彼女の前髪が少々切れ、剣戟で起きた風に舞う。
それでも微動だにしないメル。

「フッ。私には十の型があります。これがその一つ、一の型」

「……悪ふざけは止めて。これから君達に会いに行こうと思ってたんだから」

会いに行くだと?
アフだけでもこれだけ危険なのに、それが六人もいるヤツらに?
メルよ。血迷ったか。考え直せ。頼むから。

「フフフッ。我ら冥府の六賢者が貴女方に会うとでも?」

「アフ。君の弱点は知ってるのよ。いい加減、悪ふざけは止めてくれないかしら」

「あははは。私の弱点を知っていると?」

「そうよ。知ってるわ。あの本に書いてあったもの。私には筒抜けよ」

刀を鞘に収める。

「フフフッ。いいでしょう。貴女は頭が切れるようですね。気に入りましたよ」

「……君は私達を殺しに来たんじゃない。そうでしょ?」

「何でもお見通しですね。そうですよ」

アフが、とても落ち着いた声で丁寧に言葉を積み重ねる。
殺しに来たんじゃないとすると、魔神器を壊した事に何か意味があるのか。
魔神器を創った集団の一人だからな。

「魔王」

何だよ。
メルは健康そうな唇を尖らせ言う。
そんなに可愛い顔で名前を呼ばれると俺様じゃなくてもドキッとするぜ。

「魔神器が壊れれば、原初の魔王の力を解放できなくなるわ」

ああ。
それは薄々感じていたぜ。
でも、あの状況じゃ、魔神器を壊す位しか手がなかった。

「でも魔神器を直せるヤツらがいるとしたら?」

直せるヤツら……。

「そう。それは魔神器を創ったヤツらで、それが冥府の六賢者なのよ」

そうか。
なるほど、なるほどな。
魔神器を創ったヤツらなら魔神器を直せてもおかしくない。

「フフフッ。しかし、そう簡単にいきますかね」

アフが言う。
確かにこいつらなら破壊した魔神器を直せるかもしれない。
が、このアフだけとってみても、今だその力の片鱗すらみせていないのだ。

危ないヤツだって事は馬鹿な俺様でも分かる。

そんなヤツら六人もいるんだぜ。
会いに行っても、おいそれ言う事を聞いてくれるとは思えないぜ。
マジ気に大丈夫か?

「フフフッ。そちらの貴女は気づいていたようですが……」

不敵なアフ。

「私は貴女方を我らの下に招待する為の使者です」

「!」

「見事に魔神器を壊してくれた貴女方をね。歓迎致しますよ。フフフッ」

俺様達を招待する為の使者って……。
言葉に含みがあるな。
大丈夫か?

「そうよ。彼が冥府の六賢者の下に連れて行ってくれるのよ」

そうなのか?
そんなに都合のいい事があってもいいのか?
ただし、いくら招待してくれるといっても歓迎してくれるのとは話が違うがな。

「どうします? 行きますか。それとも震えて死を待ちますか?」

とアフが言った。
その端正な目の奥に不気味な光を灯し。
俺様達は二つ返事で、ヤツの提案に乗るしかなかった。

~ レポート二十六、風雪、了。

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【 メルレポート、~ レポート二十五、翡翠再び 】

「魔王。魔神器を壊すのよ。あの茶坊主な魔神が封印されていた魔神器をね」

こ、壊すだと!

「魔神器を壊せば、魔神も自ずと消滅するはずよ」

それは思いつかなかった。
灯台もと暗しだ。さすがメルだな。考える事が人とは違う。
が、魔神器を壊してしまえば原初の魔王の力の解放はできないんじゃないのか?

「魔神器を壊すのはいいが、それじゃ……」

「魔王。君の心配は分かってる。でも今は説明している暇はないの」

ま、確かにな。
魔神器の魔神は今にも烈覇を放ち、俺様達を殺そうとしている。
そんな時にのんきに談義をしてても仕方がない。

でも本当に大丈夫か?

俺様達の最終的な目標が永遠に達成されないようになってしまわないか?

「どんな事をしてでも生き残るって覚悟はどうなったの?」

「覚悟はある。が……」

ああ。
俺様は生き残る可能性があるならそっちに賭けたい。
が、目標を見失うのも怖い。

迷うぜ。

本当に魔神器を壊してもいいものかどうかとな。

「君の覚悟はそんなものだったの?」

そうは言ってもな。
世界の全てを破壊し再生させ、原初の魔王になるという目標がなくなるんだぜ?
その為に今まで苦労して、あれこれやったのに全て水の泡だぜ。

「押忍。じゃ、そろそろ死んでもらうぞ。いいか?」

魔神が言う。
どうやらヤツの超絶必殺、烈覇を放つ準備が整ったらしい。
くそっ。悠長に迷ってる暇はないってか。

俺様は一旦考えるのを止め、魔神器へと走り出した。

やってやる。
魔神器を壊してやるぞ。
その後の事は、その後に考えればいい。
今は、この絶望的な状況から生き残る算段を立てるのが先決だ。
生きてさえいれば、どんな状況になってしまっても巻き返しが可能だからな。

それにメルに何か考えがあるようだし、それに賭ける。

うおおおっ!

「うん。やっとやる気になったようね」

とメルの青い瞳が細くなる。
頭のテンコツにある癖毛も力を取り戻し、ピーンと胸を張って立っている。
うん。魔神器を破壊してもメルに考えがあるんだろう。

そう信じるぞ。

うおおお、とぉりゃあああ。

「な、なんだ? そんな方向に走り出して何をする気だぞ?」

魔神器の魔神が戸惑っている。
すかさずメルが、お得意のあの呪文の詠唱に入った。
そう。

翡翠を唱えるつもりだ。

翡翠は単なる目くらましなのだが、目くらましでも充分に時間稼ぎになる。
しかも翡翠は少しの時間だが、金縛りの効果もある。
いける。やってやるぞ。

「閃光弾、翡翠」

メルが両手を顔の前に持っていき、手のひらを拡げる。
両手のひらからまばゆい光が放たれる。
辺りが金色に輝く。

「くっ。何だぞ。今更目くらましなんか発動させて。何を考えてるんだぞ」

魔神はまぶしそうに目を閉じ、閃光が収るのを待っている。
よし。ナイスサポートだ。メル。
魔神器は目の前だ。

「魔王。早く破壊して。時間はそうないわよ」

分かってる。
今、目の前に無防備な魔神器がある。
いける。このまま、俺様の死斑剣をこの魔神器に叩き込めば終いだ。

「うっししし。そういう事か。裏をかく気だったんか?」

魔神器が笑いながら言う。

「狙いはオラの魔神器だったって訳か。甘いぞ」

今だメルの翡翠は効果を持続させている。
が、魔神は目を閉じたまま、足の裏辺りに気を溜め始める。
そして!

「オラは体術のスペシャリストだぞッ。それを計算に入れるのを忘れたな?」

足の裏で大地を蹴り、俺様の方に飛んできた。
その早さはツバメすらもしのぎ、あっという間に俺様の目の前に来た。
俺様は驚愕した。

「押忍。もう少しだったな。でも終わりだぞ」

メルの閃光魔法、翡翠は金縛りの効果もあったんじゃないのか。
見た感じでは魔神は悠々自適に動いていた。
金縛りはどこへいった?

「ま、動きにくかったから最高速度じゃなかったけどな」

魔神は目を閉じている。……多分、いまだ閃光に目がくらんでいるんだろう。
しかし俺様のいる場所が分かったし、その目論みも見通した。
つまり、こいつは視覚で状況を判断していない。
心眼ともいうヤツだろうか。
武闘家特有の技。

とにかく視覚を潰しても、この茶坊主な魔神にはまったく効かないのだ。

化け物か。
心眼に加え、翡翠の金縛りの効果を力ずくで解いてここまで来たというのか。
改めて、魔神はとんでもない力を持っているんだと再認識した。

「メル。無理だ。こいつには勝てない」

愕然とした。
もう少しで魔神器を破壊できたのに、それすらも水泡に帰してしまった。
俺様は仰け反り、少しでも魔神から逃れようとした。
もう、すでに気持ちでも負けていた。

心は折れていた。

…――やっぱり死ぬんだなと。

「魔王。まだよ。あきらめないで。翡翠の金縛りの効果はまだ残っているわ」

残ってる?

「そう。残ってるの。その間に魔神器を壊して!」

金縛りはさっき発動して、茶坊主な魔神に力ずくで解かれたんじゃないのか?
動きにくかったから最高速度じゃなかったと言っていたぞ。
どういう事だ?

「残り三十%の金縛りに全てを賭ける」

残り三十%……。

「さっき金縛りに使った力は七十%よ。まだ残り三十%あるわ」

無理だ。
三十%で何ができる?
こいつは体術のスペシャリスト。
七十%の力で縛っても、まったく苦にしなかったヤツなんだぞ。

残り三十%ごときで縛っても無駄じゃないのか?

俺様は恐怖で動けずにいた。
ぴくりと指の先でも動かしたらその瞬間に死が訪れるような気になっていたのだ。
それだけ死を間近なものとして感じさせられていたのだ。

メルが手のひらをグッと閉じて言う。

「縛(ばく)ッ!」

かけ声と同時に茶坊主な魔神の動きが止まる。
残りの力で金縛りを発動したのだ。
しかし動けない俺様。

「魔王。さっさと魔神器を破壊して。この金縛りもじきに解かれるわ」

そう言われたが、足がすくんで動けない。
どうやら金縛りにあっているのは、魔神だけではなく俺様もだ。
恐怖という金縛りに。

「す、済まん。メル。動けん」

そんな言葉を口にする位がやっとだった。

くそっ。
目の前に魔神器があり、破壊すれば全てが終わる。
終わるのだが、そのあと少しに足がすくんでしまって、動けないのだ。

「魔王。早く。早く破壊して。お願い」

絶叫にも似たメルの声が響く。

「翡翠の金縛りももうじきに解かれる。早くして。お願いッ!」

段々と悲痛な叫び声になるメルの声色。
その状況を打開できるのは、魔神器の目の前にいる俺様だけ。
ちくしょう。

動け。動け、俺様の腕。

「うっししし。押忍。残念だったな。魔王とその従者」

魔神が翡翠の金縛りを力ずくで解いて、高らかに勝利を宣言した。
俺様は死斑剣を握り、わなわなと震えていた。
額にびっしりと冷や汗をかき。

「やったぞ」

と、俺様は言った。

~ レポート二十五、翡翠再び、了。

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【 メルレポート、~ レポート二十四、さらば 】

俺様は死ぬのだろう。

いくら死ぬのが嫌で、醜くあがいても生きる残るつもりでいる俺様にでも分かる。
勇者にも勝てない俺様が、勇者を瞬殺した魔神に勝てる訳がない。
しかも相手は殺す気満々だと思う。

原初の魔王は抹殺を命令していると言っていたからな。

最後の希望。
俺様達のあまりの弱さに魔神が見逃してくれるというのは皆無だろう。
恨めしそうにメルを見つめる。

メルの青い瞳には生気がなく、今にも死んでしまいそうだ。

それだけ俺様達は魔神に追い詰められているのだ。
頭のテンコツにある癖毛も力をなくし、しおしおと萎えてしまっている。
もう考える気力もないのだろう。

大体、藻写守が決まって一杯食わされた時点で終わったのだ。

勇者達に殺されるか魔神に殺されるのか。
その違いでしかなく、どちらにしろ俺様達はゲームオーバーになったのだ。
死にたくはない。

死にたくはないが、死は決定事項だ。

そんなのはアホな俺様にも簡単に分かる事実だった。

「魔王。事態は余計に悪化したわね。残念だけど、ここで終わりね」

メル。
お前はしゃべるな。
しゃべるのすらしんどいのは見ていて分かる。
せめて最後くらい俺様がリードして、有終の美を飾るからな。

死ぬのはお前のせいじゃない。

誰のせいでもない。
強いて言えば、始めに俺様が勇者に負けてしまったのが原因だろう。
全部、分かってる。大丈夫だ。しゃべるな。

「魔神よ」

俺様が力なく言う。

「うっししし。何だ? 命請いか?」

その天真爛漫な笑顔が余計に俺様達を傷つけている事を分かっているのか?
それにどうせ命請いをしても、受け入れる気はないんだろう?
その気がないなら下らない事を言うな。

「せめての願いだ。苦しみを与えず、楽に逝かせてくれ」

何としても生き残りたい。
どんな手を使ってでも、たとえメルを裏切る事になっても生き延びたい。
が、今はそんな甘っちょろい事を言える状況じゃないんだ。

確実に死が隣りに忍び寄っているのだ。

「およっ? 観念したのか?」

茶坊主な魔神が驚いたように目を見開いて聞いてくる。
この交渉が俺様の有終の美だ。
メル。期待してろ。

「そんなものはとっくの昔に完了しているぜ。今は楽に死にたいだけだ」

「楽にか。ま、苦しめるのは趣味じゃないから、いいぞ」

俺様自慢の蒼いオールバックの髪が風に揺れる。
どうやら今だ勇者の花鳥風月の効果が少々、辺りに残っているようだ。
爽やかな風だな。

まるで脳筋で体育会系のノリな勇者がここにいるようだ。
ま、このままここで死ぬのも悪くないかもな。
爽やかな風をありがとよ。

「魔王。お前を倒すのは俺だ。こんな所で死ぬじゃないッ!」

脳裏に勇者の言葉が木霊する。
俺様と同じ蒼い髪を逆立てた勇者の力強い声が。
死ぬな。魔王と。

「あははは。無理な注文だぜ。勇者よ。強くなってお前が倒してくれ」

無理な注文に俺様は笑いを覚える。
大体、お前らにも勝てない俺様だぜ。お前らを瞬殺したヤツには勝てる訳がない。
しかもお前らとは違い、原初の魔王の命令で確実に殺される。
さらば。勇者。

さらば。この素晴らしき世界よ。

「じゃ、お前らを殺すよ。できるだけ苦しくなく一瞬で殺すからね。安心して」

これで最後だ。
俺様の交渉は成功し、魔神はそういって烈覇の構えに入った。
良かった。有終の美を飾れて俺様は嬉しいぜ。

ああ。でも短い人生だったな。

最後はこんなもんか。

死を覚悟した俺様の茶色い革ジャンの袖をメルが引っ張る。
ダボっとした俺様の革ジャンの袖を。
メルを見る。

青い瞳に微かに火が灯っている。

それは注意しなければ見逃してしまうような弱々しい火だったが確かに。
もしかして。もしかして、メルは何かに気づいたのか。
マジか。マジでか!?

「……そういえば魔王、君ってどんなにあがいても生き残るって言ってたわね?」

メル。
何が言いたいんだ?
現状、どんなに知恵を絞って、どんなに汚い手を使っても生き残れないぞ。
それは俺様より賢いお前が一番知っている事だろう。

しかし、そんな思いとは裏腹にメルの口の端がニヤリと吊り上がる。

今まで死んでいたのに。
大丈夫か。お前、恐怖のあまり頭がおかしくなってないか?
俺様は、上目遣いでメルを見つめる。

「どんな事をしてでも生き残る覚悟がある?」

どんな事をしても?

「ああ。生き残れるなら親を殺してもいいぜ。その覚悟はある」

俺様は魔王だ。
悪逆非道がトレードマークの魔王だ。
生き残れるならば、メル、お前すらも裏切る所存だぜ。
それに俺様には生き残る確率があるならば、どれだけでもあがくつもりだぜ。

メルよ。何に気づいた?

瞳に光が宿った。
こうなった時のメルはひたすら心強い。
でも気になるのが、どんな事をしても生き残る覚悟はあるかという言葉だが。

俺様に何をさせるつもりだ。

「魔神器よ」

何?
魔神器だと?
新たな魔神器でも見つけて、もう一人、魔神を解放させるつもりか?
そして、ブタピックの時のように敵にぶつけるのか?

「あの茶坊主な魔神が封印されていた魔神器を探すのよ。話はそれからよ」

どういう事だ。
あの茶坊主な魔神が封印されていた魔神器を探してどうする?
全然、話が見えてこないぞ。

メルよ。本当に茶坊主な魔神の強さに恐怖して、頭がおかしくなってないか?

「魔王。さっさと探して。はい。はい。探す。探す」

ていうか、茶坊主な魔神が封印されていた魔神器だろう?
それ、多分、あそこにあるぞ。
ほれ、あそこ。

俺様達から少し離れた場所に大きな岩がある。

小規模な丘くらいある大きな岩。

そこのてっぺんに置いてあるのが、あの茶坊主な魔神が封印されて魔神器だろう。

何故、魔神器が、そんな目立つ所に置いてあったのか。
それは、この茶坊主な魔神の余裕だろう。
歴然とした力の差が生む余裕。
それともあれか?

魔神器の魔神達は自分達が封印されていた魔神器から離れられないとかな。

理由はどれだけでも考えられる。
が、今はそんな事はどうでもいい。それより、ブツはそこにあるのだ。
あるという事実にどんな理由をつけても空虚なのだよ。
ワトソン君。

そこに、あるものはあるんだからな。

「メル。拍子抜けするかもしれないが、あの岩の上を見て見ろ」

「!」

どうやら俺様の言いたい事が無事に伝わったようだな。
メルも魔神器を見つけ、狂喜した。
目が輝きを増す。

「魔王。どうやら運は向いてきたようよ」

メルが言った。
その声色は、とても弾んでいた。
真っ暗闇だった俺様達の未来が輝ける未来に変わったのを確信するように。

「うふふふ。魔神器の魔神も詰めが甘いわね。やってやるわ」

何をやるんだ。
というか実行するのは俺様だけどな。どうでもいいけど。
メルの次の言葉をドキドキしながら待った。

何をやらされるのか、少し怖かったが死ぬよりはマシだろうと思いつつ。

さて、さて、どうなる事やら。
むにゅむにゅ。

~ レポート二十四、さらば、了。

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【 クレスタ 】

自転車通学の生徒達を横目に自動車で登校する私は金持ちではない。教頭だ。

クレスタ、了。

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【 有名な温泉街 】

…――今、有名な温泉街にいる。

恋の病には効かないが、それ以外ならどんな病気でも治る草津温泉にいるのだ。
何かの病気なのかって?
違う。

たまたま草津温泉に来てしまっただけなのだ。

隠さなくていいって?

だから違う。
俺ほどの健康優良児はどこを探してもなかなかいないぞ。
体の不調どころか虫歯すらただの一本もねえよ。

それに温泉には興味がないしな。

うん?
体は健康でも恋の病を患っているのかって。
ば、馬鹿な事を言うな。

俺は恋のテクニシャンだぜ。どんな女であろうとも夜には腕の中だ。

ふふふっ。

「……あ、お帰り」

「か、母さん。何でこんな所に!?」

「何でって、お前のふるさとだろ。草津温泉は。実家にも寄るんだろ?」

「う、うん。母さんが作る里芋の煮っ転がしが食べたくてね」

俺は温泉になど興味はない。

くわっ。

有名な温泉街、了。

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【 パパ、ママ 】

一歳になる愛する我が子が言葉を覚えた。覚えた言葉は四露死苦と仏恥義理。

パパ、ママ、了。

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【 メルレポート、~ レポート二十三、茶坊主 】

…――秘の太刀、雪の斑月は確実に勇者に叩き込まれた。

しかし……。

そう。勇者の血で雪が舞う予定だったが、一向に雪が舞う様子がない。

外したのか。
焦って勇者を直視する。
勇者の体には死斑剣が刺さり、月より発せられたオーラも突き刺さっている。

これは、一体?

「ほえほえ。まだまだ甘いのう。ワシらには勝てんよ」

誰だ?
って、この状況、前にもあったような。
いつだったか。ほんの少し前だったような感じがするが思い出せん。

メルがしまったと気づいた。

「魔王。何で雪が舞わないのか分かったわ。私とした事が……」

と口惜しそうに言う。
何がどうなって、何が起こってるんだ?
俺様は、まったく意味が分からず、再び勇者に突き刺さった死斑剣を確認する。

間違いなく深々と急所に突き刺さっている。

「藻写守よ」

藻写守?
何だそれは? どこかの宗派のお経か何かか?
俺様は、ますます混乱した。

「気づくのが遅いわい。そうじゃ。また藻写守を唱えさせてもらったぞい」

……唱える?

「魔王。まだ分からないの?」

ううん? 何か大事な事を忘れているような気はするが……。
喉まで出かかっているんだがな。
思い出せん。

「君が斬った勇者は藻写守で創り出した幻よ。これだけ言っても分からない?」

あっ!

「そうよ。その顔はやっと分かったって感じね」

そうだ。そうだぜ。
寝込みを後ろから襲い寝首をかこうと思ってた時にひっかけられたあれか!?
老賢な魔法使いのあの幻術系魔法、藻写守……。

「ほえほえ。そういう事じゃ。またまたやらせてもらったわい」

でも幻は動けないんだろう。
俺様が雪の斑月を当てる直前まで、勇者はザコ魔人どもの相手をしていたぞ。
戦っていたって事は、つまり勇者は動いていたって事だ。

いつの間に本体と幻が入れ換わったんだ?

そんな暇があったか?

「いつの間に入れ換わった? そんな暇はなかったぞ!」

俺様が叫ぶ。
すると老賢な魔法使いは答える。
答えた所で今の優位は変わらないと確信し、あまつさえ余裕で饒舌になっていた。

「ほえほえ。魔王よ。勇者が何かに気づいた瞬間があったじゃろう?」

あっ!

> 円状にとどまったオーラの中心を抜け、俺様の剣戟が勇者へと襲いかかる。
> 勇者は一瞬、何かを感じたのか、俺様の方を見る。
> が、不埒な魔人に襲われ、向き直す。
> その隙が命取りとなる。

確かに勇者のヤツが一瞬、俺様の方をチラリと見ていたぞッ!

そうか。
あの時、ヤツらは俺様の動きに気づいた訳だ。
それにしても抜かりがないな。

ちくしょうがッ!

クソがッ!

「……魔王。残念ね。もう無理よ。万策尽きたわ。悔しいけど」

メルが肩を落し告げる。
今までどんなピンチがあってもメルの機転で覆し、俺様達はここまできた。
しかしそのメルが絶望し、遂に匙を投げてしまったのだ。

つまり俺様達の命運が尽きたという事だ。

死斑剣を握る手の力が抜ける。
手の中から死斑剣がこぼれて、死斑剣が力なく大地に転がる。
俺様が全面的に信頼していた参謀役であるメルがあきらめてしまったのだ。

当然、俺様にもまったく為す術がなかった。

「ははは。魔王よ。観念したかッ!」

勇者が勝ちを確信した。
戦士もやっと終わったと中華包丁を地面に刺し、こちらを見ている。
魔法使いとインテリ女僧侶も勇者に全てを任せている。
もうサポートする必要ないと判断して。

ザコ魔人どもは勇猛な勇者の手前、何も手を出せずに成り行きを見守っている。

「せめて俺の奥義で葬ってやるぜ」

奥義って言っても、どうせ花鳥風月辺りだろ?
お前の技はそれしかないしな。
さっさとしてくれ。

いくら死にたくない症候群の俺様でも、この状況はどうにもならない。

どうせ死ぬなら抵抗せず、楽に死にたい。
嗚呼。俺様の夢は潰え、そして壮大な計画は水泡に帰した訳だ。
つまらん人生だったな。

「奥義……」

南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。チーン。

「グッ、ガハッ。な、何だ?」

何だよ?
勇者よ。そんなにもったいぶってないで、さっさと殺せ。
俺様は観念したんだからよ。痛くするなよ。

「押忍。オラ、魔神」

まじん?

「くっ。みんな、フォーメーション滅。作戦はガンガン行こうぜでよろしくッ!」

勇者よ。
俺様を殺すだけでは飽きたらず、みんなでボコるのか?
お前ら、俺様以上に悪だな。

俺様亡き後、勇者、お前が魔王になれ。

「うっししし。オラと戦うのか? いいぞ。じゃ、やろっか?」

えっ!

この声色は?
もしかして、もしかするのか?
俺様は思わずメルがどんな表情をしているのか確認する。

メルのあの愛らしい青い瞳がまん丸に見開かれ、驚いているのが一目瞭然だった。

何を驚いているんだ?

俺様は、メルが驚いている原因であろう声がした方を見た。
そこで勇者達と戦っていたのは……。
ま、ま、じ、ん。

魔神ッ!

忘れもしない、あの頭髪を五分刈りにしたツルツルテンの坊主だ。
鼻の頭には絆創膏が貼ってあり、わんぱくそうな魔神。
鼻水がずずずっと垂れている。
魔神器の魔神だ。

「うぬぬ。お前らにオラの超絶必殺、烈覇(れっぱ)をお見舞いしてやるぞッ!」

魔神である茶坊主の拳に気が乗り、その拳が蒼白く光る。
烈覇とは、そうして拳に気を乗せて重き一発を相手に叩き込む力技だ。
辺りに禍々しいオーラが溢れる。

「くぬう。ならば奥義を持ってして迎えようぞ」

だから、お前の技は花鳥風月だろうが。
そんなに引っ張っても、みんなバレてるし、飽きてると思うぞ。
さっさとやれ。

「一撃に全てを賭ける。奥義、花鳥風月ッ!」

またチチチっとカシラダカが鳴くような音が響き渡る。
相変わらずだな。飽きた。
以上。

「いくどお。喰らえ。超絶必殺、烈覇ッ!」

魔神が花鳥風月を喰らわせようと突っ込んできた勇者にカウンターを合わせる。
魔神器の魔神の必殺技、烈覇が綺麗に勇者の顔面に入る。
アホっぽい魔神だが実力だけは本物だ。

勇者が吹っ飛ぶ。

そこに戦士がすかさず、魔神を真っ二つにするがごとく中華包丁で斬りかかる。
しかし、そこにも烈覇がスッと入っていき、戦士も吹っ飛ばす。
魔法使いに至っては戦う前から白旗。
もちろん女僧侶も。

「にっししし。オラの勝ちだ」

一瞬のやり取りで、勇者達が瞬殺されてしまった。

「お前ら、弱いな」

ちくしょう。
その台詞、俺様も言ってみたいぜ。
実力の足りない俺様では、ザコ魔人達に言うのが精一杯だがな。

「ぐうう」

勇者が這いつくばり、うめく。

「ま、オラの目的はあっちのヤツらだからお前らは殺さずにおいてやるよ」

いつの間にか周りを取り囲んでいた魔人達は雲のようにどこかにかき消えていた。
というか勇者にも勝てない俺様があいつを相手にするのか?
俺様はメルを上目遣いで見つめた。
助けを求めるように。

またメルの目から生気がなくなり、あきらめモードが感じてとれた。

嗚呼、やっぱり死ぬのかと思った。
状況が変わっても、運命は一切、何も変わらなかったな。
死にたくねえと。

~ レポート二十三、茶坊主、了。

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【 メルレポート、~ レポート二十二、勇者散る 】

「メル」

「何よ。魔王。何か文句があるわけ?」

メルよ。
叫んだのには意味があるのか。
結局、女僧侶の指示で勇者達は我に返って隙などないぞ。

「魔王。さっきはビックリさせてくれたな。だが、俺達には効かないぞ」

勇者が目に力を宿し言う。

「ほほほっ。そうじゃ。お主の計算も甘いのう」

続いて魔法使いのヤツが勝ち誇っている。

ほら。
勇者達もああ言ってるし。
結局、あんな叫び声、一瞬のこけおどしだろうが。

「魔王。もう一度よ。もう一度、ありったけの大声でファイト一発って叫んで」

メルが言う。
だから何の為に叫ぶんだよ。
一度目だったらいざ知らず、二度目はもっと効き目がないぞ。

「何の為にだ。そんなものは勇者達には効かないぞ」

「いいから叫んで」

ま、叫ぶだけだったらタダだからな。
俺様に損はないだろう。
分かった。

俺様は再び胸一杯、空気を吸い込み、ありったけの大声で叫ぶ。

「ファイト一発ッ!」と。

空に浮かぶ血の色をした月が震える。
また山々に木霊し、海岸ではさざ波が起こり、でかい声だというのが証明される。
だが……。

一度目ならまだ勇者達も驚いただろうが、二度目ではね。

「だから何のつもりだ。魔王」

だよね。
勇者のヤツがイライラしているのが分かる。
メルよ。ヤツらを怒らせて、それで何かするつもりだったのか?

「もう少しね」

何がだよ。

「魔王。覚えてる?」

「メルよ。だから何をだよ。何を覚えているって言うんだ?」

「先週、私が君のプリンを盗み食いした時の事」

ああ。
あれか。食いもんの恨みは恐ろしいぞ。
バッチリ覚えている。

「あの時、君は今の声にも負けず劣らずの叫び声をあげたわよね」

確かにな。
怒りに任せて、とんでもない叫び声をあげたぞ。
でも、それがどうした?

「その後の事は覚えていない? 何が起こったか考えてみて」

プリンを盗まれて叫び声をあげた後か。
うん? 何かあったか?
思い出せん。

大した事があったという記憶はどこにもないぞ。

「魔王様。お命頂戴。覚悟ッ!」

ウホッ。

「くくくっ。魔王よ。自分で居場所をバラすとはな。死ねえッ!」

おほっと。

「魔王ちゃん。脇が甘いわよ。死んでもらいます」

ぬのっ。

お、思い出したぞ。
そうだ。今のこの状況、まさにプリンを盗まれて叫んだ後と一緒だ。
一体、俺様に何が起こっているのか。

そうなのだ。
俺様を殺そうと魔界の不埒な野望を持つ魔人達が続々と俺様の前に現われたのだ。
勇者達を探していたさっきとは比べものにならないくらい。

その数、数百人を遙に超える。

でも、しょせん魔人達に過ぎなかったから忘れてた。

そうか。
メルよ。意味が分かったぞ。
こいつらと乱戦になれば、勇者達も俺様だけを狙っていられない訳か。

「でも、何でファイト一発だったんだ?」

「分からない?」

「……」

全然、分からん。
魔人達を呼び寄せるだけだったら何でもいいんじゃないのか?
俺様は死斑剣を構え、一応、考えた。
まったく分からなかったが。

戦士が中華包丁を肩から担ぎ、お決まりの文句を言う。

「ファイト一発ッ!」

「!」

「!」

「!」

魔人達の視線が一気に戦士に集中する。
さっき俺様が叫んだファイト一発という台詞を戦士が発したのだから。
ニヤリと笑う魔人達。
そうか。

なるほどな。

俺様はありったけの大声でファイト一発と叫んだのだ。
それを聞いて集まった魔人のヤツらは……。
戦士を無視はできない。

何せ、聞こえた叫び声とまったく同じ台詞を吐くヤツなんだからな。

戦士に自覚はないだろうが、そうなってしまうんだろう。
だからファイト一発だったのか。
なるほどな。

つまり戦士を俺様の部下か何か、それとも友達か何かと勘違いしたんだろうな。

そしてヤツらは知らない。
俺様より勇者達の方が強いという事実を。
という事は、魔界で無双を誇っていた魔王より弱いと踏んでもおかしくない。

つまり勇者達の力を見誤り、俺様より弱いと勘違いしたんだろう。

そして弱そうな方から倒すのが定石。
つまり勇者達に殺到する。
うほっ。

よっしゃ。よっしゃ。
さすがメルだぜ。何て素敵すぎるんだ。
このまま勇者達に注目が集まり、魔人達がヤツらを攻撃すれば……。

勇者のヤツに秘の太刀、雪の斑月を無事に叩き込める。

「魔王。ぼさっとしない。さっさと雪の斑月を叩き込むのよ」

あいあいさ。
秘の太刀、雪の斑月の構えに入った。
俺様がゆっくりと構えている間中、魔神達の攻撃に晒される事となった勇者達。

チーン。ご愁傷様。おほほほ。

俺様は死斑剣を上段に構え、満月を描くように回す。
回すのは死斑剣から発せられるオーラを円状にとどめ、その中心から発する為だ。
斬るのは剣とオーラの二段階。

つまり円状にとどめたオーラのど真ん中を突き抜け、剣による突きを繰り出す。

そして剣戟が勇者の体を狙い、捉えた瞬間、そこにオーラを叩き込む。
そして傷口へと達したオーラが小規模な爆発を起こす。
その爆発が血を飛び散らせるのだ。

それが雨の斑月。

しかも雪の斑月には更に段階があって、剣がまとう冷気がまた傷口を襲う。
オーラの爆発によって飛び散った血を氷結させるのだ。
まるで雪が舞うように。

「行くぜッ!」

雪の斑月を放つ為の準備が終わった。
今だ勇者達は、俺様が呼んだ不埒な魔人どもの対処に追われている。
これだったら決まる。

心を落ち着け、雪の斑月を叩き込まんと勇者に襲いかかる。

「まいる。秘の太刀、雪の斑月ッ!」

円状にとどまったオーラの中心を抜け、俺様の剣戟が勇者へと襲いかかる。
勇者は一瞬、何かを感じたのか、俺様の方を見る。
が、不埒な魔人に襲われ、向き直す。
その隙が命取りとなる。

俺様の雪の斑月が見事に勇者へと決まったのだ。

そろそろ俺様の声を聞きつけ、ここに集まった魔人達も気づくだろう。
勇者達は、お前らごときでは敵わぬ相手だと。
しかしもう遅い。

勇者は雪の斑月によって沈むのだ。

その後、標的を勇者達から俺様達に変えるであろう魔人達を一掃する。
不埒な野望を持った魔人ごとき俺様の敵ではないからな。
パーフェクト。

まさにパーフェクト。

完全勝利だ。

俺様は雪の斑月を勇者に叩き込み、ほくそ笑んだ。
もちろんメルも決まったと思っていた。
ほんの数秒間だけ。

そう。

…――この後、数秒後に俺様達の計算が甘かった事を思い知る事となった。

~ レポート二十二、勇者散る、了。

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【 メルレポート、~ レポート二十一、ファイト一発ッ! 】

…――俺様は必死で勇者達の攻撃を避ける。

勇者の青く光るサーベルを間一髪避けると戦士の中華包丁が俺様の首を狙う。
空気を切り裂き鈍い音を立てて中華包丁が俺様に迫る。
何とか上体を沈め中華包丁を避ける。

そこに飛んでくる光の矢。

魔法使いが魔法で創生したマジックアローが俺様を狙っていたのだ。
すんでのところでメルが光の矢を捌く。
幻魔の杖を使い。

今の俺様達の実力では避けるのが精一杯で、反撃するまでには至らない。

避ける事はできるのだが、攻撃ができない。
つまり援軍の来ない籠城作戦を敢行しているようなものだ。
簡単に言えば先細る。

今は避けられているが、いつか勇者達の攻撃に捉えられ敗北は目前だった。

「メル。このままじゃ負けるぞ。どうする?」

「……そうね。隙を作らないと」

「隙?」

「そうよ。隙よ。隙さえできれば勇者達に一撃を入れる事ができるわ」

隙って簡単にいうけど、どうすれば隙なんてできる?

実力的には勇者達の方が上で、俺様は避けるのが精一杯なのによ。
それに勇者や戦士、魔法使いを驚かせてもだ。
インテリ女僧侶がいるぞ。

そう。

インテリ女僧侶はバックアップに徹して後方から勇者達に指示を出している。

つまり前線の三人の虚を突いても、女僧侶が問題になるのだ。
指示を出しているのは女僧侶なのだから。
どうすればいい?

「魔王」

メルが戦士の馬鹿でかい中華包丁をかわしながら言う。
俺様も勇者の剣を死斑剣で受け止め答える。
ギリギリの攻防を繰り広げつつ。

「何だ。メル。何か、いい作戦でも思いついたか。そろそろ限界だぞ」

「答えて。一撃で勇者達を倒せるような技はある?」

厳しい口調で言う。
それだけ切迫した状況で、メル自身も、もうそろそろ限界なんだろう。
ぬう。それにしても一撃で勇者達を倒せるような技だと。

あれしかない。

……秘の太刀、雨の斑月(あめのむらつき)。

雨の斑月は俺様の剣技の中でも最高難易度で一撃必中の技だ。
その太刀筋は早すぎて見えず、まるで空気の刃に斬られるような錯覚さえ覚える。
そして斬った後、傷口から血が噴き出し散る。

噴き出した血が散る様子が、まるで雨が降っているように見える技だ。

ゆえに雨の斑月と言う。

しかも死斑剣は変なおじさんによってパワーアップしている。
冷気をまとった死斑剣により、噴き出す血は瞬間的に氷結し雨は雪となるだろう。
つまり……。

秘の太刀、雨の斑月は雪の斑月となるだろう。

「メル。秘の太刀、雪の斑月を使う」

勇者の青き斬撃に死斑剣を合わせ、つばぜり合いをしつつ答える。

「雪の斑月?」

「そうだ。今、変なおじさんに鍛えてもらった死斑剣で初めて可能な技だ」

メルもギリギリの所で戦士の中華包丁を避けつつ答える。
まるで大道芸人のような軽業で。
さすが斥候役。

「分かったわ。隙を作って一撃入れらさえすれば、何とかなるのね」

「ああ。死斑剣もパワーアップしているし大丈夫だろう」

メルよ。
何か思いついたようだな。
でも早くしないと勇者にも花鳥風月があるぞ。

どこかからチチチっとカシラダカが鳴くような音が魔界の虚空に響き渡る。

くるッ!

勇者の奥義、花鳥風月だ。

「魔王。できるだけ大きな声でファイト一発って叫んでッ!」

メルが叫んだ。
普段、謳うような声を発する彼女が最上級のベルカントを辺りに響かせたのだ。
いや、メル。ちょっと待て。ファイト一発って叫んでどうする?
それで勇者達をビックリさせ隙を作る事ができるのか?
あまつさえ隙を作ったとして……。

後方で指示を出しているインテリ女僧侶は?

勇者の剣の風圧で爽やかな風が起こる。
俺様の蒼いオールバックの髪が、ふわっと撫でられ、髪が揺れる。
や、やばい。

「早く。魔王、腹の底からファイト一発って叫ぶのよッ!」

再びメルのベルカントが辺りに響き渡る。
空に浮かぶ血の色をした弧弦の月が一瞬、揺れたような気がした。
くっ。迷ってらんねえ。
叫ぶぞ。

頭が切れるメルが言うんだ。何か考えがあるんだろう。

俺様はすうっと胸一杯、空気を吸い込んでありったけの大声で叫んだ。
メルに言われた通りにファイト一発と。
空気が震えた。

「ファイト一発ッ!」

魔界一杯に響き渡る俺様の声。
遠くにある山では反響し、木霊が起こっている。
海岸では俺様のあまりにでかい声で、さざ波が起こり海が震えている。

我ながらでかい声だったな。

自分でも驚いた。

こんなでかい声を出したのは、忘れもしない。メルにプリンを盗まれた時以来だ。
買っておいたプリンを彼女に盗まれたのだ。
ま、先週だがな。

食いもんの恨みは恐ろしいぞ。

「……いきなり、な、なんだ。魔王?」

勇者がたじろぐ。
いや、勇者だけではない。戦士と魔法使いも戦いを一旦止め、こちらを見ている。
ヤツらは、俺様のあまりにでかい声に驚いたんだろう。
俺様自身も驚いた位だからな。

しかし、メルはこれを狙ったのか。確かに隙とも言えなくもない。

が……。

「何やってるのよ。みんな。さっさと倒す」

そうなのだ。
戦闘を後方で客観的に見ていたインテリ女僧侶が勇者達を諭す。
後方で客観的に見ているがゆえに冷静なのだ。

「す、すまん。僧侶。じゃ、作戦はガンガン行こうぜでよろしくッ!」

まず勇者が我に返る。

「ファ、ファイト一発ッ!」

戦士が中華包丁を肩に担ぎ直し、戦闘へと戻る。
老齢な魔法使いは何も言葉を発せず、バツが悪そうに魔法の詠唱へと入る。
ヤツらは完全に我に返った。

思った通りだ。

やっぱり前線の三人をひるませても、バックアップに徹する女僧侶は驚かせない。

確かに一瞬は何とかなった。
が、結局、それ以上でもなく、それ以下でもなかったな。
隙なんて言えるようなもんじゃなかった。

一体、何がしたかったんだ。

俺様はガックリと肩を落し、メルを見つめる。
しかし、そこには魔界の虚空すら突き抜けるような天真爛漫に笑う彼女がいた。
まるで詰んだよと言わぬがごとく。

「チェックメイトよ」

と言った。

~ レポート二十一、ファイト一発ッ! 、了。

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【 メルレポート、~ レポート二十、藻写守 】

「気いつけていけよ。ワシは応援しておるからのう」

俺様達は変なおじさんと別れた。
そして、勇者の寝込みを後ろから襲う為にヤツらを探す旅へと出た。
よし。やってやるぞ。

気合いだ。

ただし、寝込みを後ろから襲うという情けなさだがな。
せっかく死斑剣をパワーアップさせたのに。
とほほだな。

その為か俺様自慢の蒼いオールバックの髪がしおしおと気合いを失っている。
ただし、何があっても死にたくはない。
ゆえに卑怯でもいい。

いや、むしろ魔王的には卑怯な位がいい。
寝込みを後ろから襲い寝首をかくのが一番、生存率が高いのならば、それでいい。
俺様は生き残る為ならば、プライドなど、かなぐり捨ててやるぞ。

絶対に死にたくない。

メルがそんな俺様を、上目遣いでジッと見つめている。
今にも吸い込まれそうな青い瞳。
魅惑的だ。

というか、何だ? そんなにまじまじと見つめて。
もしかして俺様に惚れたか?
惚れたか?

「今、死にたくないと思っているでしょ?」

何だ、違うのか。
ちょっとでもドキッとした俺様が馬鹿みたいじゃないか。
だが確かに死にたくないと思っているぞ。

「ああ」

「魔王。君、いつも疑問だったんだけど、何でそんなに死にたくないの?」

「フッ。しれた事よ。死んだらそこで終わりだ」

真理だな。
死んだら全てがそこで終わりなのだ。
そして俺様には夢がある。

再び、魔王として魔界の支配者に返り咲くのだ。わははは。

「そうね。死んだら終わりよ。でも、それだけで死にたくないと思ってるの?」

「俺様はどうしても魔界の支配者に返り咲きたいと思っているのだ」

「そうね。それは、私の本願でもあるわ」

メルは謳うよう言う。
その声は、流れるように俺様の耳に入ってきて、またドキッとさせられる。
まるで清流の涼やかな水のせせらぎようにも感じるトーン。
青い瞳とはまた違った魅力がある声だった。

「ゆえに死んでいる場合ではないのだ。何としても生きてやる」

「そう。魔王の決意は分かったわ」

「そういう事だ」

ま、俺様が死にたくないと思っているのには他にも理由があるのだが。
これ位でもメルは納得するだろう。
今は、それででいい。

いつか、本当の理由を嫌でも知る日がくると思うからな。

俺様とメルは、そんな他愛のない話をしながら勇者達を探す旅を続けた。
相変わらず魔界は黒く煤けた砂の大地が拡がっている。
空には血の色をした月が浮かんでいる。

すでに雪は止み、弧弦の月はまた暑い熱線でジリジリと俺様達を照りつけている。

それにしても暑いな。
こうも暑いと上着を脱ぎたくなる。
が、俺様はポリシーを持って、この茶色い革ジャンを着ているのだ。

ちょっとやそっとでは脱ぐ訳にはいかん。

「魔王。こんなに暑いのに革ジャンなんか着てて暑いでしょ?」

「うるさい。俺様にはポリシーがあるのだ。何を言われようが脱ぐ訳にはいかん」

「見てるこっちが暑いわよ。脱ぎなさい」

「うるさい。お前の頼みでも聞けん。俺様は脱がんぞ」

「やれやれ。でも本当に暑いわね。さっきまで雪が降っていたとは思えないわ」

革ジャンを脱がすのをあきらめたようだ。

いいのだ。
命にでも関わらない限り、この革ジャンを脱ぐ気になれない。
男はつまらない事にこだわる生き物なのだ。

分かるか? 分からんだろうな。

汗が噴き出す。
いつも思うのだが、魔界という土地は何でこんなにも過酷な環境なんだろうか。
歴代の魔王達が人間界を支配したいと思うのも無理はない。

人間界には潤沢に資源があるし、季候も安定していて羨ましい限りだ。

しかし俺様は人間界はおろか、魔界も滅ぼすがな。

とにかく俺様達は旅を続けた。
もちろん、その間も魔界の不埒な野望を持った魔人達が襲ってきた。
その度にパワーアップした死斑剣でなぎ払った。

魂を喰らい血を吸った死斑剣が段々と手に馴染んできた。

そんな感覚があった。

死斑剣は、本番である勇者達の魂を喰う事を切望しているようだった。
それにしてもこうも魔界の魔人達が襲ってくるとは。
よっぽど俺様は落ちぶれたらしい。
何とも不本意な状況だ。

俺様が、そんな事を考えていると……。

「あっ!」

メルが小さな声で驚いたように言い、俺様の革ジャンの袖を引っ張る。
ダボっとした茶色い革ジャンの袖を。
何だ?

メルが何かを見つけたようだ。

うん?
また頭のおかしい魔人でも見つけたか?
俺様は、メルが指さす方を見て、やれやれだと死斑剣を構え直した。

「うおっ!」

そこには……、そう、そこには。

「勇者達よ。ちょうど今、休憩をとって寝ているようね」

見つけたぞ。
やっと松岡修造的なヤツらを見つけたのだ。
しかも都合のいい事にヤツらは気を抜いて眠りに入っているようだった。

良し。

天候は晴朗なり。トラトラトラ。

ヤツらは煤けた黒い砂の上に生える枯れ木に寄りかかり寝ている。
俺様達は足音に気をつけ、ゆっくりと近寄る。
しめしめ。やっちゃるけん。

俺様は寝入っている勇者の後ろへと立つ。

作戦、成功。

このまま後ろから死斑剣で寝首をかいてやるぜ。
死ねえい。勇者よ。ふははは。
つぅッ!

「残念だったな。魔王」

何だ?
勇者は相変わらず腕を組んで寝入ったまま。
誰だ? 一体、誰の声だ。

「お主らがワシらの寝込みを襲い寝首をかく作戦だという事は重々、承知じゃ」

辺りを見渡す。
勇者のパーティーで起きたヤツはいないか確認したのだ。
しかし、誰一人として起きてるヤツはいない。

…――みんな寝息を立てて寝ている。

「幻術じゃ」

幻術?
いや、いや、幻術より、この現実の方を疑いたいよ。俺様は。
本当に何が起こっているというんだ?

「藻写守(もしゃしゅ)という魔法でな。己の分身を創り出す魔法じゃよ」

藻写守だと?

「よしゃ。みんな、作戦はガンガン行こうでよろしくッ!」

うおっ。
魔界の虚空を斬り破り、勇者が斬りかかってきたッ!
ちくしょう。意味が分かったぞ。

「ほほほっ。そういう事じゃ。藻者守はワシの幻術系魔法じゃよ」

「くっ。魔法で自分の幻を創り出したって訳ね」

頭が切れるメルですら騙された。
それだけ適した場面で、適した効果のある藻者守という魔法を使われたって事だ。
向こうの魔法使いも、メルに負けず劣らず頭が切れるぞ。

「前にお主の閃光系魔法でしてやられたからのう。そのお返しじゃ」

「チッ。まんまとやられたわ」

メルが口惜しそうに言う。
俺様は不意打ちを食らわす予定が不意打ちを受けるハメとなってしまった。
斬りかかってきた勇者の剣が俺様の肩の辺りにヒットする。

「つぅッ!」

間一髪、体をひねり避ける。
少々、血が出たが、大丈夫だ。致命傷じゃない。
死斑剣を構える。

朱色の刀身から、ゆらゆらとした陽炎のような蒼白いオーラが立ち上る。

遂に勇者の魂が喰えると狂喜したのだ。
そんな死斑剣の思惑とは裏腹に俺様は冷や汗を額に浮かべる。
今は、勝てない。

いや、勝てないどころか、このままでは死ぬぞ。

し、死にたくねえ。

俺様はまだ死ねない身なんだ。
何があったって、無様だろうが生き延びてやると心に誓ったんだ。
ちくしょう。

メルよ。この状況、何とかならないか?

上目遣いでメルを見つめる。
彼女は幻魔の杖を握りつつ、何かを必死で考えていた。
そう。

いまだ彼女の目は決して死んでいなかった。

~ レポート二十、藻写守、了。

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【 メルレポート、~ レポート十九、私の分まで生きて 】

「魔王。メルちゃん。剣は鍛え終わったぞい」

変なおじさんが言う。
その言葉通り死斑剣の刀身は一際輝きを増し、その周りに冷気をまとっていた。
死斑剣より冷気が漏れ出し、辺りは更に寒さが増した。

およ?

もしかして雪が降るこの季候は……もしやギャグのせいじゃないのか?

今まで変なおじさんのギャグが季候を変えると思っていた。
が、実は剣より漏れる冷気が原因なのかと。
魔王はそう思った。

そう。
今、魔王が気づいたようこの寒い季候は剣から漏れ出す冷気が原因だったのだ。
つまり、変なおじさんは死斑剣以外の他の剣も鍛えていたのだ。
魔王達がここにたどり着いた時に。

その剣の持ち主は……。

あの松岡修造的なヤツらの剣じゃないのか。
そう。俺様達の天敵なヤツらでは。
と魔王は思った。

が、変なおじさんとて、ヤツらとは敵対する関係。それはないのかもしれない。

そうも思った。
が、今はヤツら位しか考えられない。
しかしメルだけは、そうではないと信じていた。

敬愛する変なおじさんが、ヤツらに力を貸すとは信じられなかったのだ。

では、魔王達がここに来た時に鍛えていた剣の持ち主は……。

いや、今は伏せておこう。
追々、誰の剣を鍛えていたのかは明らかになるはずだ。
しかし、季候を変えてしまうほどの冷気を発する剣とは、何とも心強いぞ。

「うむ。いい剣になったな。変なおじさん、礼をいうぞ」

死斑剣をまじまじと見つめて言う。
メルも満足そうに笑う。
魔王は思った。

この死斑剣を使えば、勇者達にも一泡吹かせる事が出来ると。

「魔王。じゃ、勇者達を倒しに行きましょうか」

「うむ。勝てる気がするぞ」

「甘いわ。これで勇者達に勝てる確率が少し上がっただけ。決して勝てないわ」

おい。おい。
季候を変えてしまうほどの冷気をまとう死斑剣を使っても勝てないのかよ。
俺様ってどんだけ弱いんだ。元魔王だった俺様だぞ。
ここに来るまでも魔人達をだな。

って、聞けッ!

メルッ!

「勇者達の寝込みを襲って、後ろから寝首をかくのよ。いい事?」

やる事は前と同じか。
せっかく死斑剣を鍛えて、パワーアップさせたのによ。
ほとほと俺様の弱さに嫌気がさすぜ。

「へい。へい」

と俺様が口を尖らせ、微妙に抗議しつつ答える。
そこで変なおじさんが口をはさむ。
真剣な面持ちで。

「メルちゃん。今、とんでもない事に首を突っ込んでおるようじゃのう」

とんでもない事?
確かに原初の魔王を呼び出して、世界を滅ぼそうとしてんだからな。
とんでもない事と言えば、とんでもない事かもしれん。

「一つ、忠告をしとくぞい」

何だ?

「この世界には魔神器とか言うものがあるらしいが、それには手を出すな」

もう遅いぞ。
俺様達は魔神器から原初の魔王を呼び出してしまっているんだからな。
あまつさえ魔神器の魔神達を倒そうと画策しているのだ。

「最悪、手を出した場合」

手を出した場合?

「魔神器の魔神は所有者と認めたものの言う事を聞くと聞いた事がある」

そうなのか。初耳だ。
だが、原初の魔王の魔神器はブタピックが持っていた。
という事はブタピックが所有者って事か?

「所有者になるには魔神を呼び出し、それを倒し屈服させる事じゃ」

……つまり。
原初の魔王がブタピックに倒されたとは思えん。
という事は、今、原初の魔王の魔神器は所有者不在という事になるな。

「魔神を倒せるやつなどいない」

だろうな。
しかし、俺様達はこれから勇者達を倒し、その後、魔神を倒す予定だがな。
この冷気をまとった死斑剣と勇者を倒した経験値でな。

「馬鹿な事は言わん。魔神器には手をだすな」

ありがとよ。変なおじさん。
しかしな。俺様達は魔界の支配者として返り咲く為に魔神を倒さねばならん。
これは宿命であり、そして、作者の意図なのだ。ふははは。

「ありがとう。変なおじさん。大丈夫よ」

メルが答える。
青い瞳をクリクリとさせて、愛らしく。
もしメルの性格が凶暴でなければ、今にも襲っちまいたい位、可愛いぜ。

ま、でも俺様はメルにとってブサメンでしかないがな。

ちくしょうめ。

「その魔神器とやらには手を出さないわ」

おい。おい。
どの口が、そんな事を言うんだ。
いくら心配をさせない為とはいえ、大ウソをこいてもいいのか?

「じゃが、剣を鍛えたのじゃろ。つまり戦いに赴くって事じゃないのかい?」

変なおじさん、鋭い。

「勇者ごときと戦っているうちはよい。が、魔神器には……」

そのごときにも勝てないんですけど。

「大丈夫よ。魔神器には間違っても手を出さないわ」

メルよ。本当に悪だな。
いや、この場合、変なおじさんに心配させない為だから善なのか。
というか善行など魔人のやる事じゃねえぞ。

メル。お前は魔人の女なのだ。

自覚を持て。

「……いや、もう知っておるよ。メルちゃん。魔神器に手を出しておる事は」

「!」

メルの頭のテンコツにある癖毛がピーンと伸びる。

変なおじさん、無駄に鋭いな。
一体、どこからそんな情報を仕入れたのだ。
魔神器を持っていたブタピック位からしか、そんな情報は漏れないぞ。

「メルちゃんは頭が良い。じゃから逆に心配なんじゃ」

「そうね。あなたにウソは無駄のようね」

「もう知っておる。魔王を魔王に返り咲かせる為にやっておるのじゃろう?」

メルは観念したように健康的な唇を尖らせる。

「そうよ。私は魔王の参謀。魔王の復権が本願なのよ。仕方がないの」

今までの殊勝なメルは、一体、どこにやら。
青い瞳に決意の炎を灯し、力強く、変なおじさんに言う。
そんなメルも可愛い。

というか、俺様はメルに惚れてしまっているのか?

ずっと可愛いを連呼しているような……。
そんな事はないと言いたいが、否定できない俺様がいるのも事実だ。
力なく笑う変なおじさん。

「うむ。メルちゃんにも考えがあろう。じゃが最後にこれだけ言わせておくれ」

メルは変なおじさんをジッと見つめる。
その決意に満ちた目で。

「何?」

「ヘンナはメルちゃんに私の分まで生きてと言ったのを忘れるな」

変なおじさんは、優しく笑った。
そして、今はいないヘンナという愛娘の言葉を贈った。
メルの未来を案じ。

「……。ありがとう。変なおじさん」

そう言った彼女の青い目には、また大粒の涙が浮かんでいた。
それを見た変なおじさんは笑った。
また目に涙を浮かべ。

「……今はメルトと呼んでおくれ。ギャグを披露する気にはなれんからのう」

「はい。メルトさん」

「うむ」

なんだ。なんだ。
この流れは、俺様達は魔人なんだぞ。
そんなお涙ちょうだいの三文小説的な流れは他の場所でやってくれ。

俺様は魔王だ。

そしてメルは魔王の従者。

つまり諸悪の根源的存在であり、涙とは無縁なのだ。
ふははは。全ての悪こそ俺様なのだ。
俺様は泣かんぞ。

泣かんぞ。

って、泣いちまうじゃねえか。

おろろん。ぐずっ。

って、俺様が一番、三文小説的な主人公だな。

ち、ちくしょうがあ。

俺様は思わずパワーアップした死斑剣をギュッと握り、素振りを始めた。
まるで泣いている自分を誤魔化すかのように。
ち、ちくしょうがあ。

豪ッ!

俺様が死斑剣を一振りしたら竜巻が起きた。
な、何、何が起こったの?
し、死斑剣が……。

竜巻の後、辺りにしんしんと降っていた雪が、豪ッと吹雪に変わった。

何、何ですか? このパワー。
変なおじさんが死斑剣を鍛えただけで、ここまでパワーアップするものなのか?
あり得ん。

そんな様子を見たメルが感心したように告げる。

「さすが、メルトさんの仕事ですね。これで魔神器の魔神にも勝てます」

メルがさも当然と言う。
しかし、変なおじさんは厳し顔で答える。
甘いと。

「この剣では勇者にすら勝てんぞ。メルちゃんも分かっておろう」

「……そうですね。あなたにウソは通用しませんね」

「うむ。そうじゃ」

変なおじさんはそう言うと黙ってしまった。
メルも何かを考え黙ってしまった。
俺様だけ……。

いつまでも目から大粒の涙を流し、泣き続けていた。

死斑剣をギュッと握りしめつつ。
やっぱり俺様ほど三文小説の主人公が似合うヤツはいないなと思った。
とほほだな。

「ち、ちくしょうがあッ!!」

~ レポート十九、私の分まで生きて、了。

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四草めぐる

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将来、月に移住したいと思う今日この頃。現実的には一歩、一歩、着実に。基本を大事に。

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