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E★エブリスタ

では、▼以下より、私の世界をお楽しみ下さい。
     

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【 エイプリルフールで候 】

※注、登場人物がウソをつきます。
皆さんも、決して騙されないように読み終えて下さいネ。

*****

「エイプリルフールだから今日は一日、ウソをつくよ」

彼女が唐突に言う。
俺はイッコ年上の彼女と同棲している。
彼女は口がとっても達者で、いつも言いくるめられている。

今回は気まぐれで挑戦された。

「もし騙されなかったら焼き肉をおごるわ。でも騙されたらアンタのおごりね」

ウソをつくだと。
しかも騙されなかったら焼き肉をおごるだと。
口が達者な彼女の事だ。きっととんでもないウソをつくつもりなんだろう。

しかし、ウソをつくと言われて騙されるのもしゃくだな。

よし。
どんなウソにも騙されないぜ。
焼き肉がかかっているし、気合いを入れた。

「いいよ。やろうか。絶対に騙されないぜ。焼き肉は俺のもんだ」

それから三時間後。

「雨が降ってきたよ。洗濯物入れて」

雨なんて降ってない。
ウソだ。

今日一日、騙されなかったら焼き肉なのだ。宣言されているし絶対に騙されない。

それから一時間後。

「今日のご飯は外で食べようか。何がいい?」

さっきしれっと料理をしていただろうが。
ウソだな。

甘い。甘い。彼女はウソをつくと宣言しているのだ。騙されないぞ。

それから五時間後。

「今日は疲れたね。先にお風呂に入っていいわよ」

今日は風呂を沸かしていない。
騙されるか。

後、少しで今日が終わる。つまり、騙されなかった俺の勝ちなのだ。

絶対に騙されてたまるか。
気合いを入れた。
やるぜ。

しかし肩すかしを喰らうように残りの時間、彼女はジッと黙っていた。

そして今日が終わる。
エイプリルフールが終わりを告げたのだ。
いいのか?

「なあ。なあ。今日一日、騙されなかったろ。いっしし。俺の勝ちだな」

「まだ一分あるわ。まだまだ分からないわよ」

「まだ? しかだろ?」

「とか話してる間にも残り一分過ぎそうね。後、十秒、九秒、八秒、七秒……」

「やり。焼き肉ゲット。俺の勝ちッ」

もう残り三秒少々。
いくら彼女の口が達者でも、三秒では何もできない。
勝利を確信し、彼女のおごりでたらふく焼き肉を食ってやろうとほくそ笑んだ。

「三秒、二秒、一秒……」

「終了ッ!」

ガッツポーズをして、焼き肉に思いを馳せた。
食ってやるぜ。食いまくる。
彼女のおごりで。

「はい。騙されたましたね。今日は、まだ一分ありますよ。勝ちッ!」

「えっ……マジ?」

「マジ」

くわっ。

エイプリルフールで候、了。

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【 寄付しますw 】

「なあ。宝くじの一等、五億円が当たったらどうする?」

友達が話しかけてくる。
宝くじの一等だと、そんなもの当たる訳がない。
夢を見るのは勝手だが、俺は現実主義者だ。そんな話に興味はない。

「宝くじってさ。夢を買うものだよな」

ま、確かにそうだ。
ただしリアリストの俺的には、正味、三十万位までしか当たる気はしないな。
しかし五億円じゃなくても三十万で充分じゃなかろうか。

「ああ。当たらないかな。五億円」

夢見るオッさんだな。
お前は。

「当たったら家を買って、車を買って、後は貯金して一生遊んで暮らす」

はい。はい。
一等五億円は夢のまた夢だから。
敢えて言おう。絶対に当たらないから安心しろ。

「宝くじ……」

まだ言いたい事があるのか?

「結局、一枚も買ってないんだけどさ」

くわっ。

寄付しますw、了。

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【 勇者は死にました、レベル十八、棚からぼた餅 】

無になった。
考える事を放棄し、頭の中を真っ白にしたのだ。
何かを考えてしまえば、それは復活の呪文として入力されてしまうだろう。

その意図しない復活の呪文入力を防止する為に無になったのだ。

聖職者である坊さん以上に無欲だ。
いや、今どきの坊さんは平気で肉を食うし、女も抱くし、金策もする。
相手じゃない。

俺は肉体すら超越し、神に一番近い人間だと思う。

何せ、オッさん魔王と月で孤独や空腹と戦い一年間苦しい修業したんだからな。
ここで役に立てないと悲しいぜ。
いいぞ。俺。

今の俺は無の境地だ。

頭の中は真っ白で、生きる為に必要な事すら考えていない。
こんな状況じゃ復活の呪文も入力できない。
これでいいのだ。

今までの復活人生の幕を引くのだ。

「ビチ?」

香恋ちゃんの声が聞こえる。
しかし彼女に答える気もないし、聞こえる事さえ流すつもりだ。
そうしないと少しでも何かを考えてしまうからな。

いや、これすら思考停止しなくては。

何も聞く気がない。
そして答える気もないから、香恋ちゃん、どうか俺を安らかに眠らせてくれ。
今、そう願う事すら何かを考えてしまっているわけなのだが。

ゆえに無になる。願うつもりも毛頭ない。

「復活の呪文を受諾しました」

何も聞こえない。
今、俺は自然と一体となり、無の境地にいるのだ。
たとえ復活の呪文が受諾されたと言われても、反応するつもりはない。

そう。

復活の呪文が受諾されたと言われても……。

って!?

なぬを。復活の呪文を受諾しただと!? ど、どこから?

何も考えていないぞ。
頭の中は真っ白だったはずだ。何を受諾したんだ?
ほんの少しでも俺自身に意識があれば、それを拾って復活の呪文にするのか!?

「何も入力せずに復活するのです」

ゴリアテッ!
何も入力しないという行為すら復活の呪文となってしまうのか。
何の為に月で修業し、無の境地に至ったんだ。

復活したくないって言ってるべ。

本当に止めてよ。

無の境地になってまで復活を拒否していた事を分かろうよ。
香恋ちゃんが悪魔に見えてきて仕方ないよ。
もう放っておいてよ。

また目の前がフラッシュし、白いトンネルを抜けるような感覚に陥った。

これはつまり復活するって事だね。
悲しいけど現実なのだ。
辛い現実。

前に転生した時は周りを確認するのを怠った。

そこは月であったのだが、それを理解するまで時間がかかった。
だから転生していの一番に周りを確認した。
ここはどこなのかと。

目の前に暗いオーラを放つ洋風の厳つい城があった。

よく見ると砲台まで備えている城。
もしかしたらキャタピラか何かがついていて、自走できる城なのかもと思った。
この城は……。

城の周りをコウモリ達が我が物顔で自由に飛び回っている。
四隅にある塔には不穏な雲がかかっている。
もしかして、この城は……。

「ビチ。やっと会えましたね。これで、まともに話ができますぅ。もふっです」

ウホッ。
どこから現われたのか香恋ちゃんが俺の顔を上目遣いでのぞき込んでいる。
って、顔と顔の距離近いから。キスしちゃうよ。いいの?

「いやん。もう。ビチの馬鹿。キスはおあずけよ」

香恋ちゃんは俺の思考を読んでみせた。
大きな藍色の瞳をクリクリと動かせ、小首を傾げている。
やっぱり可愛い。

ほわんとした空気がまたいい。

いかん。
香恋ちゃんのあまりの可愛さに大切な事が抜け落ちる所だった。
そうなのだ。今、目の前にあるあの城は……。

「あの城は……」

「そうですよ。魔王の城よ」

相変わらず、香恋ちゃんの言葉使いは不可思議だが……。
それも可愛いんだよな。
反則だ。

って、魔王の城だと。
つまり、目的地、魔王城で間違いがないんだな。
復活の呪文を何も入力しないという暴挙だったが場所は当たりを引いた訳だ。

後、肝心なのはレベルなどの数値。

これがチートで最強クラスであれば理想の復活の呪文となる。
七回目の人生で当たりを引いた事になる。
頼むよ。神様仏様。

レベル★。

星……。
あれ。このレベルって何だった?
またバグっちったとか、そういうオチじゃないよね。
ねえ。ねえ。香恋ちゃん、レベル★って、どんな意味だったっけさ?

「レベル★は最強です」

そう。そう。最強って意味だったね。
うん。最強チート。
って。

おい。七回目の人生で大当たりかッ。マジか!?

また意地悪なオチがないか、念には念を入れてステータスも確認してみる。
レベルが★でもステータスが低いって可能性もあるからね。
油断はできない。

体力、7兆3000億53915。

体力から確認しておく。
何せ前に同じようにチートな能力を引いたのに体力が0で死んでたからな。
二の轍なんて、絶対に踏みたくねえぜ。マジで。

力、52兆6152億12945。

うん。良かろう。

知力、17兆2154億78777。

うん。うん。最高だッ!
場所は魔王城の前だし、ステータスもレベルも最高だ。
これだったら魔王を倒すのも容易で、しかも時間を無駄に喰う旅をしなくていい。

佳かろう。

ねえ。香恋ちゃん?
君は、この復活の呪文を待ち望んでいたんでしょ?
復活したくない一心で思考を停止し何も入力しなかったのが功をそうしたようだ。
棚からぼた餅的なラッキーだけど、結果、オーライで良しとしよう。

「じゃ、魔王を倒しに行こうぜ。ビチ」

香恋ちゃんが、また変な言葉使いで可愛く言う。

おう。おう。
俺はビチ。ビチビチなビチ。
香恋ちゃんが魔王で、その魔王と一緒に魔王を倒しに行くって不思議だけど。

俺は新鮮なビチだぜ。

ビチビチ。

「あ。でもちょっと待って」

何だよ。
俺はさっさと魔王を倒して、モブ生活に戻りたいんだよ。
魔王を倒したモブとして、モブの中のモブ、すなわちモブ王になりたいんだよ。

「ジョンドットソン五世が合流するのですわ」

オッさん魔王か。
ひょっとして倒す魔王はオッさん魔王じゃないかと思ってたけど違う訳ね。
俺は香恋ちゃんと二人っきりで魔王を倒したいけど。
オッさん魔王の助けなんていらない。

「ロン。メンタンドラドラ」

麻雀か?

「ふおふおふお。バルタン星人。吾輩を忘れられては困るぞ。ビチよ」

さっきの麻雀は一体なんなんだ。
意味がないのか。
死ね。

「さて裏ドラ的な吾輩だが、お前だったらどう使う? 鳴いて明刻狙いか?」

意味が分からん。お前のどこが裏ドラなんだ。
お前は他人の当たり牌だろ。
安牌ですらねえよ。

「じゃ、行きましょう。ビチ。魔王を倒して平和を取り戻すのよん」

へい。へい。
魔王二人組とモブの俺が魔王を倒すのか。
何だか、めっちゃめちゃカオスだが、ま、あまり気にしないで行くとするか。

「魔王、首を洗って待ってなさいよ。私らが貴様を倒すッ!」

大丈夫か。
香恋ちゃん、頭がイカれてないか。
と、俺は少々、香恋ちゃんの事が心配になった。

ロボトミーかと思った。

~ レベル十八、棚からぼた餅、了。

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【 勇者は死にました、レベル十七、最強最後の呪文 】

「つまり最高レベルで魔王城の前に転生できれば最高だな」

…――オッさん魔王と月で二人っきりになった。

そして食欲という抗えない欲で、みっちりと一年間修業させられた。
修業という名の拷問でしかなかったのだが。
ただ精神的には強くなった。

俺自身、最終的にはモブ王を目指しているから、それはありがたかった。

が、勇者になる気はないし、魔王を倒す気もない。
できれば始まりの街で、同じ台詞を繰り返すあのモブに戻りたいと思っている。
だから修業など意味はない。
まったくな。

「さて次はオニギリを賭けて腹筋千回だ」

おい。おい。
腹筋千回の消費カロリーとオニギリのカロリーでは、まったく釣り合わんぞ。
繰り返すが、勇者になどなる気はさらさらないんだからな。
しかし空腹には抗えず、腹筋千回をクリアする。

そんな鬼のような修業の果て……。

またここに戻った。

こことは例によって復活の呪文を入力するあそこだ。死後の世界か。
まさにベンハーって感じの状況だな。
何の為の修業?

女の子魔王である香恋ちゃんが、可愛い声で言う。

「復活の呪文を入力して下さい」と。

もういいよ。
さすがに七回目の人生を歩む気にはなれない。
人間、一回の死だけで一杯一杯なのに、よりにもよって七回目の人生だよ。

それにさ。
香恋ちゃんは本当に俺に惚れてるのかな?
さすがに信じられない。

惚れてるんだったら月で修業をする事になった俺を見捨てて魔界に帰る? 普通?

「香恋ちゃん、一つ聞いてもいいかな?」

「はい?」

「香恋ちゃんは月での修業で、何で魔界に帰ちゃったの。本当に惚れてるの?」

「あの。それは……。ビチ、済みません。でも本当に惚れています」

彼女の可愛い顔が歪んでいる。
俺の妄想に過ぎないが、多分、歪んでいるんだろう。
声で分かる。

俺に惚れてるんだね。

でも、じゃ、何で魔界に帰った訳よ。普通、一緒に修業するでしょ?

香恋ちゃん、やっぱり信じられないよ。
俺は一年間もあの極悪な環境で、オッさん魔王と二人っきりで修業したんだよ。
いや、修業させられた。
強制的に。

いくら月でも香恋ちゃんと二人っきりで修業するならまだしも……。

ひげ剃り後がまぶしいオッさん魔王とだよ?

「もう復活しない。あんな地獄を味わいたくはないからさ」

月での修業がトラウマになった。
復活しても結局いい事ないし、逆に苦しいだけだからさ。
いくら次に香恋ちゃんと二人っきりで、ペちょペちょな事ができるとしてもさ。

「……理由ですか?」

「いや、別にもういいよ。俺は安らかに死ぬからさ」

香恋ちゃんが今にも泣き出しそうだ。
そう思えるほどに彼女の声は追い詰められ、微かに震えていた。
俺はモブだ。

いや、モブである前に男だ。

つまり女の子を泣かせるのは筋違いだと思う。
思うけど、月という孤独で閉鎖された空間でオッさん魔王と一年過したんだぜ。
悪いけどさ……。

筋違いだと思うけど、ここは俺の意見を尊重していただきたい。

安らかに死なせてくれ。頼む。

「ビチ?」

何だよ。香恋ちゃん。

「ビチはあの時、とても下品でした。だから危険を感じて帰りました」

確かに香恋ちゃんは見損なったとか言ってたな。
でもあれ位は標準の範囲だろう。
男はエロいのだ。

香恋ちゃん、あれ位のエロさは誤差の範囲という事で許してくれよ。

「ふははは。ビチよ。また修業するか? 吾輩と一緒に」

オッさん魔王ッ!
確かジョンドット五世とか言っていたな。
ま、そんな名前は覚えるまでもなく、俺はオッさん魔王と呼ぶがな。

「ビチ」

また香恋ちゃんが言う。
何だよ。

もしかしてまたオッさん魔王と修業をしろとか言い出すんじゃないだろうな。

「最強チートで魔王城の前という復活の呪文を探し出して下さい」

探し出す?
そんなに都合のいい呪文を探し出せってか。
そんなものがあれば、俺は何回も死んで、ここにはいない。

無理だと力強く言いたい。

俺は月での修業の間中、ずっとそれを考えていた。
しかし、復活の呪文はランダムであり、規則的な法則は発見できなかった。
つまり無理なのだ。

大体、香恋ちゃんも分からないから何回も何回も俺を殺すんだろ?

いつか最強チートで魔王城の前という呪文を探してさ。
つまり俺は実験用のマウスに過ぎない。
そう思えて仕方がない。

だって俺はどこからどう見ても勇者じゃなくて、モブに過ぎないんだぜ。

……適当に復活の呪文を入力しても雲を掴むような話だ。
逆に意味のある恋文でも効果はなかった。
むしろ悪化した。

じゃ、どんな復活の呪文を入力すれば魔王の言う理想である復活の呪文なんだ?

いや、もう考えるのは止めよう。
どうせまた復活した所で、意味のない死が待っているだけだからな。
決心したんだ。

俺は六回目の人生を最後に復活人生の幕を引く。

月での修業なんてごりごりだ。
もう香恋ちゃんも信じられないし、オッさん魔王と二人っきりなんて御免だ。
考えるのを止めて、静かに死ぬ事を選ぼうと思う。

モブ王にはなれなかったが、それが俺の器なんだろうと思える。

「もういいよ。全ては終わったんだ」

俺が言う。
これは希望ではなく、宣言だ。
もうこれ以上、苦しみたくないし、静かに眠りたい。

「ビチ……」

香恋ちゃんが寂しそうに言う。
彼女が、いくらそんなか細い声を出そうが、俺の決意は決して揺らがない。
それだけオッさん魔王との修業は苦しく、長かったのだ。

「香恋ちゃん。俺は七回目の人生なんて御免なんだよ。分かってくれ」

「そうですか……」

彼女がとても残念そうにつぶやいた。
その言葉は、どこか哀れむ様で、失望したような感じがした。
声が震えている。

…――香恋ちゃんはきっと泣いてるんだろう。

しかし俺は揺らがない。

もう俺の人生は終わったんだから。
密かにそうつぶやいた。
ただ一人。

~ レベル十七、最強最後の呪文、了。

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【 信じるマン、第四十六話、真面目にお約束 】

「成金のなれの果て、それは破産でござる」

桃軍師が口をはさむ。
彼女が経済に明るいと聞いた事はない。
いや、むしろ現代の軍師なのだ。浮世離れしていてもまったく不思議ではない。

「そうだな。成金は結局、最後には破産する運命にあるな」

俺らの中で一番、信用できそうなグリーンが言う。
ただ、そう言われてもキム・キムと怪人27号は大儲けをしているぞ。
破産のハの字も見えない。

「ウキョー。片山。またまた急騰。ウハウハでしゅよ」

片山右京か。
怪人27号が買ってる株が急騰したようだ。
確かに株とは儲けるものではなく、企業の成長を願うものだという理論は分かる。

が、怪人27号がディトレードで儲けているのが無性に気に障る。

遠回りしている。
どうにもそう思えて仕方がないぞ。
だって、怪人27号は今もあり得ないほどのイキオイで稼いでいるんだからな。

「三秒で五十二万円稼いだでしゅよ。三秒でしゅよ」

いくら色即是空の境地まで至り、無欲になろうとも気になってしまう。
ヤツらがやっているのは投機であり投資でないにしてもだ。
無欲になれないのだ。

「怪人27号の動向が気になるか?」

グリーンが言う。
怪人27号が気にならない訳がないだろうが。
同じ株をやるにしても、隣で大儲けしているヤツがいれば誰だって気になる。

「ヤツらは今、マネーゲームの真っ直中に飛び込んでいるんだ」

マネーゲーム?
何だそれは。グリーンよ。
マネーゲーム、映画の題名のような感じがする言葉だな。

「マネーゲームは投機の最たるものだ」

「投機だと?」

「ああ。上場廃止が決定した監理銘柄を狙って買っているのだ」

上場廃止? 監理銘柄?

「上場廃止とは投資者保護の目的で証券取引所での取引を終了する事だ」

うおっ。
まったく意味が分からん。
ただ取引が終了するって事は、この上ないほど株価が下がってるって事だろ?
取引が終了すれば、株券は紙くずになるんだろ。

だったらみんな損をしたくないから売りに走るんじゃないのかよ。

そして株価が下がる。
何で、そんな株式が急騰するんだよ。益々意味が分からん。
ううん?

「監理銘柄はマネーゲーム目的の投機家達から大量の買い注文が入る」

大量の買い注文?

「つまり取引ができなくなるのに買うヤツらがいるって事か?」

「そうだ。そんなヤツらが沢山いる」

買い注文が入れば、監理銘柄でも高騰するって事か。
でも取引が終了してしまえば、買ってしまった株式は売れなくなるって事だな。
それまでに売り抜ける訳か。
まさにゲーム。

「そうだ。そうして、ばば抜きが始まるのだ」

「最後まで株式(※注、ばば)を保有していたヤツが負けのゲームか?」

「そうだ」

怪人27号を見る。
ヤツはパソコンのモニターを凝視し、チャンスを待ち続けているぞ。
紙くずになるであろう株式をなすりつけるチャンスを。

「ここでしゅ。ウハサハ。もほっ」

かけ声の意味はまったく分からないが、どうやらチャンスを見つけたようだ。
何で、こんなヤツが株をやっているんだろう。
やっぱり儲かるからか。
だろうな。

「やったでちゅ。今の取引で七十万円の儲けでしゅよ。キム・キムしゃん」

「怪人27号、よくやったアル。次も頑張れ。ヨロシ?」

ヤツはばばを無事に他人になすりつけたようだ。
してやったりの顔している。
スモール馬場。
あっぽ。

「じゃ、もう一回、儲けるでしゅよ」

なぬっ。
せっかく売り抜けて利益が確定したのに、またすぐに買うのか。
それは無謀ってものじゃないのか?

「同一銘柄を買う事はできないでしゅから、他の上場廃止銘柄を狙うでちゅ」

強欲だな。
さっきグリーンが言っていたな。
カネは儲ければ儲けるほど欲しくなると言ったあれか。

いつかばばを引くぞ。

「これでしゅね。ここもいい塩梅で、値が乱高下しているでしゅ」

怪人27号の言葉を聞いて自然とグリーンに視線がいった。
グリーンは目をつむっている。
だろうね。

怪人27号は、さっきせっかく勝ったのに、また戦地へと赴いたのだ。
こんな事をしていたらいつかは痛い目を見て負ける。
当然の流れだろう。

「これが、投機家と呼ばれる連中に共通して言える特徴なのだ。もっととな」

短期、ディトレードか。

「レッド。そちには優良株を長期保有して欲しいと願っておる」

面倒くさいが、それが一番だな。
今はまだ面倒くさいと思ってしまうが、それがデフォルトになってしまえばいい。
俺自身、それだけの人間力に磨き上げれば、いいのだと思う。

「おわっ。何でちゅか。あり得ないでしゅ」

怪人27号が叫ぶ。

「売れないでしゅ。売れないちゅ」

何だ? 何があったんだ?

「そんな馬鹿な。ちゃんと相場は読み切っていたのに」



「株券がゴミになるでしゅ。売れないでしゅ!」

遂にばばを引いたか。

「売れないでしゅ。馬鹿な。売れろッ!」

馬鹿はお前だ。
最後にはばばを引くと何で分からないんだ。怪人27号。
これがマネーゲームの末路だろうな。

「しかも全力で買ってしまったでしゅ。今までの儲けが全てパーでしゅよッ!」

あれが成金のなれの果てか。
株でも何でもそうだが、真面目にコツコツと社会に奉仕するヤツが勝つ。
なるほどな。

それが、いくら遠回りに思えてもだ。

と、それにしも信じるマンで真面目に話を展開してしまった。
ギャグだったはずなのに。
ま、いいか。

イエローがカレーを食べながら今回の件を締める。

「いくらカネを儲けようと関係ない。稼いだカネを一体どう使うかが重要なのだ」

天を仰ぐ怪人27号。
そして、怪人27号に殺意を抱き、チェーンソーを取り出すキム・キム。
そんな怪人27号とキム・キムの様子を見て思った。

確かにと。

「ムッキー。怪人27号。死ぬアルッ!」

「キム・キムしゃん。許してくだちゃい。ごめんなさいでしゅよ。ごめんでしゅ」

と二人の言葉が木霊した。
天高く、どこまでも続く雲一つない碧空に……。

第四十六話、真面目にお約束、了。

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【 信じるマン、第四十五話、真面目なお話 】

俺は中長期の投資というもので、株をやろうと思う。
それが一番、俺らしいし、グリーンも中長期の投資を勧めてくれている。
そうするにしても、気になる事がある。
ディトレードについてだ。
結局、あれだ。

その短期で投機のディトレードなるものと中長期の投資はどっちが儲かるのだ?

「グリーンよ。結局、投機と投資、どちらが儲かるんだ?」

「うむ。一概にどちらとは答えられん」

玉虫色だな。

「大体、株とは儲けるものでない。企業の成長を願うもの。それを投資という」

成長だと?
でも、世の中では株での儲け話が溢れてるぜ。
ニュースでも、新聞でも……。

「株での儲けは企業の成長の副次的なものに過ぎんのだ」

グリーンよ。
お前の話は、理想論ではないのか。
今どき株で儲けを度外視するなんて、時代遅れのような気がするが……。

「投資とはそういうものだ」

……。

「レッドよ。そちは、まずは投資の精神から学ぶ必要があるようだな」

俺達が投資について話しているとイエローが現われた。
何だかイエローのオーラが格好いい。
哲学モードだな。

「よう。レッド。元気か?」

あまり元気じゃない。
怪人27号とキム・キムが暴利をむさぼっていると思うと胃がキリキリ痛む。
しかもグリーンは、時代遅れな事を言っているし。

「レッド。何をやっているんだ? 勉強みたいだが何の勉強だ?」

俺達の代わりに桃軍師が答える。
相変わらず羽扇をゆったりと構え、何かを考えるように。
まさに軍師。

そして哲学者と軍師……。

「レッド殿とグリーン殿は経営の勉強をしているのでござる。今は株ですな」

「経営の勉強か。一体、どういう風の吹き回しだ?」

「うむ。それは聞いていないでござる」

「貧乏が嫌になったか?」

貧乏が嫌か。

「レッド。一つ、いい話をしてやろう」

いい話?
信じるマンになってからいい事がないから嬉しいけど……。
でも哲学者の事だ。つまらん事だろう。

「貧乏とはな。貧乏だと思うから貧乏なんだ。心が貧しい状態が貧乏なんだぜ」

うおっ。
心が貧しいから貧乏だと。

「カネが無くても、幸せな人間はいくらでもいる。分かったか?」

分からん。
まったく分からんぞ。
カネがあれば、それだけで幸せだろ?
それに俺にはヒーロー製作研究所を叩き潰すという目標がある。

その為にはカネが必要なんだ。

「レッドよ。今のイエローの言葉はある意味真実だ」

およっ。
王であるグリーンが追随したぞ。
お金のIQが高いと思われる王であるグリーンが哲学者のイエローを肯定だと。
哲学者なんて霞を食べている人種とは水と油だと思っていた。

「カネは儲ければ儲けるほど欲しくなるものだ」

そうなのか。
俺は今まで金持ちになった事がないから、いまいちピーンとこないが。
王であるグリーンが言うんだから本当っぽいが。

「無限の富とはカネから解放された状態だ。カネを考えない所に真実があるのだ」

無限の富?
俺は、何もそんなものはいらないが。
とりあえず武装化できる位の富があればそれでいいと思う。

「グリーンよ。そんな事をレッドに言っても無意味だと思うぜ。アホだからな」

イエロー、アホって言うな。
これでも難しい本を沢山読んで、頭は良くなったと思うぞ。
確かにイエローよりは、まだまだだろうけど。

「無限の富。それがつまり先ほど言った投資の精神とリンクするのだ」

投資の精神ね。
やっぱり、グリーンの言う事は古臭いような気がしてならない。
カネを投資する以上、儲けねば意味がなかろう。

「あははは。ダメだな。レッドはやっぱりアホだ。まったく響いてないぜ」

だからイエロー、馬鹿にするな。
大体、イエロー、お前は株の事を何にも知らないだろうが。
ま、確かに俺もまったく知らないが、お前よりは、知ってるつもりだぜ。

「三流の人間になりたいのか? レッドよ」

三流の人間?

「これは余の持論なのだが、目先の事に振り回されるのは三流の証拠だ」

いや、グリーンよ、お前は王だからいいよな。
親が資産家だし、それなりの経営哲学も叩き込まれてきたんだろう。
そのプライドが羨ましい。

「お前は生まれついての王だからいいよな」

「確かに余は王だ」

「カネは死ぬほどあるし、それなりの教育も受けてきたんだろう。いいな」

「それが三流の証拠なのだ。環境は自分で変えられるものだ」

環境を変える?
カネもないし、学もない俺がか?
そんなのは、やる前から無理に決まってるだろ。無理。

「無理。無理。どうせ俺、スーパー三流だし」

皮肉たっぷりに言ってやった。
グリーンに三流と見下されたような気がして、怒りが沸々と湧いたのだ。
しかし違った。

「余は、そちが一流の人間になって欲しいと願っておる」

俺が……。一流の人間になる?

「その為に余の知りうる限りの事は教えたいし、学んで欲しいと思っておる」

何でよ……。
俺が一流になってもお前は得しないぞ。
それどころか俺みたいな人間に時間を割いて、損しかないだろうに?

「つまり、それが投資というものだ。儲けは度外視なのだ」

……投資。

「教えるという行為は自分も成長させるしな」

自分も成長する。
つまり、教えるという事で自分自身も成長し、相手も成長させる。
みんなで成長して喜ぼうという訳か。

「余から言わせればそちが成長すれば恩を感じるだろうし、それが儲けなのだ」

そうか。やっと投資の意味が分かった。
自分のカネを遊ばせている位だったら他の誰かの成長に使った方がいい。
そして成長すれば……。

飽くまで成長すればだが、恩を返してくれるという事か。

いや、最悪、恩が返ってこなくてもいい。
教えるという行為で、すなわち自分自身も成長しているのだから。
株で言えば……。

投資を行う企業は事前に調べなくてはならない。

経営状態は良好なのか。
その企業が一体、何を生産し、何を目標に営業を続けているのか。
その他諸々をよく調べ、投資をする事となる。

つまり自分自身が経済に明るくなる。

それが儲け。
そうか。やっとグリーンやイエローの言いたい事が分かった気がする。
単に馬鹿にしてた訳じゃないんだ。

奮起して欲しいと。

そして、投資の精神で俺の人間力が上がるのを願っていたんだ。
自分の人間力を上げるのは投資の一環なんだ。
分かった。

済まん。怒ったりして。

「何か、難しくて古臭い事を言っているでしゅね。株は儲けてナンボでしゅよ」

怪人27号……。

「そうアル。ぐへっ。一秒で数十万儲かるアル。うへへアル。ヨロシ?」

せっかく大切な事に気づいた俺を煽るキム・キムと怪人27号。
お前らは、やっぱり悪だ。絶対に倒す。
その前に株だな。
投資。

「余から言わせれば、ヤツらは成金にしかなれん」

成金か。
成金とは一般人が急激に富を得て、品のない金持ちになる事。
つまり人間力の低い金持ちだ。

グリーンから言わせれば、ヤツらは三流の人間。

いくらカネを持っていても有益には使えず、ただひたすら儲け続ける人間。
もっともっとと欲しがる悲しい人間。
そうだな。分かったよ。

俺は、キム・キムと怪人27号を見て、哀れだなと思った。

第四十五話、真面目なお話、了。

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【 信じるマン、第四十四話、真面目に株式のお話 】

俺は難しい本を読んで、頭の回転が速くなったと思う。
飽くまで自分自身でそう思うのだが。
だから考えた。

王であるグリーンに経営のノウハウを授けてもらって、カネを稼ごうと思った。

いや、単純にカネが欲しいという訳ではない。
稼いだカネで、ヒーロー製作研究所を叩き潰そうと思ったのだ。
そう。

稼いだカネで武装化して強くなる。

そう思ったのだ。
前にキム・キムが、どうやってヒーロー製作研究所を継続させているのか考えた。
資産家の息子達にカンフーを教え、カネをくすねていたのだ。

今でもカンフー教室は続いている。

そして、資産家の子息達を集め、ヤツらの家からカネを持ってこさせている。
まったく悪の所業だとは思うが今のままではヤツには勝てない。
今まで何度も挑戦してきたのがその証拠だ。

だからこその武装化。

怪人27号は、キム・キムの狂信者だから無理として。
俺自身、何か武器を持って、イエロー、グリーン、ピンクを抱え込むのだ。
確かにピンクもキム・キム信奉者だが。
常識人だから何とかなる。

それを実行するには、カネがいる。

カネがあれば、ヒーロー製作研究所を叩き潰すまでいかなくても独立できる。
独立すれば、キム・キムと戦い続けられる。
それこそ、俺の本懐だ。

だからこそ資産家の息子二人で造った人造人間であるグリーンに教えを乞うのだ。

好都合な事に、一人は世界的シェアを誇る土曜だ自動車の息子。
もう一人も家電大手の波謎ニックの子息だった。
どちらも日本を代表する企業。

経営を学ぶには、グリーンほどうってつけの人物はそうそういないだろう。

そして、今日は株式投資について学んでいる。
グリーンは王で不遜だが、こちらが下手に出ていれば機嫌がいい。
それが王というものだろう。

「レッドしゃんとグリーン、何をしているのでちゅ?」

今、俺の中で一番、どうでもいい人物が興味津々に話しかけてきたぞ。
怪人27号が鼻くそをほじっている。
邪魔だ。どっかにいけ。

「怪人27号殿。今、レッド殿とグリーン殿は勉強中にござる」

「ふぅーん、勉強でしゅか」

羽扇をゆっくりと扇ぎつつ、ピンクが言う。
ナイス。ピンク。俺がカネを稼いだら、お前を軍師として迎えるぞ。
怪人27号の興味が薄れる。

勉強とは一番ほど遠い存在だからな。

怪人27号は。

「それより、株の話を聞いてくだしゃい。ピンクしゃん」

……か、株だと!?

「昨日買った株が分割されてウハウハでしゅ」

しかもウハウハだと。信じられん。

「おはようアル。今日はカンフー教室が休みアル。みんな元気アルか?」

諸悪の根源が現われた。
今日は、極悪非道なカンフー教室は休みなのか。
いや、それよりも怪人27号が株式投資をやっていたのが驚きだ。

あ、あり得ん……。

お金について一番興味がなさそうな怪人27号が株だと?
俺自身、いまだによく分からないのに。
怪人27号が株……。

「キム・キムしゃん。今日の儲けの報告でしゅ」

うほっ。
怪人27号の株式投資の裏には諸悪の根源であるキム・キムがいたのか?
まさかとは思うが、カンフー教室の他にも株で儲けているのか。
今、俺がグリーンから手ほどきを受けている株が。

「正味三十分で二千万円の稼ぎでしゅ」

さ、三十分で二千万だと!?
ボクシングのマイクダイソンの時給にも匹敵するんじゃないか。
何だよ。その反則的な金額は。マ、マジかよ!?

「今も分割されて、どんどん跳ね上がってるでしゅよ。おほほほでしゅな」

おほほほじゃねえ。

何でだ!
俺が真面目にグリーンから経営学というものを学んでいるのに。
怪人27号のアホは、一瞬で追い越したぞ。

まるで、マラソンで必死になって死にそうな思いをしてまで、走っているのに。
怪人27号がスポーツカーに乗って、颯爽と追い越された気分だ。
反則だろ? それは。

そんなアホな。
こんな馬鹿な事があっていいのか?
大体、怪人27号ほど株式投資が似合わないヤツはいないぞ。

「よくやったアルな。株式投資はゲームアルからな」

ゲ、ゲームだと!?

「損切りさえ覚えれば、後は何とかなるでしゅ。本当にアクションゲームでしゅ」

確かに株式投資がアクションゲームだったら怪人27号にも……。
そ、そうなのか? グリーンよ。
株はゲームなのか?

「それは投機だ。決して投資ではない。レッドよ」

投機だと?
投資と何が違うんだ。
まさか言葉が違うとか言うんじゃないだろうな。

「投機は投資とは違い、短期的な利ざやを目論み株式売買を行う行為だ」

いや、まったく分からんのですけど。
結局、投機も投資も株券を売買する事に違いはないんじゃないのか?
株を売買すれば投資だろ?
投機って何だ?

「グリーンよ。株式を売買すれば、それは投資した事になるんじゃないのか?」

「投機は短期で売り買いをするから投資とはまるで違う」

短期?
短気って事か?
短気で、買ってすぐに売るのか?

「株というものは短期と中長期がある。短期はディトレードと呼ばれるものだ」

ディトレード?

「買ってその日の内に売る場合が多いからディトレードなのだ」

ディ、その日。トレード、売り買いか。
何となく理解できたぞ。
うん。

「その日の内に株式がなくなるから会社にとっては資金源にはならんのだ」

そうか。
確かに投資家が投資しても、一瞬で回収されれば会社に利益はないな。
だから短期のディトレードは投機となるわけだな。
でも、だったらさ。

俺も、そのディトレードというもので、簡単に儲ければいいんじゃないのか。

しょせん短期株式のディトレードはゲームにすぎないんだろ?
損切りというものができればオッケーな。
違うのかな?

「ディトレードはゲームなんだろ? だったら俺にもできると思うぜ」

「甘いな。ディトレ―ドはハイリスク、ハイリターンなんだ」

「何でだよ? 意味が分からない」

「ディトレードは反射的に売り買いを行う。そして損切りをするものなのだ」

「怪人27号みたいなアホにもできるんだぜ。俺にもできると思う」

「ディートレーダーの九割が損切りのみで終わるのだ」

「だから何でだよ?」

「急激に上がったり、下がったりする株式を狙うからだ。一瞬の判断が重要だ」

急激に上がったり、下がったりする株式を狙う?
つまり、下がった時に買って、上がった時に売ればいいだけだろう?
違うのか?

「下がっていると買っても、急激に上がるのだ。ゆえに大体高値で掴む事となる」

高値で掴む。株価が高い時に掴まされるって事か。
でも、上がっているんだったら、すぐ売ればいいんじゃないのか?
いくら高値で掴まされても。

「高値で掴んだ後、大体、売れずに急激に下がるの指をくわえて見る事となる」

売りたくても売れないって事か。

「だから損切りが重要になってくるって事か」

「そうだ。損切りができれば、自分の被害を少なくできるからな」

「でも損切りばかりしていると、損ばかりで一向に稼げないって事になるのか?」

「そうだ」

これはギャンブルだ。
ディトレードの世界はギャンブルっぽい感じがする。
その投機ってヤツは、つまりギャンブルっていう風に理解すればいいのか?

「つまり投機ってヤツはギャンブルなのか?」

「そうだ。レッド。真っ当な投資家は投機をギャンブルと見なし敬遠するものだ」

怪人27号が株式はゲームだと言った意味が少し理解できたぞ。
確かにアホな怪人27号にもできそうだ。
反射的に相場を見切れば。

買いたくても買えず、やっと買ったと思ったら今度は売れなくなるという事か。

だからディトレードはハイリスク、ハイリターンなのか。
でも、怪人27号が羨ましい。
アホなのに。

「ま、あれだ。中長期ならば四割くらいの人間が損をするのに抑えられるな」

いくら短期がスポーツカーでも、俺は中長期を目指そう。
それが一番俺らしいと思う。
うん。

「ぐへ。今度は一時間で一億を目指すでしゅよ。キム・キムしゃん」

「頑張るアル。そしてヒーロー製作研究所を拡大するアル」

「任せろでちゅ。ウハウハ」

言ってろ、このウハウハ教教祖と狂信者が。

俺はやる。
最後に勝つのはこの俺だ。
そう思い、心の中で密かに打倒ヒーロー製作研究所を誓った。

第四十四話、真面目に株式のお話、了。

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【 マコちゃんの日記(白)、五ページ、腕時計 】

「マコ。君の誕生日は七月八日だと言ったよね」

写真に写る元カノに気をとられすぎていた私に、優しく語りかけるマスター。
昨日、彼が言っていた私の誕生日の日にちについて触れる。
そうだ。

私の誕生日は七月八日。

マスターがそう宣言してくれた。でも何故、七月八日なんだろう?
別に特別な日でもないし、私が完成した日でもない。
何もってして七月八日なのだろうか。

全然、分からない。

考えてみる。
マスターの誕生日は昨日だった。昨日は七月八日ではない。
他にも色々考えてみたが思い当たる節がない。

まったく分からない。

マスターは自分にとって七月八日は特別な日なんだよと言っていた。
七月八日。……一体、何があった日なんだろう。
特別、何の変哲もない日。
それが七月八日。

「七月八日は元カノの誕生日なんだよ」

元カノッ!
写真立ての中で微笑む彼女がこの世に生まれてきた日。
私の思考が一瞬で凍り付く。

彼女はどこにもいないんだと言ってくれたのに、よりにもよってその日ですか。

今まで笑っていた私の表情が途端に険しく変貌する。
マスターは何故、こんな事を言うのか。
理解できません。

「マコ。勘違いしないでね。これには深い訳があるんだよ」

深い訳?
聞きたくありません。
どうせマスターと元カノとののろけ話を聞かされるだけでしょうから。

「聞きたくありません。聞きたくないッ!」

大声で拒否する私。
マスターの表情がまた困ってしまったように曇ってしまう。
マスターにも言い分があるのだろうが、私は、一切拒否して黙ってしまう。

「聞きたくない話だったかい?」

彼がゆっくりと言う。

「聞きたくありません。何で今、そんな事を言うのか理解できません」

「そうか。でもね。マコには真実を知って欲しかったんだ」

真実?
さっきも深い訳があると言っていた。
マスターは私にとても大切な事を話そうとしているんじゃないだろうか。

でも、それでも元カノの話なんて、絶対に聞きたくない。

きっと嫉妬だろう。
いや、嫉妬だろうとしても、元カノの話なんて。
しかも、私の誕生日が最悪な事に元カノの誕生日だったなんて。

絶対に信じたくないし、信じない。

「彼女は死んでいるんだ」

マスターが深い影を背負い、うつむき加減で言葉を続ける。
その声は憂いを帯び、とても悲しそうだった。
マスターを見つめる。

あの写真立ての中でマスターの隣にたたずみ微笑んでいる元カノは死んでる?

「元カノは、死んでるんですか?」

衝撃の事実に心が動く。

「そうだよ。彼女は不治の病に冒され、去年、この世を去ったんだ」

去年。
そうだ。去年とは私が完成した年。
つまり元カノが死んで、そして彼の元に私がきた。

「悲しみにくれ、馬鹿な事を考えたんだ」

馬鹿な事?

「彼女を生き返らそうと考えたんだ。僕の全力を持って」

生き返らせる?
死んでしまった人間を生き返らすなんて、そんな事ができるのですか?
マスターは天才科学者だ。もしかしたら……。
いや、いくら天才でも無理か。

「クローン研究を進め、彼女のクローンを創ろうと思ったんだ」

クローン……。

「でもね。クローンは見た目は同じでも、思考や趣味がまったく違うんだよ」

そうだ。
クローンは生まれた後、白紙の状態でこの世に生を受ける。
そして後天的に思考が作られる。

つまりクローンは同じ人間のように見えるが、まったくの別人になるのだ。

それでは生き返らせた事にはならないという事か。
黙って、マスターの言葉を待つ。
マスターが微笑む。

「そして次に考えたのが、アンドロイドの製作なんだよ」

アンドロイド……。

「そう。つまり、マコ、君なんだ」

私はアンドロイド。
元カノの生まれ変わりとして作られてしまったロボットなのか。
私は何とも言い知れぬ悲しみを覚えた。

代替えと。

「でもね。違うんだ」

違う?
何が言いたいのか、分からなかった。
少なくとも、元カノの代替えでしかない私はこの世に存在している意味がない。

マスター?

私はとても悲しいです。

「……結局、マコは、マコでしかないんだよ」

私はマコ。
代替えでもなければ、死んだ元カノの生まれ変わりでもない。
マコという一個人である女の子なんだ。

「マコ?」

「私は代替えではありません。マコという個人です」

必死でマスターの同意を得ようとする私。
私に向けられていた愛が、元カノへの愛と混同してしまったからだ。
しょせん代替えと。

「そうだよ。マコ。君はマコという個人だ。それ以外のなにものでもないよ」

しかし、マスターがそう言ってくれて微笑みかけてくれる。

「結局、馬鹿だったのは僕なんだ」

悲しみにくれた私は、いまだ混乱している。
しかし、そんな私を見つめて、マスターは優しく微笑み言葉を重ねる。
マコはマコだと。

「死んだものは生き返らせない。それが自然の摂理なんだ」

「ぐず……」

「元カノは死んだんだ。もう二度と僕の前には現われないんだよ」

「マスター。私は私です。代替えじゃありません」

「そうだね。君はマコだ」

「はい」

「今は元カノの事を忘れ、君の事を愛してる。変な事を言ってごめんね。マコ」

彼は、そう言ってまた優しく微笑んだ。
とびっきりの笑顔を、決して泣けない私に贈ってくれた。
その言葉が嬉しかった。

飛び跳ねて喜びたいほど嬉しかった。

「これはマコが僕の誕生日にくれた腕時計だよ」

黒と白のスカーゲンの腕時計を自分の左腕にしている所を見せてくれる。
小遣いを必死で貯めて買った腕時計。
私の表情が崩れる。

私はこの上ないほど嬉しくて、笑ったのだ。

「奇しくも死んだ元カノが誕生日にくれたのも腕時計だったんだよ」

元カノも腕時計を?
でも、その腕時計は今、どこにあるんですか?

「元カノがくれた腕時計は役目を終え、あそこにある」

マスターが昨日、写真立ての前に置いた古い腕時計を指さして言う。
昨日までマスターの腕で時を刻んでいた腕時計。
今は静かに佇んでいる。

死んでしまった元カノのように……。

「……分かったかい。マコ。僕の中で元カノは思い出でしかないんだ。大切なね」

「はい。分かりました」

「その失敗を忘れない為にも戒めとして七月八日を誕生日にしたんだ」

「はい。よく分かりました。済みませんでした。マスター」

「分かってくれて、ありがとう。マコ」

私は思った。
死という悲しみにくれていたマスターを救ったのは私だと。
代替えではなく、マコという一個人として。
そう思ったらまた嬉しくなった。

マスター。私は、これからもずっと愛し続けますと。

五ページ、腕時計、了。

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【 暴走天使 】

「おら。おら。喧嘩上等だ。コラ?」

…――うるせえな。

暴走族が爆音を響かせ街中を疾走していく。
スタンドで、ガソリンを入れていた俺は暴走族達を恨めしそうに睨む。
昨日は寝ていない。

徹夜をした回らない頭には暴走族の爆音がきつかったのだ。

ちょっとは他人の迷惑を考えろよと思った。
そんな事を考えながらガソリンを入れ終わり、ゆっくりと車へと乗り込む。
さて、頑張るか。

いくぜ?

途端、愛国行進曲が鳴り響く。

俺は右翼。
そして俺の乗り込んだ車は街宣カー。
昨日の夜も街を街宣カーで、街中を走りまくっていた。

暁に祈るをかけつつ……。

くわっ。

暴走天使、了。

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【 マコちゃんの日記(白)、四ページ、流せぬ涙 】

…――その日が終わった。

料理を楽しみ、お酒を沢山、飲んだマスター。
ハメを外した子供のように無邪気に自分の誕生日を楽しんでいた。
今は平和そうに眠っている。

よかった。

今日は彼の笑顔を一杯見る事ができた。

ベットの中ですやすやと眠る彼の前髪を撫でながら、幸せを噛み締め微笑む。
来年もまた彼と一緒に誕生日を楽しむ事ができたら嬉しいな。
いや、絶対に来年も一緒にお祝いするんだ。

一人、心の中で誓った。

私の中で不安は確実に大きくなっていたが、今はそれに気づかなかった。
写真立ての中で、彼の隣りに写る女の人は一体誰なのか?
その事実が判明するのは数時間後だった。

そして朝がくる。

「ふあ。おはよう、マコ」

誕生日から一夜明けた何気ない平和な平日の朝。
スズメ達はうるさい位に大合唱し、朝から気温が高い晴れた春の朝。
雲一つない抜けるような青空。

空の様子は、まるで不安が大きくなってしまった私の心模様とは正反対だった。

そう。
昨日、写真立てを見て感じた不安が一晩かけて大きくなったのだ。
私の心はどんよりした雲が一面に覆っていた。

暗雲が立ち込めていたのだ。

それでも何とか自分を誤魔化しつつ、奮起させ、マスターが食べる朝食を作った。
しかし結局誤魔化しきれず、しんどかった。
だから手抜き料理だった。

林檎と苺、それにオレンジの温かいコンポートにヨーグルトをかけた。

それだけの料理。
誕生日の料理と比べれば雲泥の差だ。
あの写真立てに写っている女の人とマスターは一体どんな関係だったのか。

その事だけで、頭の中が一杯になっていたのだ。

不安は、一晩かけて大きく育った。
その不安がのし掛かる。
重く……。

「マコ。どうしたんだい。何か悩み事でもあるのかい?」

「……」

マスターが心配そうに私を見つめる。
それだけしんどくて、すこぶる顔色が悪かったのだろう。
自分でも分かる。

「大丈夫かい。昨日、はしゃぎすぎたのかい?」

聞きたい。
写真立ての彼女は一体誰なのか。
いや、誰と言うより、彼女とマスターはどんな関係だったのかを知りたい。

でも怖くて聞けない。

もしあの写真立てに写っている彼女がマスターの大切な人だったら。
もし私よりも大切な人だったら。
怖い。

朝だが気温は高く寒くもないのに体が小刻みに震える。

まるで小動物だ。
私って、こんなにも臆病だったのか。
臆病な自分を初めて知り、自分自身も驚きを隠せないでいた。

視線が写真立てへと泳ぐ。

マスターは、それを見逃さず突っ込む。
今、私が心の中で抱えている悩みを見透かすかのように。
心配そうな顔をする。

「マコ。あそこに置いてある写真立ての事を考えているのかい?」

マスターにリードされても答えられない私。
ただうつむいて黙るだけの私。
情けない私。

「マコ。答えてよ」

マスターが心の中の暗雲を優しく取り除いてくれる。

「……」

「黙ってるだけじゃ何も分からないよ」

雲間に光が射し込む。
光は風になびいている薄いカーテンの様でとても綺麗だった。
いや、綺麗というよりは荘厳といった方がいい。

カーテンは、すなわち彼の愛だと思う。

「マスター、あの……」

「あの?」

微かに残った勇気を振り絞り、マスターに質問する。
私の中にある大きな悩みを解消する為に。
彼に促されて。

「写真立てに写っている女の人は一体、誰なんでしょう。大切な人ですか?」

聞いた。……聞いてしまった。
本当に聞いてしまってもよかったのだろうか。
マスターを見る。

彼は困ったような顔をして、私の視線から逃れるように視線を外す。

やっぱり、そうなんだ。
あの写真立てでマスターの隣りに写る彼女は大切な人なんだ。
やっと暗雲は晴れたが同時に悲しくなる。

しかし悲しくても涙を流せるようには作られていない。

その事実が悲しくなる。
結局、私はロボットでしかなくて、どこまでいっても人間にはなれないのかと。
このまま電源を切って、この世から消え去りたいと思った。

「マコ。君は勘違いをしているみたいだね」

勘違い?
写真立ての彼女が大切な人だという事を言っているんですか。
勘違いではないと思います。

マスターは困った顔をしたじゃないですか。

それはつまり私には知られたくない事だという意味ではないのですか?

そう思ったが言葉にできず、一人、悶々と黙ってしまった。
またマスターが私を見つめる。
とても優しく。

「あの写真に写っているのは僕の元カノだよ」

元カノ……。

「今、彼女はどこにもいないんだ。マコ。心配しないで」

彼の言葉が私の乾いた心へと響いてくる。
私を心配してくれている。
嬉しい。

写真立ての彼女が元カノと知って、一気に私の悩みは解消した。

今はどこにもいないという言葉を聞いて安心した。
満面の笑顔を彼へと贈る。
彼も微笑む。

「マコ。やっと笑顔を見せてくれたね。マコは笑顔の方が可愛いよ」

更に笑顔を重ねる私。
やっぱりマスターは私にとって唯一無二のかけがえのない人だ。
そう認識し直して、心の底から嬉しくなった。

たとえ涙を流せないとしても。

私がロボットであろうと、確かに彼は愛してくれているのだ。
それだけで、ロボットだという事は忘れた。
心配させて済みません。
マスター。

はい。もう大丈夫です。ありがとうございます。

と心の中で密かにつぶやいた。
ただ一人。

彼の左腕には、時を刻む黒と白のスカーゲンの腕時計があった。

それは昨日、私が彼に贈ったプレゼントだった。
腕時計は確実に時を刻んでいた。
カッチカッチと。

私と彼が生きる今という時を正確で確実に刻み続けていた。

四ページ、流せぬ涙、了。

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【 有名店の悲劇 】

注文してから出てくるのが早いと有名な飲食店にならぶ二時間待ちの長蛇の列。

有名店の悲劇、了。

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【 勇者は死にました、レベル十六、監禁な教室 】

「ビチ。本当にこの復活の呪文で復活するんですか?」

「おう。最高の復活の呪文だろう?」

俺が自信満々に言う。

「どうなっても知りませんよ。本当にいいんですか? また死にますよ」

「いや。アレだけの名文を書いたんだ。死なないだろう」

「もう。本当に知りませんからね」

女の子魔王が心配する。
尽きぬ愛が溢れた恋文のどこに不満があるのだ?
真面目にこの恋文で、小説家デビューしようと考えている位なのにさ。

「運の尽きじゃな。ツキだけに」

オッさん魔王がつぶやく。

あ、アレか。
あまりにも熱いラブレターに恥ずかしがってるんだろう。
ういヤツじゃのう。女の子魔王よ。

「ていうか吾輩が存在する世界で修業し直せ」

うるさい。
オッさん魔王に用はない。
大体、修業といってもケツを貸すぞとかいったアレなんだろう。

ケツに用はない。

男の娘の穴(ケツ)には用がないのだ。女の子の穴(アレ)に用があるだけだ。
どうだ。エロいだろ。十八禁にするか?
ええ? どうだ?

やれるもんだったらやってみろ。

「本当にお前、吾輩のいる世界で修業をし直した方がよいぞ」

うるさい。
とにかく俺は今書いた恋文で復活して穴を拝むんだ。
美少女である女の子魔王の穴を。

じゅぽ、じゅぽ。

「……ビチ。私が間違っていたのかもしれませんね。失望しました」

乳も好きだが、穴はもっと好きだ。

「乳とか穴とか、何でそんな風になってしまったんです?」

そんな風だと?
何がそんな風なんだ。俺は健全な男子だ。
もちろん男子たるものエロとは、すなわち標準装備なんだぜ?

ブロロン。

ドイツのアウトバーンを疾走する馬力のあるバイクだぜ。
たった今、時速二百キロで爆走するぜ。
天下御免でな。

「変なラブレターを書いて頭がいかれっちまったか。ビチよ。大丈夫か?」

オッさん魔王に心配されるまでもないぜ。
俺は荒ぶる大型バイクだぜ?
デッパツッ!

CBR900RRのお出ましだ。

「やっぱり壊れたな。さすがに五回も死ねば精神もいかれるか」

「そのようですね。どうします? オッさん魔王」

オッさん魔王と女の子魔王が話している。
俺は相変わらすバイクになって、アウトバーンを疾走する妄想に耽っていた。
キャブが火を吹くぜ?

「ま、とりあえず、さっきのラブレター(?)で復活せて更正させるか」

「そうですね。このままでは計画に支障をきたしますからね」

どうやら二人の魔王の意見は決まったようだ。

「ビチ?」

女の子魔王が言う。
その瞳には哀れみが滲み、そして、支えたいという気持ちが宿っていた。
いや、声だけだから、本当にそうなのかは分からないが。

そんな気がして仕方がなかった。

何が言いたい?
俺は今、めっちゃめちゃ幸せで、この上ない幸福感を感じている。
風と一体になり、スピードの向こう側にいるんだぜ?
いや、ピリオードの向こう側だろうか。

どちらにしろ爽快だ。

「復活の呪文を受諾しました」

復活の呪文?
ああ。アレか。女の子魔王に宛てて書いた渾身のラブレターか。
そうか。アレで復活するのか。よかろう。

「復活の準備ができましたら、私に話しかけて下さい」

いつでもオッケーだぜ。

「準備っていっても、心の準備位しかねえぜ。いいぜ。すぐに復活させてくれ」

意気揚々と答える。
彼女は、一瞬、困ったような顔をして、分かりましたとうなずく。
今は声だけで、表情は俺の妄想だけどね。

六回目の人生は、女の子魔王とウハウハな事をするんだ。

べちょべちょぐちょぐちょな事を。
笑いが止まらんぜよ。
坂本。

「ではビチよ。ラブレターの全文を思い浮かべて下さい」

魔王が言う通り、頭の中に渾身のラブレター全文を思い浮かべた。
すると、また目の前がフラッシュした。
あの感覚だ。

真っ白なトンネルを抜け、無事に現世へと向かう感覚。

さて、お次の人生は?

「ビチ。やっと会えましたね。私が女の子魔王、香恋(かれん)です」

香恋。
女の子魔王の名前か。
いや、ここまできてやっと女の子魔王の名前が判明するとかあり得ないですけど。

さすがに文才が乏しい作者だけはあるな。

まったく、やれやれだぜ。

ま、いい。
今は香恋ちゃんとぺちょぺちょな事をして楽しもう。
エロは少年の標準装備だからな。
いくらモブだろうとな。

エロは全世界の少年共通のスキルだと思うぜ。

唇を突き出し、香恋ちゃんのキュートな唇を奪わんと動き出した。

「ビチ。ダメです。止めてください。落ち着いて」

落ち着いてられるか。
香恋ちゃんは、俺の理想の女の子。そして、君も俺を好きなんだろうが?
だったら、キス位、よかんべよ。なっ?

「キッスさてくり。マロン」

「周りを見て下さい。ビチ。周りを確認しても、今と同じ事が言えますか?」

周り?
どうせ大勢の衆目があるとか言うんだろ?
透けてんだよ。香恋ちゃん。

俺の視線がゆっくりと動き周りを確認する。羞恥プレー上等ッ!

って!?
マジですか? ここどこ?
見た感じ、暗い宇宙空間みたいな感じがするんですけど?

空は真っ暗で、数多の星が瞬いている。

雲はなく、もちろん太陽がさんさんと輝き、熱い位の紫外線を送ってくる。
地面は荒れ果て所々にクレーターらしきものがある。
まるでここは月。

いや、月面に降り立った事がないから、月だとは断言出来ないが……。

前にネイチャーという雑誌で読んだ。
月面は、こんな感じだという特集記事を読んだ事があるのだ。
確かに本で見た景色。

あの。俺の住んでいた世界にネイチャーがあったのかと突っ込まないようにね。

作者は、あんまり深く考えずに書いているから。
と、今はそんな事はどうでもいい。
俺は月面にいるのか?

「月?」

「はい。熱き想いが起こした奇跡ですよ。月に行けるなんて、すごい幸運です」

幸運ですぢゃねえよ。
確かに香恋ちゃんと二人きりだけど、月だよ?
月。

「こんな所に転生して、これからどうやって生活すればいいんだ?」

「月ですからね。飢え死にするしかないですよ。うふっ」

だよね。
殺される前に死ぬわ。
月面だけど不思議な事に空気はあるんだけど。

「ビチをここで教育し直します。もちろん食料を餌にね。いいですか?」

マジか。
俺はここで香恋ちゃんによって再教育されるのか。
食欲という抗えない欲によって。

いや、どうせ教育させられるならば、性欲によって教育して欲しい。

その場合、教育とは調教という言葉に置き換えられるがな。

と香恋ちゃん、怪しい目をしてますけど?
もしもし。何ですか?
怪しい……。

「教育するのは吾輩だ。香恋は一旦、魔界に帰る。よいな。ケツを貸すぞ?」

お前かッ!
ちくちくしそうなひげ剃り後がまぶしいオッさん魔王。
待って。香恋ちゃん帰らないで。

プリィィーズゥゥ!

香恋ちゃんは、その可愛い後ろ姿を最後に魔界へと帰っていった。
後に残されたのは、俺とオッさん魔王だけだった。
そんな馬鹿な。

俺の珠玉のラブレターの顛末がこれか!?

ラブレターを書く前、死ぬ前に見た月の事なんか思い浮かべなければよかった。
多分、アレで転生先が月という要素が紛れ込んだんだろう。
お月さまだよ。月ィィィ。

ウサギィィィ。

「ちなみに吾輩の名前はジョンドット五世だ。よろしくな」

オッさん魔王の名前なんて、激しくどうでもいい。
ノー! 香恋ちゃん、カムバックッ!
カムバック!

カムバック、香恋ッ!

俺の両眼(りょうまなこ)からとめどなく涙が溢れて止まらなかった。

~ レベル十六、監禁な教室、了。

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【 勇者は死にました、レベル十五、ラブレター破れた 】

…――賽は投げられた。

ピンゾロか、ションベンもしくは目なしか。
つまり女の子魔王なのか、それともケツを貸したがるオッさん魔王なのか。
さあ。張った。張った。

器の中でサイコロが勢いよく転がる。

目を閉じて手を合わせ、力強く握りしめつつ願う。
ピンゾロと。

「魔王。復活の呪文を入力するぜ。とっびっきり熱いヤツをな」

魔王への愛をラブレターで綴ろうと考えていた。
しかし俺は始まりの街の入り口で同じ台詞を繰り返していたモブでしかない。
繰り返すが。

恋文など書いた事がない。

毎日、毎日、同じ台詞を吐いていた俺。

そんな語彙が少ない俺に恋文など書けるのだろうか。
いささか不安だったが、人間、やってやれない事など、この世にない。
大丈夫だ。やってやるぜ。

至高のラブレターをしたためてやるぜ。

ない脳をフルに使って考える。
さて、まずは冒頭からだ。書き出しをどうするか?
掴みは大切だ。

モブであり、文才のない俺にだって分かる。

> バァーッと太陽がある輝く晴れた日にこにゃにゃちは。

こんな感じでいいだろう。
すなわち、こにゃにゃちはという部分に溢れる想いが込められているのだ。
ちょっと分かり難いかな? でも掴みだし。ひねらないと。

よし。掴みはオッケー。

さて、次はどんな文章を続けるか。

ひねりすぎた書き出しだったから、シンプルに感情を乗せるか。
俺の熱き想いを表現しようと思ったのだ。
さて。

> にゃははは。
> くっぱ。
> すなわちアレだ。君が好きだ。

うん。
こんなに単純で簡単な文面であるにも関わらず、最高の文言だ。
特にこのくっぱという部分がこの上ない珠玉だ。

惚れ直すなよ?

お次は彼女を褒めておくか。
いい気になれば、自ずと色よい返事が聞けるってもんだぜ。
策士だな。俺。

> そういえば魔王ってもち肌で色が白いよね。
> くすっ。
> 白ブタっぽい。

よし。最高の賛辞だろう。
これで魔王もいい気になって、全てを許すんじゃないのか。まいったぜ。にゃは。
とても、モブの中のモブである俺が書いたとは思えない恋文だぜ。
もしかして俺ってモブじゃないかも。

あははは。

「いや。間違いなくモブの中のモブじゃろう。モブ王」

オッさん魔王があきらめた顔をしている。

無視だ。無視。

後は締めだ。
締めは掴みにも負けずにも劣らず大切な部分だ。
やっぱり、締めには、もう一度、魔王への溢るる愛をしたためよう。

> 好きです。
> ただしラブではなく、ライクですが。

うおぉお。感動だ、何て名文。
これだけ愛が詰っていれば、女の子魔王のいる世界に転生させるしかないだろう。
ナイス。俺。

よし。とりあえず、全文を読み返して間違いがないか確認しよう。
推敲ってヤツだな。……俺って小説家っぽい?

にゃは。

***** 女の子魔王への恋文全文。

バァーッと太陽がある輝く晴れた日にこにゃにゃちは。
今日は、温かい太陽光線ですね。
熱い位。

でも明日から寒波が来て、また雪が降るそうです。

雪は好きですか?

僕は雪も好きですが、君が好きなのです。
はい。雪と君の二股です。

雪は隣りの部屋に住むモブな中学二年生の女の子です。

可愛いですよ。

はい。犯罪ですね。分かってます。
でも僕はモブである前に働いたら負けのニートなんですから。えっへん。

にゃははは。
くっぱ。
すなわちアレだ。君が好きだ。

そして雪も好きだ。

もみゅんと二人の乳をもみたい所存であります。
でもアレですね。乳はすなわち神。
巨乳万歳ッ!

貧乳も好きだけどさ。

そういえば魔王ってもち肌で色が白いよね。
くすっ。
白ブタっぽい。

もしくは、あのタイヤのミシュランマンっぽいよね。

いい意味で。くすっ。

好きです。
ただしラブではなく、ライクですが。

以上。

*****

よし。読み直し完了。
この上ないほど愛が詰った最高のラブレターが出来たぜ。
これだけの名文なら女の子魔王がいる世界へ転生するのは、約束されたも同然だ。

「ビチよ。一言、言っていいか?」

何だよ。オッさん魔王?

「これだったらケツと千回書いた方が、名文じゃぞ」

何を?
確かに手紙を書いたのは生まれて初めてだから、ちょっと失敗してるかも。
でもちょこっとだけだし、基本的にはいい文章だと思う。
それに手紙は文面より気持ちの方が大切。
気持ちは誰にも負けないぜ。

「ま、アレだ。この復活の呪文を入力してみれば分かるわ。ふははは」

いや、名文だろ。
肝心の女の子魔王は、どう思う?
これだけ君への愛が詰ったラブレターをもらったら嬉しいだろ?

「……」

ねえ。ねえ。どう思うのさ?

「……」



「ねえ。ねえ。女の子魔王よ。こんなラブレターもらったら嬉しいでしょ?」

「……」

「何で何も答えてくれないの? 女の子魔王?」

「酷じゃのう。答えを請求するな。答えられんのが普通じゃろう」

うるさい。オッさん魔王。
やっぱり生まれて初めて書いたから、ちょこっとどこかが失敗しているのかな。
でもちょこっとでしょ。ちょこっとだけね。

ま、いいや。どちらにしろ、このラブレターで復活するぞ。

女の子魔王とウハウハができる。

濡れてきた?
俺はなし汁ぶしゃああ。
やっと、女の子魔王と体液と体液をぶつけ合う事ができるんだ。

「吾輩がケツを貸すというより下品だな。お前」

とオッさん魔王が嘆いた。

~ レベル十五、ラブレター破れた、了。

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【 勇者は死にました、レベル十四、愛 】

五回目の人生、死ぬ間際に見たものは月だった。

まん丸なお月さま。
満月はとても幻惑的で、慈しむような温かい光を送ってくれていた。
そして、そんなお月さまの下、俺は死んだ。

「復活の呪文を入力して下さい」

例の場所にいる。
多分、ここは死後の世界だと思われる。
先ほどまで温かな光を送ってくれていたお月さまなど、どこにもない。

無の世界。

魔王の可愛い声が響く、寂しい世界。
もちろんオッさんで男の娘魔王ではない、女の子魔王の声が響いている世界。
死後の世界か。
多分。

「ビチ、そんなにオッさん魔王が嫌だったんですか?」

女の子魔王が不思議そうにたずねる。
聞くまでもない。
嫌だ。

いや、それ以前の問題だろ。

ヤツの興味はケツだけで掘る事しか考えていなかった。

俺はホモじゃない。
あんな鼻くそをほじって、鼻毛を飛ばすような輩はお呼びじゃない。
今度、オッさん魔王が現われたら撲殺するつもりだ。
終始、無言で有無を言わせずな。

「ま、そんな話は置いておきましょう。では、復活の呪文を入力して下さい」

魔王が言う。
声はとても透き通っていて、相変わらず可愛いくて愛くるしい。
可愛らしさがまったくもって罪だな。

じゃ、例によって復活の呪文を入力するとするか。

……って。ちょっと待てよ。
考えなしに復活の呪文を入力しても、またオッさん魔王と会うかもしれない。
復活の呪文は俺の思考で、どうとでも操作できるのだ。

逆に言えば復活の呪文一つで、どんな世界になるか決定されるのだ。

これは重大な決断だ。
五回目の人生のケツが好きなオッさん魔王がいた世界には二度と戻りたくない。
いや、この決断で女の子魔王と二人っきりの世界にいければ。

そう。

女の子魔王と二人っきりになれればウハウハだ。

俺は考える。
復活の呪文をどう入力すれば、そのウハウハな世界にいけるのかと。
少なくともオッさん魔王のいる世界にはいきたくない。

「ビチ? 復活の呪文を入力して下さい」

ちくしょう。やっぱり可愛い。
この声は反則だ。

「ふははは。ビチよ。吾輩のケツを貸すぞ。こちらに来い」

うほっ。
俺が女の子魔王に気を取られていたら、オッさん魔王が割り込んできた。
オッさん魔王、お前、まだ生きていたのか。死ね。

「ビチ?」

なによ。女の子魔王?

「どうやら私達は分裂したようです。オッさん魔王と女の子魔王に」

分裂した?
多重人格だったお前らが二人の魔王になったのか?
魔王と少女という人格があった、お前らが、完全に魔王と少女に別れたのか。

これはラッキーだ。好都合。

すなわち少女のいる世界に転生すればウハウハな状況だ。
オッさん魔王に邪魔される事もない。
あんな事やこんな事。

妄想が膨らみすぎて先走りだ。

汁。
もちろん少女である女の子魔王は俺に惚れていて、相思相愛だと仮定してだがな。
多分、大丈夫だろう。

今までの言動から女の子魔王は俺に惚れている。

確信はないがこれだけしつこく俺を復活させるのは、それしかないだろう。
ただしここで道を誤ってしまっては、全てがぶち壊しだ。
女の子魔王がいる世界に転生する。
それしかない。

「ふははは。ビチ。吾輩のケツはしまるぞ」

しまらんでいい。
お前のケツには、まったく興味がない。その口を閉じてろ。

「ビチ。あなたに早く会いたいです。お願いです。復活の呪文を入力して下さい」

女の子魔王が魔王と少女に分裂したのだ。
これは運が向いてきたという証拠ではないのだろうか。
うははは。

しかし、慎重にいかねば、また死ぬハメになる。

人生を五回もやり直した人間は、後にも先にも俺だけだと思う。
今まで復活の呪文入力を甘くみていたのだ。
考えろ。俺。

フッと、脳裏に死ぬ間際に見たまん丸お月さまが浮かぶ。

薄い雲がかかって柔らかい光がさえぎられる。
それは暗雲のような感じがして、今の俺の気持ちを的確に顕わしていた。
小さな不安。

また女の子魔王がいなく、オッさん魔王のいる世界に転生する。

そんな不安。
いかん。いかん。弱気になるな。
復活の呪文は、すなわち思考の具現化にすぎないのだ。

つまり復活の呪文は俺の思考でどうとでも入力できるしろものなのだ。

逆に言えば、弱気になれば呑まれる。
またオッさん魔王にケツを貸すぞと言われる世界に転生する。
それは嫌だ。

思ったんだが、これは一種の賭博じゃないのか?

少女か、オッさんかののるかそるか。

半か丁か。
まるでチンチロリンをやっているかのような感覚だ。
もちろん俺はケツを借りるつもりはないし、女の子魔王とウハウハしたい。

「無駄。無駄。無駄」

オッさん魔王が低い声で言う。

何が無駄なんだ。
俺は、お前のいる世界になんか転生しないぞ。
それともあれか。俺は心の奥底で、オッさん魔王を欲しているって事か?

「ビチ。しまるケツを貸すからこっちの世界に来い。ふははは」

その笑い声がムカツク。
大体、何でそんなにケツを貸したいんだ。
もしかして、これは嫌な想像なんだが、オッさん魔王も俺に惚れているのか?

「ビチ。私は信じています。あなたがここに来る事を」

ここってのは、どこだ?
魔王と少女が分裂し、少女である女の子魔王だけが存在する素晴らしき世界か。
俺もいきたいよ。女の子魔王に会いたい。ウハウハしたいッス。
でも、どんな復活の呪文を入力すればいいんだ。

分からない。

「ケツを千回入力し、ケツへの愛を示せ」

うるせえ。
ケツへの愛なんて示すか。ボケ。

うん?
これはオッさん魔王の失態なのかもしれない。
ケツへの愛を示せば、ケツの待つ世界へ転生するという意味だろう。

つまり、女の子魔王のいる世界に転生する為には女の子魔王への愛を示せば……。

違うかな?
いや、正解だと思う。
今まで考えた事もなかったが、入力する文字列は手紙という形式でもいいんだ。
復活の呪文という既成観念に囚われすぎてしまっていた。
意味のない文字列じゃなくてもいいんだ。

よしゃ! よしゃ!

俺のほとばしるパトスを復活の呪文という手紙にしたためてやるぜ。
女の子魔王、べちょべちょに濡らして待ってろよッ!
ウハウハな人生はすぐそこだぜ。

「何を濡らすんです? 下品ですね。ビチ」と女の子魔王が冷ややかに言った。

~ レベル十四、愛、了。

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【 メルレポート、~ レポート九、何故かウンコ 】

「原初の魔王よ。全ての世界に破滅をもたらして下さい」

メルが願いを口にする。
全ての世界を滅ぼし、次なる世代の原初の魔王には俺様がなる予定だ。
もちろん原初の魔王になれば、永遠の命を得る。

何せ世界の始まりから、その世界に存在するのが原初の魔王なのだからな。

うひひひ。

俺様は顎を撫でる。
次なる世代の原初の魔王に俺様がなるというメルが立てた作戦に満悦だったのだ。
原初の魔王が、ゆっくりと口を開く。

「汝らの望みはこの世界の破壊か。本当によいのか?」

「覚悟は出来ています」

メルが言う。
覚悟か……。俺様の辞書に覚悟という文字はねえぜ。
覚悟なんて文字は勇者に任せてる。

覚悟はしてないけど原初の魔王にレベルアップするのは大歓迎だぜ。

永遠の命だしな。
メルも可愛いけど、メル以上の女を周りに侍らせウハウハな人生を歩むのだ。
そんな妄想とも言える思いで頭の中は一杯だった。

「原初の魔王様……果たして私の願いは叶うのでしょうか?」

「異な事を。我に出来ぬ事はない」

「これは失礼な事を」

メルが恭しく原初の魔王に頭を下げる。
俺様はメルに全てを任せ、一人、ふんぞり返り原初の魔王を見下ろす。
俺様は魔王なのだ。

今では死んだブタにも見下される魔人の一人でしかないが……。

それでも魔王としてのプライドがある。
俺様は誰にも頭を下げない。
絶対にな。

「魔王。早く君も頭を下げなさい。願いを叶えるのよ」

うるさい。
いくらメルの言葉だろうと俺様は誰にも屈しない。
頭を下げる位ならウンコを食べるぜ。

「ウンコ食う? それとも私の鉄拳をお見舞いして欲しい? ウンコか?」

本気で食わせる気か?

「やっぱりウンコだよね。ちゃんと食べなさいよ」

俺様は誰にも屈しない。絶対に。
絶対にだ。

「今からトイレでウンコを生んでくるから残さずに食べるのよ」

メルさんのウンコッ!
いや、M男だったら泣いて喜ぶシチュエーション。
だが、俺様にそんな趣味はない。いや、マジでそんな趣味はないと……。

ないんだい!

「魔王、嫌なの?」

「嫌に決まっておろうが。なにゆえにお前のウンコを食べねはならんのだ」

「だったら早く原初の魔王様に頭を下げなさい」

俺様は魔王だ。
ゆえに誰にも頭を下げん。分かったか?

「俺様は魔界の支配者だった元魔王だ。ゆえに頭など下げん」

「ウンコ食う?」

だから。
もう。ウンコなんて下品な所から離れようよ。
てか、メルさん、S女?

そんなにウンコを食わせたいなんて、真面目に人格を疑うよ。本当に。

「ま、よかろう。汝にもプライドがあろう」

おっ。
原初の魔王が折れたよ。
俺様の高いプライドを理解したのだろう。

「汝らの望み、世界の滅亡を叶えようではないか。しかし一つ条件がある」

条件?
もしかして……、ウンコ?

「魔王、アホな事、考えているでしょ。例えばウンコとか」

便ッ。
君はエスパーか。

「魔王の考えなんて大体、お見通しよ。本当にウンコ食わすよ。真面目にやって」

と俺様達が夫婦漫才をしている間に原初の魔王が言葉を続ける。
俺様達(※注、主にメル)の願いを叶える条件を。

「我は原初の魔王」

「……」

メルが真剣な眼差しで原初の魔王を見つめる。
俺様はウンコの事を考えていた。
俺様なりに真剣に。

原初の魔王にウンコを食わせたら、一体、どうなるのかと。

「我の力を百%発揮するには封印を解かねばならぬ。その封印を解いて欲しい」

封印?
つまり、ウンコが食べたいと。
メルさん、いっちょ、盛大なウンコをプリーズゥ!

「魔王、君、またアホな事を考えているでしょ。シリアスな場面よ」

いや。
原初の魔王は封印を解く為にウンコを所望しているじゃないの。
美少女であるメルさんのウンコ。

いや、M男じゃないけど美少女のウンコには興味がある。

「ウンコ……」

「悪のりした私もアホだったけど、それ以上にアホね。君は。ウンコ食わすぞ?」

アホだと?
確かにウンコが頭から離れなくて、アホっぽく見えるかもしれないが。
美少女のウンコなんだぞ。欲しくないわけがない。

って、やっぱりM男になってる?

何故だ。
何故、こんな流れになってしまったんだ。
俺様はノーマルだし、いくら美少女だからってウンコはいらない。

「我が封印を解く為には美少女のウンコが必要なのだ」

ほぽっ。
ほら。やっぱりウンコでしょ。
原初の魔王だって、男だし。美少女のウンコに萌えないはずがない。

俺様の読み通りだ。

「な、わけがなかろう。我は原初の魔王なり」

原初の魔王がギャグったぞ。
俺様がウンコに引っかかっていたら、ノッてくれたよ。この人。
サンクス。

「コホン。ま、あれだ。堅苦しいのも何だからな。ここからは軽くゆこうぞ」

あぽっ。
原初の魔王、それでいいのか?
何だか当初のキャラが少しずつだけど壊れ始めてるんだけど。

「確かに我も美少女のウンコには興味がある」

「……こいつもアホや」

「しかしそれよりも大事な事は我の封印を解く事。すなわち魔神器だ」

魔神器?
ブタが持っていた原初の魔王が宿る魔神器以外の魔神器か?
そういえば、メルが言っていたな。

『ブタが持つ魔神器には原初の魔王が宿っているわ』

という事は他にも魔神器があるって事だろう。
そして、その魔神器には、また別の魔神が宿っているって事だろうな。
原初の魔王以外の魔神が。

「汝らにはこの魔界のどこかにある三つの魔神器に宿る魔神を倒してもらいたい」

三つもあるの。
しかも魔神器に宿る位だから、それなりの実力を持っているんだろう。
その魔神器に宿っている魔神ってヤツらは。

「我が百%の力を発揮するには、それが必要なのだ。それか……」

それか?

「汝、メルと言ったか?」

「はい」

「汝のウンコを食わせてくれ。それしかない」

ぶっ殺すぞ、テメェ。
と俺様が言う前にメルの無言の鉄拳が原初の魔王の顎に綺麗に決まった。
原初の魔王は口から血を吹き出し、吹っ飛んだ。

「お前、本当に世界の始まりから存在している原初の魔王か?」

とメルが悪態をついた。

~ レポート九、何故かウンコ、了。

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【 愛羅武、魔王、~ 其の三十六、騒がしい日常へ 】

「それにしても魔王の部屋が魔界に転送された時は焦ったんだから」

あの時、私は魔界という世界を初めて体験した。
魔界という場所は、これまでの常識などまったく通用せず、怖い世界だと思った。
そんな所に放り出された。
たった一人。

「本当は飛行船で、すぐに魔王城へ招待しようと思ったのだ」

確かに、そうだったわね。
でも勇者レータインが現われて、魔王の画策は見事に水泡へと帰したのよね。
あの時、核ミサイルなんて馬鹿な事を言わなければさ。
分かってる?

「核ミサイルとか言ってたよね? 魔王」

「あれはギャグだ」

「だから、そのギャグを言わなければ、他にも手の打ちようがあったのにさ」

「いや、あの時は、まだ余裕だったのだ。他のプランがあった」

プラン?
何で、そのプランを発動しなかったのよ。
そうしていれば、何の苦労もせず、魔王城までたどり着いたのにさ。

「それがフラットだ」

フラット?

「フラットは、初め空から降ってきただろ?」

そうね。
靴屋、お出ましとか言ってたわよ。
まるで、フリチンのお約束のように空から降ってきたわ。
あの頃からフリチンの影が見え隠れしていたのか。……今、考えると。

「フラットは靴屋でもないし、金貸しでもない。つまり、暗殺者だったんだ」

そうなの。
で、魔王の特命で勇者を暗殺する為に現われたわけね。
しかし、フラットのカネに対する執着心をフリチンに突かれ、裏切ったわけだ。

「それに、その靴には、タンク・ソウル2が挿入されていたしな」

そうよ。それよ。
魔王、何で通信して、人間界に私を帰してくれなかったの?
色々あって、本当に怖かったんだから。

「魔王。通信で教えてくれても良かったじゃない。人間界に帰れるってさ」

「鮎菜。真面目な話、お前は将来、俺の嫁になる人間だ」

なりません。

「そんなお前に魔界を知って欲しくてな」

知りたくありません。

「魔王、私には想い出の彼がいるんだからダメよ。ダメ。ダメって感じ?」

「……だから、想い出の彼は俺だと言っているだろうが」

想い出の彼は不治の病だった。
そんなに健康優良児のような魔王さん、どこらへんが病気なのよ?
甘いわ。

「想い出の彼は不治の病だった。遠い世界に行くって言ってたわ。そう覚えてる」

「だから悪魔になる病気だったのだ。遠い世界とは魔界の事だ」

およっ。
今回は、やけに突っ込むね。
悪魔になる病気なんて、信じられないけど、つじつまは合っているわ。

「悪魔になった後は、魔王轟と同じ道を歩んだのだ」

つまり悪魔になった後、魔界のトップ、魔王まで上り詰めたと。
魔王を押しのけ、ルンルンが目の前にくる。
そして、しゃべり出した。
衝撃の事実を。

「ヘーイ! ペチャガール。僕はね。悪魔になった魔王の良心なんだよ」

良心?

「魔王が人間から悪魔になった時、良心を捨てたんだ」

良心か……。
確かにルンルンは、お人好しっぽい感じがする。
それに元々、魔王とルンルンが一人の人間であれば、仲がいいのもうなずける。

「捨てられた良心、それが僕。そして僕の存在が病気の証明なんだよ」

「そんな事、いきなり言われても、にわかには信じられない」

「だろうね。でも、それでいい」

「何で?」

「魔王は無理矢理奪おうとは思っていないよ。きちんと納得させるつもりなんだ」

魔界の支配者で極悪非道な魔王が無理矢理を望んでいない?
欲しいものは何でも手に入れてきた魔王が?
何でよ?

「それは、良心である僕が今だ存在しているからさ」

ルンルンが存在するから?
魔王の良心であるルンルンが、存在しているから何だって言うのよ。
一弓君が、慌てて、補足するように言葉をはさむ。

「オラからも一言、言わせてげれッ」

一言も何ももう衝撃的な事実ばっかりで、頭がパンクしそう。

「魔王様は魔王らしくない魔王だっぺ。元魔王が言うんじゃから間違いなかんべ」

魔王らしくない?

「魔王である一弓の悪逆非道ぶりに頭にきて、一弓を退官させたんだ」

ルンルンが、一弓君の言葉に重ね続く。
表情は、とても真剣で、私を射貫くように見つめていた。
そして一弓君が笑う。

「オラの目を覚ましてくれたのが魔王様なんだっぺ。うふ。だから惚れたんだあ」

そういえば一弓君は、あんな魔王に惚れていたわね。
でも、そんな事を暴露しちゃっていいの? 魔王は私を嫁にするつもりよ。
不利になるわ。

でも、ま、一弓君はそういう人か……。

「オラはあきらめないっぺよ。でも真実も知って欲しかったぺ」

やっぱり。
そうか。魔王が、想い出の彼だったのか。
いまだに信じられないし、むしろ、信じたくない気持ちの方が大きいわよ。
想い出の彼は品行方正で、筋の通った格好いい人だったから。

魔王になんかならない。

「信じられないかい? それとも信じたくないかい? ペチャガール」

情けないルンルンが、今は何だか大きく見える。
優しげな笑顔で私を見つめる。
良心か……。

「でもね。魔王は捨てたはずである良心である僕と仲良くしてくれるんだYO」

「どういう事?」

「彼は魔王だ。でもね。彼以上に人間らしい悪魔はいないって事さ」

そうか。やっと納得した。
でも、それでも魔王の嫁になる気はないわ。
今の所はね。

「信じられないけど信じる。でも魔王の嫁になる気はないわ」

「……それでいい。でもペチャガール、飯間勇次郎という名を覚えているかい?」

飯間勇次郎?
確か、想い出の彼が口にしていた名前。
そして、今は亡きレータインが、地上最強の生物だと言っていた男の名前。

「飯間勇次郎は、僕と魔王が一人の人間だった頃の名前だよ」

……そんな。

「僕らは人間界で、格闘家として成功したんだ」

飯間勇次郎が魔王とルンルン。

「でもね。悪魔になる病気が進行し、僕らは人間界から追われるように消えた」

確かにメタルスライム狩りをやっている時、飯間勇次郎と魔王がダブった。
そして、百五十万なんて、アホなレベルだった魔王。
チート機能を使ったとはいえね。

思い当たる節は、どの角度からも、どんどんと出てくるわ。

飯間勇次郎は魔王達が人間だった頃の名前。
でも、強い部分は、ルンルンに残さず、魔王が全部持っていっちゃったんだね。
だってルンルン弱いもの。

うふふふ。

これから先、また人間界に戻って、平和で騒がしい日常が続くんだろう。
また魔王達と馬鹿やって、鉄拳で制裁したりしてさ。
でも少しは魔王の事を見直せたみたい。

将来……。

そう。将来、どうなるかなんて、私には分からないけど楽しい毎日が待ってる。

今は、心の底からそう言える。
みんなで笑い合って、思い出が出来るんだろう。
今の今まで、ずっと覚えてた想い出の彼との思い出のように思い出を重ねて……。

そして、いつか魔王を心の底から受け入れる事が出来たら……。

いや。よそう。
今は、この余韻にひたろう。
やっと、全てが解決し、平和で騒がしい日常に戻れるこの日を楽しもう。

「鮎菜。背中がかゆいぞ。シリアスは苦手だ」

と魔王が言った。
かゆいかゆいと背中をかきむしりつつ。
もう。本当にいつもしまらない男よね。魔王、あんたはさ。

「馬鹿」

と、私は笑った。
この上ない満面の笑顔で。

~ 其の三十六、騒がしい日常へ、了。

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【 吾輩のライト小説 】

俺は夏目漱石のファン。
いつかは、夏目漱石のような大文豪になると息巻いている。
そんな俺が、今日、あるネット小説を読んだ。

題名を、ある世界の怪事件。

タグには、過去からの来訪者と試行錯誤のライト小説と書いてある。
俺は、興味をそそられ、読み始めた。
内容は……。

ありきたりのファンタジー小説で、過去からの来訪者はどこにも出てこなかった。

何が過去からの来訪者だ。
どこにでもあるファンタジー小説じゃないか。
舌打ちした。

こんなに、つまらない作品を読んだのは久しぶりだと。怒りに任せ。

一応、小説の感想欄を見る。
こんなクソ小説に感想があるのか興味があったのだ。
どれ、どれ?

投稿者、ライト小説をなめてませんか?

やはり、だろうな。その通り。
この感想に対して、作者は、どんな反応なんだ。
って、えっ?

作者、夏目漱石、吾輩はライト小説を知らん。すまんな。精進するよ。

夏目漱石。
そういえば、タグには過去からの来訪者と試行錯誤のライト小説と書いてあった。
つまり、小説の中で過去からの来訪者が出てくるのではなく。
作者が過去からの来訪者……。

そして、その夏目漱石が試行錯誤して書いたライト小説という事なのか。

くわっ。

吾輩のライト小説、了。

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【 愛羅武、魔王、~ 其の三十五、すっきり 】

「くっ。こうなったら、勇者を殺したモノリスを呼び出すとしましょう」

あのぶよぶよの魔物、モノリスか。
確かに戦闘形態があり、その上の攻撃形態も持つ魔物。
戦闘形態で、すでに魔王の実力を遙に上回ると、フラットは言っていたわね。
大丈夫か?

フラットが呪文を唱える。

「フリチン様より承った魔物。モノリスよ。魔王様を倒すのですッ!」

「弟子の不始末。師匠が正すもの。良かろう。こいッ!」

ぶるん。
ぷよぷよの肉が揺れている。
フラットのとっておき、モノリスが再び、私の目の前に現われたのだ。
でも油断しないでね。これは守備形態だから。

「最初から全力です。モノリス、攻撃形態に変身ですッ!」

一気にモノリスの肉が引き締まり、筋肉の塊になり、魔王を攻撃しようとした。
しかし、魔王も、すでに魔王レーザを放てる体勢だった。
魔王の目から、青光りする閃光が線を引く。

轟君を焼いた魔王レーザだ。

「ぐるおおお」

モノリスに直撃する魔王レーザの閃光。

モノリスが悶えている。
そこに全てを呑み込むような真っ黒な光球が飛んでくる。
一弓君だ。

彼の口から放たれた光球がモノリスを消滅させる。

勝負にならない。
さすがにレベル百五十万とレベル七十九万五千は、住む世界が違いすぎる。
伊達じゃない。桁が、まったく違う。

フラットはあ然となり、天を仰ぎ、絶望を覚えていた。

「フッ。無駄な事をしたな。アディオス」

ルンルンが額に添えた人差し指と中指を敬礼するように、ピッと離す。

締めたのだ。
いや、ルンルン、君、何にもやってないから。
死んでた癖に、美味しい所だけ持っていくのは、いかにもルンルンらしいわね。

ルンルン、あんたのレベルは、マイナス五百万だものね。

ある意味、尊敬。
でも、ずっと疑問に思ってた事なんだけど……。
ルンルンって、魔界の住人なのかな。妙に魔王と仲がいいけど、そうは見えない。
今回の事も、そうだけど、何だか魔王達と住む世界が違うんだよね。

……でも、想い出の彼じゃないのは、激しく分かるけど。

激しくよ。禿道。

願望?
いや、事実だよ。
ルンルンなんかが、想い出の彼だったら自殺するわ。

「くっ。モノリスが瞬殺ですか。しょうがありませんね。もう、お手上げです」

フラットが降伏した。
いや、嫌でも降伏せざるを得なかった。
フラットの奥の手が、レベル七十五にブーストアップした自分だったのだから。

そして、魔王達が攻撃面では自分より強いモノリスを瞬殺したのだから。

「およっ?」

あっ。
そこにいるのは……里美ッ!
魔王を追って、魔界に行っちゃった里美が生きていたわ。

思わず、良かったと力強くハグする私。

「鮎菜。朗報よ。魔界で知ったんだけど……、あそこにいるのは誰でしょう!」

里美がハグから抜け、案内をするように手を拡げた。
手が指す先に視線が移動する。
あ、あれはッ!

と、轟君?

「邑上君。久しぶりだね。僕だよ。学級委員長だった轟だよ」

うわあ。
轟君、魔王レーザにビーフをジュッと焼かれて死んじゃったんだと思ってた。
ごめんね。私の都合に巻き込んじゃって。

轟君は男の子だから恥ずかしくてハグは出来ないけど、肩をたたき合って喜んだ。

「邑上君。実は、僕、修業して、魔王になったんだよ」

「魔王に? 嫌じゃなかったの?」

「いやね。魔界に転送された時は絶望もしたよ」

「やっぱり?」

「でもね。どうせなら魔界でのトップをとってやろうって奮起したんだ」

轟君らしい。
魔王轟の噂は聞いてるよ。
でも、人間が魔神になって、しかも魔王になるまで成長するなんて。
やっぱり、魔神でも轟君には、間違いがないわね。

人間の時から努力家だったものね。

魔王になった轟君は。

うん。
轟君が魔界に転送されても、絶望せずに頑張って魔王にまでなった努力を学ぼう。
私も頑張って勉強して、夢である看護士になるんだ。
魔王になった轟君が教えてくれた。

人間、どんな環境にも絶望せず、頑張れば、夢は絶対に叶うんだって。

「おっほん。鮎菜よ。取り込み中、済まんが、フラットの処遇は、どうしたい?」

魔王。
せっかくいい感じで、里美と轟君の二人と再会を喜んでいたのに。なにさ。
フラットの処遇なんて、どうでもいいわよ。好きにして。

「うるさいわね。どうでもいいわよ」

「……あのな。鮎菜、お前はフラットに三億の借金があるのだぞ。いいのか?」

わ、忘れてた。
魔王がフラットを降伏させてくれたから、借金は無いものになったんだと。
そんな都合のいい妄想を走らせていた。

でも魔王、あんた、外道の癖に、何だか、変な所で真面目よね。

「お嬢様。裏切りの賠償金は借金をチャラにするという事で、一つお願いします」

ま、借金が無くなるなら、それでいいわ。
フラットほど、銭ゲバじゃないし、この世界のお金をもらってもね。
よし。それで手を打とう。

借金が無くなれば、心置きなく人間界に帰れるしね。

それにしても……、魔王に一言、言いたい。
靴に通信機能があるんだったら、さっさと通信してこいっつうの。
色々、大変だったんだから。

おっぱい村とか、メタル狩りとか、レータインの死とかね。

「魔王ッ!」

「何だ。鮎菜。再会のキッスか? いいぞ」

「馬鹿。違うわよ。この靴、まだ通信機能があるんでしょ?」

キッと睨む。
魔王は、残念そうに、言葉を続ける。

「何だ。違うのか……」

「違うに決まってるでしょが。何がキッスよ。私には想い出の彼がいるのよ」

また魔王が上目遣いで、私を見つめる。

「だから、想い出の彼は、俺だって言ってるだろうが……」

「てか、私の質問に答えなさい」

私は強く言った。
このままでは、うやむやにされるのではと思ったのだ。
魔王は、めっちゃ残念そうに、まだ上目遣いのまま私を見つめ続けていた。

「何で、靴の通信機能で、私に語りかけなかったの? 凄い苦労したんだから」

「それは勇者がいたからだ。勇者が邪魔だったんだ」

レータインの事?
レータインなんて、フラットの鼻息で死ぬわよ。
そのフラットを倒したのは、あんたらなんだから、勇者、恐るるに足らずよ。

「あいつは、タンク・ソウルで、魔王轟を倒しているからな」

いやに慎重ね。
でも、確かに勇者は成長するからね。
それでも、レータインは裏技的なものを嫌っていたわ。
つまり、アップデートのチート機能なんて、もっての他な人種じゃないかしら。

「チートなんて使わないわよ」

「いやな。タンク・ソウル2の世界で、唯一、レベルフリーなのが勇者なんだよ」

レベルフリー?

「つまり、どこまでもレベルが上がるのが勇者なんだ」

確かに魔王がチート機能を使ったら、勇者が世界が救えない事になる。
そこら辺りのゲームバランスをとるのが、勇者だけの特権、レベルフリーなのか。
なるほど。ま、納得したわ。

「でも、あれだ。鮎菜よ。通信ができるのに放っておいて、済まんな」

魔王が頭を下げた。
魔界の支配者である外道で、極悪非道な魔王が……。
それだけ魔王も、やきもきした気持ちで、私を見守っていたんだろう。

良かろう。許そう。感謝しなさい。

魔王に、うなずいた。
ルンルンや一弓君も、そして、里美に轟君、みんなが笑った。
やっと、長いかった邑上鮎菜事、私の異世界生活も終わりを迎えようとしていた。

ああ。何だか、スッキリしたと背伸びをした。

~ 其の三十五、すっきり、了。

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【 愛羅武、魔王、~ 其の三十四、データ改ざん 】

「少女。オラだっぺよ。一弓だあよ。久しぶりだなあ」

一弓君。
隣にはルンルンもいる。
さっきまでの威勢は、どこへやら。魔王がいない。

「フッ。ペチャガール、かなり久しぶりだな。むう。Aカップの美乳とみたッ!」

一回、死になさい。ルンルン。

鉄拳制裁。
ルンルンの頭にたんこぶができる。
うわあ。懐かしい。この感覚、めちゃくちゃ久しぶりな気がする。

「ヘーイ! ペチャガール。相変わらず凶暴だな」

はい。はい。あんたもね。
ルンルン。

っていうか、肝心の魔王は、一体、どこにいるのよ?

「鮎菜。ここだッ!」

ぶっ!
魔王が、少し離れた崖の頂上で左人差し指を地へ、右人差し指で天を指している。
仏陀の天上天下唯我独尊のポーズ。

あれは、恰好をつけているつもりだろうか。安直な思考が滑稽すぎる。

アホかッ。
久々の登場だからって、何、格好つけてるのよ?
あんたは、何をやっても外道で、凶悪非道な魔王だから、無駄に格好つけるな。

「フラット、お前が裏切る事は想定済みだ。カネの亡者だからな」

魔王が言う。
ルンルンは、黙って、その通りだとうなずく。
それに、一弓君がつづく。

「そうだべ。フラット。おめえさがフリチンさと繋がっている事は知っていたべ」

フラットが、厭らしく笑い、答える。

「ぐふふふ。想定済みですか。では、こちらも……」

あの。フラットさん、その自信満々な態度は、どこからくるんですか?
魔王は、飯間勇次郎とも見劣りしない実力があるんだよ?
何で、そんなに泰然自若としていられるわけ?
意味が分からん。

「あなた方が、お嬢様を助けに現われる事は想定済みですと言ったらどうです?」

「ぬう。想定済みだと。強がりを」

魔王が答える。
ルンルンと一弓君も、フラットに降伏を勧めるようにうなずく。
でもフラットは、何で、こうも強気なんだ。

……何かあるな。

「くくく。決して強がりではありません。何せ、お嬢様の履く、その靴には……」

「くっ。そこまで……、そうだ。ソフトは、まだ入っている」

へっ?
ソフトが、まだ入っている?
タンク・ソウル2は、フラットが抜き取って、持ってるんじゃないの?

「ぐふふふ。よもやわたくしが知らないとでも?」

「そうだ。その靴は、お前が裏切る事を想定しソフトが二つ入るよう作ったんだ」

入るよう作った?
つまり、通信機能は今だ有効なの?

「ぐふふふ。で、魔王様方は、わたくしの裏切りを知ったんですよね?」

「くふ。そこまでバレているとはな。だったら、どうする?」

やっぱり、靴の通信機能は、まだ有効だったんだ。
つまり、私とフラットの会話を逐一、魔王達に送信していたわけだ。
だから都合良くピンチに現われた。
ほう。なるほど。

「ぐふふふ。あなた方が現われる事が分かっていて、対策をしていないとでも?」

「むう。対策だと? 弟子が師匠に勝てるはずがなかろう。死ぬぞ?」

魔王が、必殺の魔王レーザの体勢に入る。
同時に一弓君も口を開ける。
真っ黒な光球だ。

そして、大方の予想通り、ルンルンの魂が抜け出て、死んだ。

いや、ルンルンのヤツ、もしかしたらレータインよりも弱いかもしれないからさ。
だから、フラットの瘴気に中てられて死んだんだね。
何しに来たのよ。
君……。

「おや。おや。皆さん、わたくし相手に勝てるとでも? 笑止」

いや、すでに一匹、死んでますう。

「わたくしは、この日の為にレベルを七十八までブーストアップしてるんですよ」

そうだ。
フラットのレベルは、七十八だったんだ。
多分、思うに、魔王や一弓君のレベルは、それ以下なんだろう。

じゃないと、フラットの余裕な態度の説明がつかない。

「七十八だと?」

魔王が、ゆっくりと口を開く。

「確かに、タンク・ソウルまででは、ほぼ限界ギリギリのレベルだな」

そうなんだ。
でも、この世界は、タンク・ソウル2。
タンク・ソウル2での七十八って、一体、どれ位なんだろう。

「しかし、この世界はタンク・ソウル2だぞ。甘いんじゃないか。その考え」

「ぐふふ。甘いですかね。ほぼ限界までレベルを上げたんですよ?」

「それが俺達への対策か?」

「そうですよ。レベルが七十八もあれば充分でしょう。限界です。違いますか?」

「甘いな。だったら俺のレベルを教えてやろうか?」

「……是非」

フラットの顔から笑みが消え失せた。
魔王の言葉で、やっと、厭な余裕が削られ、真剣にならざるを得なかったのだ。
魔王、あんたって……。

「ふははは。タンク・ソウル2の限界レベルは、百なのだッ」

「そうですよ。魔王様、あなたは百なのですか?」

「百だと?」

魔王が一旦、間をとる。
そこに一弓君が、フラットの考えが甘い事を指摘するように続ける。
相変わらず、ルンルンは魂が抜け、死んだまま。

「だべ。時代は日進月歩だっぺッ!」

日進月歩。
つまり、タンク・ソウル2は、オンラインゲームって事なのかな?
で、日々、アップデートが繰り返されているって事?

えっと、違うかな?

「タンク・ソウル2はオンラインゲームなのだ」

でっしょ。でしょ、でしょ。

「そうですか。でも、それがどうしたというのですか? 魔王様」

「ふははは。間抜けが。最近のアップデートで、チート機能が追加されたんだぜ」

「チート機能?」

「そうだ。そしてメタル狩り。まだ分からんか」

「つまり、魔王様のレベルは……」

「ふははは。俺のレベルはチート機能で、百五十万なのだ。思い知ったか」

いや。
限界百で、百五十万って、あんた、せこすぎない?
チートにもほどがあるっての。

「ちなみにオラは、七十九万五千だっぺ」

と一弓君が言った。
いや、一弓君より、あの死体のレベルの方が気になるんだけど。
ルンルン、起きなさいよ。あんたのレベルは?

「僕のレベルは、マイナス五百万だ」

くぱっ。
死んでるよ。それ。
私は、マイナスレベルのルンルンが、どうにも不便で、同情した。
そりゃあ、簡単に死ぬわ。ご愁傷様と。

そして、レベル七十八のフラットは珍しく焦っていた。

あの冷徹な外道が。
それだけ、魔王のレベル百五十万が、途方もない数値だったのだ。
もちろん一弓君のレベルもだけどね。

でも、マイナスレベルのルンルン、お前は素直に死んでろ。

と思った。

~ 其の三十四、データ改ざん、了。

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【 愛羅武、魔王、~ 其の三十三、ヒーロー 】

メタルスライム狩りの真意とは……。

フラットに勇者レータインを抹殺させる為。
弱いままのレータインをフラットの召喚魔法で殺す為にメタル狩りを行ったのだ。
嫌がらせだと言っていた。

しかし、実の所、都合が悪かったのだ。

勇者が、メタル狩りで、レベルを上げて、強くなってしまっては。

魔王轟を倒したレータイン。
レータインが成長すれば、今、王座に返り咲いている魔王をも倒すかもしれない。
それを危惧して、魔王はメタル狩りを行ったのだ。

なるほど。

色々、考えているのね。
何にも考えてないような顔をして。
フラットなんて、有能だと思われるスパイまで使ってさ。

「お嬢様。では、魔王城に向かうとしましょうか」

フラットが言う。

「……レータインは死んだの?」

「ぐふふふ。勇者はモノリスによって、死にました。お嬢様も見たでしょう?」

確かにフラットの言う通り、レータインが死ぬ所は見た。
あの凶暴な魔物に踏みつけられ。
でも……。

轟君の時のように、実は別の世界で生きているというオチじゃないのか。

勇者が、変態王国アユーナの街に戻ったのではないのかと。
思いっきり、希望的観測だが、そう思ったのだ。
さすがに死ぬのは可哀想だ。

「レータインは、前に変態王国アユーナから来たと言っていたわ」

「変態王国アユーナですか。わたくしも知っていますよ」

「そこに帰ったんじゃないの?」

「そうかもしれませんね。そうじゃないかもしれませんが。真相は闇の中です」

ううぅ。
含みのある言い方だなあ。
レータインが、変態王国アユーナの街に戻っていれば、まだ救われるのに。

いくら変態でも、死ぬのは、さすがに忍びない。

ま、でも。
どちらにしろ、今は魔王城に向かうのが、最優先事項だ。
魔王城で、魔王と会って、とっとと、このゲームな世界から帰る事だけ考えよう。

「お嬢様。無駄なおしゃべりは止めましょう」

「そうね。フラット、魔王城まで案内してくれるんでしょ?」

フラットがうなずく。
レータインが退場し、私は魔王城に向かう。
これで良かったんだと、私は私自身を無理矢理、納得させ、心を落ち着かせた。

「ここから魔王城まで、まだ少し距離がありますが、大丈夫ですね?」

靴を見る。
ずっと思ってた事なんだけど、この靴はかなり使いやすい。
歩いてても疲れないし、足も痛くない。

これが魔王お手製だとは、にわかには信じがたい。

いや、魔王お手製だからこそ、こんなに使いやすい靴なのだろうか。
考えたくはないが、魔王の愛が詰っている靴。
私を想った靴という事か。

……嫌だ。

私には想い出の彼がいるのだ。
魔王なんて、外道で凶悪非童な生き物の愛なんていらない。
しかも、いつも魔王の身勝手な都合に巻き込まれ、痛い目を見ているのは私だ。

騙されるな。鮎菜。

ファイト!

私は一人、魔王を拒否した。
フラットは、そんな私を見て、また笑った。
厭らしい笑顔で。

「ぐふふふ。お嬢様。それでは行きましょう。魔王城へ」

フラットが、私の前を歩き始めた。
どうやら、真面目に魔王城へと歩を進めたようだ。
ついていく私。

「フラット。魔王城って、ここから、どれ位、歩いた所にあるわけ?」

「ぐふふふ。ま、小一時間ほどでしょうか」

一時間か。
靴のおかげで疲れないけど、おっぱい村から、そんな近くに魔王城があったんだ。
その事実に、少し、驚いた。

「一時間と言いましても、ワープゾーンを使いますがね」

ワープゾーン?
また、えらいゲームな施設だね。
タンク・ソウル2の世界は、どこまでいっても、ファンタジーってわけか。

そして、私とフラットは、いつの間にか人気のない所に来ていた。

おーい。どこまで行くの。フラット。
こんな方に、魔王城につづく、ワープゾーンがあるの?
怖いんだけど?

「ぐふふふ。お嬢様……」

フラットが周りをうかがい、言う。
その横顔は、どこか影を帯び、何だか怪しかった。
な、何よ?

「ぐふふ。わたくしは魔王様のスパイであると同時にフリチン様の同志なのです」

フ、フリチンッ!
いきなり、何を言い出すのよ。
あんたは、魔王の弟子で、魔王のスパイなんでしょ?

「わたくしはカネで動く人間なのです」

カネかッ!
すっかり忘れてたけど、フラットは、そういうヤツだったわね。
カネの為だったら、師匠すらも裏切るってか。

「ぐふふふ。そして、わたくしは、フリチン様に買収されているんですよ」

宇治ッ!
フリチンの買収されてるって……。
あんたは魔王のスパイで、魔王城に連れてってくれるんじゃなかったの!

「フリチン様からの特命です。死んで下さい。お嬢様」

死んで下さい?
レータインにつづき、私をも殺す気か。
しかも人間界にダンクシュートして置いてきた、フリチン野郎の命令で。

魔王。
カネの亡者が裏切ったわよ。何とかしなさい。
このままじゃ、私もレータインと同じく、フラットに殺されてしまう。

「ふははは。そんな事は分かっていたわ。馬鹿者がッ!」

そこに、あの声が響き渡った。
聞き覚えのある声。
あの声。

そう。アイツが、私のピンチに駆けつけたのだ。

豪快な笑い声と共に。
私は、頭痛と共に、助かったと思った。
馬鹿。

「遅いわよ。魔王」と。

~ 其の三十三、ヒーロー、了。

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【 愛羅武、魔王、~ 其の三十二、スパイ 】

「姫様。か、回復魔法をお願いします……」

一体、何が起こっているのか。
レータインの全身全霊をかけた、最高最強で、お馴染みのあの技が炸裂したのだ。
が、そう思っているのはレータインだけで、実際は……。

デコピンに負けた。

モノリスという魔物のデコピンに負けたのだ。

だって、レータインが放ったのは、結局、滅魔斬壊閃だったわけで。
相手は戦闘形態の上である攻撃形態だったんだから。
ま、当然、負けるわな。

「お嬢様。このままでは勇者は死にますよ」

分かってるわよ。
分かってるけど、私は一介の女子高生であって、間違っても僧侶なんかじゃない。
それに魔法を生まれて初めて見たのが、さっきなのよ。
当然、回復魔法なんて使えるわけがない。

「ひ、姫様……」

そんな懇願された目で見られても、無理なものは無理なのよ。
私は魔法なんて使えないわ。
ごめん。

「ぐふふふ。そろそろ勇者も終わりですね」

フラットの野郎。
全ては、この外道が元凶なのだ。
頼んでもない強い敵を召喚し、レータインにぶつけたのだから。

「ひ、姫様。せめて救急車を呼んで下さい」

救急車。
ここは魔界だよ。
そんなものが、あるわけない。

「ああ。霊柩車か……」

あきらめたわね。

「モノリス。そろそろ勇者にとどめをさしなさい。終わりにするのです」

フラットの命令で、魔物が勇者を踏みつける。
モノリスはレータインの何倍もでかく、相当、重いと思われる。
足も比例して、でかい。

潰されたッ!

多分、レータインはプレスされて、ひらきになってる。

ごめん。レータイン。死んだね。
本当にごめんね。

思わず、目を閉じて、レータインの冥福を祈った。

轟くんの時も、そうだけど、人が死ぬって、悲惨なものなんだね。
特に親しい人であれば、あるほど、悲しい気持ちになる。
レータインは親しい人じゃないけど。
変態ッス。

「ぐえっ」

その言葉を最後にレータインは、死んだ。
いや、実際に死体を見たわけじゃないから憶測だけど、それ以外ないと思う。
フラットが笑う。

「ぐふふふ。勇者は死にましたね。お嬢様の予言通りです」

そういえば、フラットは、何で知ってるの。
私が言った、あの時の台詞を。
盗聴?

「フラット、何で、あの時の台詞を知ってるのよ。やっぱり盗聴?」

「ぐふふふ。いいでしょう。タネあかしです」

その笑顔が怖い。

「その靴ですよ。お嬢様」

靴?
フラットと初めて出会った時に買った靴?
買った靴を見つめる。

よく見たら、ナイキのフライニットルナ3じゃないの、この靴。

結構、高い靴よ。

赤とピンクが、絶妙にデザインされた履きやすい靴。
魔界製で人間界のルナ3じゃないけど。
ナイキだよね?

「ナイキ?」

「ぐふふふ。ナイキではありません。ナマイキですよ。魔王様の手製の靴です」

魔王ッ!

「人間界のルナ3を奪って、デザインを盗んで作ったようです」

盗作か。いかにも魔王らしい。……で、その盗作の靴がどうしたわけよ。

「お嬢様。これが何だか分かりますか? ぐふふふ」

弁蔵ッ!
フラットは、ゲームソフトを右手に持っていた。
私は、声を失ってしまった。

そ、それは。

忌まわしのタンク・ソウル2じゃんッ!

フラットの手からタンク・ソウル2を奪おうと手を伸ばした。
あれさえあれば、面倒くさい事をしなくても人間界に帰れると思ったのだ。
タンク・ソウル2をさっと隠す。

「お嬢様。このゲームが通信機能も有しているのはご存じですよね」

知ってるわよ。
そんな事より、さっさと渡しなさい。タンク・ソウル2を。
私は、こんなゲームな世界に、ほんの一秒たりとも、いたくないんだから。

人間界に帰るわよ。渡しなさい。

「ぐふふふ。その靴は、ハード機能も有しているんですよ」

ハード機能?

「分かりませんか。つまり、通信機能があるんですよ。簡単に言えば盗聴です」

盗聴か。
やっぱり、盗聴だったわけね。
それにしても、足元にタンク・ソウル2があったなんて、何て灯台もと暗し。

「そして……」

何よ?
これ以上、あんたと話しても埒が明かないわ。
私は、人間界に帰るんだから、ささっと、タンク・ソウル2を渡しなさい。

「魔王様から伝言です」

伝言?

「勇者が死んだら、魔王城に招待するぞ。鮎菜との事です」

……もしかして。
フラットは、私を魔王城に連れていく為にレータインを殺したという事ですか?
しかも二人は、メタル狩りの時、久しぶりに会ったフリまでして。
あの時の会話は、全部、お芝居だったわけね。

レータインに悟られない為に。

フラットは魔王のスパイだったわけだ。

確かに魔王城に勇者を連れていくという事は、すなわち魔王を倒すって事だよね。
いくらレータインが弱いといっても、魔王轟を倒してるわけで。
魔王も、もしかしたら負けるかもしれないと。

成長したレータインによって。

でもね。
今、私が考えている事は、フラットの手にあるタンク・ソウル2を奪って……。
このゲームな世界から逃げ出す事よ。それだけ。

「お嬢様。無駄な事はお止め下さい。私のレベルは七十八ですよ」

七十八?
それが、どれ位の強さかは分からない。
が、レータインがレベル一として、フラットの七十八は七十八倍、強いわけだ。

レータインが七十八人いて、始めてフラットの勝てるのか。

確かに強いかもね。
しかも私は、レータインより弱い、か弱い女の子。
回復魔法も使えない看護士を目指している女子高生にすぎないのだ。

とてもフラットからタンク・ソウル2を奪える気はしない。

渋々だが、フラットに従おうと思った。
今はね。今だけよと、心の中で密かにつぶやきつつ。
私には鉄拳があると。

うふふふ。

そして、いつの間にか、モノリスは消えていた。

~ 其の三十二、スパイ、了。

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【 五年目のチョコ 】

バレンタインディー、付き合って五年の彼女からチョコをもらった。
最近、会えずに悶々とした日々を過していた最中だった。
すげえ、嬉しかった。

「春登(はると)君、はい、チョコレート」

「うおおお。めっちゃ嬉しい」

「何でよ?」

「だって、最近、会えてなかったし、くれないかと思ってたからさ」

彼女が、途端、険しい表情になる。
しまった。……俺、何か悪い事、言っちゃったかな。
でも正直な気持ちだ。

「義理よ。義理。だから、そんなに喜ばないで。飽くまで義理だからさ」

俺達、五年、付き合ってたんだよな。

くはっ。

それから一ヶ月後。今日は、ホワイトディー。
義理と、あれだけ強調されたチョコをもらった俺は、何を返そうか迷った。
迷ったあげく……。

チョコレートをあげる事にした。

「秋菜(あきな)。これ、バレンタインディーのお返し」

「……」

「チョコは嫌いだったかな? 俺の気持ちだよ」

「これ……」

「だって、義理だったろ。俺のチョコ」

「だからって、私があげたチョコをくれなくてもいいじゃない」

くわっ。

五年目のチョコ、了。

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【 愛羅武、魔王、~ 其の三十一、裏切り 】

「ぬう。一体、何だ、こいつは?」

レータインが、うめく。
レアなモンスターが、彼の前で蠢いている。
そう。

今、レータインの目の前にいるのは、魔法で呼び出された経験値の高い魔物。

見た感じ、そんなに強そうではない。
ただし、レータインは、スライムにも負けるヘッポコ丸。
大丈夫か?

「秘技、滅魔斬壊閃ッ!」

レータインのサーベルから立ち上る深紅の焔が空気を切り裂く。

出たよ。
レータインが持つ、唯一の技。
秘技とか言っちゃてるけど、こうも毎回、同じ技を出されるとつまらなく思える。
で、大方の予想通り、まったく利かないし。

「くっ!」

くっ! じゃねえ。
そんな技が利くんだったら、スライムも余裕ですてば。
弱いんだから、真面目に戦ってよ。

「利かんか。良かろう。ならば、この技を持ってして倒すのみッ!」

およっ。
レータインのヤツ、滅魔斬壊閃以外の技を出すのか。
他にも技があったんだ。あるんだったら、さっさと出しなさいっつうの。

「秘技、滅魔斬壊閃ッ!」

徐倫ッ!
やっぱり、お主には、その技しかないのか。
もうみんな飽きてると思うよ。

「ぐふふふ」

何よ。フラット、突然、厭らしい笑い声をあげて……。

「そろそろ、やってしまいなさい。モノリス。変身するのですッ!」

モノリス?
多分、フラットが呼び出した魔物を呼んでるんだと思うだけど。
変身って何さ。弱いんでしょ? あの敵。

「うほほほっ!」

うほ、うほ。
モノリスと呼ばれた魔物が、奇声を上げて、変身しだした。
いや。うほ、うほと、私も言ってたけどね。

モノリスの周りの空気が張り付く。

空気が圧縮し、蒼白い不気味な光が、辺りを包む。
マジ? こいつ、本当に弱いの?
疑問に思う私。

「うがあぁぁあ。うほっ」

耳をつんざくような叫び声を上げて、モノリスが戦闘形態へと変化する。
今までのモノリスは、守備形態だったのだ。
何で分かったのか?

「ぐふふふ。お嬢様。モノリスの戦闘形態は魔王様をしのぎます」

……と、ご丁寧にフラットが説明してくれたのだ。

ありがとう。

って、ちょっと、魔王を超えるって。
地上最強の生物、飯間勇次郎に見えた魔王を超えるの?
聞いてないよ。

今のレータインじゃ、勝てないわ。

勝てないどころか、死んじゃうわよ。マジですか?
フランスパンをぶら下げた勇者すぎる勇者だけど、さすがに死ぬのは、どうかと。
そう思います。
私。

「斬ッ!」

モノリスの尻尾が、巨大な刃物になり、レータインを襲う。
ボトリと鈍い音を立てて、彼のアレが落ちる。
アレとは、アレ。

……。

切れたッ!
切れちゃったよ。レータインのフランスパンが。
私は乙女だから、よくは知らないけど、大事な所なんでしょ? あそこって……。

フランスパンが地面に転がる。

痛そっ。
見るに堪えられないわ。
フラット、あんな強い魔物を呼び出した責任をとりなさいよ。

「フラット、あんたね。強すぎるわよ。あの敵」

「わたくしは経験値の高い魔物を呼び出すと言ったのです。何か問題でも?」

だから、レータインは、限りなく弱いのよ。
それに合わせて、弱くて、経験値の高い魔物を呼び出しなさいよ。
そんな事も分からないの?

「レータインは弱いのよ。それに合わせてよ。死ぬわ」

「ぐふふふ。それはお嬢様方の都合でしょう。わたくしの都合はアレです」

アレって……、モノリスの事?

「死になさい。勇者」

マジかッ!?
フラットが裏切りやがった。
いや。無料で動く事自体、裏切りの前兆だったのかもしれない。

アホだった。

魔王に負けず劣らずの外道を信じた私の過ち。

魔法に目を奪われ、そして甘い言葉に騙された私の大きな間違い。
このままでは、レータインは死んでしまうわ。
アホでも死なれると寝覚めが悪い。

「お嬢様?」

フラット、頼むから、あの魔物の召喚を取り消してよ。

「お嬢様も言っていたでしょ?」

何をよ?

『フッ。何でもないわ。レータイン。でも、あんた、近いうちに死ぬわよ』

『僕が死ぬのでございますか?』

『私の勘よ。この世界の偉い人が、あんた嫌いだって。私の勘は良く当たるのよ』

「……とです。お嬢様が言った事ですよ。お忘れですか?」

その全然、似てない物真似がムカツク。
大体、あんた、私が、その台詞を言った時、いなかったでしょうが?
何で知ってるのよ?

「何で知ってるのよ? 盗聴?」

「何故、知っているのか。そんな事はどうでもいいのです」

良くないわよ。

「そんな事より、勇者よ。死になさい。モノリス、攻撃形態に変身ですッ!」

戦闘形態の上があるのか。
地上最強の生物、飯間勇次郎を遙にしのぐ、攻撃形態が……。
レータインなんて、デコピンで死ぬわよッ!

「いけッ! デコピンです」

文太ッ!
真面目にデコピンだとは思わなんだ。
でも、率直に言って、デコピンでもレータインは死ぬわ。

「……くぅ。勇者の意地。生命を燃やし尽くし最高最強の秘技で迎え撃つぜッ!」

レータインが息巻いている。
でも相手はデコピンだよ。いいの? 本当にそれでいいの?
しかも、最高最強の秘技って言ってるけど、ぶっちゃけ、アレでしょうが。

あんたには、アレしかないものね。

悲しいけどさ。

そして、勇者レータインの最終奥義が放たれた。
勇者レータインの命すべてを燃やし尽くし、この上ない、あの秘技が……。
フラットは笑みを浮かべていた。

「ぐふふふ。無駄です。死になさい。勇者」と。

~ 其の三十一、裏切り、了。

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【 週七で通う男 】

俺の友達にキャバクラにハマっているヤツがいる。
そいつは、週三どころか週七、つまり毎日、キャバクラに通っている。
しかも同じ店。

「お前、毎日、通って飽きないのかよ?」

「飽きるとかのは話じゃないな」

好きな子でもいるのかな?

「毎日、通うなんて、お気に入りの子でもいるのか?」

「一人じゃない。あの店の子はみんな好きだ」

一人じゃない? みんな好きだと?

「でも、みんなにハマってるのに、お前、よくお金が持つな」

「いや、一円も使わないよ」

はい?
一円も使わない?
キャバクラに通っているのに、お金を使わないのか?

「そんな馬鹿な事があるかよ。キャバクラで、お金を使わないなんて……」

「だって、俺、店長だし」

くわっ。

*****

作者「ちなみに、この男はオーナーでもあり、休日はないのですw」

週七で通う男、了。

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【 愛羅武、魔王、~ 其の三十、魔法 】

魔王には、メタルスライム狩りを行った正当な理由があった。
嫌がらせと言っていたのは、自分の真意を誤魔化す為に口にした言葉だった。
ほどなく、それを知る事となる。

「おっぱい村……」

「そうですね。あちらこちら家の看板におっぱいが描いてあります」

「それにしても、貧乳ばかりよね。どんな趣味?」

今、私とレータイン、そしてフラットの三人は、おっぱい村まで戻ってきていた。
相変わらず、にこやかな笑顔を浮かべた衛兵が出迎えてくれる。
頭と胸に貧乳を付けて。

隠れてるけど、股間にも片乳があるのよね。

なんなの?

こんな馬鹿げた村には用はない。
モンスターを倒し、レベルを上げる為に、ここに戻ってきたのだ。
レータインを見る。

「姫様。じゃ、レベル上げでもしますか。頑張りましょう」

「私は戦わないわよ。戦闘なんて出来ないわ」

「分かってますよ」

レータインが爽やかに微笑み答える。

しかし、スライムにすら勝てない、今のレータイン。
期待をせずに、ゆっくりと構えて、レータインのレベルが上がるのを待とう。
死なない程度に頑張ってね。

「お嬢様」

「何よ。フラット。あんたも戦いなさいよね」

「ご冗談を。わたくしがザコと戦う必要があるとでも言うのですか?」

フラットが、両手のひらを拡げ拒否する。

……だろうね。
大方の予想はできてたけど、まったく戦うつもりはないわけね。
コイツ、何で、私達についてきたんだろう。

「お嬢様。わたくしが敵を召喚しましょうか? 経験値の高い敵をです」

召喚?
フラットの馬鹿、そんな事もできるの。
しかも、経験値が高い敵だけを選んで、ここに呼ぶなんて。

そんな技があるんだったら、もっと早く言ってよね。

って。
いかん。いかん。いかんぞ。
これは、フラットのペースだ。つまり、法外なカネを請求されますぞ。

「お断りします。おカネはないわよ。イィーだッ!」

私は歯をむき出し、フラットを牽制する。
彼は、またタバコの白い煙をふぅっと吐き出し、何も答えずに天を仰いだ。
何かを考えるように。

「いいでしょう」

うん?
フラット、何がいいのよ。
借金だったら、まだ待ってよ。返せないから。

「特別奉仕で、今回は無料で経験値の高いモンスターを呼び出して差し上げます」

む、無料ッ!
フラットの口から無料なんて言葉が出るなんて思わなかった。
強突張りで、外道なフラットの口から。

「姫様。倒しましたよッ!」

レータインが、やっとザコを一匹倒したようだ。
しかし、ザコにこれだけ時間をかかるって、いつになったらレベルが上がるのよ。
じれったくなった。

しかも、レータインはザコを倒してはしゃいでいる。

今は、その無邪気さがムカツク。

「お嬢様?」

はい。はい。フラット、あんたの言いたい事は分かってるわ。

「フラット、あんたが何を考えているのかは知らないけど、あんたの案に乗るわ」

「それは、つまり召喚して欲しいという事ですね?」

嫌なヤツ。
いちいち反芻しなくてもいいじゃない。
あんたの案に乗るって言ってるんだから、確認して欲しくないわ。

私は不機嫌そうに腕を組み黙った。

「いいでしょう。では経験値の高い敵を召喚致しますね」

フラットは、そう答え、呪文を詠唱し始めた。
魔法というヤツを唱えるようだ。
魔法……、凄い。

フラットの深紅の長髪が、逆立ち、ゆらゆらと揺れている。

「じゃ、姫様、次の敵を倒してきますので、期待してて下さいねッ!」

ザコと戦う。そう思っているんだろう。
しかし、フラットが魔法を詠唱している。つまり、経験値の高い敵と戦うのだ。
もしかしら……。

そう。もしかしらレータインのレベルが、とんでもない事になるかも。

期待するなと言われても、どうしても期待してしまう。
なにせ、現実主義者で、外道なフラットが、無料で動いてくれたのだから。
しかも魔法だよ。魔法。

魔法なんてものが、この世に存在するなんて夢にも思わなかった。

いや。
タンク・ソウル2の世界では、普通なのかもしれない。
どちらにしろ、私は生まれて初めて、魔法なんてものを目の当たりにしたんだ。

これが期待せずにいられるか。

外道なフラットが無料で動いた事は、少々、不安だけど……。

きっと、大丈夫。
ヤツが何を考えていても、借金だけはしないから。
私は、再び、ふんどしを締め直した。

そうして、魔王がメタルスライム狩りをした真意が、この後、明らかになる。

そう。

魔王の真意が……。

はしゃぐ、レータインが、この世の地獄を見る。
そして、魔法に目を奪われていた私に、思わぬ所から希望の光が射し込むのだ。
フラットと魔王によって。

「ぐふふ。魔王様。順調です」と、フラットが言った。

~ 其の三十、魔法、了。

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【 口うるさい彼女 】

昼飯、カップ麺。
毎日、食ってるから美味しいとも思わないし、しょせんカップ麺だ。
そこに女友達がやってくる。口うるさいヤツだ。

「あ。またカップ麺なんかで、食事を済ましたでしょ」

「ああ。そうだよ」

この口うるささがなければ可愛いのに。

「ダメだよ。食事は、きちんと食べないと。病気になっちゃうよ」

「うるせえな。お前だって、あんまり変わらないだろ」

そう。
彼女は、カップ麺でこそないが、同じような食事を摂っている。
そんなヤツに食事がどうのこうの言われたくない。

「私は、ジャガイモにチーズ。チーズは、チェダーにエメンタールの二種類よ」

「そうかい。そうかい」

「それに苺も食べてるわ。そうそう。タマゴにピーナツも食べたわ」

「へえ。へえ。凄いね。でも、どうせ……」

「どうせ? 今、言ったものは全部、昼食で食べたものよ」

「菓子だろ?」

くわっ。

PS.
彼女が食べたものは、ピザポテトにイチゴポッキー、そしてタマゴ入り落花デスw

口うるさい彼女、了。

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【 愛羅武、魔王、~ 其の二十九、飯間勇次郎 】

「飯間勇次郎(めしま ゆうじろう)……」

レータインが提案したメタル狩りは、見事に失敗してしまった。
魔王のアホが嫌がらせで邪魔をしたのだ。
嫌がらせって何よ?

マジ気に、魔王のアホがッ。

「姫様。飯間勇次郎という名前の格闘家をご存じですか?」

飯間勇次郎?
確か、人間界の格闘家で、地上最強の生物と言われていた人じゃなかったっけ。
見た事はないけど、名前だけは聞いた事があるわよ。有名だもん。
レータイン、それがどうしたのよ?

「魔王のメタルスライムを狩る姿が飯間勇次郎に見えて仕方がありませんでした」

確かに。
私は、あまりテレビを見ないから、実際の飯間勇次郎を見た事はないけど。
メタルスライムって、アホみたいに素早いのよね。
そして、固いのよね。

そのメタルスライムを上回る素早さ。
そして、一撃で、メタルスライムを葬り去ってしまう、その素晴らしき筋力。
確かに地上最強の生物と言っても差し支えがないわね。

大体、メタルスライム相手に無双なんて、かなり強くないと無理よね。

飯間勇次郎か。確かにね。

……うん?

ちょっと待って。
確か、飯間勇次郎って名前、想い出の彼も同じ事を言っていたような気が……。
曖昧な記憶だけど、確かに、思い出の彼も……。

フラットがタバコを揉み消し、レータインの言葉を補完する。

「フッ。飯間勇次郎は魔界でも有名ですよ」

魔界でも有名?
何で、人間界の格闘家が、魔界でも有名になれるのよ。
いくら人間界で、地上最強の生物と言われていても、魔界では通用しないでしょ。

「お嬢様。飯間勇次郎の強さは、魔界でも規格外だったんですよ」

新たなタバコをとりだしつつ言う。
そして、ジッポで火をつけ、また煙をくゆらせる。
まるで場を支配するようなギャンブラーのような横顔で、ほくそ笑み。

飯間勇次郎……。

かなり前に世間を騒がせていたが、今は見る影もなく消えている。
テレビを見ない私でも、さすがに聞いた事はある。
それだけ有名な人。

でも今は、消えた格闘家よね。

その人が人間界で地上最強の生物と呼ばれ、魔界でも屈指のつわものだった訳ね。

でも、そんな人が、何で消えたんだろう。
そして、想い出の彼が言っていた飯間勇次郎って、誰の事だろう。
思い出せないわ。

くぅ。

想い出の彼に迫れそうなのに、何で思い出せないよのよ。
鮎菜のアホ。魔王並みのアホ。
自分で嫌になる。

いや、今は格闘家の話なんて、どうでもいい。
それより、魔王の下に行く為には、どうすればいいのか考えなくてはならない。
レータイン、どうすればいい?

「レータイン。やっぱり地道にレベルを上げるしかないのかな?」

「ですね。何事も毎日の地道な研鑽が必要なんです」

レータインが、まともな事を言ってる。
いや、レータインは露出狂という以外は、勇者をやってる人間なんだ。
まともがデフォルトか。

「お嬢様?」

フラット、あんたはカネだから、いい。聞きたくない。

「フラットは黙ってて。おカネはないよ」

フッと笑うフラット。
今は、まだ機が熟していないと判断したようだ。
タバコをふかしつつ、またカネを稼げる機会を探して、黙ってしまった。

「姫様。まず、バス権が開かれていたおっぱい村に戻りましょう」

おっぱい村か。
あそこにいい思い出はないんだよね。
でも、あの村の周りは、確かに弱い敵が、たくさんいたしね。

よし。戻ろう。

とりあえず、弱い敵を倒してレベルを上げるぞ。

「姫様。地道にやるのが一番です」

「ま、おカネも稼げるし、それが一番かな。とっとと魔王の下へ行きたいけどね」

「……フッ」

フラットが、鼻で笑う。
もう。何なのよ。この外道執事が。何か文句があるの?
フラットを睨んだが、彼は、一向に意に介さず、一人、タバコをふかしていた。

「……魔王様。計画は順調に進んでいます」

フラットが、小さな声で言った。
その声は、とてもか細く、私は聞き逃してしまった。
魔王と言ったのに。

そして、この後、レータインは前に私が予言したように、とんでもない事になる。

地道にレベルを上げて、魔王を目指そうと、心に誓った、その時から。
この時、そんな事になるなんて、露ほどにも思わなかった。
そして魔王の真意も知る事になる。

そう。フラットは……。

今は、素知らぬ顔でタバコをふかして無害だけど、とんでもないヤツだったのだ。
私は天を仰いで呆然となる。
彼のせいで。

飯間勇次郎、魔王、そしてフラットを軸に物語は大きく動いた。

愛羅武、魔王という、この物語がだ。
書いている作者も、まさか、こうなるとは、まったく予想だに出来なかった。
でも、ま、いいか。

それが、正直な答えだった。

~ 其の二十九、飯間勇次郎、了。

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【 メルレポート、~ レポート八、破壊 】

……光に包まれる。

魔神器が、赤みを帯びた光を放った。
武器に変形する時が青みがかかった色の光だった。
魔神器は、その用途に応じて、放つ光の色を変えているのだろう。

ブタが、ぜえぜえと息を荒げ、力尽きそうだ。

まだだ。
ブタよ。少なくとも死ぬ寸前までは、頑張れ。
しかし、魔神器に宿る原初の魔王が現われるような気配は、一切、見えない。

「ブタ。本当に呼びしてるのか?」

俺様は、ブタが手を抜いているんじゃないかといぶかしむ。
メルはジッとブタを睨んでいる。
本当に全力か?
ブタ。

「ブヒ。これでも全力でやってるでごんすですのよ」

ブタの言動は完全に壊れている。
つまり、ブタの死は、ほんのすぐそこまできているんだと思う。
よかろう。

頑張って、死ね。

「ブヒ。もうこれで限界でやんすのですのよ」

「そろそろね。ブタ、最後の一踏ん張りよ。限界を超えなさい。分かった?」

メルが強い口調で言う。

「勘弁してくだはい。ブヒッ!」

「行け。逝ってしまえ」

無情にも冷たい口調で続けるメル。

「無理ででばす。これ以上は命に関わるでもんじょ」

でばすとか、もんじょとか、何だ、その言葉。
片言の外人より怪しいぞ。
もう死ぬな。

「うははは。死をも超越するのだ。ブタピック。カモン・レッツ・ゴー!」

俺様は、笑いながら無責任にブタを煽る。
我ながら極悪非道だと思う。
笑いが止まらん。

元でも魔王は極悪非道な位が、魔界の支配者らしくていい。

ブタピックの命の灯火と引き換えに光が強くなる。
辺りは、赤一色に染まる。
まぶしいな。

「ブヒ。もうダメです。許してくらはい。魔王様。従者様。後生でやんすのです」

ブタが泣きを入れる。
まだ死なない所が、ブタのしぶとさを、よく示している。
ここまでくれば、後は俺様の力でも、原初の魔王を呼び出せると思われる。

が、俺様達はブタを決して許さない。

無理だが、何だったらブタの力だけで原初の魔王を呼び出させる。
ブタは、俺様を愚弄したのだから。
死ぬまで許さないぜ。

「ブヒッ!」

ブタの体に電気が走ったようにビクンと痙攣する。
白目を剥いて、口から唾液が溢れる。
崩れ落ちるブタ。

よかろう。良くやった。ブタ。

ここまではブタがやってくれた。後は俺様の出番だ。メルに目配せをする。
彼女は、額の辺りを指で突き、集中しろと促す。
了解。

「ふははは。ブタよ。後は任せろ。俺様が原初の魔王を呼び出すッ!」

ブタが倒れ、一瞬、魔神器の光は弱くなった。
が、俺様が額に意識を集中し、原初の魔王召喚を引き継ぐと、再び、光だした。
光が強くなっていく。

「もう少しよ。魔王。もっともっと強く念じるのよ」

ま、ここまでブタがやってくれたのだ。
後を引き継ぎ、原初の魔王を呼び出す事は、そんなに苦ではない。
一気に呼び出すぜッ!

「頑張って、魔王。もう少しよ」

オッケー。オッケー。任せておけって。征くぜえ!

「憤怒ッ!」

俺様はだめ押しと、力む。
すると俺様の手の中にあった魔神器が、手を離れ中空へと浮いていく。
ゆらゆらと揺れながら、何の支えもなく浮いている。

来たか? 来たのか? 原初の魔王よ。

「ぬうう。我、三千年に及ぶ眠りを妨げるのは、汝らか?」

来たッ!

「魔王。どうやら無事、成功したようね」

メルが汗を拭う。
さすがの彼女でも、魔界の伝説である原初の魔王召喚は心臓に悪かったのだろう。
冷静さが売りの彼女が汗をかいているという事は、そういう事だ。

で、メルさん、伝説の原初の魔王に何を願うわけ?

まだ聞いてなかったけど。

「汝らは一体、何を望む。破壊か。絶望か」

どうするの。メル。
原初の魔王。何だか、後ろ向きな事しか言ってないけど。
勇者を倒す力でも、手に入れるつもり?

「破壊よ」

何?
メルさん、声が小さい。
破壊って聞こえたけど、何を破壊するつもりさ?

「原初の魔王。私は破壊を望みます。全てを一切、破壊して欲しいのです」

破壊。
メルは、世界の破壊を望んだ。
ちょっと待てよ。俺様が支配しなおす予定の魔界すら破壊するのか?

「……破壊か」

「御意に。人間界。そして魔界。その全てを」

だから、魔界をも破壊しちゃったら俺様は、どこを支配すればいいわけ?

「魔王。黙ってて、ゴメン」

……何だよ。メルさん、殊勝になっちゃって。気持ち悪い。
でも、魔界まで破壊しちゃったら。
どうするの?

「たとえ、原初の魔王の力を使い勇者を倒しても、また新たな勇者は生まれるわ」

だろうな。
それ位は、容易に想像できる。
しかも勇者は、その武勇で成長し、最後は俺様を倒すだろッ?

「魔界が存在する以上、勇者は魔王に立ち向かうわ」

分かってる。
勇者と魔王の関係は、そんなものだ。
言い換えれば、魔王や魔界は勇者を成長させる為に存在するようなものだ。

でも、それがどうした?

それこそ、魔界と魔王のあるがままだろ。
ゆえに俺様も勇者に倒されないように成長しなくちゃならないんじゃないのか?
それが魔王だろう?

「だったら戦いを終わらせるの。人間界を滅ぼし、魔界を滅しね」

それは極論だろ。
確かに人間界が跡形もなく破壊され、魔界がなくなれば、戦いは終わる。
でも、俺様達だって生き残れないぜ。いいのかよ?

「魔王。よく聞いて。原初の魔王は……」

何だよ。
俺様は死にたくないぜ。
ブタを殺したけど、俺様自身は、絶対に死にたくねえよ。

「原初の魔王は、元をただせば、一介の魔王なのよ。そう本に書いてあったわ」


そうか。そういう事か。
何となくだが、メルの言いたい事が分かった。

「世界の始まりから存在する魔王。それが原初の魔王の正体なの」

つまり、俺様が……。

「人間界や魔界、その全てを破壊した後、次の原初の魔王に君がなるのよ」

そうか。
やっと分かった。
メルが、原初の魔王に、こだわった意味が。

「うははは。メルよ。その案、最高に面白いではないか」

「分かってくれたのね。魔王」

「良かろう。この俺様が次の世代の原初の魔王って事で決まりでいいんだな」

「そうなって。その為に全ての破壊を原初の魔王に願おう。ねえ?」

「オッケー。オッケー」

俺様とメルは、改めて、原初の魔王と対峙した。
この世界の全てを破壊する為に。
原初の魔王が笑った。

~ レポート八、破壊、了。

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【 マコちゃんの日記(白)、三ページ、お役御免 】

今日はマスターの誕生日。

つまらない嫉妬は忘れよう。今日は楽しむんだ。マスターを喜ばせるんだ。
努めて、明るく振る舞うように思考を前向きにもってくる。
そう。つまらない嫉妬なんてと。

つい今し方、完成したばかりの料理を木製のテーブルの上に並べる。

どれも美味しそうな香りを辺りに充満させている。
力作揃いで、思わず顔がほころぶ。
きっと喜んでくれる。

彼は美味しいねって、言ってくれるだろう。

誕生日。
彼が生まれた、その日。
私は、お小遣いを必死で貯めて買った腕時計の箱を見つめる。

自分の切り揃えた栗色の前髪の毛をかき上げる。

大丈夫。
きっと今日は、楽しい日になる。
いや。私自身の力で、マスターの誕生日を絶対に楽しい日にしてみせるわ。

料理、オッケー。

うんと、木製のテーブルの上に並んでいる温かな料理を確認。
次にプレゼントの入った箱を指さす。
うふふふ。

プレゼント、オッケー。

最後に部屋にある姿見で、笑顔を確認する。
鏡に映る自分を指さして言う。
いい笑顔。

笑顔、オッケー。

後は、マスターが仕事から帰ってくるのを待つだけ。
早く帰ってこないかな。今日は仕事を早く切り上げると言っていたし。
今すぐにも喜ぶ顔が見たいよ。

マスター、好きだよ。

溢れる想いが抑えきれなくて、顔がにやける。
もう一度、プレゼントの箱を見る。
うふふふ。

どうにも顔がほころび、しまりのない表情でにやける。

部屋の時計を見る。
時間は、着実に流れ、生きていると実感する。
そう。私はロボットだが、確実に生きていて、彼を愛している。

世界で一番、マスタを愛しています。

私は心の中でつぶやいた。
時間は、いつの間にか夕方を過ぎ、マスターが仕事から帰ってくると思われた。
早く帰ってきて、私を抱き寄せて下さい。マスター。

誕生日。

今日はマスターが、この世に生まれた日。
私にとって、この世の全てに感謝をしてもしきれない、彼の誕生日。
彼が生まれた日。

でも……。

フッと疑問に思った。
そう。ロボットである私の誕生は、いつなんだろう?
今日はマスターが、この世に誕生した日。

でも、私の誕生日は?

マスターに誕生日があるんだったら、私にも誕生日はあるのだろうか。

ロボットである私には誕生日はないのだろうか。
いや、彼に誕生日があるんだったら、私にも誕生日があると思う。
私は生きているのだから。

私の誕生日は、やっぱり完成した日だろうか。

それは、いつ?
私はロボットだけど、人間以上の思考能力と感情を備えている。
だから自分の誕生日を知りたいと考えてしまった。

「マコ。いるかい? ただいま」

玄関が開く。
マスターが帰ってきたのだ。
私は、「お帰りなさいませ。マスター」と元気よく答え、玄関に向かった。
マスターは、コートをゆっくりと脱ぎながら言う。

「ご馳走だね。いい香りがするよ」と。

マスター。
私の誕生日は、いつですか?

「マスター、今日はマスターの誕生日です。腕によりをかけて料理を作りました」

「うん。ありがとう。香りだけで、お腹が空くよ」

「でも、その前に……」

「?」

「私の誕生日はいつですか? やっぱり私が完成した日でしょうか?」

藍色の瞳を潤ませ、私は、私が思った疑問を素直に、マスターにぶつけたのだ。
写真立ての女の人の事は、怖くて聞く事が出来なかったが。
マスターは微笑む。

「マコ、君の誕生日かい?」

「はい」

私は、マスターの笑顔がまぶしくて、視線を外す。
彼は、私を抱き寄せ、言葉を続ける。
私の瞳が潤む。

彼の抱擁が、とても愛おしく、そして、嬉しかったのだ。

「うん。前から言おうと思っていたんだけど、完成した日じゃないよ」

「そうなんですか。じゃ、いつが私の誕生日なんですか?」

「七月八日だよ。僕にとって特別な日なんだ」

特別な日。
一体、どんな意味がある日なんだろう。
いや、どんな意味があるにしても、私にも誕生日がある事が嬉しかった。

私は生きている。

そう言い切れる。だから誕生日もあるんだ。
少なくともマスターは、私が生きていると思ってくれている。
だから誕生日もある。

しかも、マスターにとって大切な日を私の誕生日だと言ってくれている。

「マスター。私から誕生日プレゼントがあるんです」

「プレゼント?」

「はい」

「嬉しいな。一体、何かな?」

私は、腕時計の入った箱を右手に掴み、彼の目の前に持ってくる。
マスターの顔は、今年、一番の笑顔だった。
良かった。喜んでくれてる。
箱を彼に手渡す。

「マコ。開けてもいいかい?」

「はい。もちろん」

彼は大事そうに、ゆるりと包装紙を解き、箱の中から腕時計を取り出す。
私の鼓動が早くなる。喜んでくれるかなと。
彼を見つめる。

「腕時計か。ありがとう」

彼が言う。その顔は、どうにも嬉しいと、満面の笑みを浮かべていた。
私は、このプレゼントを選んで良かったと思う。
心の底から。

「今まで使っていた腕時計は、ここに置いておくよ。これからはこれを使おう」

古い腕時計を置く。
私が気になっていた写真立ての前に。
これで、お役御免だと。これからは、私の買ってきた腕時計の時代だと。

写真立ての前に置いた事に少しの安心感を覚えた。

写真立ての彼女の出番は終わり、私の出番が来たような気がしたのだ。
腕時計の出番が変わったように。
彼がほころぶ。

「さあ。マスター、料理が冷めますよ。食べましょう」

私は、パーティーの続きをする事にしたのだ。
今度は、パーティーの料理で、マスターの笑顔を引き出すんだ。
密かに心の中で、つぶやいた。
彼と私は席についた。

「いただきます」と手を合わせ、二人、同時に言った。

三ページ、お役御免、了。

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【 マコちゃんの日記(白)、二ページ、写真立て 】

今日はマスターの誕生日。

三十一歳になる。

そして誕生日とは年に一度のカップル達の一大イベント。
朝、起きた時から、うきうきと心を躍らせ、私のテンションは高かった。
今日は楽しい日にしようと思った。
プレゼントも買った。

マスターは、私からのプレゼントを喜んでくれるかな。

そんな事を思った。
プレゼントとして用意したのは、お小遣いを貯めて買った腕時計。
私は、一日、千円のお小遣いをもらっているのだ。

それを必死で貯めて買った腕時計。

高いものではない。
デンマーク製のスカーゲンの黒と白のシックな腕時計。
肌身離さず身につけてもらえ、時間を確認する度に私を想い出してもらえる。
だから腕時計をプレゼントにしたのだ。

今日のパーティーの料理を作りながら、腕時計の入った箱を見つめる。

うふふふ。

喜んでくれるかな?

思わず、表情が崩れてしまう。
きっと喜んでくれると、そう思ってにやけてくるのだ。
さあ。腕によりをかけて豪華な料理を作るんだと、一人、意気込む。

しかし腕時計の箱の更にその先、そこに……。

写真立てがあった。

私の視線が、箱を通り過ぎ、そこに到達してしまう。
嫌な予感がし、写真立てを凝視する。
そこには……。

私の知らないマスターが微笑み、知らない女の人と写っていた。

誰だろう?
マスターの隣りに写っている女の人は?
彼女の表情は、とても幸せそうで、マスターとは深い知り合いのようだった。

途端に不安になる私の心。

人間ではなく、アンドロイドである私の心がざわつく。
私はロボットなのだが、それでも心は在る。
人間にも負けず劣らずの心が。

……嫉妬。

多分、この感情は嫉妬というものだろう。
私の心は合理的に作られてはいない。より人間に近くなるように組まれている。
ゆえの嫉妬。

何も事情を知らず、ただ女の人と写っているというだけで湧上がる感情。

冷静な私が、心がざわついている私を制する。
たとえ、彼女がマスターと深い仲でも、今は私を愛してくれている。
それを信じられないのかと。

確かに、そうだ。
たとえ過去、この女の人と何かあったとしても、今は私を愛してくれている。
私には、マスターから受ける愛に自信がある。

大丈夫。

冷静な私が、私を納得させる。
今日は、マスターの誕生日。彼を困らせるのは、今度にしよう。
そう納得した。

そして、また腕時計の箱を見て、料理を再開した。

まるで強がるように。

さて、今日、作る料理の献立は……。
生春巻きにサーモンのチーズ包みにローストビーフ、そしてパンだ。
気合いを入れるぞ。

ローストビーフを作る為に牛肩の塊をたこ糸で縛る。

いいお肉だ。
先ほどの不安を払拭する為に、料理を目の前にしたマスターを思い浮かべる。
喜ぶ顔を予想し、また、表情が崩れてしまう。

大丈夫。

彼は私を愛してくれている。
彼からの愛は、いつ何時も感じる事ができるし、尽きる事もない。
自信がある。

また強がるように料理を続ける。

たこ糸で縛った牛肉をフライパンに油をしき、焼く。

ジュッといい音がして肉が焼ける。
こうして肉汁を閉じ込め、その後、二百度に設定したオーブンで、十分ほど焼く。
焼き上がったらアルミホイルで包み、冷蔵庫に入れる。

一時間ほど、冷やしたら出来上がり。

我ながらいい出来。
ローストビーフにソースをかけながら、またにやけてしまう私。
これ美味しいねって、言ってくれるのかな。

写真立ての事は忘れよう。

あんな目立つ所に立ててあるのだ。
写真に写っている女の人との関係は隠すような事じゃないんだろう。
もし後ろめたく、隠しておきたいのであれば、写真立てをあんな所には置かない。

そうそう。

前向きに考えよう。

そうして、私は着々と料理を作り上げ、そして、いつの間にか鼻歌を歌っていた。
もう、頭のどこにも写真立ての女の人を気にする心はなかったのだ。
嫉妬はみっともないと納得できた。

でも……。

その小さな不安には、まったく気づかなかった。
今は、とにかく、マスターが喜んでくれるだろうとうきうきとしていた。
今日は誕生日。

また前向きという名目の強がり。

小さな不安は刻一刻と時を歩き、少しずつ大きくなっていった。

二ページ、写真立て、了。

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